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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月25日

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430/531

クリスマス:夜です(賀川)

lllllll

賀川目線です。

家まで、車を走らせていたが。

llllllll

 




「ええ、雪姫が……いやユキさん、車に酔ってしまったみたいで」

『わかったわ。八雲さん呼ぶほどじゃなさそうだし、今日は帰れないとタカさんには言っておくから』

『外回りは後から結界張りに行くねぇ。アパートなら悪意のない者には反応しない系統のがいいねぇ……』

「その声は香取神父?」

『ええ、珍しく夕方にカトさんが帰ってきてね。高馬は暫く責任が何とかで、うろなを離れるって連絡があったから』

「さっきは色々、子馬に助けられたんです」

『そう、あの子が動いて、役に立ったのなら本望でしょ? 貴方、明日は鍛錬お休みしなさい。伝えておくから。朝早い時間に彼女だけソコに置くわけにもいかないし。あ、そうそう。押倒すのもありだけど、未成年ですからね、避妊は……』

「ちょ、な、何が『あ、そうそう』なんですか!」

『そりゃ、何ってナ二でしょう? 母親程立ち入れないけれど、女性としての心配よ。早い方が最終的にタカさんは喜ぶでしょうけど、その前の激昂は覚悟して……』

教会うちとしては反対じゃないけどぉ~個人的に殴らせてねぇ』

「ふ、二人共、ユキさん、具合悪そうなのでそれどころじゃないですよ」

『ふふ。はいはい。吐かない程度に水分を摂らせて、眠らせなさいね。頼んだわ、賀川君』

『宅配ボックスあるよね? ユキ君の着替えの服を押し込んどくねぇ~用意して葉子君……』

 終話を押して、地味にかいた汗を拭う。

 母さんは父の浮気を知りながら反論も出来なかった細い嫋やかな人で、小さい頃に可愛がってもらったイメージしかない。そして次に会った時は壊れていたので、どんな人だったか良く知らない。そんな母の実妹だと言う葉子さんだけど、性格はあまり似ていないのではないかと思う。

「大丈夫? 車から降りられる?」

「……はい、ごめ、なさい」

 俺達は車でイルミネーション会場を離れたが、気持ち悪いという雪姫の為に車を停めていた。半年ほど前まで一人で住んでいたアパートが近かったので、そこに。

 何度か戻っていた為、室内は埃を被っていなかった。

「ごめん、シーツは変えてないけれど」

「す、み、ません。ここ、賀川さんの部屋?」

「うん、タカさんちにお世話になる前はここに。水……あったかな?」

 物がほぼないガランとした部屋。それでも冷蔵庫の中から、封の開いてない水のペットボトルを見つけて差し出す。

「飲む?」

 受け取ると抱きしめて寝ようとするので、その前に声をかける。頷いたので上半身を助け起こして、あけたボトルを口元に運ぶ。綺麗な白い髪がさらさら零れるのを見ていると、その間に舐める程度に飲んで彼女は横になる。

「誕生日プレゼント、明日渡すね。今日は眠るといいよ。トイレはココ、お風呂は朝までは我慢した方が良いかな。服は朝には届いているハズだから……」

 そう言いながら服の内ポケに入れていた包みは彼女の鞄の上に置いた。

 それから二つほど台所にあったカラのボトルに水を入れ、ポインセチアに水をやり、短くなって包装紙に包んで持って帰ってきた西洋ヒイラギの枝を水に差す。さっくりと切れた枝を見ると、良い気持ちはしない。その刃は人殺しの為のモノ。迷いのなさにかつて自分の意思もなく撃ち放った弾丸の軌跡を思い出し、罪の深さを知る。

