降雪中です3(子馬と海さん)
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拳を交わすと何か繋がる?
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俺は笑いながら海さんに話しかける。
「いろいろ考えてみたんだけどさぁ。海さんが好きだから。そこは仕方がないんで、怪我しない様に頑張るから……デートしよう!」
「おい! お前、結局言う事は同じじゃんか!」
「うん? ああそうだね。でも俺が誘わなかったら、海さんから誘われる事はなさそうだし。誘ってくれるかな?」
「なななななんで、あたしが子馬を誘うわけ?!」
「ほら。だから俺が誘うんだよ」
「……少しは悩んでいるかと思ったらこれか……子馬が子馬すぎて、期待したあたしが……」
小さく呟いている海さん。
「こないだはワインも飲んでいたし、果物もいっぱい持たせたから、食事はしなかっただろ。今日は何か食べて帰りたいな~ちゃんと奢るよ」
「なぁ~子馬、話聞いてる? それも行く事、前提で話が進んでいるのはあたしの気のせい?」
「え? 行かないの?」
「か、顔を寄せるな! デカいよ子馬! すっげー圧迫感っ」
「行かない? 行こうよ。 行くよね? 絶対行こう!」
何だか普通? に喋っているけど。
これ、砂浜で拳の応酬をしながら、女の子をデートに誘う図なんだけど。ってあぶないかな? じゃれてる様に見えればいいけど。通報されてもまあ、俺も警察だしね。
空にひらひら白い鳥が横切る。アレは賀川の連れてる鳥じゃないだろうか?
そんな事を考えながら受け流していた打撃を受け止める。
「その手は食うか!」
手を握って走ろうとしたけれど、海さんに気付かれる。更に彼女は砂をまき上げながら握った手を目掛けて、小石を蹴り上げた。俺は砂が目に入らない様にしながら逆手で小石を受け止める。危ない、自分に当たったらどうするんだと思ったけど、海さんはニヤリと笑うだけだ。俺がどうにかするって決め込んでいる感じで。
つかんだ物を投げ捨てようと思ったけれど、ふと掌の中の石を俺は眺めた。
海の波で削れたその石はつるっとしていて、黒の中に薄く青が走った綺麗な色をしており、形がハートの様に見えた。あんまり見入っていたのか、海さんが俺の手の中を覗きこむ。
「これ、もらってもいいかな?」
「い、いいんじゃね? この浜は国立指定ないし、別に海の石なんだから」
「ありがとう、海さん」
「べ、別にあたしがアンタにやった訳じゃないし」
「はは、初めて海さんに物もらったよーーーーーーいやー嬉しいな。すごく嬉しいよ」
「だから蹴っただけで、やってないし。石ころ一つで、そんなんで喜ぶなよぉ」
俺はそれを陽に透かす。とても綺麗でキラキラ光る。石じゃなくてガラスかも知れない。石の割には透けている気がする。
紐で下げるか、袋に入れて持って回ろうと考えながら、手帳と海さんの写真とが入ったポケットに入れた。そして小石の妨害にも負けず、握ったままになっていた彼女の手を引いて砂浜を歩き出す。逃げるかなと思ったけど、彼女は自然に足を運んでくれた。
「さ、今日は百均に行く!」
「はあ?」
「モールにデカいのがあるだろ? 細々買いたいモノがあるんだよね。百均は眺めていると楽しいし、好きなんだよ。侮れないよ? それを買い終わったらいろんなお店を見て回ろうよ」
「デートコースは普通、逆だろっ、ホント基本を何か間違ってるって〜アンタ」
「一緒に居られればデートじゃない? 楽しくない? ダメだった?」
しゅんとしていると、海さんは暫く考える。
「デートってさ、いろいろ考えて行くもんじゃない~?」
「いろいろって?」
「例えばさ、約束は数日前からするだろうし、合わせて髪を切ったり、明日デートって日は寝る前から服や小物用意して、当日は早めに起きたりしてさ。着替えてみたけどイメージや天気に合わないって、服をまた悩んでみたり。待ち合わせに少し早く行ったりしてさ……男の子はソツがなくてスマートで、女の子を待たせたりしなくて……」
海さんがつらつらと上げて行くデートのいろいろ、その『い』の字さえやった覚えがない。
そう言えば彼女は気付いているのだろうか。俺、海さんの携帯番号もメアドも知らないし、聞けてないんだけど。調べればわかるけど、それはフェアじゃない気がして。
聞けば簡単に教えてくれるのかも。
だけれど、断られたら、何か全てが終わってしまう気がして。立ち直れないから、海さんのよく来るこの浜で待って、話しかけてみる。来ると思って待っていて外れた事がない。って言うか、ホテルからぎりぎり見える所だから、もしかして海さんは見付けて来てくれてる……なんてのは自惚れかな? 俺は大きくて目立つし。
ストーカーじゃないよ、たぶん。本気で嫌がるなら、海さん本気で俺を潰しに来ると思うけど、交わす拳は楽しさの範疇でしか振るわれないから。
「そ、そんなデートのが良いんだ、海さん……」
「いいと言うか、普通だろ。お前と比べると、鎮のデートが満点越えてる気がしてきた……」
「だだだだだぁれ! そ、その、鎮って誰! 彼氏、彼氏? 確か水族館の方の子の名前だ?!」
「くっ! 悔しいけど、彼氏はいないってフィルのヤツが言ってたろ? 妹のいい感じぃ〜……なんだよねぇ〜。クリスマスとかぁ、にしし……楽しみだなぁ〜♪」
そうか、クリスマスの予定は妹さんの為に動くのかぁ……彼女らしくていいな。ちょっとくらいその時にお邪魔しても良いかな? プレゼント、考えておこう。
ふと空を仰ぎ見る。
「デートのいろいろもやってないし、拳で会話? するのも女の子とする事じゃないか」
俺は小雪の舞う空に向かって呟く。小父貴の家がある裾野から眺められる西の山は、うっすらと雪を被り出していた。これから聞き込み用のダンボール生活は厳しくなるだろう。
拳を交わして温まった空気が口から白く吐き出る。海さんの肌も良い色の染まっていて。お酒で頬を染めたちょっとだけ溶けた感じとはまた違う、健康的な美しさが俺の心を掴んでいく。
「子馬、何か言った?」
「今日は電車だよーー」
俺は彼女に笑ってそう言って、駅まで連れて行った。
段ボール生活で必要な小物を籠に入れる。隣の人におすそ分けの剃刀やら飴やらも買って。さっきの石をぶら下げる紐もあるかな?
