デート中!です2(海さんと子馬)
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海さんとお話し中。
幸せ。
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俺は海さんを覗くように見た。
「海さんの手料理が食べたいなぁ」
「はぁ!? なんだよいきなり」
いきなりでもないけど、驚く感じの海さんが良くって。だから自然に笑ってしまう。
「好きな子の手料理だよ? 食べたいって思うのは普通の事なんじゃないかな」
「まぁ、わかんなくもないけど。けどなんであたしが、こないだ知り合ったばっかの子馬に、わざわざ作ってやんなきゃなんないんだよ?」
「作ってくれないの?」
がっくりする。こないだ知り合ったばかりって言われたら返す言葉がないよ。
こないだ賀川が使っていた『保護ほごーん』と言う変わった名のキッドに入った、緊急用の食料が海さんが作ったスープとリゾットを詰めた物だったと聞いた。
かくなる上は心臓でも止めるか、海で溺れてみれば持って来てくれるかもと思うけど。心臓も弱くないし、俺の肺活量は半端じゃないから溺れるのはとても難しい。
そう言ってぼそぼそ計画を呟いていると、
「だからっ! ーーあぁもうっ。そんなにゆーなら、夏にARIKAくりゃいーじゃんか!」
「そうだったね」
って事は、来年の夏は来ていいのかな?
でもね、お金を払って作ってもらうのは、誰にでも作るものだ。それはね、俺の望んでるのとは違うんだけれど。その辺はわかってくれていないよね?
でも食べに来ちゃ駄目ってわけじゃないのが嬉しいから、今の所いいか。
「夏にお店開いてたんだった。……あぁ、そういえば青いシャツが似合ってたよね? シンプルな半袖の。襟元に四葉のマークが入った…」
「え? あれ夏服? どうして知ってるのさ。子馬と会ったのはこないだなのに…」
俺はこんな可愛いのを貰ったんだよって言って、写真を見せる。
「なななっ!? なんで子馬(お前)っあたしの写真なんか持ってんだよっ!? 返せえぇっ!!」
赤面しつつ言い放つ海さんが可愛い。俺の手から強奪して走り去る後ろ姿に『ばっかやろおおぉ――っ!!』と捨て台詞が木霊する。
まだ写真はあるからそれに固執はしないけど、それは賀川からもらった中でも一番かわいかったのに。
俺はとんとん、っとその場で飛んで、足首を慣らしてから、走り出す。
「そんな海さんが好きだよ~?」
逃げる海さん、追いかける俺。
新手の鬼ごっこかな?
「でも不審者って思われたくないんだけど」
「げ、追いついてきやがったっ!? 子馬! これでも食らいやがれっ」
その辺にあった木切れを足で勢い良くはね上げて、受け止めると槍の様に投げてくる。うん、手加減なし。これ尖ってるよ? 刺さったら死ねるよ? 海さんの手料理を食べるまでは死ぬのは嫌なので、怪我をしない様に掴んで捨てておく。
「返してよ、一番かわいいのだから」
「一番! って事は他にも?」
「他の写真は貸金庫」
「ど、どこに入れてんの?!」
鋭い蹴り、当たると痛いけど、距離が近くていいかもしれない。
結構重いパンチだよ? でも、これが愛情の重さならもっと重くていい。
「写真が曲がるから返してくれない?」
「誰がやるかっ! てか、お前こそ返せっ! それに一体、誰からもらったってんだよぅ!」
「それはね、企業秘密」
連打をまともに受けながら、隙を狙って身長差で写真を抜き取ろうとする。だが海さんの方が後ろに飛び下がり、俺との距離を取る。
「子馬、動いたら写真破くからな?」
「う……卑怯な」
「コレ、どーやって手に入れたか話してくれたら、返してやっても良ーけどなぁ〜♪」
俺は構えを解いた。様子を窺う様なその悪戯な眼差しが好きだな。今まで会った誰よりもお転婆で可愛いと思うんだよ。
「じゃあ聞くけど。俺が脅しに屈するような男だと思ってる? そんで、そんな男が良いんだ? 海さん。俺は悲しいよ」
「そ、そう言う問題? その前にお前の事良いってわ……あ!」
