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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月24日

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413/531

デート中!です1(海さんと子馬)

デートだよ、約束だよ。

どきどきだよ~

llllllllllll

 





 ねぇ、海さんと約束デートの日だよ。今日はクリスマスイブ。本当にドキドキするね、待ちあわせって。早く来過ぎて、大きいペットボトルが三本、お腹の中になくなっちゃったよ。

 トイレに行ってる間に海さんが来て、何か笑われた。

「い、行こうか」

 その笑顔が眩しくて、顔がまともに見れないまま手を引いて、電車に乗ってちょっと離れた町に来たんだ。美術館、うろな町にはないからね。

「やっぱりマイセンの白に青は綺麗だったし、料理が映えそうだったなぁ。うちの店向きじゃないけど」

「青の深さが、昔の皿の方がよかった気がするけど、好みの問題かな? 柿右衛門の赤も昔の方が好きだし」

 こういう美術館の図録って無駄に高い。良い紙に良い発色で刷るんだろうけれど。『和食器と洋食器の変遷』という、今見てきたお皿達が載った本を海さんに買って渡した。だって二人で眺められるなら安いから。こうやって肩を並べて静かにベンチで見てる時間は悪くない。

 今日はクリスマスイブ、初めてのデートには良すぎる日だ。暗くなる前には送らないとだろうけれど。

「だねぇ。フグ刺し乗せんならこの色皿。それに、この大皿凄かったぁ〜アレに盛り付けたら楽しいだろうなぁ」

「色鍋島か。この蟹牡丹のお皿は可愛いよ。ああ、イメージ写真の部屋、皿との組み合わせは趣があって良いね。そうそう、綿の一畳敷きなんだよ、古緞通って。ここにお皿と同じ模様がある。回りの縁がお皿みたいになってる」

「本当だ。これ料理は載せにくそうだけど」

「そうかも。しかし洋食器に与えた日本の影響は少なくないんだね。あ、この花柄はかわいいな。ウェッジウッドか」

「ワイルド ストロベリーぃ? 子馬ぁ~意外と少女趣味ィ?」

「う……」

 可愛いものは可愛いのだから仕方ない。

「だいたい、普段何やってるんだよ、子馬は」

「情報収集の為に日雇い、浮浪者と段ボールで寝てるよ。お風呂には入ってるし洗濯できてるから汚くはないよ? あ、たまにカプセルだね」

「入るのかよぉ~」

「それ、君の妹の汐ちゃんにも言われたよ。彼女は栗色だけど、海さんの髪、黒だね」

 少し癖のあるその髪に触れる。見た目より柔らかくて、とても良い匂いがする。黒の髪に付けられたピン留めが今話していた皿の柄と似ていた。それで気になったのかもしれない。

 服、今日のデートの為に選んだり、髪留め付けたりしてくれたのかなって考えると嬉しい。それは俺の為?、って感じがして。デートの約束って大切なんだね。

「汐はオトン似。他は皆オカン似なんだ」

 海さんはそう言いながらそっとページを閉じた。

「二重のグラスの四角の形もおもしろかったし、氷がなかなか溶けないってどのくらいかなぁ。夏の店で使ったら氷の解けが変わるかな」

「研究熱心だね」

 お皿だけではなく、スプーンやフォーク、グラス類も展示されていて見応えはあった。最後に食器の販売コーナーもあったけれど、それなりに高かった。でも買えない値段じゃないのもチラチラ見つけた。

