降雪中です
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日付が変わって。賀川です。
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まだ明け方の微妙な時間、物音で目が覚める。蝶が舞って降りる様な小さな音、普通なら捉えられないそれも俺の耳にはハッキリ聞こえた。
数日前からドリーシャが俺に部屋の片隅に住みついている。そろそろ寒いだろうと二、三日前から入れたのだ。
机の上の段ボール。布切れとタカさんが何処からか用意してくれた藁が入れてある箱。ちゃんとトイレがわかるらしく、床に置いた別の箱にそれはしてくれる。本当に頭が良い鳥だって理解してきた。俺を俺だと認識しているからこそ間違いなく俺の頭に降ってくる、ココに出入りする他のどの兄さん達とも間違えない。流石に人語をどこまで理解してるかわからないが。
俺の立ち上がる気配に気付いて、るくぅと鳴いたが眠いのだろう、すぐに丸くなるような気配がした。
音の正体はドリーシャじゃない。温かい布団から出て、カーテンを開けると暗い空に白い物がふわふわと舞っている。
「やっぱり雪だ」
音の正体はこれだった。
まだ俺がどこにも行けなかった頃、柵の中からも、この優しい音を聞き、清らかな純白に自由を見たのを思い出す。とても寒かったけど、何もかもが雪に覆われると、自分も同じように綺麗になれる気がした。ユキさんはその時に見た女神そのもので、彼女と居ればいるほど彼女以外考えられないのに。
俺は拳を握る。
彼女の側に居たい。何よりもそれしか考えて無くて、世の中の常識とか、しきたりがわからない俺はオカシイのだろう。
でも自分が出来る事をするしかない、彼女が何を思っているかわからなくても。そこの俺の気持ちはブレない。
『……逃げるな、賀川。敵からも、雪姫からも、そして、自分からも。あらゆるものから目を背けず、真正面から雪姫を守ってみせろ』あの言葉が俺を支える。うまい事、運ばないけれど。現実的に彼女を二月まで守り切った上、安全に篠生の元に連れて行くのが当座の目的だ。
月初めから半月近くなるが、あれから大きな動きはない。
このまま敵が沈黙はない、相手も態勢を整えているのだろう。
リズさんとレディフィルドの協力もあり、知る限りで『撫子』『アリス』、それから『粟屋』などの下っ端もかなり倒れた。
後、『金剛』はユキさんを味方し、『ルイス』というアヤシイ石使いが戦闘不能っぽかったとタカさんは言っており、前に葉子さんを襲ったピンクの髪の少女『桜嵐』と名乗る者に香取神父が遭遇し、怪我を負わせたと報告があった。
抜田先生に余り会わないが通常仕事の合間に、色々を当たって敵に関する情報を集めてくれていると香取神父は言っている。俺は自分の身とユキさんを守る為に地道に鍛錬でもしておくしかない。
工事用の掘削機やらトラックやらが微かに白くなっていく様をしばらく眺めていたら、五時を過ぎ、ちょうどいい時間になっていた。ドリーシャの心臓音は眠りを刻んでいるようだったので、少しだけ入り口を開けて廊下に出る。
「積もるかな……」
そう呟きながら下に降りると、遠出の兄さんや葉子さんはすでに起きていた。台所で葉子さんはご飯を作り、食べる者達が幸せそうにしている。
「おはよう、賀川君。今日は大根の味噌汁よ。朝練が先かしら?」
俺もそれに頷いて返事を返し、地下へと向かう。硝子越しにユキさんの眠っている離れを見やる。離れの周りには白い紙と赤い紙で作られた二種類の折鶴が舞っていた。不思議な光景だが子馬のマジックという事で、もう皆慣れてしまっている。
「ユキさん……」
この頃、時間が許す限り、できるだけ側に居る。けれど彼女はどこを見ているかわからない。手を握ってもあれ以来、弾かれこそしないが、握り返してくる事はなく、やんわりと手を放される。信用……初めからあったかなんてわからないけれど、今は本当にないのだ……それだけの事をしたんだと気付かされる。
「ホント馬鹿だ、俺。ベルさんにあれだけ気合入れられたのに」
コレが夏の、嫌われようとしていた時期ならちょうどいい距離かも知れない。
そして思い至る、俺だって彼女の側に他の男が侍るのが嫌だった。その誰かをも一緒に守りながら……っと考えながら、胸がムカムカした。誰よりも何よりもどんな事でも一番近くにありたいというのは、書類上の事でも同じく……そして書類上の片側が他に埋められるという事は、現実の傍らもその人が取るのが優先される。それが世間だと。
「……ユキさんがそれほどに想っていてくれたなら」
尚更に取り返しのつかない事をしたのだと落ち込む。でも何を言っていいかわからなくて、とにかく時間を見つけては、ただ側に居る。
