クリスマス:夜も遅く3(香取と抜田)
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少し時間を戻して。
抜田の回想より。
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『いつになったら会わせてくれるんだ。どうしたら返してくれるんだ!』
『撫子には会わせられないけれど、イイモノ見せてあげる』
まだ撫子が生きていた少し前、そう言って焦れる抜田を、彼女達はある施設へ連れて行った。
目隠しで連れてこられた場所は、清潔そうな真っ白の部屋だった。廊下も絨毯も、意識したかのような白さ。窓はなく、換気システムの音が微かに響く建物。
『どうぞ、入って』
通された部屋から耳に流れて来たのは痛ましいほどの子供の泣き声。ワケのわからない機械に拘束された少女が何かを嫌がって泣いていた。一見、医者か美容院にある様な倒れる椅子だが、体はがっちり固定され、少女は一糸纏わぬあられもない姿で、アヤシイ色の点滴を腕や足から滴下されている。周りの大人は叫んでも喚いても反応せず、血液を採取したり、機械のプラグを調節したりと、各々の仕事に追われていた。
抜田が鼻白んだ所で、隣の女がうっとりと言う。
『素敵ねぇ、あんな紛い物でも良い声が出せるのね』
『紛い物?』
『歴代の巫女の血や髪なんかを分析して、卵子や精子の辺りからイジ繰り回して作られたの。あの子。その後も、いろいろと、生まれて毎日、ずっと。巫女が手に入らなくなって、そのベースとして適当な女を卵子提供者にしてたのだけど。あの髪の輝きは『彼女』に似てるわね。戦後から四代目になるアレは黒雪姫シリーズって言ってね。一緒に作られたのは五人位いたけど、生き残ったのはあの子だけだそう……』
何を言わんとしているか、理解した時、抜田は吐きそうになった。
宵乃宮の生粋の巫女は雪姫と、その母である秋姫だけ。他の巫女は秋姫が逃がされてすぐ、刀森の者どもと共に惨殺されて燃やされ、火事として処理された。
なお残ったモノで続けられた実験の結果が目の前の少女。それに自分の何がしがかかっていると思うと、気分が悪くなった。
『黒雪姫、前に話していた『おじぃさま』よ』
泣き喚く少女が解放されて、着衣を許され、少し落ち着いた頃、抜田は彼女と面会した。
くるりとした表情や肌の色は、タカの娘であるユキによく似ている気がしたが、どことなく自分が愛した女の黒髪を彷彿とさせた。いや、黒髪などどこにでもありふれていて、証拠にはならない。それなのに彼女の瞳は抜田を釘付けにする。
「おじいちゃま?」
まだ舌も足らない発音を聞き、注射の痕や押さえられた鬱血痕、包帯の巻かれた筋肉のない足を見る。途端に気持ちの悪さは消え失せ、車椅子から伸ばしてきた手を抜田は取って、更に彼女を抱きかかえる。その綿のような軽さに命の重さを感じた。
『はじめまして。あたしは二番、くろゆきゼロ2です』
かつては番号で呼ばれていたのだろう、その名残で少女は名乗った。それは余りに悲しく、か細い少女を抜田は無視できなくなってしまった。
三度ほど面会をし、持参した絵本を読んでやる様な仲になる中、信頼している所に依頼した彼女の血液と自分の血液の鑑定が返ってきた。
『これが『他人』であったなら切り捨てられるだろうか? いや……』
面会の時にスーツの袖についたボタンを弄っていた小さな手を思い出しつつ、抜田は封を切った。
そして……ベースとしては、ほぼ満点で遺伝子関係がある事が確定する資料が出てきた。いや、もし結果が全くの他人でも。抜田の心には、もはや他人として切り捨てるのが難しい存在として彼女が住みついてしまっていた。
そして、撫子が死んだとわかった時に、『俺には助けたい者が……もう一人……いる』と、香取に切り出した……その名は『黒雪姫』、遺伝子操作をされていてもやはり『助けたい』と。
どうやらその時、欲していたユキの髪も『黒雪姫』の何らかに使用されるハズだったようだと。
あんな場所に一分一秒でも置いておきたくはない、そう言う抜田の気持ちはわかった。が、あの『温室』から出せば黒雪姫の命は長くないと、香取は今にも走り出しそうな彼を止めた。二人はよくよく話し合い、敵を殲滅し『彼女を施設ごと』奪ってしまおうと決める。
それが親友のタカが大切にする、巫女のユキを守る事に繋がると考え、動き出していた。
ただ、亡くなった撫子の事も、黒雪姫の事もタカ達には話してはいない。
