デート?中です2(子馬と海さん)
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車内で。楽しそうな二人。
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「……で、あの一番君に似た、金剛君だっけ? 旅に出たわけぇ~?」
車の中で海さんはノビをしながら俺と話をしている。軽トラって狭い。けれどその分、海さんと近い。圧迫感のある体だから余計近いのが嬉しいと、珍しく自分の容姿が役立っていると思いながら、チラチラとその横顔を盗み見る。
「うん、何らかで介入されて、巫女に危害を及ぼす可能性が何パーセントだったかな? ともかくゼロではないから側から離れるって。世界を見たいってのもあるみたいで、止められなくて。色々話して面白かったんだけど。もしどこかで出会ったら充電させてあげて」
「わーかった。けど、うちの四女が見付けたら、充電だけじゃ済まないかもだけどぉ。こないだイジり足りなかったみたいだし。その可能性を低める研究ぅ~とか言い出しそう。でもユキっちが寂しがってるんじゃない?」
「ああ、それもあるかもだけれど。……彼女のお母さん亡くなってたんだ」
「え、いつ?」
「たぶん一年以上前……」
賀川が仕事のない時は出来るだけ彼女の側に居る様に努力してるけど、どこか上の空で巫女は考え事してる。
それと朝はタカの小父貴と香取の小父貴が、地下で賀川を相当きつく訓練していた。香取の小父貴がどことなく楽しそうだったけれど。本当にあの人は何を考えてるかわからない。
抜田の小父貴は忙しそうにしてる。別居状態で家族は居ない、うろなじゃどうやら人の良い不動産屋のオヤジ。だけど元衆議と言う言葉に胡坐をかかず、裏では未だに忙しい人。そちらが手一杯なのかも知れない。
魚沼の小父貴は昨日、八雲先生の所から自宅に戻って奥さんがあれこれ世話焼いている。カッパもどきの小父貴にとても尽くしている、あの若い奥さんが賀川の姉で、俺にとっては従姉妹なのだと思うと、少し微妙だ。
魚沼の小父貴が退院したので、八雲先生と寿々樹兄は賀川の仲間だった女性アリスの世話をしている。そろそろ包帯を取り、視力の回復を図っているが、どのくらい元に戻るかはわからないらしい。
何も変わらずどっしりと構えているのが、後藤の小父貴だ。タカの小父貴とはまた違った職人気質。性格は気さくとは言い難いが、何かあれば駆け付けてくれるだろう。
俺が各関係者の現状を考えている間、海さんは親友である巫女を慮っているようだった。
「じゃ、お葬式は? どうなってんの?」
「いや。遺体がないから……」
「遺体がない? なら、さぁ~……もしかしたら勘違いで、実は生きてるんじゃ?」
「そうだと良いけど。ない……よ」
「そんなの、何で断定で言えるのさぁ?」
「……教えてくれたのは嘘をつかない人だからね」
神は嘘はつかない。
語らない事や湾曲させる事はあっても、それが神の視点で俺達には理解できないだけ。それもわざわざ巫女ではなくその側付きである『刀森』を呼び付けたのは、巫女の代替わりに従って筆頭の刀森も譲られなければならないから。
かぐつち神は火の神であり、戦いを司るが故か、とても手荒く賀川に刀を委ねた。
俺の父が鍛えあげたというその赤き刃を。
「ふーん。でも色々、踏ん切りつかないんじゃないかな……ユキっち辛いんじゃ……」
「そう思うよ。でも俺、警護で来てるだけで、もともとは彼女と親しかった訳じゃないから、うまく関われないな。行方不明者届は半年前に魚沼の小父貴の指示で出してたみたいで、何年か後には死亡扱いになるとは思う。彼女の気持ちの問題は父親役の小父貴や、母さんとか、……賀川頼みになるよ」
「一番君、居るなら安心?」
「それが、……たった一日とはいえ、他の女と婚約をしたらしい」
「ぶはっ?! マジで? ユキっちいるのにそれはないだろぉ~それも一日とか意味不明じゃん。確かに『つきあってはない』って言ってたけど」
「それがマジにやってるんだから、半端ないよ」
時貞 玲、見た目、普通にしているが。彼の思考は良く読めない。
聞けば巫女とは紙切れ一枚の約束より、側に居る事が大切だと思った、と、言う。確かにそう思うけれど、それは建前だ。人間は人間として生きていく以上、書類上の肩書に縛られる。
ただ賀川は今までがそうではなかった。一度戸籍上は死亡扱い、戻っても戻り切れず、保護プログラムで守られつつ通常の社会復帰ではなく、アンダーでの仕事を海外で引き受けた。日本に帰ってきて就職した運送会社での上下関係などはあっても、少し前までは姉からの執拗すぎる仕打ちで他者との関わりを絶たれていた。
いろんな事情があって、社会への帰属意識が低すぎるようだ。
それにしても『ただの知り合いのよしみ』で彼女を守ると言うなら、彼女に深いキスを人前で敢行し、守ると言い切る必要はない。それは明らかに彼女を一人の女性として意識している行動。なのにそれが結婚と言う書類上の繋がりには考えが及ばないとか、常識とはかけ離れている。
それにしても巫女は『他の女と婚約』と切りだされて、さほど怒り出さないのだから人間が出来ているのか、ただ緩いのだろうか?
