クリスマス:夕刻前です3(子馬)
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過去を思い出しながら。
続けて子馬目線です。
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『返して、返してッ! 高馬をっ』
幼い頃、俺の耳に響く母さんの声。父さんは屋根の下で冷たくなって戻らなかった。
叶わなかった家族の幸せ。それでも母さんも父さんも俺を愛してくれていると信じて過ごした。けれど、それは本来あるべき形じゃなかったはずだ。
情報を洗い直し、父さんが今、関わっている宵乃宮の巫女の件で大きな鍵であったのを知る。そして推測すれば見えてくる、きっとこの件に関した事が屋根が落ちて死亡すると言う事態を招いたのではないかと。
もう俺は大人になって、親の愛情がなかったからと言って甘えられる立場でもなくなったけれど。
人は自分の居たい場所に、一緒に居たい人と共に、手を取り合って生きる方が素晴らしいに決まっているのは身を持って知っている。
だがそれが叶わない人間の安全と安心を提供をするのが俺の仕事となった。そしてやはり巫女は今、俺達の施設に引き込む必要なさそうだ。この地でそっと、手助けをすればいい。
大変だろうが何とかなる、そう思いたい。
砂浜を渡る風に小雪が混じり、温まっていた体が徐々に冷えて行くので、拾った上着を着ようと思っていると、背中に半端ない痛みが襲った。
「痛っ……」
「そんな巨体で隠れるように動いても丸見えだろぉ~子馬! ここを後一発、一番君にやられたらアウトだったなぁ~」
右肩関節、前面と背中と同じ場所を正確に狙って来ていた賀川の攻撃は、肉厚な俺にも地道ながらかなりのダメージを与えていた。
ただし本来なら賀川の腕や足が折れていた筈だ。戦闘モードに入っていたから、それなりの厚みの鉄板程度の強度が俺の体にはあったのだから。賀川の腕足は『鬼布』に守られていたから、数日間の激痛で済むはず。内蔵の方もたぶん大丈夫だ。巫女を守る手を減らすわけにはいかないのだから。
「最後の止めを海さんに貰うとは思わなかったよ」
痛いとわかっている場所に叩きこまれた拳に顔を歪めながら、振り返ると、怒った表情の海さんがそこに居た。
「おっ疲れぇ〜! 子馬っ。アンタにしちゃー、上手くまとめた方なんじゃねーの?」
そう言って、怒った表情が崩れて、巫女に付けていた二個の手錠と鍵を渡してくれながら、いつもの屈託ない笑顔を俺に向けてくれる。にっと笑って差し出してきた拳に、俺は軽く拳を重ねる。
彼女の笑顔を見ると、まるで今まで付けられなかった灯が光り始めたかのように、心があったかくなるのを感じる。だから好きだと心から思う。
その時、彼女の首筋につけてしまった痕が目に入り、胸が痛くなる。
ある程度『本気』だとわからせるのにやってイイと海さんに言われてやったものの、やはり断るべきではなかったか。付けた方法はどうあれ、やっぱりこんなに深い痕をつけるのはよくない。彼女の心意気や人へ気遣う優しさは嬉しいが、色々と心配になる。
酒の席で耳に挟んだ、味覚障害の幼馴染の話に、妹さんのデートに、今回は友の為に……人の為に動こうとする……初めは握手して舞い上がっただけが、彼女の内面に魅かれて、俺はどんどん好きになったのだけれど……彼女は猪突猛進だから、これからはもっと思慮深くなるべきだと反省する。
「首、大丈夫? 酷い痕になってるよ……ごめんね、あんまり強くしちゃダメだね……」
「ん? ああ、もう忘れてたしぃ~気にすんなって! 子馬っ」
「そうは言っても……」
「今の一撃でチャラだろ? それにちゃ~んと責任は取ってくれんだろぉ~? い、ろ、い、ろ、と! な?」
その意味深な言葉に赤くなってしまう俺の反応を見て、海さんは面白そうに笑う。
「それにしても。これ、どうやってつけたんだ? 殴られた割には痛くもなかったし、衝撃もなかったしぃ~」
コレを付ける時、海さんには目を瞑ってもらっていたから、だからどうやって付けたかは秘密に……
「殴った痕に見えるなんざ、一体どんなキスマークつけてんだってぇの〜」
秘密にしときたかったのに、賀川の攻撃を避けて側まで来た白髪の鳥使いがそれをバラした。チラリと肩の鳥がこちらを見やっているのを感じる。鳥使いの言葉を聞いた海さんは思い切り赤面し、
「!? な、なにっ、したんだ、お前はっ!」
「だって、嘘でも無抵抗の海さんを殴るなんて、俺には出来ないし……だから、さ」
「だからっ、じゃねぇっ! ユキっちも汐も見てたのかっ」
「巫女は近かったから、うん。でも前に賀川とのを海さんは見てるからそれこそチャラだよね。汐ちゃんは……どうかな?」
自分の名が呼ばれた事で、どの辺りの事かわかったのか、きょとんとしながらも、
「フィルに目隠しされちゃったから、見てないよ? でも、すっごくキラキラしてたから。子馬お兄ちゃん、なにかしたよね?」
そう汐ちゃんがそう答えてくれる中、はっ倒そうとする海さんの手を避けて走る。
笑いながらも伝えておかなければならない事を思い出す。
「あのね、海さん、暫くは会えないかも。一週間か二週間くらいかな? ココから外される事はないと思うけど」
「ど、どういう事だよっ、子馬」
「保護を求めた巫女を連れて行かないのは、職務規定違反なんだよ、これ」
「言わなきゃバレないだろ?」
「そういうわけにはいかないから。じゃ……」
そう言って立ち去ろうとした俺はなるべく明るく告げたつもりだったけど。結構、深刻な事になるかもしれない、ちらとそう考えた不安に彼女は気付いたのかも知れない。このタイミングで言い出したのは首筋の痕の件を誤魔化そうとしたわけじゃない。
俺の左手の小指を気恥ずかしそうに海さんは摘まんで、
「すぐ行かなくても! そ、そうだな……そう! その前に一杯だけ飲んで行けよ。……持ってきたお酒」
「海さん……」
「残りは今度ホテルに来た時、飲もう、な」
そう言って彼女は有無を言わさず俺を連れて行く。暫しの別れでも寂しいと思ってくれたのなら嬉しい。自分の口角が上がって、彼女の指から伝わる柔らかさと温かさに酔いそうだ。
その時、先にホテルへ向かい出していた一行の中、巫女がお気に入りらしい猫をまた抱きしめながら振り返る。彼女は優しく微笑みながらぺこりと頭を下げた。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん ホテル<ブルー・スカイ>
汐ちゃん レディフィルド君 ルド君
時雨(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7606bq/
手袋ちゃん
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。
(そろそろ本格的にストック無しになりますので来週あたりから書き上げ次第のアップ、春休みも近く平日毎日更新では無くなる予定ですが二月に向け運用していきますのでよろしくお願いいたします)




