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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月17日

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挨拶中です(子馬)

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デートの翌日。

あいさつ回り~

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「こんにちわー小父貴~いますか? 土御か……」

 昨日は海さんとモールで楽しんだ俺は、二十四日のデートを取り付け、小雪の舞い散る中でも上機嫌だった。そうして訪れた家の前で、最後まで言い終わらぬ内に、声が飛ぶ。

「おうおう、手伝いに来てくれた者じゃな! こっちに来て書いた物をそこに下げてくれんか!」

 俺の事を見てない……今は鬼ヶ島(おにがしま)厳蔵ごんぞうという、何だか鬼らし過ぎる名前を名乗っている男の家に来た俺。

 俺の血筋は確かに『鬼』の血を引くと、こういう御仁が知り合いだと思い知らされる。たぶんこのヒト四~五世紀ぐらいは生きてると聞いている。俺の所の長老である三百歳を若造呼ばわりして叱り飛ばしているのを見た事があるから、二十歳の俺なんか赤ん坊の域だろう。

 ちなみに俺の家系は生きてれば長生きだけど、平均は百かよくて二百くらいで……三百とか普通はない。俺は長生きするだろうって時子さんは占うし、うちの若い衆では確かに体格は良いけれど、目の前にいる鬼島の小父貴程じゃない。

 色々と顔の広い小父貴は年賀状書きと整理の真っ最中だった。

 どうやら……手伝いに呼んだ小姓と勘違いしたらしい。まぁ暇だしと手伝い始める。洗濯物のようにハガキを部屋中に張られた紐と洗濯ばさみで留めて行く。下から上に、地味に大変な作業だが、書いている方が必死だろう。俺が誰か気付いてない。

「そこの箱を後は頼んだぞ」

 俺に次の仕事が回ってくる。菓子の空き箱の中には小さくなったハガキがキッチリと詰まっていた。何か術で小さくまとめられたそれ。

「海外分が数枚あるのは速達ですかね? コレと一緒に、東北の分や九州、乾き終わってるみたいなんで、出して来ますよ?」

「おおう! 頼んだぞ! 儂はまだ残ってる分を書くのじゃ!」

 小さいままの方が運びやすいが、普通の人間の前でその術を解くのはあらぬ詮索を招くだろう。そっと取り出してふぅっと息をかけると本当のサイズのハガキに戻る。そうしてみると、すごい量だ。

 俺はでっかい袋にそれらを入れてサンタクロース宜しく担ぐと、そそくさと郵便局へ向かう。丁度着ていたコートはくすんだとは言え赤っぽかったせいで、日付を勘違いしたそれに間違えられた。つい振り返ったら顔見て泣き出される。……トラウマにならないとイイけれど。

 山の様な年賀状を出して戻ると、お茶を入れて、書くのに邪魔にならない位置に置く。

「出して来ましたよ。小父貴」

「おお! 助かったのじゃ! よくよく考えると明日じゃなかったか! 手伝いが来るのは……って、おんしは……和馬か! 久しぶりじゃ! おや? 和馬はかれこれ十数年前に死んだはずじゃが、黄泉の国から戻ったか! これまたビックリじゃわい!」

