表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
7月9日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/531

脱退中です。


賀川、です。

 









 荒れてるな、そりゃそうだろう。

 俺が反抗したのは数えるほどだから、それも手をあげた事なんて今までなかった。

「済まない、あきら」

 父、だろう男が頭を下げる。

 血の繋がりはあるのだろうが、俺にこの人の記憶はほとんどない。どの面下げて俺の前に出てくるんだろう、この男は。でも呼び出されると無視できない俺も、同じくらい気が狂っていたのだろうな。



 たったネジ一本の為に、俺は俺ではなくなったのに。



 その一本に何万と言う社員の首が、その家族まで含めれば、数えきれない人間の生活がソレにかかっているのだから、当然なのだ。この人にとっては。

 もう娘の事さえも手綱を操れない男。

 あんな風でも……経営手腕だけは彼女の右に出るモノは居ない。



「謝りに来たの? 遅いわよ」

 普通ならこの人を怒らせたりしない。でもユキさんを傷つける言葉は許せなかった。だからここでも謝らない。だから、目の前の女が更に怒り狂うのに、俺は謝罪を口にしない。沈黙だけが俺の武器だった。

「わかったわ、気が済むまで遊んであげる、あきらちゃん、私の可愛い……弟」

 ぞくりと悪寒が走る。

 俺をそう呼んだ後、無事だった事など一度もない。

 でも謝らない。

 ユキさんは悪くない。彼女があの姿なのは、俺がここに生まれたのと同じくらい、選びようのない事。神が決めた、自分にはどうしようもない事。

「やっていいわよ」

 彼女はボディガードを兼ねた、二人の男に指示を飛ばす。今日の得物はパイプか。簡単に死ねそうだな、俺。



 中元配りは無理かもって言ったら課長怒ってたけど、首かな、俺。

 配送センターには『うろなの賀川』を探しに来た人がいたら、配送に出て繋がらないって言ってくれと頼んだけれど、誰も来ないよな。この仕事は辞めたくなかったな、それより2週間後までに俺、うろなに戻れるか? ユキさんに約束したのに。

 その日は剣道大会がある、ユキさんの慕う先生も来るし、デッサンするのに良いだろうと思っていたのけれど。

 ああ、頭が、痛い。殴られてるから当然か。

 体が千切れるようだよ…………母さん。

『I would like to meet a mama.

 I wanted to meet a mommy…………………………』

 きっとすぐ終わる。

 ユキさんを抱きしめた時の匂いを思い出して、その柔らかさだけで、うん、大丈夫。



 どのくらいそうしていた?

 わからない。鼓膜が破れたのか、耳が聞こえ辛い。

「……きら、あの子が好きなんでしょう? でもヤメテおきなさい。あの『しょうのみや』の巫女に喰われるわよ」

「み、こ?」

「やっぱり、知らないの? 代わりに聞いてあげたわ」

「篠生に何かしたのか………………」

 あの子は利口だからすぐに喋ってお金をもらって帰ったわよ、そう言ってから、

「巫女が愛を与えた男は必ず死に、男の愛と死を糧に巫女は子を生した後、「人柱」として祀られるのですってよ」

「ひと、ばしら?」

「時代錯誤だって思うでしょう? 私もそう思うけれど。これは事実」

 頭が痛い、酷く痛い。

「貴方の好きな娘は、貴方が愛を注いで育てれば育てるだけ、人柱に近付くわ。愛を返す相手が貴方とは限らないけれど。女の子だもの、きっとそうしないうちに恋をするでしょうね…………」



 とても、とても頭が痛い。

 これを聞いたのが今でよかった、一度でも一度でも、好きだと伝えられたから、もう、いい。

 やはり好きだよと『言える時に言って』おいてよかった。やっぱり、いつでも『好き』が言えるなんてところに俺は生きてないんだよ、ユキさん。

 君の愛が欲しかったけれど、それがユキさんの為にならないなら、俺はそれを受け取らなければいい。そもそも俺を愛してくれないだろう。

 ただ他の男を愛さないですむ程度に俺は側で君を守るから。



 でも俺はもし喰われると言うなら、ユキさんが良い。



「姉さん、今日はお別れを言いに来たんだ」

「何を言っているの? あきらさん、貴方は……」

「俺は貴女の玩具じゃない。もう、充分、付き合ったはずだ」

「何ですって……あきら、貴方は私からお母さんを奪って、貴方のせいでお母さんは死んだのよ! 一生をかけて私に償いを……」 

「それも良いと思った。だから日本に戻ってからは、貴女に呼ばれるままにココに来た。けれど俺はこれからは彼女の側に生きる」

 俺を叩きのめしていた男から、彼女は怒りに任せ、パイプを取り上げる。そして今までやってきたように俺にそれを叩きつけようとした。

「ねぇ姉さん、俺が今まで反抗しなかったは、貴女に対し罪滅ぼしの意識があったからだ。やりたい事も無かったし」

 俺は彼女から繰り出された攻撃を手の甲で軽くあしらった。

 今まで無抵抗で殴り倒されていた男が、急に反撃に出そうになった事で、ボディガードが動いた。

 だけど、姉から奪ったパイプで、首の後ろを的確に殴り飛ばす。生ぬるい、そう思う。実戦を潜っていない拳など、どんなに鍛えていたって、俺みたいなハエですら落せない。

 数秒、何も特記する暇も無く、生ゴミが二つ出来上がった。



「あ、あき、ら?」

「俺が、あっちでどういう教育されたか知っているよね? こんなの、役に立たないと思っていたけど、彼女の壁になる為に今までがあったなら、俺の人生、無駄じゃなかったと思うんだ」

 俺は姉にパイプを振り上げる。彼女を守るべき男達は床に倒れて、彼女の後退を阻む。尻餅をついた彼女に容赦なくパイプを打ち下ろしかけた。だが、日本では不味いかと握りを突きに変えると、彼女の頬を掠る程度で、床にパイプを突き立てた。

「もうこれで終わりにして、姉さん」

 返事がないのが返事として、俺は部屋を出る。

 騒ぎに気付いた男が青ざめている横を、俺は見向きもせずに通り過ぎた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