「あ、俺、正式に許嫁を解消してきたんだよ」
「へ? そんなのがいたんだ~お前。許嫁なんて古風だね~ご当主様だからそんなもんなのか?」
「俺の家系ってこんな顔だし、女子は女子で相当怖い感じの綺麗で。普通の人間より長生きだからさ。色々考えるとそう言うのがある程度の年に殆ど仕組まれるんだ。けど、はっきり断ってきた。だって……好きな人、一生一緒に過ごす人は自分で探したいから、さぁ」
「そだね~♪ それは賛成だなぁ」
俺もどれだけ女の人に気が回せるかって言えば大したスキルはない。けれど、好きになったら一緒に居るだけではなく、いずれその人と家庭を持ちたいとは思う。誰に決められたわけでもなく、自分の居場所は俺を受け入れてくれる女性と築きたい。
土御門の力関係があり、複雑な血族だから、相手の理解が得られるかはわからないけれど。
「海さん……」
「ん? どーした?」
「はは、なんでもない」
そんな相手を俺はもう一人しか考えられないんだ。そう思いながら彼女の黒髪をチラ見する。
会ったのは片手で数える程度、一目惚れってあるんだね。それも彼女がどう思っているかわからない、いや、今はこんな素敵な人とデートできているだけで幸せなんだ。厳つい俺の、今だかつてないリア充、天国状態。
ちょっと強制的かなって思うけど、そうじゃなきゃ彼女と一緒に居られる機会なんて見つからない。
そんな事を思いながら、車の中でいろんなアレコレを話し『兎六角ファームワイナリー』と書かれた木の看板が取り付けられた、二本の樹の門を潜り、中に入る。うろな高原の奥。昔と余り変わらない母屋と新し目の小さい工場が建っていた。
俺がトラックを止めると、自分より小さいか、変わらないサイズの大男が出てくる。服装は薄手のシャツにジーパンと言うラフで、そして寒そうに見える感じだった。彼は寒さに強いがとても暑がりなので、一年中そんな服装だ。
「顔の厳つさはあっちだよね?」
「うーん、あのおっさんは深みがあるから良いけど、子馬は厳ついのにふわふわ笑うからビミョ~♪だな。同じ家の人?」
「えーーーーうん…………」
うーん、海さん、同年代より渋好みなのかなぁ……まあ、綺麗所じゃないとダメって言われるよりはいい。か?
「どう? 六角! 収穫、もうほとんど済んだ?」
「あ、子、高馬様! 子兎の葡萄と苺は今からですよ」
「六角……子馬で良いよ。昔はクソ餓鬼って言ってたくせに」
俺がトラックを降りると、海さんも降りてきた。俺を様付で呼び、そこまではまだしも、膝を付きそうになるのを目で止める。当主に対する礼としては間違っていないのだけど、人目は弁えて欲しいな。
「海さん、ここが兎六角ファームワイナリーだよ。この男がココを仕切ってる土御門 六角。で、六角、青空 海さん。かわいいだろ?」
「こっこここ、こっ高馬様が……同族以外で女人を連れられる日が来るとは……」
泣きそうになってる六角の脇腹にすれ違い様に一発入れといた。海さんは田舎の農場のような建物や母屋、そして工場のもっと後ろに広がる葡萄棚などを眺めていた。
「騒ぐなっ……あ、海さん、工場見ておいでよ」
「ふうん、親戚のワイナリーなのか……」
「そうではなく、ここは当主様の土っ……いえ、失礼しました」
「母屋に時子さん居る?」
「いますよ。ささ、海様、こちらに」
「様ぁ!? いらねーし! 子馬! デートって言っといてほったらかしかよっ」
「ああ?」
俺はニヤッと笑って、
「工場より先に試飲室に連れて行って。良いのがあるから見てから文句を言えばいいよ、海さん。俺は飲んだら運転あるから帰れない、だから飲んで来ていいよ。俺、飲めないから、戻るまでしか飲ませないよ? 選ばせてあげて、六角!」
そう言うと納得したのか、『親戚宅なのにそんな権限あるのか?』など、ぶつぶつ言いながら六角を連れて行ってる。
俺はそれを横目に母屋に入りながら、あれ? っと。『デートって認識してくれた?』って海さんの台詞を反復して気付いた。で、一度彼女の姿を見ようと振り返ったんだ。けれど、試飲室に元気な黒髪の跳ねが消えるのが見えただけ。
それでも何だか俺はとてもうれしかったんだ。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん 渚さん
うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/
後藤剣蔵(後剣:後藤社長)さん
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『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『金剛』 弥塚泉様より
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。
(この辺の話は一年以上前に書いているので設定ズレとかありそうで怖いです)