「……鬼島の小父貴、和馬は俺の親父の名ですよ」

 俺の言葉に小首を傾げ、『おお!』とオーバーなまでに驚き、バシバシと背中を叩く。

「高馬か! 土御門のっ! あんのちぃこい子馬がでっかくなったモノじゃわい!」

「い、痛いですって、その勢いで叩いたら普通の人は死んでしまいますって」

「眷属じゃけ問題なかろうぞ!」

「母は人間ですよ。それもうちの家系の血はもう鬼と言うには薄まっていると言うのに……」

「儂には及ばんにしても、その恵まれた体格でそれも無かろう! 土御門の年寄り達も、おんしには一目置いて、当主を任せたんじゃろう!」 

 テンションの高い人だ、だがそれだけではない。俺が当主になったのもしれっと認知済だったし、凄い情報網と記憶力の御仁だ。とりあえず笑っておいて、要件を告げる。

「一か月くらい前より『公暗』二課から、ここ、うろなの警備と宵乃宮関係で来ています。御挨拶が遅くなり申し訳ないです。鬼島の小父貴」

 そう言って持って来ていた兎六角ワインを置いた。

「おお、ワインか! あそこのワインは格別だ! ありがたいぞ! こちらに来てるのは兎の時子さんから話は聞いとるしな! それに何せ、『姫』が見付かったそうじゃないか!」

「そ、それは……」

 言葉に詰まった俺に鬼島の小父貴は陽気に笑った。『姫』……結婚相手、もしくはそうなりそうな相手、意中の女性……俺にとっては海さんの事だ。何で彼女とワイナリーに行って一週間しか経たないのにもう知ってるのか、土御門うちの情報網はザルなのだろうか? それとも思ったより許嫁の解消が伯父貴連中を怒らせているのか……色々心配になるが、たぶん時子さんが噂話程度に小父貴聞かせたのだと解釈しておく。

「若い者はええのお! それからこないだ手を回しておいた『取り残された子達』を保護してくれたそうじゃな! 目端を聞かせているつもりじゃが、敵側あっちに行った者はやはり……な。戦いは終わったのだからもういいだろうと思うが、なかなか心は難しい。助力痛み入る! ちょいと休憩するぞ!」

 お茶を片手に居間へ移動する。とはいえ、居間もハガキだらけだ。彼の力強い墨文字で書かれたはがきは貰っただけで呪符の代わりになりそうだ。踏まないようにしながら椅子に座る。

「そういえば小父貴、海外の話ですが。『エンジェルズ シールド』をご存知ですか? 」

「うぬ? おおお、非道な手段で攫われた子供を奪い返す活動組織じゃったな! あそこのオヤジにも夏の際は人員を裂いてもらったわい!」

「そこに数年前まで、時貞 玲 と言う青年兵が居たのをご存知ですか?」

「時貞? ちゅーと細密電子TOKISADAの長男坊、か。二十年くらい前に攫われて、死んだとか生きとったとか噂んなっちょった子供じゃないかのぅ! で、エンジェルズ シールドじゃと?」

「組織内では『Toki』、と呼ばれていたようですが」

「とき、とき……ああああああ! 喋らない喋り屋! 思い出したわい! 表情の少ない日本人の子供じゃと思うとったが、TOKISADA関係じゃったか! 驚くわい!」

 そう言いながら笑ってお茶を啜った。

「会ったのはあそこにトキが配属されてすぐぐらいじゃ! まだ少年じゃった!」

 小父貴の人脈と情報網は凄い。その腕っぷしを買われ、海外で軍事系の教官を務めていた事もあると知っていたが。直で知り合いとは思わず驚く。

「なかなか肝が据わっておって、訓練教官の儂を見ても何も動揺せんと向かって来よったぞ! 的確に急所狙いで少年にしては恐ろしいほど冷酷じゃったわい! 余りに命を奪う行動に感情がないから、『躾』に少しは『手を抜く』事を教えてやった珍しいタイプだったぞ!」

 他人の命を奪う事を躊躇するのが普通の人間だ。

 だがそれが失せているのは『慣れ』てしまったか、もともとの『性格』から来るかの二択だ。彼の場合は前者で、それだけの酷い所で生きて来たのだろう。

「そう言えば先月末に出た結婚式でその姿を見かけたような気がするぞ! ピアノを弾いておったを見た時には驚いたし、確か『賀川』と、名乗っておった。目を合わせないし、いろいろあるだろうと個人的にあまり声はかけなんだったが。そのトキがどうしたか!?」

