デート終!です(海さんと子馬)
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海さんとお話し中。
幸せ。
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今日、昼に美術館に行って食事して。海さんと、海に夕日が沈むのを見ながらうろなに戻った。
いい匂いがしたので、二人で駅の立ち食いうどんを食べる。それが凄く美味しくて驚く。
「あ、子馬、おかわりは後三杯までだかんね?」
お金は海さん持ちだから、釘を刺される。『凄く食べられるけど、食べなきゃ食べないで三か月は大丈夫』って言ったら、『嘘だよなーぁ?』って笑われた。
帰る前にたくさんお土産買ったから俺の財布は軽い。それより嬉しいのは海さんの笑顔だったから俺の心も軽い。
「それにしても行き当たりばったりってーのも、子馬と一緒ならおもしろいなぁ~」
「又、一緒に行けるといいね」
「はぁ~? 今まで行かないって選択肢があったっけ? どうせ引っ張って行くんだろぉ」
「ん、そうだね」
美味しい湯気の中で、彼女に笑いかけると、少し呆れたようにしながら髪を揺らした。
お昼に食べそこねたうどんや、その代わりに選んで食べたお好み焼きの話に触れながら、麺を掻き込み、お土産と駅に預けていた荷物片手に、海さんの家であるホテルに向かう。
ちゃらり……
輝く、銀色の鍵……
「いいのかな?」
「ゆっくりして行きなよ、子馬」
鍵を渡され、手を振りながら帰っていくその後ろ姿を見送り、あてがわれた部屋に入る。
夏は混み合ってるだろう海辺のホテルも、普通は閑散期で空いているだろう。でも今日はクリスマスイブだからどうかと思ったけど、本当に大丈夫だったようだ。
部屋に入ると寛ぐより先にネットを繋ぎ、特殊なセキュリティを構築してから、メールをチェックして、『土御門』へ連絡を入れる。宵乃宮の動きはないし、他の案件庇護対象者にも大きな変化はない。何人かの処遇で指示を出し、すべての情報を処理していく。
そこに滑り込む一通のメール。
「時子さんから、か」
宵乃宮の白巫女ユキを狙う宵乃宮に関する情報だった。俺は眉を寄せる。
「……『黒雪姫』」
巫女が一度、うろなの病院に入院する事があった。その時に彼女から検査用に採取された血液の一部が、病院が検査を委託している機関から盗まれていたらしい。それを使って何やら怪しげな実験の元に『黒雪姫』と呼ばれる何かが作られたと言う情報だった。
その情報をもたらした密偵と連絡がつかなくなったのを読み、陰鬱な気分になる。
密偵の所在を掴んだ場合は速やかに保護、その家族へのケアや配慮、また敵の接触がないように指示を飛ばす。また続報を得られるように慎重に人員を配置し、その後に教科書をひろげる。
俺は高校まで出してもらった。だが大卒が取りたければ通信でしか行けない。同い年の同じ一族の子はその限りではないけれど。『当主』として動けるのは何年かわからない。それまでに地盤を固めなければならないから。
公暗は時間の融通は利きやすいが、生温くはない仕事だから、スケジュールは厳しい。聞き込みと言う段ボール生活中は周りに溶け込むため、スクーリングの聞き流しはしているがメモなどは取れない。
カプセルに籠るのは教科書をひろげる為。速読を身につけてはいるが、読むのと記憶とを結ぶのはまた別の話だ。漫画喫茶は休憩したくなるから使っていない。
海さんに会いたい、だから出来るだけこれからは自由時間が欲しいから急いで出来るだけを読んで、記憶と理解に励む。広くてのびのびとした場所の方が効率は良い気がする。夏は無理だろうけれど、繁茂期を外して本当にココに居る間は週一で泊まる事を検討する。
何かの『偶然』に海さんに会えるだろうしね。
一段落した所で、風呂でお湯をたっぷりと浴び、寛ごうと足をのばす。
それにしても良い部屋だ。
品のある壁紙。