怯んだ隙に背後を取って、写真を取り上げる。だが瞬間に海さんの肘が脇腹にまともに決まる。傷みに耐えながら、その手を取っての投げ技だけは何とか避けて、写真はズボンのポケットの奥に押し込んだ。
「これ取ろうって言うのは、かなり引っ付かないと無理だと思うな。それに手を突っ込むと……」
「おまっ、きったねぇ〜」
「俺は引っ付いてもらって歓迎だけど?」
脇腹痛い。けど、写真は奪還したぞ。
「ねぇ、駅前ですっごく美味しそうな焼き菓子売ってたんだよ。帰りお土産に買って行かない?」
「買収?! 問題をすり替えてんじゃねーよっ」
「そんなに怒る事ないよね?」
「ぷ、プライバシーの侵害だ! 警察だからって、ストーカーだって訴えられたら困んのそっちだろ?」
「俺なんか切り捨てられるだけだって」
脇腹を押さえて、砂浜に寝転がる。もう冬の空が広がっている。海鳥が一鳴きして空を滑空していく。あんなに身軽だったら、どこでも行けるのに。俺は重いしどこにも行けない。
「そして路頭に迷ったら、海さん飼ってくれる?」
「飼うぅ!? なんでだよ。子馬燃費悪そうだしぃ」
「確かに……」
海さんは俺の側に座ると、近くに落ちていた石を拾って、俺の額に三つ程積んだ。
「あんた、自分に自信ないの? こんなにデッカイ図体してんのに。あんたが考えてる以上に、なんでも出来るモンなのにな〜。ただきっと子馬だと『石の上にも三年』じゃなくって、こうやって石の下で、人を支えて行く方なんだろうけど」
俺はがばっと起き上がると、額の石が吹っ飛んでいく。
「何だってできる?」
「う? あ、ああ。やろうと思えば何だってできるさ」
石の下になって父が死んだ事を彼女は知らない。
俺も誰かの石の下になるのが定めであっても。母が父のソレを忘れないように、俺のソレを知っている人がココに居るならそれでいい。ずっと一緒に居れるかなんてわからないけど、今日のこの瞬間がとりあえず明日の光となる。
俺が笑うと、海さんが笑う。
「家族分だから相当買うけど、子馬、覚悟は良ーんだな?」
「財布にあるだけなら買っていいよ。電車代は海さん持ちで」
「今日はどこで寝るんだよ? 日雇いだろ?」
「段ボールかな?」
海さんが『しっかたねーなぁ』、そう言って砂を払ってにやりと笑う。少し黄味がかった太陽光が、海に反射して眩しい。
「今日はうちのホテル泊まんなよ」
「でも今日ってクリスマスイブだから、予約で空いてないだろ?」
海さんは更に面白そうに笑って、
「ぜーったい、途中で喧嘩別れしたカップルのキャンセルが入ってるから~♪ 心配すんなって」
「何だか悪い気が……」
「喧嘩する奴らが悪いんだってぇ~の。いくら任務だっていっても、ずっと段ボールやカプセルじゃ、お前の体格じゃきついだろ? 上手く言って格安で空けてやるからさ、うろなに居る間は、週一くらいで泊まりに来たらぁ?」
「……家族内は良いけど、俺が警察って言うのは出来るだけ秘密にできるかなぁ?」
「もっちろん♪ 客の秘密は厳守だっての」
俺は笑って、先ほど座っていた位置に戻ると、置いていた荷物から箱を取り出し、
「じゃあ、俺からそのお礼と、今日の記念も込めて『コレ』あげる」
「なんだこれ?」
こういう流れで俺はこの日から、『ホテル〈ブルー・スカイ〉』をたまに借り宿にする事にした。何よりも宿泊連絡の為、彼女の電話番号とメアドをゲットできたのが収穫だったと思うな。
それから写真を公認で? 持てている事も。
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現在不定期更新(自転車操業)
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
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海さん ホテル<ブルー・スカイ>
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