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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
7月13日

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晩酌中です


ああ、他の所では女の子ばかりで「がーるずとおく」なのに。



 







「おお、久しぶりだな、『後剣(あとけん)』」

 いつもは外で飲む事などないんだが、こいつと飲む時は商店街の小料理屋『しば』と決まっている。うちのおやじとこいつのオヤジが飲む時に必ず使っていた店だ。

 ガキの頃にゃ、酒なんて飲んでもクソ面白くもないだろうと思っていたが、年を重ねるに連れて『後剣』とたまに飲める日が楽しみになっていった。

 基本はこの二人だが、たまにこれに他の仲間も加わる感じとなる。

「いらっしゃい、ケンさん」

 女将がにこやかに挨拶する。殆ど引退しているが、大女将に似た彼女の笑顔がこの店の看板だ。特に別嬪でないが、柔らかで安らぎを与える笑顔。それでいて酔っぱらいの戯言は軽くあしらって、時に客同士の喧嘩の時には仲裁に入り、収めてしまう。

 息子が掴まえてきた若女将もそう言う所の器量が良いから、この店は俺達が元気な限り、俺らは客であるだろう。

「お、『投げ槍』はいつもの飲んでるのか? 俺もこいつのキープから一杯くれ、その代わりに今日のお勧めの刺身を二人前。いつものモツ煮込みはあるか?」

「ええ、良い加減でケンさんを待ってますよ」

「じゃ、それ、こいつにも」


 こいつは後藤剣蔵、ごとうけんぞう。

 奴のオヤジは『後藤建設』の、オレの親父は『うろな工務店』の社長だった。似たような職業柄のよしみで、小学校は北と南で別れていたが、ガキの頃からの知り合いだ。

 中学は統合されるうろなの形式は今と一緒だった。

 うろな中学、頭脳の『魚々(ぎょぎょ)』、情報采配の『飛蝗(ばった)』、喧嘩の魁は俺『投槍(なげやり)』、殿として背中を任せられるのがこの『後剣(あとけん)』。

 見張りと切り札の、『御馬(おんま)』達、他にも後数人。

 今みたいに整備なんかされていなかったが、中央公園になっているあの辺りの原っぱや川辺で駆けずり回って遊んだり、どこかで手に入れた本を回し読みしたり、親にはちょいと話せないような遊びや喧嘩に興じたもんだ。