 それでも尚、俺はココにある事を今は素直に喜べた。

 振り返ると彼女は息が荒く辛そうなのに笑っている。気分が悪いのは車から降りた事で解消したらしい。

「なぁに。どうしたの?」

「そう言えば、ベル姉様から貰ったプレゼントを鞄の中に入れてきたのです。一緒に中身を見ようと思って。ベル姉様を連れて来てくれたのは賀川さんでしたから」

「じゃぁ、明日、見ようね?」

「……送った時計は届いたでしょうか?」

「大丈夫だよ。彼女がそれをどうするかは別の話だけどね。今度、電話かメールでもしたらいいよ?」

 狭い部屋だが小雪が舞う季節に空調が効くには時間がかかりそうだった。部屋の電気を消し、電気を台所だけにして鍋にお湯を沸かせて湿度を上げる。そこまでして雪姫の方を見やるとまだゴソゴソしていた。

「寒い?」

「え、その、ですね」

「……もしかして思い出したらベルさんから貰ったプレゼントの中身が気になってきた?」

「はい、……賀川さんのも」

 呟くように言いながら、遠慮気味に頷くのが見える。

 子供の様に可愛らしい人だ。電気を付けて彼女の鞄を取ってそれを渡すと、モゾっと起き上がり、嬉しそうに包みを開く。

 中には赤い髪の人形が入っていた。ツインテールのその赤い色。

「ベル姉様!」

 手作りらしいマスコット。中に入ったカードは今ユキさんの手元にある赤い髪の人形と対を成すかのような白髪の人形が揃って写真に納まっていた。



挿絵(By みてみん)



「雪姫とベルさんだね」

 裏にはメッセージが入っていた。そっと差し出されたカードにはこう書かれていた。



『Merry Christmas!!


 雪姫、元気にしているか? 賀川やうろなの皆とは仲良くやっているか? リズが迷惑をかけていないか?


 ベルは相変わらず愉快な仲間達と、そして、ベルが惚れた者と楽しくやっている。


 それから、お前の幸せを願ってベルからこれを贈ろう。必ず、賀川と幸せになるんだぞ。


 何かあった時はいつでも言ってくれ。たとえ星の果てからだろうと、必ずお前の元へ駆けつける。


 堕天使であり お前の姉である ベル・イグニスより』



「心はずっと側にいてくれるって事ですよね。幸せになれそうです」

 文章を見てるだけで夏に感じた彼女の熱い熱が伝わってきそうだ。

 彼女がいなければ、今の俺も、彼女との関係もこうなってはいなかっただろう。あの頃は雪姫の目に止まらぬよう、でも守って行きたいと思っていた。本当は自分が一番でありたいのに、そうなる事は彼女を不幸にする、と。事実、今だって状況は変わってなどいない。けれど、共にあると決めた。雪姫と自分自身も守ると望み、未来まで側にある事を願った。

「これからも俺は……君を想いながらも、いろいろな事できっと雪姫を困らせたり、すれ違ったりするんだろうな」

「アリスさんとの婚約、の件ですか?」

「……非常識?」

「はい。たぶん。逆だったらどうだったのですか?」

「雪姫が他の人とって? ……嫌、だよ。ゴメン。そう言うのが予め想像つかないのってオカシイんだろうね」

「私も変わっていると思いますけど、賀川さんもわからない人です。でもお互いの事がわからないのは他人だから普通だと思うので、これからまた少しずつわかって行ければと。ベル姉様も幸せになれって書いてくれています」

「そうだね」

 雪姫は贈られた人形をそっと掌に置いて、指先で髪を撫でる。

「うれしいです。手作り、大変だったでしょうに」

「苦労してそうだよね。裁縫が得意そうには見えないから」

 針穴に糸が通らないのはお前の陰謀か、などと言いながら、叫んでいそうなベルさんを思い浮かべる。もしかして彼女がこういうのが得意だったら失礼だけれど。つい顔を見合わせて笑った。

