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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月26日

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436/531

過去見です(ユキと賀川)

クリスマスの夜を超えて。

lllllllllllll

 





 クリスマス、イルミネーションを見た帰り。

 具合の悪くなった雪姫を介抱するのに部屋へ連れて行った。

 彼女はプレゼントを見たりしているうちに、だいぶ具合が良くなって眠りについたのだが。

 俺が床に寝るのを反対したため、ベットの隅を借りたのだが。いつの間にか俺は抱き枕になってしまっていた。


 ねむれない。

 ねむれない……

 コレで眠れるのか?



 雪姫が近すぎて、無防備すぎて、可愛すぎて。

 無茶苦茶に抱き寄せて、たわわな胸を掴んで、心行くまでその声を聞いて、素肌の滑らかさを感じて溶け合いたい。でも彼女は具合が悪くてこの部屋に来た。無茶はさせてはならないのだけれど。

 それでも……暗くても外からの街灯で綺麗な睫毛も仄かに見える距離で。首筋にかかる吐息に、彼女の香り。いつものシャンプーの匂いではないようだけれど。とても彼女に似合っているし、それは俺好みの香りだった。



 外の、ほんの側で。

 人間に作られた幼い少女がいた事。

 そして、その命に振り回された男が居た事。

 死んだはずの人間の体が、人形のように動かされていた事。

 交錯する駆け引き。



 けれど。



 何も知りもしないで、俺は幸せと欲求を押さえる甘い痛みに酔いながら、夜を過ごす。

 キスぐらいなら良いだろうか。

 彼女を起こさない様に少しだけ唇を重ね、その肩に触れ。白い髪を触ってみたり、撫でたりして。

 心の中では怖ろしいほどに彼女を押し開く想像をしていたけど、激しい衝動を行動にしない様に押さえこむ。

 理性と欲求と格闘させているうちに、疲れた体は睡眠に落ちていた。



 とても、とても、嫌な夢を見る。せっかく雪姫と居るのに。

 全てを奪われた記憶、血飛沫に何も感じなくなった瞬間や、奪ったモノの多さ。

 罪の世界から、引き上げられ、投げ出される現実。

『貴方は汚い』

 姉の言葉は真実で、それでも見つけた白い彼女に自分の夢を重ねた。



 未来を、共に。



 嫌な夢を見たけれど、最後は彼女から差しのべられた手を取れたからか、本当に長い時間を深く寝たからか、目覚めはよかった。雪姫がとても側にいて、手は夢の中と同じく握っていたし、逆の手が俺の腰のあたりに回されていて布団の中は心地良く……暫く悠長にしていたが、彼女を眺めていると男として確実にムクムクしてくる感覚に、焦る。

 彼女を起こさない様に気を使いながら、そっと腕を抜けて、ベットから降りてトイレに逃げ込んだ。

「なんとか……」

 何とか体裁を取り繕って、出て来た瞬間に体を起こした彼女が見えてドキリとする。

「……賀川さん、居た。おはようございますぅ」

 眠そうに目を擦って起きる雪姫。寝苦しかったのか、前あきのワンピースのボタンが3つほど外れており、胸がたわわであるが故に、揺れる青い石がその谷間に埋まっていた。おかげでその柔らかさがより鮮明に見える。

 元気そうだし、押倒していいかな?

 なんて気持ちは……すぐに消えた。何故なら目を擦っていたのは眠そうだからじゃない、彼女はボロボロと泣いていたのに気付いたから。

「又、夢を見たのです」

「又? どんな?」

 言い淀んで、赤い瞳を揺らす。

「……男の子が、いて、苛められてました……でも、その子の手にガラスか何かがあって、それで相手を、その、その……」

 俺は血の毛が引くのを覚えた。

 それは、今日見た俺の夢。正確には過去。

 あの時、俺は何をされていたか。俺は何をしたか。

 口で言えない程の責め苦に耐えかね、隙を見て振り回した凶器。浴びる血飛沫に何の感慨もなく、そこにいた者を傷つけ、危険物として俺は取り押さえられて……

 そんな忘れてしまいたい過去。日本に帰って来て、姉以外は知らない過去。姉だって実際に知っているのは人質として価値があった数日分のビデオだけで、後は俺が戻ってから集めた逆足跡を辿ったモノ。真実はもっと過酷だったが、そんなのは誰も知らないでいい。知らないからこそ口を拭って、この町で運送員として普通に紛れていられた。