時折、森に行っては籠り、絵を描いているがうまく行かない様子。疲れは朝には回復してフワフワ、クルクルしているが、夕方頃からどっと顔色が悪くなる日もある。
いろんな黙っていた事をちゃんと話した方が良いのかも知れない。でも今は亡くなったお母さんの事もあり、聞いてくれる余裕もないだろうと黙る。
「そう言えばもうじきクリスマスだからデートに誘えば……どうかな……」
時期が時期だけに配送量は多いが、早目に沢山働いて、休みを調整できるとイイ。それにレディフィルドの耳の訓練を付けてもらった見返りもそろそろ支払わないといけない。
会社へ休みの申請を出し直そうと、いろんな事を計算しながら地下への扉を降りていくと、にいっと笑う香取神父の顔が既に怖い。
「おはよぅ~賀川君。今日はオニイサマも来てくれているよ~」
「その気色の悪い呼び方をやめんか、カトリーヌ」
「やーめーてぇ~風蛇っ! いっくよぉ~」
「甘いわっ! そんな物、俺には効かんぞ」
「だ、大丈夫なんですか! 魚沼先生」
だいぶこの人をそう呼ぶのも慣れてきた。ただ俺の声など届いていないのか、義兄と神父は嬉しそうにじゃれて互いの竹刀と錫杖で立ち回り始める。半月も経たないのだ、魚沼先生が刀で切られたのは。それなのに全く無茶じゃないだろうか。
「そんなにヤワじゃないぞ、賀川。打ち込むぞ、香取!」
聞こえていたらしい、チラッと眼鏡の端から睨みながら義兄の言葉が飛び込む。はーいと気の抜けた神父の返事が返るが、こちらもおかしな術と錫杖で攻撃を捌く。
この神父、普通じゃない。
普通に首を絞めるわ、鍛錬では訳の分からない攻撃でしかけてくるわ、『もう十回は死亡だねぇ~』なんて笑顔で言う。タカさんから助けなければよかったと思うが、ユキさんには素敵な絵が描ける神父様で通っていて、危害を加えたら俺は彼女の恨みを買うだろう。
溜息を吐いた時、背後から声がかかる。
「人の事、言えねぇよな。賀川の。おめぇ足にしろ腕にしろ、オレの知らないトコでも、色々なにやってんだかな?」
「た、タカさん」
「賀川、魚沼の小父貴に刀剣を習うと良いよ」
「子馬……」
「父さんは自分の打った刀を持つ者に会えない事を知ってた。そして『剣の師』と魚沼の小父貴を呼んで願っていたから……」
「もしかしたら篠生の刀は子馬が受け継ぐ物じゃ……」
ふるふると子馬は首を振った。
「それなら俺とは五つまでは居たんだから、何か言われてたら流石に残ってるはずだけど、思い当たる事はないよ。小さかったから覚えてないのかもしれないけど」
「じゃぁ……」
「確かにうちの一族では、父さんが打ったんだからとその刀を欲しい者がない訳じゃないけど、俺は放棄したから。当主である俺がそうしたのだから、今の土御門の総意だよ。これ以上、うちに力は要らないんだ。父さんも同じ考えだったと思うし」
子馬は『もしかしたら俺の子供や、魚沼の小父貴に子供が出来れば、いつしか『刀守』となるかもしれないけれど』、と笑う。
口では簡単に言っているが相当大変だったのではないかと思う。葉子さん……母親の元から五歳の子を連れ去る様なヒトの集団だ、一筋縄ではいかないだろう。それもヒトは利権を手放すのは誰でも嫌がる。現にここ一週間、余り姿を見ていなかったのはそういう作業に振り回されていたと考えるべきだ。
「次代の巫女が見初めるのが絶対に刀森の血筋とは限らないんだけども。刀流兄のように。刀流兄は刀を作る手伝いをしただけで、実際に手にはしなかったみたいだし」
「それにしてもあの刀、俺に刺さった気が……で、どこに消えたんだ?」
その時、ドカと蹴る音がして、神父がすっごい勢いで吹っ飛んだ。そう書くと神父がただ負けただけに聞こえるかもしれないが、その服の裾を翻し、攻撃を受け流すために華麗に舞い降りたと言うのが正確だと思う。
「うぬ、流石、変わらんな。受け流すのが上手い」
「暴力は神がお許しになりませんからねぇ」
「どこの口が言う……しかし子馬よ。コヤツは素人だ。だから短時間ではやれる事が少ない。頼んでいたモノは用意できたか?」
「用意してきたよ、小父貴」
そして渡されたのは日本刀。模擬刀のようだが、それは驚くほど重いものだった。
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
レディフィルド君 ドリーシャ
『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
ベル姉様 リズさん
『以下6名:悪役キャラ提供企画より』
『木曽 撫子』
YL様より
『金剛』
『アリス』
『粟屋』
弥塚泉様より
『ルイス』
小藍様より
『桜嵐』
呂彪 弥欷助様より
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