 朝の早い時間に入ったのに、もうお昼は充分に過ぎている。

「どこかでお昼にしようか?」

子馬(あんた)、アテがある?」

「ないよ? 初めて来た所だから」

「えー? 準備悪っ。そんなだからモテねーんだよっ」

「そんな準備するもの?」

「だってデートなんだろぉ、これ」

 そう言いながら不満そうに図録をトートバックにしまう彼女を立ち上がって見守りながら、

「でも海さん。そんな決まったコースで良いの?」

「えー、だってさ」

「俺は知らない場所をワイワイ言いながら歩く方が好きだけど。そりゃあ美術館が休みじゃないかと、交通経路ぐらいは確認したさ。でも後はだいたい勘でいいんじゃない?」

 デートで男の子はソツなく、だったっけ? だから簡単な事は調べておいたんだけど。

「それで不味い店に当たると損した気がするし」

「不味けりゃマズイで、一生覚えてると思うんだよ。それって楽しくないかな?」

 海さんは腕を組んで、唸っている。俺は待ちきれなくなって、ぐいっとその手を引く。

「子馬! お前また……」

「考えてるより歩こう。そうしていたって腹はふくれない」

 海さんがそう言う問題かと聞いたので、頷き返しておく。

「そうそう。さっきトイレのついでに、売店のお姉さんにいつも行く美味しい所がないかって聞いたら、幾つか教えてくれたよ。定食屋は和食膳、洋食ならオムライスとカレーがメインの店があるって。麺ならスパゲティとラーメン。足をのばせばうどんもあるって」

「き、聞き込み?」

「それの延長かな」

 この後、手打ちうどんが美味しいと聞いたお店まで行ったが、近くでもっともっと良い匂いを嗅いで。海さんを見るとやっぱりそれを感じているようで、二人で頷き合ってうどん屋スルー。その筋違いにあったお好み焼き屋に入る。ソースとマヨネーズが手作りで、目の前で焼かれたお好み焼きは絶妙な焼き加減だった。

「これは……美味い」

 デラックス三枚じゃ腹はいっぱいにならなかったけど、海さんと食事だから胸いっぱいで丁度いい。海さんは無言で、でも目を輝かせて食べていたから美味しかったのだと思う。

「子馬、ソース顔についてる」

「ん? どこ?」

 店を出てから海さんにそう言われて。出がけにちゃんと確認したはずなのになと、思いながら顔を拭っていると、

「嘘だってぇの〜。案外、子供っぽいのに引っかかるクチ?」

「う、うーん、どうかな? 肩叩かれて振り返ったら、指がささるやつは同僚によくやられる。仕事中と普段の差が激しいとは言われるけど」

「あはははっ。そんなデカイ図体してんのに。やっぱオヤジさんがデカかった? 葉子さん大きくないし」

「俺は親父似だって、皆に言われる。あんまり覚えてないけど」

「ふーん、そっかぁ。それでも、覚えてる事もあんだろ?」

 目元くらい母さんと似ていると良いけれどと何度も思った事がある。

 昔、何度も言われた台詞を思い出す。『見た目だけでもあの『刀森』の血なんか濃く引かなくてよかった。能力は低いし、その上あっちに似てたら『土御門』で飼ってなんかやらず、追い出してる所だ。全くあんな女につくから和馬は死んだんだ』……誰が好んでココに居るか叫びたかったが、粗相をすればすべて母のせい、父の悪口のオンパレードだった。母に似ていれば家に返してくれるのか、そう思ったけれど実際俺と母は余り似ていなかった。

 父は生前『決して憎しみで力を使わない事。優しさを忘れない事』を繰り返し俺に解いていた。たまに会える母との時間と、その言葉だけを支えに生きているうちに、いつの間にか『当主』を任せられる事になっていて。

 強制的なこの制度は俺の代で改正したいと時期を狙っている段階だ。虐げられている時は、今こんな事をやってるなんて思わなかったから、人生は良くわからない。

「そーだなぁ。小さい頃、友達に待っていてと言われて、そのまま待っていたら、真っ暗になって、父さんと小父貴が探してくれてたとか。懐かしいな。父さんが居なくなってからは、土御門では六角が、戻った時はタカの小父貴が父だったよ。そう言えば父さんは、俺の『たかい』の漢字は、小父貴の『たか』からって言ったっけ。寒くない?」

「ああ、大丈夫」

 食事をしたお店で、海が綺麗に見える場所を聞いたので、そこに行って二人で座る。自販機で買った缶コーヒーをお互い手にしながら、海さんも居なくなっている父親の話をしてくれて。

 食事を作るようになった経緯を聞かせてくれたんだ。



llllllllllllllll

現在不定期更新(自転車操業)

llllllllllllllll


キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん 


問題がありましたらお知らせください。


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