捜索中です
銀の彼女の正体は…………
綺麗な銀色の髪に金の瞳は秘密にして欲しい。
彼女の正体は、そう、あのおっきなねこさんだったんです。
青と緑を混ぜたようなネックレスを首に下げると、少女の髪も瞳も黒く変化しました。
もし、こんな風に色が変えられるなら、誰にも嫌われないかな? 目立ったりしないかな? 賀川さんも気味悪がらないかな?
賀川さんに膝を付かせ、飲み物を掛けて行った女性の底冷えするような視線。あんな目で彼を見ないで欲しかった。彼は優しい、一体彼の何を知っているわけでもないけれど。名前さえ定かではない彼の事を考えていたら、自然と零れた言葉。
「良いな……」
この飾りをあげるから友達になって欲しい、彼女は言います。
きっと大切なものです、つい、「良いな」って言ったけど、貰わなくったって友達になります。
だって表情の少ない子だけれど、彼女からは同じ「穴」を感じます。
それは要らないけれど友達になるって言って、話しているうちにとてもとても良い子だなと思いました。家族は居るみたいだけれど、寂しいのが伝わるのです。
彼女は西の山に住んでいるらしいです。人から離れた場所、家族では埋められない穴があるのは私もわかります。
女の子だもの、同じ年くらいのお友達が欲しい。
言葉少なだったけれど、共通の認識を感じた私達は友達になりました。
名前はムジカ。無白花ちゃん。
「…じゃあ明日くるかもだから、宜しくね? バイバイ」
無白花ちゃんはそう言い残して、迎えにきた男の子と帰って行きました。
てか、彼、私と一緒で目が赤だったんです。髪は私の白とは違う銀色だったけど。
それも無白花ちゃんったら、青と緑の混じった玉を置いていったんです。
でもそれは彼女の「大切」だから、貰えません。
それなのに返す時間を与えてくれなくて。だから今度会うまで預かる事にしました。
「ちょっと着けてみても良いよね?」
私が首から下げると、彼女のように残念ながら黒くなりませんでした。
でも、濃い紫に変わったのです。茄子のようですよ。これ。
美味しそう。
瞳は赤いままだったけど、白髪よりは目立たないかな?
「いやこれはこれで目立つかも……」
真っ黒に変わったら、賀川さんに見せに行こうと思ったのに。
「綺麗だねってお世辞でも言ってくれるかな?」
そう考えたら、お祭りの時にそう言ってキスされたのを思い出して、真っ赤になります。
「な、なんで?」
そもそも一番に彼の所に行きたいなんて、おかしいよ。
今度会ったらお別れなのに。
でも、私は夜が明けると、思ったままにお出かけしました。
無白花ちゃんに返すまで、一日限定だけど、髪の色が違うのを見てもらおうと思って。驚いてくれるかな? 驚かされっぱなしだから、返してあげようって思って。
でも、賀川さん、中元で忙しいって言ってたから。どこに行けば会えるのかな? メールも電話も着信拒否されてるみたい。嫌われたのかな? いつも来てくれるのは彼だったから、私は何も知らないんだって思い知りました。
当ても無く電車に乗って。海岸の方に行ってこないだ食事した、旧水族館の方を回ってみました。でもトラックは見当たらなくて、商店街やらモールやら、ずっと歩いてみましたが、全然見つけられなくて。
配送センターがあると聞いたけれど、その頃にはもう時間が遅くて諦めました。
折角治っていた足の痛みが、ぶり返しただけでした。
うろな家のバス停に降りた時はもう空が赤くなっていました。
お昼前にはちゃんと今日も森の家に帰ると葉子さんに告げていたから、日傘は閉じて、暗くなった森を急ぎます。
「早く帰らないと、無白花ちゃんと入れ違いになるかもしれないよぅ」
家に近付くと人影が見えたので、私は嬉しくなって駆け寄ります。
でも、無白花ちゃんじゃない?
