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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月25日

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クリスマス:夜も遅く5(まとめ)

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車を走らせて帰宅し。

三人称です。

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「すまない、投げ槍。どうしてもやらなければならない仕事があってな。忙しくなってしまったんだ。うろなには居るが、出張も増えるのでな……」

 黒雪姫の事も、おんまの事も伏せたまま、抜田は言い繕った。孫を救う、新しい道を切り開く為に。

 本当はタカの息子を脅されてとは言え、間接的に死へ追いやった罪を思えば、協力し続けたいのは山々。だが人質を盾にされ、これ以上親切を装って親友達の足を引っ張る訳にも、黒雪姫を危険に晒す真似も抜田には出来なかった。

 ただただ奪えばいいだけなら、あるだけの金と人脈を投入し、今夜にでも攻め入ったろうが、そうはできない。彼女を迎える為には『温室』が必要で、ソレを作るには、金と技術、そして形にする人も材料もかき集めねばならない。

 全てを秘密裏に、更に早急にやる必要がある。ユキの祝福まで二か月あるかないかの時期、宵乃宮と本格的に交戦状態になると考えられるその前までに、抜田はそれを全てクリアするのが目標。形上、自分はそれの為には動いていない様に振舞いながら、だ。

「すまないな。二月の『祝福』の際は何とか……」

「イイって事よ、忙しい先生様ってのはわかってんだ! それより俺が出来る事があれば声をかけてくれぇや。まぁ、ガスや水道、建築や土木関係以外じゃぁ協力できる事は少ないだろうがぁよ」

 静かに頭を下げる親友に、投げ槍は賑やかに笑った。

 香取が家を出る時にはユキと賀川の外泊を知って、心配の余りに不機嫌だったタカ。だが、丁度、魚沼が来て、酒を飲んで語り合ったらしく、今は上機嫌だった。かなりの割合で『ユキの不在に対する動揺を少しでも抑えているだけのカラ元気』だと、気付かない者はなかったが。

「いや、助かる。もしもの時は頼むかもしれない。しかし、こちらは頼りにならない友ですまない」

「何言ってるんだ、バッタよ。今まで無茶を押し付けてたのはコッチだ。しかし没頭できる仕事があるっていうのは良い事じゃねぇか。なぁ、ぎょぎょ。カトリーヌもバッタも一杯どうだ?」

「いや、今日は夢見が悪くて。遠慮するよぉ」

 香取は部屋の片隅で丸くなってお茶を口にしながら呟いて返し、抜田も否定的に手を振った。

「俺も帰りの運転があるからな。それからぎょぎょ、話があるんだが。嫁の冴ちゃんにも」

 酒を袢纏姿で飲んでいる小さい男、そして葉子が作った料理を運んできた冴を呼び止めた。

「何ですの? 私にも?」

「ああ。なぁ、ぎょぎょ。こないだ聞いたが、実家から剣道の道場を開くように勧められているんだろう?」

 魚沼は籍を入れた後、冴が落ち着いている日に、妹の墓参りと共に、実家へと結婚の報告に出かけていた。妹の巴を卑劣な犯罪の為に亡くし、酷い喧嘩をした父子。小学の頃に勘当同然で飛び出し、五十の半ばのこの年まで敷居を跨いでいなかった魚沼家に。

 もう随分年が行った両親は、若い嫁に驚いた。何より大人としてまず魚沼が先に頭を下げたことで高齢の両親は相互を崩し、歓待ムードとなった。

 その中で出た話で、魚沼の父は年も行き、後を継ぐ者がいない為、そろそろ道場を閉めるつもりだったと語った。そして魚沼が剣道を捨てきれず鍛錬を重ねていた事を聞くと、久しぶりに竹刀を父親と交えた。

 もう八十を超した高齢とは思えないその動きに、魚沼は人生すべてを一本の道に賭ける凄さを感じながら、自己研鑽したその腕を余す事なく披露する。

 それを体感した父親は『擦れ違った親子の人生だったが、お前の腕はやはり本物だ。基盤もあろうから戻って来いとは言えないが、土地は替わっても、道場の名を継いでほしい』と告げられたのだった。

「段位は取っているんだろう?」

 魚沼は酒をチビチビやりながら、

「まぁな。もともと実家を出る時には、既に二級をもらっていたからな。上達を見る為に年齢が達せば、腕試しには取っていた。ただそれ以外は公式試合に戦歴のない俺がすぐに師範と名乗るのはどうにもな。自分が納得できないし、場所も考えないといけない。それも丸腰だったとはいえ、こないだはあんな手合いに傷を負ってしまうなど、不覚中の不覚。まだまだ思案中の案件だ」