「彼、俺の従姉妹筋なので。まさか、小父貴の教え子だとは」

「従姉妹?! じゃぁ『鬼』かの? ……その気配はなかったが……」

 来てから初めて鬼島の小父貴のテンションが下がった。不可解だったらしい。

「いえ、土御門には関係ないです。母方の、人間の血筋方です」

「母! おお、あの和馬の嫁か! あの子を嫁にした和馬が羨ましゅうてならんかったが。母御も元気か?」

「はい、いつもの通りです」

「確か結婚五年で和馬は逝ってしもうて、おんしを残して無念じゃったろう! 聞き及ぶ多数の人間を助けたその姿は眷属として誉れじゃが、やはり生きて帰って欲しかった! まだ若かったと言うに惜しい男を亡くしたモノよのう!」

 俺はそれを聞いて笑う。

 五つで亡くなった親父との記憶はさほど残ってない。土御門の中では仲の悪い一族の女と結婚して子を生した為、余りイイ噂は聞かない。でもこうやって父が人を助けた話を聞くと俺の親父は間違っておらず、その父の息子である事を誇りに思える。

 しかし母さんは知らないだろう。

 父さんが『我が園ではなく、行きし地で見初めし女と結ばれれば命短し』と、告げられていた事を。

 調べてみれば、伯父貴達が母さんの元に押しかけていた。流石に先見で予言されているとは言わなかった様だが、将来に対する説得や血筋の争いに応じて母は姿を消した。

 だが『あの女性ヒトが俺を裏切る事はない』と振り切って、父さんは母さんを探したのである。そして俺を身籠って進退窮まり、切迫早産で倒れた母さんを救ったのは父さんだったんだ。

 その時、父さんが居なければ母も俺も生きていなかったろう。そんな父さんは自分にかけられた先見より、母と俺を選んだが、母さんにソレを話す事はなかったと思う。あの気丈な母さんの事だ、それを知っていては結婚はしなかったハズ。

「和馬が生きておって、倅がこんなに大きくなり、当主として『土御門』を引っ張っていく者になったと知れば本当に喜ぶじゃろう! 子馬よ、ちょいと待っとれ!」

 そこまで言った所で、パソコンの前に移動するとハガキを除けて、ガタガタとキーが壊れるのではないかと言う勢いで叩き出す。数分でプリンタが稼働し、幾枚かの紙を刷り出した。

「宵乃宮じゃろう? 参考になればいいがな!」

「あ、頼る為に来た気は……」

「遠慮するな、子馬よ! 郵便局に行ってくれた礼じゃ! それに『あの夏』は宵乃宮の巫女は守れなんだ、少女には辛い思いをさせてしもうたでな! 今度はうまく守ってやるがいい! しかし、おんしの笑顔は和馬を思い出すぞ! うろなに居るなら、またいつでも遊びに来るがいいぞぉ!」

 そう言って渡された資料を握って、小雪の舞う曇り空の下、俺は鬼島の小父貴が住む家を出た。

 帰り際に、

「ここ、うろなには他にも伏見と言う名の鬼の兄妹が居るぞ! 眷属じゃて、会えればええな!」

 そう言って変わらぬテンションで送り出してくれる小父貴に、貰った情報を片手に俺は頭を下げた。


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現在不定期更新(自転車操業)

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うろな町~僕らもここで暮らしてる~(零崎虚識様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7914bq/

『帰ってきた儂(鬼)』『忙しい儂』より

すべては親父を殴るために

http://book1.adouzi.eu.org/n5357bu/


鬼ヶ島厳蔵さん(ゴンザレス・オニジマ)

(コラボ申請、書きあげて一年以上経ち申し訳ないです。

語尾の修正、また状況に合わせて内容変更しています。

ご確認ください。)


"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生夫妻の結婚式の設定


うろな天狗の仮面の秘密 (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

『12月11日 仙狸、鬼を訪ねる』で、

菓子箱に片付けていたはがきを出してきました。


うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

伏見兄妹のお名前


キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん


問題がありましたらお知らせください。

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