「しょうのみや ゆき? 白髪の巫女のハズだが」
「だぁれ?」
「まあいい。巫女よ、人柱となる前に、死んでもらう」
「じんちゅう?」
聞きなれない言葉を反復した時、その人の手に何かが輝いているのを見つけました。驚いてしまって傘が手から零れます。
ナイフ、だ。
賀川さんが包装を開ける時に使っていた可愛いサイズではなく、短刀にさえ匹敵するサバイバルナイフ。あんなのどこに売ってるのかなーー可愛くないから要らないけど。
まな板の上の茄子のように切られるのかな? 痛いと思うんですけど。
気を付けろっってタカおじ様に言われたけれど、あんなの気をつけられないよっ?
逃げようとした私の腕を掴もうとして、彼は目の前に何か落ちて来たらしく、一瞬怯みます。
「蜘蛛だと? 守られていると言うのか? だがこんなもので……」
肩を掴まれ、地面にねじ伏せられ、髪を掴まれて、私、切られるのかな? そう思った時、胸から下がった青と緑の玉が輝き、ぱあんっ! っと、割れてしまいました。その破片がナイフを握った男を傷つけます。
「ああっ、む、無白花ちゃんの大切が!」
わ、われちゃった、割れちゃったよ。何で?
逃げる隙だったかもしれません、でも無白花ちゃんのネックレス壊れちゃった、どうしよう。
きっと大切なのに、それを友達になった証として置いていってくれたのに、粉々にするなんて私ってどうなの?
ナイフを構えたその人は、態勢を整えるともう一度それを向けてきました。でも私は悲しくて、悲しくて、それを呆然と見ていました。
髪がさらさらと白に戻ります。
彼は手に持った得物を振り上げ、私にしか聞こえない小さな声で、
「白き巫女よ……無垢なるままに死んでくれ。それですべてが平和なんだ」
____キィンッ
金属特有の甲高い音がなり響き、私の前に何かが割り込みます。
驚いて声も出ません。
無白花ちゃん!
彼女は鮮やかに刃を振り、私を庇ってくれました。
黒ずくめの男を冷ややかに見据え、何度か打ち合います。
「…………チッ」
男が舌打ちをするのが聞こえました。先程、蜘蛛の糸を祓った手が腫れ上がっていました。
巣に居たのは毒蜘蛛だったのでしょう。彼が立ち去ります。
とにかくよかった、無白花ちゃんに何も無くて。
いや、良くないよ? 私は座り込んで無白花ちゃんの「大切」を拾います。
「どうしよう……私…」
拾い集めようとする私を無白花ちゃんが怪我をするからと止めます。
「私は雪姫との友情を守ってくれたネックレスに感謝するよ。……ネックレスは壊れる定めだったんだ」
「無白花……?」
「雪姫が居なくなれば私はまたつまらない、毎日同じことを繰り返す日々に戻っていただろう……雪姫と過ごす時間はとても楽しかった。雪姫は私を守ってくれ、救ってくれたんだぞ?」
「救う……」
「……そうだ……だから、泣き止んでくれ…」
そう言って無白花ちゃんは、私の涙を指の腹で拭ってくれました。
こんなに優しく友達にされた事なんてない。
だからこそ、涙がまた浮かんできました。
この後、ちょっとあって。
戻ってきた森の家で。
私は初めて出来た本当の友達を考えながら筆を振るいます。
「今度、これ。無白花ちゃんに見せよう。でもどうして可愛くなっちゃうかな? もっと気品を持たせたいのにオカシイな。ああ、だって無白花ちゃんがとっても可愛いの知ってるから、私」
今度来たら見てもらって、一枚持って帰って貰おうかな?
斬無斗君まで可愛くなってて、彼、怒らないかな?
そう思いながら。
……無白花ちゃんはただのおっきなねこさんじゃなくて、西の山に住む猫夜叉様です。
妃羅様『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃんお借りしてます。
勝手にイメージ入り
問題があればお知らせください。(ユキが付けたら紫になる事にしましたが問題なかったでしょうか?)
妃羅様の方でこの日の無白花ちゃんとの顛末は語られる予定です。
お楽しみに。(私も楽しみにしてます)




