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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月24日

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416/531

配送中です(賀川とユキ)

lllllll

何が起こった……

lllllll





「それは、どう言う事ですか?」

 頭を下げられ、俺はそう言うのが精一杯のまま当惑する。

 先週から仕事を詰めに詰めて恩を売りまくり、イブの夕方には仕事を終わらせ、意気揚々と帰る所だった。明日は、休める。明日は、……いや、今日もこの時間ならどこかに行けると考えた矢先。

「今日、配達してしまわないと、ほら、な?」

 目の前の大きなトラック、中身は満載状態、時刻は夕暮れ。

 今日はクリスマスイブ、届かなければ困る大人、明日起きて枕元に何もない子供はさぞかしがっかりするだろう。そう思えば溜息しか出なかった。何がどうなって起きた手違いか、聞く気にもなれない。

「わかりました。今日には届けなければいけない日付指定だけこちらに移動させて。やりますから」

「頼む、うろな一番。後、最後にこれ、頼めるか?」

「これは……」

「誤送されて来たんだ。お前以外、フリーが居ないんだ。頼む! 走ってくれ」

 渡されたのは明日の指定だが、今日うちにあれば間違いなく明日の配送には間に合わない荷物。手配違いしたのが明白で、今から頼まれた他の荷物を配った後に、軽で飛ばしても、この町に帰って来れるのは深夜か、早朝かもしれない。

 無茶だ、この会社、ブラックだ。

 この頃、自分の予定とは言え、ずっと働き詰めで、三日前くらいからほとんど寝てない。レディフィルドとの飲み会の後から夜勤に、日勤。鍛錬以外は家に戻ってない程。

 おかげでユキさんとの約束もしていないので、がっかりさせる事がないのだけが有難かった。

「届け終わったら直帰して、二十六日の夜勤まで絶対に働きませんからね?」

「ソコは何とかするから頼むな~」

 帰るつもりだったから頼んでいた食事を電話で断り、残った荷物の仕分けを終えると、必死に走る事となった。

 何でこんなにタイミングが悪いんだろうと今更ながらに思いながら。

 駅の近くで配達を済ませてトラックに戻ると子馬の姿を見た。たくさんの荷物を抱えているから乗せてやろうかと思ったが、隣に海さんの姿があった。二人は幸せそうにしていたので、声をかけずにそのまま見送る。そしてその後ろ姿を、それはもうジットリと見てやった。

「リア充……って感じだなぁ」

 それに比べて俺は何がしたいんだろう? ただ側にいたいだけ、それだけなのにうまく噛みあわない。

 商店街を抜け、品物を届ける途中、タカさんの姿を見た。誰か知らないが、ちいさい女の子を肩車していた。彼女はとても嬉しそうタカさんの頭にしがみついて。その幸せ様に声をかける隙間はなく。

 その後、冴姉さんが北の方にあるスーパーで魚沼先生の為に食材を買っている姿も見かけた。少し前まで、俺を傷つけては楽しそうに眺めながら強く支配しようとしていた影はもうない。どこから見ても普通の主婦にしか見えなかった。

