クリスマス:夕刻です(ユキ)
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総括。ユキ目線です。
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賀川さんと子馬さんが戦うなんて思ってなくて。
子馬さんに保護を求めたのは……うろなを離れる事は辛いけれど、賀川さんをはじめ、皆が無理して、その上、傷つくのは嫌だったのです。お母さんが帰って来ないなら、ココに居るのは私の我が儘だから。
『行くにしても、その前に賀川の姿を見てにした方がイイと思いますよ? それにちゃんと話し合ってないでしょう? 巫女は』
『確かにそうですけれど。賀川さんの姿って?』
『任せて下さい。そうだなぁ~海さんの制止も聞かず、巫女を攫った事にして。時間があったらついでにうろな高原まで来てもらおうかな~』
『攫った事に? ん~♪ だったら、やってイイよぉ~♪ 子馬』
『え? 海さん、何を?』
『ここんとこにさ~殴った痣とか付けてたら、『本気』だと思わせるのにいいんじゃない? じゃないと一番君ヌルそうだしぃ。んでぇ~あたしが迎えに行くからぁ~』
子馬さんは悩んだ後で、私にしーってフリで『黙ってて』っと、目を閉じさせた海さんに音を立てぬよう熱烈なキスを首筋に落して。そこにレディフィルド君、そして汐ちゃんがやって来たのです。二人も協力して賀川さんを連れて来てくれました。
ただ思ったより早くて、高原まで移動する事はなかったのです。
私は賀川さんの戦っている所なんて想像できなくて、何でこんな事になったのか。意味が解りませんでしたけれど。
葉子さんの息子であると言う子馬さんは大きいけれど太っているのではないのです。筋肉の塊。それくらいすごく良い体つきで。鍛えなくてももともとそう言う配列の遺伝子で作られた体。それを上書きするかのようにして更に仕上げられた体をしています。いつも纏った淡いピンクの色が無くなって金黄色の閃光が彼にバリバリと纏わりつくのが見えました。
それに向かっていく賀川さん、見てられなくて。
でも一撃で潰されるって思っていたら、何だかスルスル避けているから驚きます。あんまり早くて捉えるのが大変だけど、思ったよりうまく動いてくのに私はぼーっとしてしまいます。
そこにあるのは拳の応酬、静かな呼気と彼らの大地を踏みしめる音だけ。冷たい空気の中、熱い息と汗が跳ねて、目が離せません。本人同士はどう思っているかわかりませんが、狼の様な素早い動物が象のように大きな標的に向かっていくような……違いはあれどそれぞれの強さを備えた者同士の戦い。飾りのない本気は見る者を圧倒します。
最後に賀川さんが吹き飛ばされる一瞬に、『いそうろう、ささえてあげる。描ける?』って、水羽さんの声が聞こえて。いつぞや作った鎖で受け止めて賀川さんは変な壁に当たらずに済んでホッとしました。
その手にはきらりと光る鍵があって。
鍵を外しながら、賀川さんは言います。
「欲しいモノを欲しいと言って何がいけない? 今まで俺にそう言いたくなる物はなかった、どこにも行き場がなくて、それでも何となく誰かの役に立ちたくてエンジェルズシールドに入ったり、姉の言葉に従ったりしてきた。運送の仕事が楽しくない訳じゃない。でも、違うんだ。今は俺の欲しい者の為に戦える。それが嬉しいんだ。だから、ねえ、ユキさん、……いや、雪姫。貴女を俺にくれ。守るとか、側に居るとか、その約束で足りないのなら。いっその事、俺に君の全てをくれ。かわりに全てを君に。君の為に戦いたい、守りたい。それを叶えさせてくれ。自分が傷つくよりも、君がいない事が嫌なんだ。君がいない事が俺には何より辛いんだってわかってくれ。つまり……うろなを離れるなんて二度と言うな!」
拳を振るう彼は、私が考えていたより強いみたいで。でも戦わなきゃいけない状態にさせているのは私のせいだって言うのは紛れもない事実なのに。きっとそれは過去の暴力や辛い時間を思い起こさせる行為だと思うのに、『戦わせてくれ』と言ってくれるのに涙が出そうで。