 香取神父に見せられた彼女の絵。日本では誰も知るはずのない、銃を構えた長髪だった頃の俺。

『やっぱり君だよねぇ~……彼女はどうも見えてしまうようなのだよ、色々と。それも特に心寄せている者の何かが。賀川君の不用意な行動が彼女の心を荒し、疲弊させるんだよねぇ。一昨日、君が無茶したのを彼女は間違いなく感じてるから。気を付けなさい』

 どうやって気を付けろと言うのか。記憶を、それも他人が見ている夢を盗み見る事が出来る? 馬鹿げた妄想だ、有り得ない。

 けれど彼女は泣いていて。

 俺はさらに思い出す。

『無理矢理、『犯す』と言った方が良いでしょう。巫女は体を結ぶほど近くに『人』と触れあえば、その者の『色々』に触れてしまいます。タダで女とやれるとか考えるような人間でも、優しかった事や悲しい思い出はあるでしょう? 彼女達は体以上に『心』を奪われて……慈悲と言う愛情を傾け。そしてその場で、男は殺して子供が生まれるまで巫女は飼われ、人柱に。子供を取るシステムが崩れた頃には、男もろとも殺して人柱に……』

 篠生が言った言葉。体は結んでいない今でも、俺の『色々』に触れたという事ではないだろうか。

 俺がどんなに酷い事をしたのを知っても彼女は慈悲をくれるのか? それは俺を好いてくれたと言えるのか?

 女子供を泣きやます術はかつての仕事から知っている。髪を撫で、優しく接すればそれなりに泣き止んでくれる。けれど触れる事も出来ないなら、俺はどうしていいかもわからない。

「か、賀川さん?」

「……ぁ……そんなの、見なくてイイ」

 人間、見られたくない過去がある。

 知られたくない事がある。

 それでも普通に恥ずかしいレベルならいいかもしれない。

 武勇伝として飾ったり、不要な所は話さない事も出来る。

 だが俺がいた場所は犯罪に売春、多量の武器や戦争に殺人……悪いと思える事は一通り側にあった環境。その全てをありのままに見られるとしたら。

「ユキさんが痛かったりはしない、よね?」

「痛そうなのは……あの子で。あれ、やっぱり賀川さんですよね……私、何もできないし。あの、あの、苦しいのですか?」

「終わった事だ。大丈夫。だ……い……」

 思い出すと悪寒がしはじめた。息が苦しくて、過呼吸になりかけながら吐きかける。息を止めて、何とか落ち着こうと努力する。

 見なくてイイと言われても、彼女も見たくて見た訳ではないのだろう。混乱している彼女にさらに輪をかけて混乱させてしまっているのに気付いて、申し訳なくて。

「ごめんなさい、ごめんなさい……大丈夫ですか?」

 謝る彼女の声が遠く聞こえる。

 ガタガタと震える体。

 申し訳ないと思っても、体の反応が止まらない。思い出したくない過去がぶり返し、自分が何をしているのかわからなくなる。二撃目のラッシュを放った時の様に。

「暫く近付かないで…………大丈夫だから」

「でも、あの。私は……」

 俺は玄関口のボックスから袋を出して彼女に押し付けた。

「ユキさん。シャワー浴びておいで。着替えが入っているハズ」

「え、あの……」

「行ってきて」

 半ば強引に彼女をシャワー室の方に押しやり、扉を閉めると台所で吐いた。何も吐く物がなくて胃液を吐くと、口を漱いだが、消毒液の匂いにまた吐いて震えながら台所に座り込んだ。


lllllllllll

更新不定期です。

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