 もう『おんま』が欠けて、全員が揃う事はないが、いろんなバカばっかりやった仲だ。



 チビリチビリやりながら話をする。思い思いに杯を空けながら、昔話や、たわいない世間話をする。そして結局の所は、仕事関係の話に水が傾く。

「そう言えば、会議所の入札は落ちたのか? 投げ槍」

「まあな、裏々は談合だがな。そう言えば隣町で転落事故があったろう?」

「ああ、綱ぁ着けてなかったらしいな」

「えっとだな、まにゅふぇすと?」

「マニュフェストの方が難しいだろうが…………それを言うならマニュアルだ、投げ槍。」

「それだ! で、マニュ何とかで付けなくても良い場所だったらしい。繋ぎの板に30センチばかりの隙間があって、そこから、ストン、だとよ」

「他人ごとじゃねぇな」

「……おんまが逝ってなきゃ、ココに居るのはオレじゃねぇ」

「まだ、気にしてるのか。あいつはお前を恨んだりするような奴じゃない。そろそろお前と葉子さんとはどうなんだ?」

 オレは思わず口の中で楽しんでいた熱い燗酒を飲み込んで、噎せ返った。



「吹かすな! 友人の妻だ、色目なんて使わねぇよ」

「はは、そう言う事にしといてやるよ。投げ槍。でも葉子さんは……」

「それ以上言うと、おんまと葉子さんに失礼だろうがよ。ぶっ飛ばすぞ、コラ」

「ははは、ま、いいさ。それよりお前、まだ房ちゃんの事……」

 オレが言葉に詰まる。

 房子、か。

 もう何年経ってるのかわからねえってのにな、あいつの顔は俺の記憶から消えたままだ。

「いいんだよ、あいつのこたぁよ。おっ死んで天国に行ったらちょっくら拝んで謝れば、そのくらいの事って、どうせあいつは笑うんだからよ」

 開いた杯に注がれた酒を飲み干し、話の流れを変える。



「それより来週突発で大きい現場が入りそうなんだが、その時は応援を頼めねぇか? 後剣」

「んーー? 新しく雇えばいいじゃないかよ。増やせ増やせ。不景気なんだから回りが喜ぶぞ」

「いや、単発過ぎて新しい奴雇って維持していく程じゃねーし。でもその数日だけ、頭数が欲しい」

「ふーん、投げ槍、頭数よりうちの精鋭を使ってみるか?」

 キラッと後剣が瞳を輝かせた。

「そいつ一人で十人分は働くぞ」

「そりゃ、盛ったな」

「盛ったと言うなら、使ってから言いやがれ、投げ槍。あの、おんまにも負けんぞ。同じ様な系統らしい」

「同じだ? ほーう、じゃあ、その時は声かけるから、頼んだ」

 俺は後から知る事になるが、後剣の台詞は本物だった。

 寡黙な男、伏見弥彦。その付き添いで来た妹の葵。

 この男の体格と言い、目つきと言い、腕っぷしと言い、俺好みだった。おんまに匹敵、いやそれを超えるほどの馬力を誇っていた。あれでおんまぐらい、他人を使う能力があれば、俺ん所なら、班長、そして行く行くは暖簾分けとなるだろう。が、その器量だけは妹に持って行かれていると見た。

 それにしても良い人材を手に入れたもんだと、後剣が羨ましかったほどだ。



「それにしても、お前んとこは、人が足りないって言う割に幽霊やら運送の兄ちゃんを家に入れてるらしいな」

「ん?」

「白い女の幽霊がお前のうちを出入りしてるって噂が立ってるぞ」

 ああ、それはユキだとすぐわかる。普通なら挨拶回りに娘だと言い回る必要はないが、あの容姿だ。一度、近所や取引先を連れまわした方が良いかもしれない。

「俺の新しい娘、ユキだ。ちょっと容姿が変わっているがな。まあ。刀流の隠し子だ、な」

「え、刀流が?!」

 細かく説明するのも面倒で、そう言うと、後剣は驚いた顔でモツを突きまわし、口に運ぶ。

 ココのモツ煮込みは臭みがなく、良く炊き込まれている。暖かくても冷えても絶品のソレを俺も酒と共に飲み下しながら、

「運送屋は賀川の、だな。ユキの護衛みたいなもんだ」

「もう男付か。その、賀川って奴は何処に住んでいるか知っているか?」

「しらねぇな」



 賀川、本当の名前はなんちゃら言うらしいが、興味がない。

 一度本気で殴りつけようとしたら、全く避けねえ。

 自分の事を『鈍い』のかと言ったが、鈍いで避けれない奴が拳に気付いたのに、声を上擦らせるわけでもなく、顔色変えずにそんな返事をするもんか。

 あいつは…………何かしらに特化してやがる。組の出だとユキに関わらせたくないが、そこに奴の情報はなかった。バッタが調べているので、じきに情報が入るだろう。



「俺の雇ってる奴が、賀川運送の兄ちゃんの部屋の隣らしいんだが」

「ほう?」

「犬でも飼い始めたのか、数日前から唸り声がするんだと。だが扉叩いても反応はないそうだ」

「あいつは犬のような奴だが、な。犬を飼う様な奴じゃないと思ったが」

 俺は腕を組んだ。

「社宅として借り上げてる部屋だから、俺から言うつもりだったんだが、よしみがあるなら、投げ槍から言ってくれねぇか」

「……どこだ、そこ?」

「おう? 南の港近く、俺らの現場、あの辺と目鼻の先だ」

「もしかして後剣、バッタの店から借りてるか?」

「ああ、家賃を安くしてもらえるからな」

「なら、ちぃっとバッタを呼んで、今から散歩にでも洒落込むか。付き合えよ、後剣」

 俺達は残りの酒を喉に流し込むと、バッタを電話で呼び出した。




綺羅ケンイチ様 『うろなの雪の里』より、『後藤建設』の社長である後藤剣蔵さんを、『後剣』として仲間に加入?してもらいました。

タカが背中を任せられるって思っている人、で。

しかしどんな悪さをしてたんだ、このオヤジ達は。

尚、仲間以外にはタカ同様、ケンさん、ケンのおやっさんと呼ばれている感じです。


またうろなの雪の里の十六話にリンクするよう、伏見弥彦&葵、兄妹様の話を出させていただきました。

不都合ありましたら、お知らせください。


では、もう少し後剣様をお借りいたします。

他に加入希望の方は居ませんか? 笑



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