クリスマス:夕刻前です(子馬)
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昨夜は……
子馬目線です。
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ホテルで海さんと過ごした夜。
海さんは朝には仕事があるからと出て行った後、チェックアウトしてから、ワイナリーに行って。
「えっと……はい、これ、クリスマスプレゼント」
夕方を前にもう一度、いつもの浜に来て、初めて彼女を電話で呼び出そうとしたら、高速で現れた。
余りに早くて。俺はとてもあわててしまって、持っていたモノをガサリと突き出すようにそのまま渡し、途端に海さんに笑われる。
「お前さぁ~雰囲気とか考えないわけ? まぁ~らしいって言えば、子馬らし過ぎるけどぉ♪」
白いビニール袋にそのまま出したって言うのがダメだったらしい。
でも昨日が昨日だよ?
緊張するんだよ?
平気な顔してるつもりだけれど。
彼女はここに来る前に呼吸を整えたのか、いつもと変わらない感じで。機嫌良さげに、がさがさと袋を開けた。
中には細長い紙箱、中身は苺ワイン。これは兎六角ワイナリーで特別に頼み込んで詰めさせてもらい、普通のラベルの隅に小さく『ma cherie』と印刷してもらい、俺の手で貼った特別製。
偶然にも以前仕込みの時に、時子さんに言われて手伝いをしたから、この酒を選んだんだけど。今、思えば時子さんはこうやって俺が誰かにコレを送る事を予見してて、勧めてくれたのかも知れない。
時子さんにクリスマスカラーの箱にリボンで包装してもらっていたら、『高馬様、姫になられる方でしょうから大切に』などと六角に言われて、何発か殴っておいた。時子さんはコロコロ笑っていたけど。
俺達がこういう時に『姫』と呼ぶのは結婚相手、もしくはそうなりそうな相手、意中の女性、つまり……配偶者候補の事だ。
体に触れたのは……昨夜の事だよ、まったく気の早い。でも反対してはないのだとわかって安心した。伯父貴連は何としても黙らせるから関係ない。そこまで進めばいいけど、海さんの気持ちはわからない。でも確かな温もりは俺を強くする。
「ん、これお酒……ワインかな?」
白い袋から出して、重みと感じで開ける前に中身はわかったらしい。
「じゃ、今日はこれで帰るよ」
クリスマスはちょこちょこ忙しそうだから、俺はすぐにそこを後にしようとする。すると前触れもなく海さんが足蹴りをかまそうとするので、慌てて振り返り側面のガードに入るが、
「ふぇいく、だよぉ」
見返り様に思い切り腹を殴られる。細い腕でも彼女の拳は体に堪える。何だろうね、この衝撃は。彼女相手だと少し気が抜けてるんだろうな、そう思いながら膝を折った所でさわっと頭を撫でられる。
「昨夜思ったけど、やぁ~らかいなぁ子馬の髪」
「ぁみさん……?」
「ありがと」
素早く短く耳元で囁かれる。俺の髪に触れながら顔をぎりぎりに寄せ、耳に触れるか触れないか微妙な距離。言葉と共に吐息が耳朶に触れて。昨夜の事が一気に蘇って顔が赤くなった。あんな事……しても、その時は男として腹を決めてるから何てことないのに。
俺が『不意打ち』にはとても弱い事を完全に見抜かれてる。
畳み掛ける様に首筋にキスを落された。そこは……ぞくりとするほど俺の神経を掴んでいるのに。まるで何事もなかったかのように彼女は振り返りもせず、浜に置いたワインを拾って帰っていく。
「じゃっな~♪ まーたなぁ~」
どこでこんなこと覚えたんだ? お互い初めてなのは、彼女の体に聞いて知ってるけれど。たぶん無邪気な範囲で、心を掴むのが天性的に上手いのかもしれない。
「あーー海さんには勝てないよ」
そう言って、立ち上がった俺の視界に白い髪の少女が立っていた。立ち去ろうとした海さんも歩を止め、そこで彼女に気付いたようだ。
「宵乃宮の巫女、雪姫」
「ゆゆゆゆ……ユキっち!」
気配、しなかった。
俺も海さんもそれなりに気配を感じることには長けている。それは『どれだけ他のことに気を取られていても』、だ。その中にあって、一体いつから見ていたのだろう。
しかし彼女は笑ってはいたが、どこか寒々しいような雰囲気を身に纏っていて、俺にも海さんにも質問を許さなかった。
この前に会った彼女や神を降ろした状態、いずれとも違っていて、彼女がとても『思いつめている』者の気配であるのに気付く。こんな感じの時の人間はロクな事を考えていない。だがそれはすぐになりを潜めた。
