クリスマス:夕刻前です3(賀川)
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砂浜にて。賀川です。
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「結界を張らせてもらうよ。あんまり人に見られてもいけないしね。二重結界にしようかな?」
結界って確か『人から見えない様にしたり干渉されない様にしたりする壁』の事だ。それはゲームの世界の話で、そんな物が世のなかにあるとかありえないけれど。こないだ森でもそれを縫うように地下の滝に行ったというから、子馬の中では本当にそれはあるのだろう。
木の棒を拾い上げると、砂浜をこつんと子馬が叩いた。途端に砂がさわさわと風に流される様に動き、大きな四角を、更に外側にもう一回り大きな円が砂浜に描かれた。何のトリックかはわからない。見る間に嫌に正確な円で囲まれた真四角のコートが書き出来上がった。
「凄いです、真四角に正円です」
「もっと複雑な図形を儀式では要求されるからね。この程度、土御門としては当然なんだよ」
「そうなんですね。でもどうやって書いたんでしょう?」
「子馬っ儀式って何だよぉ、おらっ」
「だ、だからね、一応、俺、土御門だって説明したよね、海さん。……俺の結界は鬼道術で………………さ。雷光を使ったその屈折と…………」
「何だよっ、つまりは厨二病なのかっ、お前の一族は!」
「あ、海お姉ちゃん、おとなしく見てるって約束!」
ユキさんは砂浜に座らされ、ブランケットに包まって見学しながら喜んでいる。座っていて見てるだけで真四角とわかるユキさんの図形や空間把握能力はともかくとして、彼女はこの事態を自分が招いている自覚があるのかないのか。
海さんと汐ちゃんもその側で座っている。
汐ちゃんは猫を抱っこしておとなしくしていた。
だが海さんはさっき人前でハグされたのが、よほど恥ずかしかったのか相当悪態をついている。子馬はとても困ったような顔で、でも考えを変える気配はなく、上着を脱いでいた。
俺もコートをレディフィルドに渡す。肩の鳥は抜群の安定感で微動だにしない。ドリーシャは猫が怖いのか姿が見えなくなった。
「海はからかえそうだし、雪のやつはホントに楽しそうだな、わかってないんだ、アレ。天然だなぁ~……汐の御守が可愛く見えて来たぜ」
「ちょ、レディフィルド! ユキさんに変なあだ名を付けるな!」
「悔しかったら、お前も呼べばいいじゃないかよぉ? あきらちゃん! キスはした仲なんだろ?」
「おまっ! レディちゃんが生意気な!」
いつもの調子でレディフィルドに飛びついて揺すろうとし、レディフィルドは俺に抗議しようと掴みかかったが、足元から嫌な気配が上がってくるのを感じて、お互い後方に飛び退く。
俺と子馬は砂に描かれた四角の中、ユキさんと他の三人、レディフィルドの鳥はその外側の円に残った。
「くすん、海さぁん……酷いよ、俺は厨二病じゃないよ……とにかく結界…………この線からは出ないで。じゃないと……」
巨体に似合わない拗ね方をしている子馬だったが、手にした棒切れを放ると、嫌な音を立てて棒切れが焦げた。煙を上げて塵と化した様子に一同が静まる。その音にビックリした猫が跳ねそうになったが、汐ちゃんの腕からユキさんの胸に移動し、すっぽり収まり、落ち着いたようだ。軍手君、少し羨ましいとか言ってられない。
ともかくどんなトリックでこの短時間でそんな壁が出来上がるのか俺にはわからない。だが子馬がそれなりの技は持っているのが知れた。腕に付けた水晶玉が淡く光る。
「空間が歪んでいるから、回りから人間には見えないし、誰かが入って来る事はないし、俺の許可なく出るのは勧めない。まあ小規模で砂浜だから誰も気付かないだろうね」
海さんの抗議に、拗ねていても仕方がないと思ったのか、ニッコリと笑うと、軽くその場で足の運動を始める。
「時間は三十分にしようか? 長くやっても無駄だし。その間に鍵を奪うか、俺を負かせたら、拘束の解除と巫女との交渉権をあげるよ」
「こ、交渉権?」
「そ、この結果如何ではなく。彼女が『うろなを去る』って決めたら、諦めろよ賀川」
俺はユキさんを見た。
赤い赤い瞳。海風に舞う白い髪。
きょとんとした彼女は、自分が今からの戦いの景品になっているのに気付いていないようだった。今になって海さんにそれを説明されたのか、『か、賀川さん怪我しちゃいます、止めて』といい、海さんは『もう、見てろってーの。せっかくお膳立てしたんだから』とのたまっていた。彼女がさっきまで押さえていた首筋に確かに痕があった。それもわざわざ『お膳立て』の為にやったのか?
「何だよ、お膳立て? 海さんと組んでこんな茶番を仕組んだのか?」
海さんとの間を心配し、だからこそ焦った。
でもそれが二人の仕組んだ茶番ならとホッとしかけ、『何故こんな事を?』と、気軽にそう問おうとした。だがその瞬間、砂塵が舞いあがり青白い閃光が俺に迫る。間一髪で避けたが頬に痛みが走る。
「俺、本気だから。賀川が負けたら、巫女は土御門で預かるよ。タカの小父貴達が何て言ってもね。彼女はお前が弱いと思ってる」
俺がモノを言う前に海さんが荒れ始める。
「てっ! てめーぇ演技だって……」
「ごめんね、職務なんだよ。本当はすぐに装甲車でも呼んで、連れ帰るのが義務なんだよ? 保護を求めた人間を放ってる俺の気持ちにもなって。海さん」
「一番君が守れなくても、工務店のおっちゃんやあたしが居るって言ってるだろ? それじゃ文句あるって事だよなぁ?」
「文句ない……とは言わないよ、彼女が一番に欲してるのは彼の安全で、それは彼への愛だよ? その愛はまずは賀川が強ければある程度満たせる事だ。ま、強い事が証明できても、怪我をしないとは言えないから、交渉権はあげるって言ってる」
「あの、あの、何だか、私がお話を大きくしてしまったのでしょうか?」
オロオロするユキさん、暴れ出しそうな海さん、汐ちゃんは二人を落ち着かせるのに追われている。レディフィルドはいつもと変わらず肩に鳥を従えて、ニヤニヤと笑っているだけだ。ユキさんの胸に納まった軍手君だけが幸せそうだ。
俺が痛みを感じた頬を拭うと、掌に血がついていた。ぎゅっと拳を握る。
「ユキさん、とりあえず見てて」
「ふうん、良い顔つきになったよ、賀川」
俺はその言葉を皮切りに、子馬に飛びかかった。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん ホテル<ブルー・スカイ>
汐ちゃん レディフィルド君 ドリーシャ
時雨(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7606bq/
手袋ちゃん
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




