クリスマス:夕刻前です2(賀川)
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砂浜を横切り、後を追う。賀川です。
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前を走る二人、けっこう足が速い。慣れているのだろう、砂に足を取られる事なく砂浜を横切る。
「あのトンネルみたいなのを潜ってすぐが駅だよ!」
道路の下に作られた、小さな連絡穴を汐ちゃんが教えてくれる。上はいつも使っている道だが、トラックで通っても気付かない生活用の近道であり抜け穴を彼女は指差した。
「わかった、ありがとう!」
「気をつけろよお~カガワぁ~」
逸る気持ちが俺の歩調を上げさせた。汐ちゃんとレディフィルドの身長ならどんなに早くても、道さえわかれば俺の方が流石に早い。汐ちゃんが示したトンネルに向かって、俺は駆け込み、見えてきた駅舎に向かって走った。肩に止まったドリーシャは俺に寄り添い、そのままついてくる。
二人は駅のベンチに寄り添うように座っていた。寒い時期の海辺の客は少なく、その他には誰も居なかった。
ユキさんは寒いのかブランケットのようなモノを膝からかけ、子馬とにこやかに何事かを喋っている。その様子が無理矢理連れて行かれたのを想像していた俺には胸に来るモノがあった。
そこに電車が滑り込んでくる。冬の海辺、降客は居らず、子馬は立ち上がってホームの方にユキさんを抱え、連れようとしていた。その弾みでユキさんの膝から猫が飛び降りる。
「待てっ! 子馬っ」
膝から降りて来たのは手の部分が白い黒猫、軍手君だ。ユキさんは手袋と呼んでいる元野良猫。とてとて歩いてくると、じーっと俺を睨んで見上げる。もしかするとドリーシャを狙っているのかも知れないけれど。
俺は子馬にお姫様抱っこされている彼女に言葉を投げる。
「なんで、だ? ユキさん」
「おや。王子様の登場だね? 話する?」
子馬の台詞が鼻についた。そっと座っていた位置にユキさんを戻す子馬。俺は弾んだ息を整えながら質問する。
「ユキさん? 今日は俺と約束だろう? 何で子馬に付いて行ってるんだ?」
「あのですね、ちょっと相談したら、うろな高原の方に行こうって話に……」
「何の相談だよ、ユキさん。俺や……俺じゃなくても、タカさんや葉子さん、他にも、子馬より先に相談するべき人は沢山いるだろう? 何で離れて行こうとするんだっ」
ユキさんの返事を遮り、子馬はフンワリと笑って立ち上がった。
「君たちの守りじゃ心許無いんだそうだよ? 」
「え、あ、そ、そういう意味では……皆に負担を掛けたくないだけで」
「そういう意味だよ、巫女。貴女を攫いに来る『宵乃宮』は、化け物のような存在だ。俺や魚沼の小父貴でもあの太刀筋に怪我を負うほどだ。賀川、君の様な『普通』で『平凡』、『ひ弱』な人間では戦えないって感じてるんだよ。さぁ、巫女。今日は高原の方に移動して、明日にはうろなを離れて専用の施設に保護するよ」
子馬の眼光は鋭く、俺を見下ろしていた。
だがひるむことはない、俺はただ立って見下ろしている子馬の側を抜け、座っていたユキさんの腕を掴むと、立ち上がらせてその場から去ろうとした。
「あっ、か、賀川さん! 痛いっ。痛いですっ」
腕を引っ張る力が強すぎたのもあったが、彼女が痛みを訴えたのは別の理由だった。彼女が痛がったせいか、側の黒猫が警戒の声を上げる。それにドリーシャが驚いて空に飛んで行く。
「子馬、お前……」
余裕でユキさんに近寄らせた理由が分かった。膝に掛けられたブランケットの下、そこには鈍色の手錠が手首に嵌っていた。それは足首にも。
プラスチックではない鋼鉄色の冷たい感じ。幼い自分の腕に嵌められた時の重い記憶とその拘束力を知る者として、俺は子馬を睨んだ。ともかく前田家に連れ帰れば、タカさんが工具でブチ切ってくれるだろう。抱えて車で連れて帰れば、何の問題もないかに思えた。
しかし子馬がパチンと指を鳴らした途端に、カクンとユキさんが膝から折れた。咄嗟に腕を掴んで支え地面に崩れるのは免れたが、彼女も驚いたようだった。
「え……」
「その手錠は特別製だよ。俺の鬼道一つで電流が流れる。今みたいに軽く痺れさせることもできるし、内側から感電死させる位まで自在だよ? 逃げたら面白いモノが見れるよ、賀川」
「大丈夫か!? ユキさん」
「だ、大丈夫ですけど。あの……」
子馬のやわらかい笑みが空恐ろしいものに感じた。前にも俺に変な術をかけた事がある。
睨みあう中、電車の発車のベルが鳴った。流石に俺を無視して進行するのは無理と思ったのか、強行して電車に乗る様な事はしない。
「連れては行かせない」
「別に無理に連れて行く気はないよ。誤解するな賀川。俺は巫女から依頼を受けただけ。お前が傷つくのがイヤ、だ、そうだ」
「そんなの……ユキさん、うろなから離れたいのか? それが本心なのか?」
「えっと、えっと、私がココに居るのはとっても迷惑かと……うろなからは離れたくはないですが。でも……」
「ねぇ賀川。小父貴達に聞いていたけど、全く巫女に戦う所を見せた事ないらしいな。理由はわからなくはない。巫女は戦いや争いは嫌がる。けれど程度物だろう? ともかく君が生んだ歪みだ」
遅れてきた汐ちゃんとレディフィルドが走り込んでくるのを見ながら、微笑みを絶やす事なく、
「まぁ。俺だって鬼じゃない。チャンスを上げるよ。せっかくの機会だから時子さんの所まで、ついて来て貰ってもいいかなって思ってたんだけど。聞いたより早かったからそれはまたの機会にするとして……」
彼は首に長くて細いチェーンをかけた。そこには小さな鍵が二つ。
「わかるよね? これ、手錠のカギ。巫女に示すがいいよ? 自分が彼女を守るにふさわしい者であると」
更に後ろから海さんが駆け込んでくる。
「てっめ~子馬っ! この海ちゃんの友達に手錠だとぉ!」
拳を固めて、子馬に飛び掛かる。子馬は海さんの拳をあやすように受け止め、思い切り自分の方に引き寄せ、抱きしめる。
「愛してるから許して。海さん大好きだよ~」
「ひひひ人前だぞっ! それに怪しげな手錠、足にまでユキっちに掛けるなんてやり過ぎ……」
海さんが拳で脇腹を叩く前に、素早く海さんをレディフィルドの方に押し返し、
「駅舎だと被害が出るといけないから、砂浜に行こうか」
歩けないユキさんをさらりと抱え上げ、大男は今来た浜の方へ戻っていく。その後ろを黒猫は素早く追い、俺達は追従する形でそれに続いた。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん ホテル<ブルー・スカイ>
汐ちゃん レディフィルド君
時雨(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7606bq/
手袋ちゃん
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