「あの」
「何でしょうか? 巫女」
「……………………………………………………お二人。む、結ばれました?」
警察としての態度を取ろうとしたが、その後の彼女の台詞に驚く。こないだ会った時、容姿とは裏腹に巫女だけれどあまり力を感じさせない人間に感じた。神が入った時はさすがに恐ろしいソレだったが。
もっと力がある者なら、たくさん知っているから何故こんな『弱い者』に奪い合いが起こっているか訝しんだくらいだ。
「色が混じって、糸を引いているので……」
側には一匹の蝶が居て、彼女の為に細々働いているようだった。ただし彼女の場合は従わせていると言うより、虫の方が慕ってそれをこなすと言う報告を受けている。彼女自身は全く『緩く』て、その力の使い方もフンワリしていると言う報告通り。報告を受けた時、『どういう事だ?』と思ったがやっとその意味が分かる。
「巫女が巫女たる由縁か……」
本人が望む、望まない、そんなモノは関係ない。彼女はいろんなモノが見えて感じるのが普通で、そんな自分がどんな貴重な存在かよくわかっていないのだ。
「言っては悪いが、やはりこの女は支配される側の人間だな……」
俺が無意識に発した言葉に海さんが目の色を変えるのを感じた。
「てっ、てめえ……何言ってんのかわかってんの? あたしの友達に向かって……」
「わかっていないのは海さんだよ? 彼女は道具としての利用価値が高すぎる生き物なんだよ。どれだけの者が目をくらませてきたか、やっとわかった。彼女から絞り取れる力を計算できる者なら、……いや賀川を殺せたなら二乗は堅いか……」
「子馬っまだ言うかっ!」
「あのぉーーーーとっても仲が良いのはいいんですけど」
殺気立っている海さんに反比例するように、巫女はゆるゆるっと笑って波風に白髪を揺らす。
雪姫、その名が示す通り、雪と同じに真っ白な彼女が入り込むとその場が和む。それでも海さんは俺を睨んで、今にも噛みつきそうだ。だが、巫女は我関せずと言ったように、ふわふわと白いファーコートのボンボンを揺らした。
「お二人は仲が良いから喧嘩するんですね。何だかとっても楽しそうです」
「ユキっち! こいつが言ってた事、ちゃんと聞いてたかっ?! 利用価値とか、モノみたいに言われてんだぞ!」
「はい。えっと、私は計算とか、価値とか、わからないので助かります」
何をされてもさほど怒って来ない、出来るだけいい方に取る。その対応も如何にも巫女らしいものだ、もうこれは天性的なモノと言えた。流石の海さんも呆れた様子だったが。巫女は怪訝な海さんに慌てたように、
「あの、私、その、実際、何度か変なヒトに閉じ込められたり、変な感じになったりして困った事があるんです。ああ、自意識過剰とかじゃないですよ? 本当に、本当なんです。でもタカおじ様や賀川さんには逆に言えなくて……」
「……俺が弾き出した数字は、悪に染まった『獣』なら歯牙にかける事を厭わない程の力なんだよ。海さん。でも例えば、銀行に金があるからと皆、強盗になるかい? 答えは否。それに俺、腐っても警察だよ? 守るモノの価値くらいは計算できるって事」
「あ、う、それならそれとわかり易く言えよっ! 勘違いしちまっただろうがっ」
軽い蹴りと正拳を俺に放つ海さん。そんな照れを隠す仕草の海さんの様子に俺は微笑んでしまう。
そう、悪人の涎を誘う彼女の力の尊さは、ふんわりとその場にいる者を包んで、守らせたいと思わせる仕組みも作らせるようだ。それに感応するのは損得だけで動かない心の強き者だけ。賀川や小父貴、母もそんな感じで彼女を大切にしていた。海さんもその一人だと言う事に、俺は笑いを浮かべたのだ。
そんな俺を見ながら、巫女は一瞬きょとんとしてから、
「子馬さんはそんな勘違いしてしまう優しい海さんが大好きで。海さんはそんな子馬さんにいつの間にか引き込まれてしまったって事ですね?」
ぽんっと両手を合わせて、にっこりと巫女が笑うので、俺達二人は顔を見合わせて赤面しているお互いを確認する事になった。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん ホテル<ブルー・スカイ>
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




