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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月2日

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382/531

撤退前です(ぎょぎょ)

lllllllll

タカと合流するまでの流れを。

lllllllll





 巨大な岩が、石が、雨霰と降ってくる。

 先日、この男『ルイス』と『金剛』は相対した時、手で掴むと言うシンプルだが常人には難しい方法で対応した。タカはルイスにコンクリートを動かす隙を与えぬ間に鎮圧した。しかしそれらを粉々にして視界を奪われ、逃してしまったが。

「あぶり出す前に出て来てっひゃはぁはっはは~」

 実際どうも結界かべを壊す目的よりも、中に居る者を引き出す為に放っていた様子だが、実際ソコにある見えない何かがミシリと音を立てる。ただ洞窟に居た賀川達の耳には全く届いていなかったが。

「何をするか!」

 敵と認識したぎょぎょは男に一撃を与えようと近付こうとした。しかし街中ではコンクリートを剥ぐ時間が必要だったが、今回使う岩や石は沢や森の奥から、ごとり、ごろりと有り得ない反重力によって無尽蔵に集まってくる。それは弾切れのない砲弾。ぎょぎょの得意とするのは近距離戦の剣道。遠距離型の放射石でぎょぎょが肉迫する事を阻み、圧死させようと落下させる。それでもどうにか痩せた男の集中力を切れさせる為に棒切れを振り上げ近付こうとした。

「けけけけっ、つぶつぶつぶ潰すぞカッパぁ~」

 ルイスは壁の破壊に回していた岩をもカッパのごとき小さい男に目掛けて落とすが、掴まらない。落ちた岩を隠れ蓑に近付かれ、舌打ちをする。

「じゃ、爆破っ! ほらほら逃げまわれっ」

「っぷ……」

 ぎょぎょの方としては絶妙な間隔で降る鈍器いわに阻まれ、本人が思うほどなかなか近付けていなかった。その上、落ちて来た岩は急にはじけ、粉状になる為、目つぶしとなり、身を守るモノを失った上に集中投下され、後退を余儀なくされる。戦況的に不利なのはぎょぎょの方だったが、粘り強く、回り込み、間合いを詰めながらルイスに迫った。

 間合いに入り込んでしまえば素人同然の動き……一撃喰らわせれば倒せる……そんな目算が立つぎょぎょ。だがルイスも簡単にそうさせる気はなく、増して気色の悪い笑みを浮かべる。

「きゃはぁっ! 次はこれでどうだぁ~?」

 ちゃりり、手に握られたのはほんの小さな数個の小石。そんな物で戦況が変わるか……と、ぎょぎょは思ったが、男の手を離れた小石はぎょぎょの目にでも捉えるのに苦労するスピードで今までいた位置の後ろの岩に突き刺さる。

「銃弾並み、だな。小さい方が早く動かせるという事か」

 一発、頭か心臓に打ち込まれれば死ぬ。

 そう思ったが、避けてしまえるならばそう怖い物ではない。ぎょぎょの視力は何とかそれを捉えるだけの眼力と、避け切れる体の瞬発力を有していた。

 ニィ……と犬歯を見せる笑いを浮かべるルイス、フワリと舞い上がる一つの小石。

「死ねやぁ~」

 嬉しそうな声と共に、ぎょぎょの眉間を狙って加速する小石。撃たれるとわかって避けない選択肢はない。しかし体を振って避ける着弾前の一秒にも満たない時間……

 ぱん。

「くっ……」

 完全に避けられたはずの小石がぎょぎょの眼鏡を吹き飛ばし、跳弾は彼の薄い側頭部を掠めつつ後ろに飛んだ。眼鏡は割れて吹き飛び、石の動きに付いていった血が眼鏡を汚す。

「逃げよ!」

 ぎょぎょが当たった小石は近くの梢を揺らしていた。その近くに居たのは白き小さな鳥。

 今の一撃はぎょぎょの為に撃たれたのではなく、ドリーシャを狙ったモノ。咄嗟に首を振る様な動きをつけてフレームを掠めさせる事でその行方を微妙に反らし、その白き羽毛を朱に染める事はなかった。

 くるぽっ!

 状況を察したのか羽音と姿が緑の中に消える。

「うっひゃ~死ねぇ~」

「許さん……」

「けーけけけっカッパが許さんってどーやって……あれ、消えた???」

 弱い小さき者を狙う、……妹を穢され失った卑劣な行為に通じる所業はぎょぎょの最も嫌いとする所であった。更にいつもは外さない眼鏡が吹き飛んだ事で、その動きが完全に変わる。気配も姿もルイスには捉えられない。自分が降らした岩に隠れているはずだと手当たり次第に発破させ、持ち上げたりして見るが全くヒットしなかった。

「どこだぁぁぁ~」

「答える筋合いはない!」

 挙動不審になっていたルイスに悟らせぬ間に、その懐に入り込んだぎょぎょは握っていた棒切れを右脇に挟み込み、両手でそれにしがみつくような態勢でしゃがみ、小さな全身から放つ最大の力で、喉を上に突き上げた。

「ぎゃぅあっ」

 喉を割かれる感覚とどこかの骨が同時に砕ける感触を味わいながらルイスの体は斜め上に吹き飛ぶ。そして上方細めの放物線を描きながら、沢に転落して行った。

 操り手を失った岩や石がズズンと地面に落ちる。争っているうちに砕かれていた為、残った物はもう少なかったが。

 銀杏の樹を中心とした広場はまるで河原のようにゴロゴロした岩が転げ、地面はすっかり様相を変えていたが、キラキラと舞うその葉は変わらず美しかった。

 しかしぎょぎょはその背に広がる光景を見る事無く、横にすっ飛び、沢に沿って全力で走り出す。背後が……いつの間にか『何か』に取られている事に気付いたからだ。今までぎょぎょが居た場所には刀が振り下ろされていた。鈍い赤黒い刃が不気味に光る。