ダブルのベッド。
今日はクリスマスイブ。
今晩、幸せに結ばれるはずだった誰かの場所に居ると思うとちょっと複雑だけど、海さんが用意してくれたのだと思うと素直に嬉しい。
落ち着いた照明は床の絨毯に描かれた淡い模様を引き立てる。白いカーテンの向こうは今は暗くて見えないが、うろなの青い海が広がっていて朝には良い景色が見えるだろう。
ピンポーン
チャイムの鳴る音が響く。
「えっと、誰かな?」
来てくれたのは海さんだった。
手には浜辺で渡したプレゼント。
赤のダブルウォールグラスがあって、突き返されるのかと思って慌てた。
「お礼って言われたけど、コレって記念なんだろ? だったら、あたしだけっておかしいじゃん。だから、こっちはアンタの分な」
入っていたグラスは二つ。
対のグラスは青だった。男は青、女は赤って言うのは完全なジェンダーだけど。
差し出された赤のグラスは、俺と海さんのを交換したような感じで、それだけでとてもうれしかった。
「ね、海さん。折角だからちょっと飲んでいかない? 良い銘柄ばっかりだし、一人で飲むのもなんだしさ」
渡して帰ろうとする海さんがごちゃごちゃ言ってるのを無視して、部屋に招き入れる。
そして……
邪魔されぬようにそっと、チェーンをかけた。外からはもともと合鍵がなければ開かないものだし、俺の大きな靴を置いて、とりあえず簡単には開かない様にしてみたりして……
「って、これあたし持ちじゃん!?」
部屋に入って備え付けの冷蔵庫からお酒を出して、ハッとしたように海さんが叫ぶ。
海さんは青いグラスを持って来ていないので、俺にと戻してくれた赤のグラスにお酒を入れる。
「はは、気付いた? その分、今度お返しはさせてもらうよ。警察の給金の方ならまともな金があるから」
「いつもは日雇いで、食うや食わずの生活?」
「俺は若いし、力が半端ないから仕事にあぶれないけど。年寄りや体を壊したものには厳しいね」
机に広げた教科書をしまう。パソコンは鍵をかけて電源を落として。
「何? 勉強してたんだ?」
「前に言ったっけ? 通信の大学の、だよ。現役と同じには卒業見込み」
「ふえっ~頭は良いんだ?」
「良くはないよ。さあ、どうぞ。もう少し、氷入れてみようか?」
二人でちびちびやりながら、他愛ない話をする。
今日の美術館の話や、家族の話。
好みのお酒の話に、うろなには天狗が居るとか、こないだのとは別の機械仕掛けの人形も居るとか。
狐の事だったり、駄菓子屋のお婆ちゃんの事だったり、美味しいお店の話や思いつくままに諸々を口にする。
「うろなは楽しそうだね」
ふっと笑うと、外を見る。暗い窓に俺の巨体が映ってる。側には少女のような笑みを浮かべている女性。
「何だよ、急にどうした?」
「釣り合わないな、っと思ってさ。『美女と野獣』って感じ」
酒には酔わない、けどこの空気に酔いそうだ。海さん、やっぱりお酒は強いそうだ。けど、結構飲んで肌を染めた可愛らしい意中の女性が目に前に居て。二人っきりで。理性が吹き飛ばない人間が居たら見てみたい。
そんな俺の気持ちも知らずに、海さんはケタケタと、面白そうに笑う。
「美女ぉ〜? どこにいんのさ? 居るなら『じゃじゃ馬とでっかい子馬』じゃね?」
「海さんはじゃじゃ馬じゃないよ? 駿馬だよ。真っ黒な駿馬。足早いし」
そうかな? などと言いながらグラスにアルコールを入れる。俺の氷は無くなってしまっていたけれど、薄赤い彼女の使っているグラスの氷はまだ溶け残っていて、その効果が窺えた。
「子馬は積極的なのに、何で急に自虐的になるかなぁ?」
何でだろう? そう返そうとした時、海さんがテーブルに手を付いて、俺の側に顔を寄せた。
なに。
なに?
「何かな?」
何とか言葉を口にする。
ゆっくりな動きだったし、避けられない事はなかったのに、全く動けないまま彼女の唇が、俺の頬に触れていた。
ちゅっ、って。
きす?
だよ?
何で、してくれたのか……
悪戯?