「ふーん、任務で使うモノって言ったから何、買うかと思ったら結構普通だな?」
「何、買うと思ってたの? てか、百均に何を期待して……」
「わっかんないから興味があったんだよぉ~ああ、この飴、美味しいからおススメだぞっ」
「そうなんだ、じゃあ、もう三袋入れて」
「そんなに一人で食べたら、糖分摂り過ぎだってぇ~の!」
「違うって。仕事仲間にあげるんだよ。ほら、スノーボールがあるよ?」
「へぇ~こんなのまであるんだ。 あ、サンタのクマが揺れてる」
二人で幾つかひっくり返して雪が降る風景を作ってみたり、天井から降ろされたディスプレイに触れたり。そうしながら店内をブラブラする。
「ホント百均は侮れないなぁ~この幅広スライサーが百円?!」
「海さん、ほら、このフライ返しクマとかカエルとか。フライパンも同じ形があるよ!」
「パンケーキとか焼いたら可愛いんじゃないかなぁ~?」
「ねえ海さん、これ、洗濯物すっごく干せそう」
「でかすぎ、これはお前用だな~♪」
わいわいと眺めて、色々買った。その後は本屋やお店をブラブラする。モールの中は少し暖かすぎたけど、生の果物で作った冷たいジュースがとても美味しく感じた。
「そう言えば、子兎苺も葡萄も美味しかったなぁ~」
「ん? まだ暫く収穫できるハズだよ。葡萄は二月頭、苺は三月末までかな? 気候や来園者数にもよるけど」
六角に持って来させても良いけれど。良い苺を摘んで、潰さない様にきっちり収めていた事に、六角がいたく感動していた。ただ貰うより、選んで摘んでの方が彼女には楽しそうに見えたから、
「また摘みに行く? 六角も時子さん……六角の奥さんね、二人共歓迎してくれると思うよ」
「いいのか! 行く! 行く!」
「じゃ、今度またね」
「そう言えば、ワイン! ジジィのホテルに卸さねー?」
「ん? ワインを? 小さい工房だからそんなに数は出せないけど」
「ああ、そこん所は大丈夫だよ。六角さんに話しつけてくれよ!」
「ん、わかった」
他愛ない話をしていた時ふと一枚のポスターを見つける。
「海さん、ちょっと待ってて」
俺はそこで買い物をすると、海さんに手渡す。
「ほら、こないだ言ってた美術館の展示、行こう?」
俺が買ったのは『和食器と洋食器の変遷』……そう書いてあるチケットだった。時間が合えば行ってくれると言ったし、料理人だと言う彼女にとって、見て損はないと思う。
「行こうよ、今度の休みはいつかな? 普通月曜は休館らしいけど二十三日は祝日、翌日の二十四はあけて、二十五日が休みだって」
「えっと……お前さ……」
「デートの約束、しよう」
「で……」
「約束した方が良いって言うなら、俺もそうしてみようかなって。ね? 行こうよ。きっと楽しいよ?」
海さんはチケットを見てぼーっとした感じだったけれど、俺の顔を見てニ~っと口角を上げて笑う。
「お前、やっぱり強引だなぁ~どうやっても、何かなぁ~普通と違うんだよ、子馬は♪」
「な、何で? なんで? デートの約束! 頑張ってみたんだけどな?」
そう言うと、堪えきれなくなったように、海さんは大笑いしながらチケットを受け取ってくれた。いつにするんだよぉ? っと、言いながら。
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デート取り付けた!
現在不定期更新(自転車操業)
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
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海さん ドリーシャ レディフィルド君 空さん
URONA・あ・らかると(とにあ様)
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鎮君
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