「避けられてしまいました。流石、と言った所でしょうか?」

「何故、お前が……」

 それはココに来いと言った篠生 誠、その人だった。ぎょぎょが知る彼はスーツにエプロンと言う『うろな文具店』の店員姿であり、童顔に細い目、そして眼鏡の奥に笑みを浮かべた青年。

 そこに立っていた青年は服装が違っていたが、顔は瓜二つ。一つだけ違うのは右目の横から頬、首の下に生々しい傷跡がある事だった。その手の赤い刀が異様な気配を纏い、敵意は自分に向けられている。

 ぎょぎょは足を止める事無く、森の中を必死で疾駆する。

 どんな相手でもそれなりの対応はできると自負していた。だが背後を取られるまで存在に全く気付かず、自分に向けられた赤い刀身は異様にして、自分は木切れ一本。切り結べばヤワな生木など切り落とす力があるのを、男から繰り出された、たった一振り見ただけで察してしまった。

「せめて鉄の棒でもあれば……」

 だが願いは叶わない。ここはうろなの住人でも容易に立ち入らない森の奥深く。

 数日前にこの森を新郎が走るという事があったが、彼は人並み外れた力を訓練で蓄えた者で、それもいろんな助け手によって計画された余興だ。彼を学生が待って祝福したのだが、その状況を作るのも相当頑張って森を移動させたからで、普段この森に人はたくさんやって来ない。それ故、一年以上も、殆ど誰にも知られる事なくユキはこの森に居座れたのだから。

 町に近い位置にある整備された散策道ならともかく、このような人里より離れた場所で、人工造形物を見つけることは難しい。

 息を切らせながら走るが、相手は全く息を切らせる事もなくしずしずと追いかけてくる。気付けば目の前に立っており、慌てて逆方向に逃げたり、刀身を木切れで滑らせ、切りつけられる前に離れるを繰り返す。だが長い事、そんな綱渡りが持つわけがない。

 ぎょぎょの足元が滑り、転倒し、地面に這いつくばる。

 もうその時には男はぎょぎょを見下ろし、赤い刀は振り上げられていた。

「面白いですが、……もう終わりにしましょう。これで新たな刀森を育てる事も、次代が生まれる事も無く……」

 手元の木では防ぎきれない……達人だけにもう避け切れないと悟ったぎょぎょ。愛しい冴が好物のコロッケを食べながら微笑んでいるのを思い出した。『一緒に居るのだ……ずっと……そう約束したのに』……生きたい、生きなければと思えば思うほど、願えば願うほど遠くなる。

 その視界の端に黒い何かが弾き飛んでくる。

「おらぁっ、やめろぉ~!」

「な、げやりっ」

 どうやってか唐突に現れた友人の姿。全く刀に躊躇することなく向かって来る。僅かに相対する者の気が自分からソレたのを見てとり、ぎょぎょは地面を全身で蹴る様に動くと友の体にしがみつく。

 近寄らせてはならない。

 その一心で全力で押し止め、更に安全な位置まで退かせる。背中に刀が掠った気がしたが、高揚している為か痛みは感じなかった。

「真剣を握った者に生身で飛び込む奴があるか! 投げ槍っ」

「よかった、生きてんじゃねぇか……やっぱりその速さと小ささは伊達じゃないなぁ、ぎょぎょ」

「お前って奴は……意識を逸らしてくれたおかげで串刺しにはならんで済んだが、ちょっと……切られたか……」

 振り返れば刀を振って、血を払い笑う男が居た。この男に得物もなしで近付くのは危険すぎ、どうにか離れなければとぎょぎょは視線を走らせつつ、簡単に説明する。

「昨日、だったか……石を自在に操る話を聞いたが、その手合いがいた……ソコの沢に落してやったが、その時に……」

「来んぞ……だが、どうして……」

「邪魔が入りましたねぇ。ここで貴方を仕留めておかないと色々困るのですよ。丁度いいので、二人まとめて送りましょうね」

「篠生……さん、アンタが何でココに? いや、違ぇ……な。お前ぇは誰だ?」

「宵乃宮……と、名乗るのが一番通りがいいですね。やっと力が回復してきたので来てあげましたよ。さぁ……巫女を……白巫女を手に出来るチャンスを、今度こそこの手に……それには邪魔を排除しなければ……彼女を人柱に、新しい『星』を手に入れる為に」

 かちゃり。

「投げ槍っ、飛ぶぞっ!」

「な……」

「こういう時は逃げるが勝ちだっ」

 ぎょぎょは自分を庇いながらも戦おうとするタカの姿に、今のままでは友も自分も共倒れすると感じ、この場を撤退する為、足元にあった沢へタカを引きずり込みつつ飛んだ。


llllllllllllllll

現在不定期更新(自転車操業)となってます。

月曜お休み予定でしたが更新出来ました。

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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

ドリーシャ



"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水夫妻の結婚式で清水先生達が森に来た設定


『以下2名:悪役キャラ提供企画より』


『金剛』弥塚泉様より


『ルイス』小藍様より


お借りしました。

問題があればお知らせください。

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