彼が傷つくのは嫌だけれど。
私はこの人の側に居たいって思って、そしてココに、うろなにまだ居ていいのだと、彼の瞳は語ってくれるのでした。
ホテルに入る寸前で、手袋ちゃんがぴょんと腕の中から降ります。
「うん、またね」
温かいその感覚が無くなるのは寂しかったけれど、またどこかで会えるでしょう。ホテルには入っちゃいけないってわかっていた様子で、尻尾をゆらしながら近くの茂みの中へ姿を消してしまいました。
「海さん、待ってて。賀川、ちょっと……」
子馬さんは報告に戻る前の少しの時間を、海さんと過ごすようです。賀川さんと何か話した後、私は今回の事で子馬さんに何か言わなければと思いましたが、
「良いのですよ、巫女。人は居たい所で、居たい者と、手を繋いでいるのが一番いいからね。俺が口で説明しても納得しそうになかったし、巫女の話は興味深かったよ」
先にそう言われてしまい。海さんは賀川さんの背中を叩きながら、
「一番君、ユキっちにちゃんと『付き合って』っていいなよぉ~そう言ってもらってないから『恋人同士じゃない』なんて言われてっよ~♪」
「ぁ、海さん……」
「いろんな事があるんだろうけどさ、ユキっちは一番君と離れちゃダメだって。何かあったら、この海ちゃんが手伝うからさぁ~じゃっ、なぁ~」
にしし……っと笑って海さんは子馬さんを連れて行ってしまいます。
「賀川のお兄ちゃん、ピアノのお部屋、もう使えるって!」
そう言いながら汐ちゃんが賀川さんに鍵を渡してくれます。
「ありがとう、汐ちゃん」
白い大理石調のチャペル。大きな窓の外には暗くなりゆくうろなの海。
そこで聞いたピアノの音は。
柔らかくて、温かくて、心地良くて。
賀川さんが紡ぐ旋律。
「付き合って、俺と。いろいろ間違っている俺だけど」
「…………っと」
「ゆ、雪姫? 返事は?」
私は何と言ったらいいかわからなくて、一つだけ頷くと、そっと唇にキスをくれました。
「これで、恋人同士だって思っていいかな? 雪姫」
「でも……」
私が言葉を濁すと賀川さんは慌てたような顔をするので思い切って言ってみます。
「あの、賀川さん。賀川さんの事、私はずっと『賀川さん』って呼ぶんですかね?」
そう言うと、唸って、難しい顔で首を傾げる賀川さん。
「じゃぁ、あ、あきらちゃん?」
私はさっきレディフィルド君が呼んでいた名前を口にしてみるのですが、賀川さんは苦笑して。
「ちゃん、付けは流石に……」
「ですよね。じゃぁ、あきら、さん? アキさん? どっちにしても普通は呼べそうにないです」
「俺もずっと呼び捨ては難しいかも」
「それにしても、アキって、お母さんの名前です。何だかお母さんが隠れていたみたい」
そう言った時、賀川さんの体が赤く光ったように見えたのですが、それは気のせいだったでしょうか。
ピアノを弾き終ってチャペルからロビーに行くと汐ちゃんが待っていました。
私達は宿泊者ではなかったのですが、その為に用意されていたプレゼントである白のポインセチアを賀川さんに、私には誕生花であると西洋ヒイラギの切り枝に綺麗なラッピングをしたものをいただいてホテルを後にしたのでした。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん ホテル<ブルー・スカイ>
汐ちゃん レディフィルド君 ルド君
時雨(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7606bq/
手袋ちゃん(ありがとうございました!)
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。
(そろそろ本格的にストック無しになります。来週から書き上げ次第のアップ、春休みも近く平日毎日更新では無くなる予定です。二月に向けて動いていきますのでよろしくお願いいたします)