「あ、こっちも開ける?」

「私、クリスマスプレゼント、賀川さんにあげる物とか用意してなくて」

「そんなのいいよ。クリスマスの前に、君の誕生日だから。もらってくれる? お誕生日おめでとう」

 こくりと頷いて、ベルさんの手作りの人形をそっと置いて、次は俺からの包みを開ける。

「ありがとうございます。とっても可愛いです」

 彼女に送ったのは青と紫のガラスで出来た花のイヤーカフ。耳に掛けるだけで小さな花がたくさん飾ってあるように見える商品だった。きっと、とても似合うと思って。首から下げた青い石との相性も良さそうだった。

「貸して……やっぱりとても良く映えるよ」

 思った通り白髪の彼女にはよく似合った。鞄から出した小さな鏡に映して嬉しそうに眺めていた。



挿絵(By みてみん)



「ありがとうございます、かが……アキさ、ん……」

 くすぐったい呼ばれ方、照れたのに気付かれない様に彼女の視界を塞ぐよう、額にキスを落とす。この頃、彼女は艶が出て、尚更に美しく感じる。それでもこれ以上はいけないと理性を奮い立たせる。

「さ、寝ようか。付けては眠れないから、こっちで預かるよ」

 ぬいぐるみを枕元に置くと嬉しそうに布団の中に潜り込んで行く。俺はカードとイヤーカフ、そして鞄や包みなどをカウンターに置いて、

「じゃ、おやすみ」

 電気を消し、コートを寄せて床に丸くなる。

「か、賀川さん?」

「ん?」

「床……に、寝るのですか?」

「え、なに?」

 毛布も空調もない寒い所で、打ちっぱなしコンクリの床に寝るなんて普通だったし……そう言いかけて、彼女にとって普通ではないのに気付く。けれどうちにはソファーや予備の布団なんて置いてはいない。

「隣に。寝て下さい」

 それもマズイ気がしたが、いつだったかも一緒に寝てしまった事はあった。けど、あの日はあの日であって、今日が自制がきくかわからない。

「一緒だと嫌ですか? 前も寝た事あるしイイですよね?」

「イヤじゃなくても問題はあるような」

 今、さっきこそ常識の話をした。

 床に寝るのは普通じゃないとして。だからと言って恋人になりたての未成年と一晩を共にするのに、一緒の布団で何もせず耐えられるのか。甚だ疑問なのに。

「寒いです。早く」

 雪姫はわかってない。男がそういう方向に始終頭が行ってるなんて。

 それでも猫の子を呼び込むように敷布団をポンポンしながら、

「は、や、く、です」

 そう言いつける彼女はただの親切で言っているだけ。俺を伽に誘っている気はこれっぽっちもないのだ。暗くてもわかるほどの赤い瞳に逆らえず。持ち上げていた毛布と掛布団はやわりと押さえて彼女だけ使わせるようにして、なるだけ端に、背を向けて横になる。

「何で、押さえつけるのですか?」

 彼女は、ぱふり、毛布を持ち上げて俺を包む様にして、その中に一緒に納まった。驚いて振り返ると、

「二人だとあったかいですね」

 そう言ってほほ笑む彼女の顔がとても近かった。それにしてももうこの部屋に入って十分以上経つのに、布団の中がまるで温まっていない。

「雪姫、凄く寒い?」

「この頃、ちょっとだけ……でも……ぁ」

 手を握ると雪姫の顔が少しだけ驚いて、また優しく笑って、俺の熱を吸い取る様に冷たい指を絡めてくる。

「すごい、こんなにあったかい……なんか、気持ちイイで……す……」

 そう言いながら雪姫の赤い瞳がつっと細くなって、『おやすみなさい』と呟く。そして彼女は警戒の色もなくコトンと眠りに落ちた。



lllllllllll


キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

夜輝石


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

ベル姉様 リズちゃん



お借りいたしました。

問題があればお知らせください。



(本格的にストック無しに。来週の更新は未定です。それでも二月に向けて動いていきますのでよろしくお願いいたします)


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