言えば協力はしてもらえるだろうが、負担が増えるのは避けられず、タカの息子の死について語らずに説明するのは難しかった。その為、この件に関しては出来る限り、二人だけで対応するつもりにしていたのだ……が。
桜嵐が歩く事もままならない黒雪姫を連れて夜闇に消える。
車は大きな影に捕えられたまま、青の服が良く似合う、アシンメトリーの髪型の女性がくすりと笑った。
「あの子、そのまま放り出して行っても構わないのよ? 寒いし、もって一時間くらいかしら?」
抜田と香取を車に閉じこめて、黒雪姫と面会させた余波は、手にした扇子をひらりと揺らす。
「そんな事、宵乃宮が許すわけない!」
「あらあら。私達はただの協力関係であって、仲間ではないから。あの子を殺して『許さない』と言われたなら、桜嵐と出て行くわ。そうしたら二人で巫女を攫うなり、殺すなり、しに行くだけよ?」
面白そうに笑う女に二人は言葉が出ない。
黒雪姫は巫女として人柱にするには弱すぎるが、人為的に巫女を作る時『種』を取る為の存在として。これまでの実験結果として、黒雪姫は殺されないと考えていた。撫子が死亡した今、黒雪姫を助ける為にも今までの様に宵乃宮一派に従わないと決断する、抜田が取った行動の根拠だった。
だが、それが崩れた瞬間、抜田は又も従うしかなくなる……それは再び親友達を裏切る行為になる。
抜田は渋く唸った。
「まぁ協力はできなくても、とりあえず、いろいろ邪魔をするのを止めてちょうだい? まずはソレだけでいいわ」
「『とりあえず』ってどういう事かなぁ~抜田君はうちの、なんだけどなぁ?」
「そうかしら? 長い付き合いなのは貴方達かも知れないけれど、深い繋がりはこちらにあるのじゃない? こちらに黒雪姫が居る限りは」
的確に言ってのける余波の青みを帯びた猛禽類の視線に、香取は揺れない。
「警告しとくけど、ねぇ。抜田君は『カワイイ』って言ってたんだよ、そちらへの攻撃。それでも結構キタから止めに来たって事だよねぇ? 結構財源を押さえれれて痛い? ねぇ……本気で彼を怒らせない方が良いよぉ?」
余波に負けない強い表情で、香取はにっこりと強く、そう言った。
「……これ以上、怒らせたら許さないのは神父の方も、と、言うことも含めてかしら? ……警告、痛み入るわ。それより、私は貴方が連れていた『大きいの』に興味があるのだけど。見せて下さらない?」
「大きいの? うちの風蛇の事?」
「あらまぁ、るぅというの? それは可愛らしい名だわ」
「名前と言うか、種族名の省略。個別な名前は教えられないねぇ。それに今はいないし、見世物じゃないしねぇ。可愛いけど気難しいんだよ、ああ見えて。で、大きいのって言えば、あの後ろのは何?」
「アレは傀儡よ。普通、死体は『雲隠』の餌にするのだけど、あんまりかわいくて。私は大きいのが好きだから……おいで」
この前、この女達が『土蜘蛛』を操り、大量の死体を作ろうとしていた事はタカと子馬から聞いていたので知っていた。そして後ろの生き物……いや、死体である為に生気がないのだ。それ故、気配が拾えなかったのだと二人は知る。
その時、暗い夜を照らす街灯が、操られた『死体』の顔を照らし出した。
「ある施設に保管されてたのを奪って来て、術をかけたのだけれど。ねぇ、生きているようでしょう……オトモダチ」
二人の顔色が悪いのを見ながら、嬉しそうにそう言う女。
現れたその男の顔は鬼のような面構えで、色が悪く、何の表情もなかったが、幼い頃に知り合い若くして亡くなった、仲間内で『おんま』と呼んだ男の顔だった。鬼のような顔にいつも浮かべていた温和な笑顔はなかったが、それは確かに『知った男』に間違いがなかった。
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更新予定は未定です(今週は後一度~更新できればと考えてます)
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URONA・あ・らかると(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n8162bq/
るぅるぅの基本設定
(とにあ様宅るぅるぅとは別個体、風属性、白色成体です)
『以下3名:悪役キャラ提供企画より』
『桜嵐』呂彪 弥欷助様より
『余波教授』 アッキ様より
『黒雪姫』小藍様より
問題あればお知らせください。