 酒と共に、はふはふと食べ物を口にしながら、眼鏡で大きく見える目をぎょろりとして抜田に返事をする。

「まぁ、投げ槍のちか賀川おとうとを絞っているが。おんまの打った刀の持ち主となったヤツには、その『道』を集中して教える場所は欲しいな。それに今、二階の奥部屋を自分が鍛えたり集中したりするのに使っているが、いずれ子供部屋に……」

 そこまで何も考えずに言ってから、それは若妻さえに子供を身籠らせる心積もりがあると宣言していると気付いて、酒で既に赤かった顔がこれまでにないほど上気した。

「そ、そ、それはだな、婚姻をし、子孫を残すというのは生物学的、遺伝子学的に……そのだな、自然な事だから。ただ俺が年だから、子は成さないと言う選択肢もあるし、出来ない可能性も十分……」

「いいえ、できますわ。あんなに毎日……」

 冴も魚沼も……望んでいる為、つい出てしまった言葉に皆、笑う。

「うんうん、良かったよ。ぎょぎょ君は奥手だからぁ~夜どうなってんのかって思ってたけど。心配が要らないのはよく分かったよぉ」

「俗物神父め……」

 更に突っ込む香取の言葉に珍しく口ごもり、畳に顔を伏せるぎょぎょに、隣に俯いた新妻。ひとしきり笑って場が和んだ所で、抜田は話を進める。

「それで、提案なんだが。あのビルを買い取る気はないか?」

「……おい、どう言う気だ?」

「今は一階が俺の『うろなん不動産』、二階はお前の弁護士事務所、三階は新居、三分の二は既にお前が使っている。それならいっそ、一階も含め、土地ごと買い上げてくれないか?」

 自宅と事務所、それに一階があれば道場も同じ場所に開く事が出来る。急な提案に魚沼は体を立て直すと、腕を組み、

「商店街での商売を引き上げるのか?」

「いや、商店街内に手持ちでもうちょっと地下鉄寄りの土地がある。いずれそこに新しい事務所を構えるか、ぎょぎょがそっちの土地の方が良ければそこを買い取ってもらっても……だが何より今、やりたい事の為に即金が欲しい」

「つまり……銀行から引き出したような金じゃない、動きがすぐに掴めない金が要るって事だな?」

 復活した魚沼は冴を見やり、その視線を受けて嫁として笑って頷く。

「家計に余裕はあります。それに抜田様にはお世話になっていますから、別に建物をどうこうしなくとも協力出来ますわ?」

「いや。どうせならきちんとしておきたい。返せないと困るしな」

 香取は素知らぬ顔で茶を啜る中、その言葉に何かを感じたのかチラとタカは眉を寄せた。

「……ヤバい山か? 大丈夫かバッタよ?」

「ん、大丈夫だ、投げ槍。金ってのは怖いからな、親しき仲にも礼儀ありって奴だ」

「じゃぁ、そうだな……新たな土地よりも今の事務所のビルがいい。冴はどうだ?」

「私も今の場所の方が」

「それでは細かい金額は明日、そして今年中に書類を作って来るが……」

 もう一度、魚沼は冴を見る。こくりと頷くのを見て、カッパのような顔に笑いを浮かべ、商談は成立した。



 これによってうろ南不動産は暫くネット部のみの稼働となり、夏頃に新事務所を立ち上げる。

 また、弁護士事務所下は翌月の半ば、早々に改装を済ませ『魚沼剣道場』を完成させた。

 ただし、本格的に道場として町の『剣士達』の受け入れ、稼働し始めるのは一年ほど後の事。それも最初は外部より師範や師範代を招き指導を行った。それは魚沼が道場主として正式な師範と名乗るようになった後も続けられ、ココに学ぶ者はいろんな師から技を磨き、心を鍛えられる場所となる。



 今はまだ年端もいかない者達や、生まれてもない者達が成長し、ココで競い、鍛錬を重ね、走っていく未来はまた遠い……別の話である……


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これで一年後くらいに魚沼は剣道場を開きます~

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更新予定は未定です。

(来週は更新ないかも。再来週には最低一話は更新します)

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『以下1名:悪役キャラ提供企画より』


『黒雪姫』小藍様より


問題あればお知らせください。


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