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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月8日

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404/531

デート?中です5(子馬と海さん)

llllllll

ワイン工場を見て回りました。

llllllll

 





 その後、樽熟成・タンク熟成の様子や、瓶詰の様子を見学した。彼女は料理人だから味だけでなく製法も気になるのか真剣だ。さっきまでの話を忘れたようだった。

 その後で、俺は苺の栽培ハウスに彼女を連れて行く。

「うわ、でっかい粒だな〜」

「子兎苺。まだブランド登録できてないんだけどね」

「お前みたいだな、子兎って言うのにでかい」

「好きなだけ食べていいし、そこにある箱に詰めて持って行っても良いし。六角に文句言わせないから。熟れて大きい奴を取っていいよ?」

「本当かっ!? 今、苺すっごく高いんだぞ! それもこんな大きな大粒だと……ん、甘いっ♪」

 手際よく彼女は苺を摘んで行く。俺にもそれを摘めだ、あれは違うだと指示をくれる。二人で結構詰めた所で、近くの者に俺が乗って来たトラックに積んでおくように言っておく。

「後は葡萄があるんだ」

「へー遅めの葡萄かぁ。そろそろ旬を離れて、葡萄も高くなる頃なんだよねぇ〜」

「生食用の小兎葡萄、糖度が凄く高いんだ。種なしで皮も食べられる。あっちの棚がワイン用、白はあの向こう」

 葡萄を一房取って、車の近くまで戻ってくる。

 たるを利用して作ったベンチに二人で座って、食べてみる。

「うわ、皮が薄くてコレ美味しい」

「ここのブランドだから、他じゃ食べられないよ。ワインと葡萄も持ち帰れるように積んでもらったから持って帰るといいよ、海さん」

 無言でモクモク食べていると、空気が冷たくなってきた。俺はそんなに寒がりじゃないけど、女の子には寒いんじゃないかなって思ったので、ブランケットを借りて肩からかけてあげた。そして六角が時子さんが入れてくれたホットコーヒーを紙コップでくれる。

「六角、ありがとう……ね」

「はい?」

 俺の礼がコーヒーだけではないのに気付いたのか不可解な顔をする六角。それも叱責されるつもり顔を出したのがその表情でわかった。

 でもあの時、六角が黙って止めてくれなかったら……いや、それ以前にも、それ以降にも六角は時子さんと一緒に俺を助けてくれた。先見の出来る時子さんが六角に何か言ってくれたか、父さんと六角が仲が良かったからか、理由は知らないけれど。それでも改めて礼が言いたくて。でも照れくさくなって、

「何でもないよ。時子さんと仲良くしてね」

 そう言ってはぐらかす。

 そして海さんの所に戻ってコーヒーを渡した。



 綺麗な夕日が高原と山の向こうに消えて行く。



「ここからの夕日好きなんだ。久しぶりに見た」

子馬(あんた)は寒くない?」

 俺が笑うと、海さんは凄く考えた顔をしながら葡萄を口に放り込んで、

「一緒に入れよ」

 そう言って俺の右手を取るとブランケットの中に入れてくれる。二人で体を包むには、俺の体は大きすぎるから、手だけ。引っ張り込んだら逃げようとする海さんの左手を俺はサッと掴んだ。

「この方が温かいよ」

 手の感覚が戻って良かったと思う。そっと指を絡ませるようにして、

「ほら、ちゃんと一本ずつ動かせるようになったし」

 海さんから言葉の返事はないけれど、無理に振り払おうとはしないのがとてもうれしい。

「気のきいた言葉なんか出てこないけど、俺の現状を聞いてくれる?」

「現状?」

 葡萄を数個口に放り込んで、喉を潤した。甘い果汁が口の中に広がる。

 美味しいモノを口にしながら、もっと楽しい事を話したいけれど。自分の『血』が少し変わっている事をはっきりと彼女に告げておきたいと思った。

 後からになって、こんな人だと思わなかった、そう言われるのは嫌だったから。彼女の柔らかな指や爪ををそっと人差し指で撫でながら、

「土御門本家の者は基本的に能力があれば警察に組み込まれる仕組みなんだ。その強すぎる腕力、丈夫な身体に陰陽鬼道……その能力は使い方を間違えれば忌まれる物だよ。でも警察など時の権力に組み込まれる事によって安心安全に使われ、その価値と実績、それによって力の低い者を守り、普通の『人』としての生活が全員に保証される。今、あるのはその為の土御門だ」

「今あるのは?」

「うん。力の強い者は自由がない。どんなに穏やかな性格の者にも拳を教え、拒否権が存在しなかった。弱い者は肩身狭く生きねばならない。だからと言って外にも出られない。そんな生き方はおかしいから、農業や林業などを展開し、利益で資金を調達しつつ、生きる選択肢の幅を増やしている。土御門と言う庇護の中でとなるけど、このワイナリーは父さんの代の頃に始めた、その一つの試みなんだ」

「じゃ、子馬もいつか、警察やめる?」

「いや、俺は拳を握ってしまったから。必要なくなるまで、皆を率いるのが仕事なんだよ」

 海さんはそれを聞き終えると、何か口を開こうとした。

「ぁ、海さん!」

「何だよ、子馬ぁ~」

「その、だから、それだけなんだ。で、さ」

 俺は海さんの言葉の先が聞くのが急に怖くなって話出すのを挫いた。

 好きって気持ちを押し付けて、いやがらないのを良い事に引っ張って回した。彼女の事は自分で調べたけれど、基本的にどこの誰だろうと海さんが海さんならそれでいい。

 けれど、彼女は俺を知らないだろうからと、自分を晒してみた。けれど今になって、俺は彼女の心中を聞くのが怖くてたまらない自分に気付いてしまった。

 だって俺はこんな顔だし、カッコイイ今時の男子じゃないんだ。運動神経は悪くないけれど、爽やかなスポーツ系ではけしてない。血の関係で事情が複雑な上に、当主なんて責任もある。

 色々鑑みて怖がりになった俺は、海さんの言葉をかき消すように明るく、

「今の話は忘れて良いよ。海さんにはちょっとわからなさすぎただろう? 今とにかく努力してる途中、そう言う事」

「ちょい、おま……勝手に話を終わらせようとしてないか?」

「言いたかっただけだから。意見はイイや」

 そう言い放って、沈みゆく夕日に視線を投げた。

「おま……なんだよ、ほんっと勝手なやつだなぁ~……と、とにかく…………身体大事にしなよ? 子馬アンタはアンタ一人しかいないんだから」

 そうやって気遣ってくれる事が嬉しくて。でも、それは俺を『想って』くれた言葉? いや、きっと特別だという意味で言ってくれた訳じゃなく、社交辞令。

 社交辞令、社交辞令と何度も頭で繰り返して……更に繰り返して。社交辞令それでもやっぱり嬉しいんだけど……どうしたら良いのかな? 海さんへの思いが募るばかりだよ。

 でも恥ずかしくなってきので、海さんから視線を逸らし、緊張していたのか何なのか、いつの間にかカラカラに乾いてしまった喉を潤そうとコーヒーを流し込む。それでも大きな俺にはカップ一杯じゃ足りなくて、葡萄の粒を口に放り投げた。


llllllllll

キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん


問題あればお知らせください。


lllllllllllllllll

兎六角ワイナリーでは葡萄や苺を摘め、

ワイン施設見学やラベル作り、他関連商品の購入が出来ます。

ご予約の上、お越しくださいませ。笑

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