わからないまま海さんの言葉が耳に転がる。
「そんな子馬は嫌いじゃね〜よ」
戯れのつもりなのだろうか、やっぱりわからない。俺は今まで自分が前のめりで話していた事に気付き、ソファーにどさりと体を預け、それ以上の言葉は紡げぬまま、身を引いた。
「そ、そんな驚く事かぁ? ……子馬、すっげぇ顔赤い」
「海さん……」
積極的に頑張っているのは初めてなんだ、それほどに彼女に魅かれたから、精一杯やってるだけ。でもキス一つで驚くぐらいボロが出る。そんな俺に海さんは笑うんだ。
「意外に可愛い反応だったよ、子馬。ま、強いだけじゃなくって弱い部分も無きゃ面白くねーから、良いと思うけど〜弱い事を知ってるからこそ、強くもなれるってモンだし」
何故にこのタイミングで……嫌いじゃないなら……いいの? かな……
もう、俺は考えられないほどのスピードで。でも出来うる限り優しく背もたれのない椅子に座っていた海さんを、その背後になっていたベッドに押し倒し、口を奪った。
ロックで飲んでいたせいか冷たく感じるその唇の柔らかさが夢のようで、そのまま重ねていたかったけど、かすかに残る理性でそこから先を押し留める。ギシっとベッドが軋む。
「んんん……な、何、なに、子馬……」
「俺は。海さんが好きだ。だから」
「おおおおお前、とーとつだって。まだ会って何回目だよ?」
「忘れた」
「はぁ?」
「知り合ってからずっと海さんの事考えてるから、忘れた。何でかなんて聞かないで。君しか見えないだけ」
俺はこんな時になって、『刀守』の血を自覚する。賀川の様に巫女を見出したわけではなくても、『刀森』は生涯を共にする者を見付ける能力には長けている。
俺にとってそれが彼女だと感じたし、そうでなくても俺には海さんしか見えなかった。
だけども。間を置いて、少しだけ手を緩ませる。
「でも。もし少しでも。俺と『この先』に進むのは、ただ『流されただけ』と言う気持ちがあるのなら。この部屋から出てってくれる? 明日ココを出たらもう二度と……来ないから」
もしここで別れたとしても、俺には君が最高の女となるだろうけど。
海さんは俺の拘束からするりと手を解いた。その手がスナップを利かせたかと思ったら、俺の頬を両手で挟んで叩いた。結構痛い。それほど嫌だったかと思うと泣きそうだ。
「このままあたしが消えたら、もう諦めるんだ? アンタ、その程度なんだ?」
「…………諦めないし、忘れない。けど距離は必要かと思う。君は悪戯だから。理性が吹き飛びそうなのを堪える俺の身にもなってくれよ」
「……堪えて切れてないし。もう、お前キスしたじゃん!」
「だ、だって、好きだから。奪いたい。…………ダメかな?」
「…………やっぱ前言撤回っ子馬、野獣決定!」
「うぅ……」
俺の顔に海さんは、にやっと笑う。
「でも良いと思うよ、子馬らしくて。顔、ちょっと怖いけど、笑うと憎めないし。私も、お前好きだしさ……」
「……友達として、ってのは、無しにしてくれる?」
「わかってる……ん……ぉま……」
俺はもう一度、さっきよりも深いキスをして、彼女の額の辺りから手を差し入れてその頭についた苺の飾りのピン留めを外しておく。刺さったら危ないから。そして鍛えていても、女性として柔らかいその体に唇で触れる。
「け、けど、ちょ、気が早い……子馬、シャワーくらい……」
「さっき……使ったけど、ここの風呂広いから、ソコでも良いけど。『初めて』は、風呂じゃなくて……ベッドが良いと思う、なぁ……」
「え……」
窓辺に朝日を感じる頃。
お互いの拘束を解く事もなく眠りに落ちる。
足りない睡眠だったけれど、満ち足りた気分で初めての……二人の朝を迎える事になった。
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現在不定期更新(自転車操業)
内容が朝だと…なので、夜に更新…
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん ホテル<ブルー・スカイ>
後……うろなの噂話をちらほら。
問題がありましたらお知らせください。