 店の中から流れてくるクリスマスソングを聞きながら、荷物を届けて、トラックに乗り込む。

「こっちにおいで」

 自分の頭に、白い鳥が乗っているのを膝の上に乗せかえながら溜息を吐く。元気出せと言わんばかりにバッサバッサと羽ばたくドリーシャをやわりと撫でて。

「行こうか、明日の休みの為に」

 誰かが誰かを想い、贈った荷物と共にその気持ちが間違いなく届くように。素早く配送ルートを再確認し、小雪の舞う中、トラックを出した。






 俺の知らない所で、ユキさんは暗くなりゆく、うろな町の曇り空を眺めていた。ゆるりと落ちる雪を見ながら、そっと膝を付き、指を組む。

「水羽さん……お願い、起きて。話がしたいのです」

 それは心に問いかける様に。彼女への返事を聞けるとすれば、神父や子馬の様なそう言う特殊な人だけであった。脳裏に響いた返事はとても間延びした緩い口調。

『なぁにぃ~……巫女……』

「あ、水羽さん! あのですね」

『う~ん……わたしたちは巫女をとめられないの、いろんなじょげんをするけどもね。さいしゅうてきにえらぶのは、巫女であり、人の意志』

「……はい、わかりますけど」

 誰もいない部屋、彼女の頭に中だけで響く声に、もっとゆっくりと言葉を返す。

「本当は……わかりたくはないですが。お母さんの服に触っていると色々見えました。宵乃宮さんって、何で篠生さんと同じ顔なんですか?」

『うーんとねぇ。かぐつち……兄さんだった刀をとりこんじゃったから。しんわせいのテンから、そうなってるだけ。もとは可愛い小さな子……っていうか、人間にちいさいコロがないなんて、ないんだけどもぉ』

 ユキさんは普通では見えない『何か』を目視し始めていた。

 普通の人間には見えない過去や未来。

 現在、そこからでは見えるはずのない遠く。

 いや、今までだって彼女は不思議なものが見えてはいたのだが。これまで以上に『何か』を敏感に感じる様になって、それが特別な事ではなく、ごく自然に情報として彼女に降り積もる。

『ねぇ、巫女。空はなにいろ?』

「今は……赤、です。真っ赤な私の目みたいなのです」

 彼女の見上げる空。

 そこにあるのは常人には闇色に近い薄灰青に見える、暗い曇り空しか広がっていないのに。彼女にはそれが夕日で焼けた、いや、炎で焼いたかのような鮮烈な赤い空に見えていた。

「水羽さん、少しでもイイです……私に……戦う方法を……」

『やめておきなさいな、巫女』

 ぴしゃりと投げつけるような声が彼女の頭に響いて、体を震わせた。

「でも…………」

『こうげき出来ても、つかえないなら意味はないしぃ。あとからつかった事にも、ウジウジなやむでしょう。夏のときのように。逆につかわなかった事にも、ね。それにその手についた血はケガレとなって、わたしは貴女にちかよれなくなる』

「それでも……もし何かできるなら」

『……じゃぁ』

 ひらり……その部屋には隙間もないというのに、ユキさんの目の前には大きな黒い蝶が舞う。

『その子を殺して見せてちょうだい』

 間延びしていた水羽かみの言葉が凛として、意思の弱い者ならば卒倒するか、勢いだけで命令を聞いてしまう、強制力を帯びた声に変わっていた。

 ただユキさんはそれに動じた様子はなかったが、

「あの……」

『さぁ巫女。覚悟を見せて』

 唾を飲んだユキさんは手を伸ばそうとして、引っ込める。

「……虫は、好きではないのです。あんまり触りたくないのですが」

 その返事にクスクスと笑う声が彼女の頭に響き渡る。

『ふれられたら、できるの?』

 ユキさんは真っ白な髪を揺らして、目を伏せる。

「無闇に殺していいとは思わないのです」

『せいかーい。それで、いいのよ~だから知らなくてイイのぉ』

 ユキさんは疲れを感じてズルズルとよじのぼって、ベッドに横になった。その様子に笑い声が響く。

『こないだ教えたずけい、おぼえてる?』

「ベル姉様がいた頃の、ですか? 『いのりの水鎖錠』って言ってましたよ、ねぇ」

『そうそう~あれはやくにたつかもぉ~歌は……むやみにうたわないようにね?』

「うた、うたったコト……ない……眠い、です……」

 ユキさんは深く息を付いて、ゆっくりと吐くとそのまま眠りに落ちてしまう。

 そして、……程なくして、ぱちり、目を開く。

「ねちゃったぁ~? じゃ、わたしが、ようこのごはん~たべてくるねぇ~でもまたおおきくなるかなぁ? 胸。いそうろうしかよろこばないのにムダねぇ~」

 軽い足取りで部屋を出ていくユキさん。この日は食堂でいつにないほど食事を口に運ぶ彼女の姿が見られたそうだ。


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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん ドリーシャ


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

ベル姉様お名前


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お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

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