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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月2日

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375/531

過去です(秋姫)

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時は戻る。

ユキと秋姫の別れた日へと……

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「ごめんなさい……かぐつち」

 息を弾ませ、彼女は頭を下げた。短い黒髪が首筋に張り付いているその姿は何とも言えず色っぽい。だが基本少女の様な幼い顔立ちをした彼女は顔色が悪く、切羽詰まって見えた。

「どうしたのです? そんなスーツ姿で。貴女はそんな服、余り着ないのに……」

「……お墓参りに行ったのよ」

「……この森を私に言わず出たのですか?」

「だから、『ごめんなさい』……だって今日が……」

「ああ、……人間がそう言う事を気にするのを忘れていました」

 この森に来た彼女達が見付からない様に守りながら、かぐつちはその日を待っていた。雪姫も秋姫も出来る限り森を離れる事をさせなかった。そして刀森の血を引く男、運送会社の賀川……時貞 玲以外は小屋に近づけさせなかった。邪気のない者は掻い潜れたし、たまに入ってくる散策者が彼女達を見咎める事はあった。

 だが遠目に見る彼女達には霧がかかってその正体を見る事はなかなか叶わなかった。主に森を散策していたユキの目撃が多く、白髪に赤い目をした幽霊が出ると言う噂はそろそろ立ち始めていたが。

「今日ね、起きたら気付いたの。そうしたら居ても立っても居られなくて」

 秋姫の愛した男、刀流が死んだのは随分前……丁度西暦の数字が上がる頃の年。

 そしてこの時は2012年、雪姫が本当なら高校一年に通っていた年。その間、一度も墓を参る事が出来なかった秋姫だが、今日が命日とふと思い出した彼女はフラフラとそこへ向かってしまったようだ。

 篠生も常時この森に居座っているわけではなく、大学の職とうろなの文具店の仕事を掛け持ちしつつ、賀川にちょっかいを出していた。目を離したすきに動いてしまった彼女の髪を撫でた。

「貴女らしいと言えばらしいですが……」

「たぶんダメだったと思うの」

 細く、しかしはっきりとそう言った為、その手を止める。

「嫌な事を招いてしまったわ」

 秋姫の巫女として、それも刀流を失った事ですでに人柱として完成している彼女の言葉は重かった。

「ユキちゃんにはこの森で待つように言っておいたわ。一年くらいならあの体力でもココでも暮らしていけると思う、『彼』もたまに来るし……きっとそれくらいは大丈夫。くらみづはもユキちゃんにはいるし」

「儀式は延期した方が良いという事ですか? でもココに貯蓄プールした力は……」

「私と、ユキの為の祝福の力を狙って、宵乃宮が来るわ。見て……」

 後ろ手に隠していた右手を彼女は見せた。

「なん、で……『私』に切られたような……」

「ご飯、作って来てあげたわ、ユキちゃんに。手が消えてしまう前で良かった」

 巫女はその赤い剣で殺されると、その力を残して消えてしまう。まるでそこに居なかったかのように。そして今、秋姫の右手はホログラフのように透けかけていた。

「貴方を連れて来たから大丈夫だと思っていたけど、残した刃と『彼』は一緒になっちゃったみたい」

「みたいって……傷口から全て奪われてこのままでは消えてしまいますよ! 誰かに繋ぎ、食い止めましょう。仲介屋としてそれなら出来るハズ……」

 篠生の言葉に首を振る秋姫。

「それを待って、ユキちゃんへの『祝福』を奪われるわけには行かない、まだユキちゃんに渡すには小さすぎるけれど、奪われた時の被害を考えると大きすぎて……」

「やめて下さい、よ? 私はもう巫女を殺したくはないのです」

 すぅっと秋姫が呼気を吸い込む音が洞窟に響いた。

「ココで迎え討ちます。撃退、そして私と祝福の力が奪われる事が止められないと判断したら、一度、この力を私の……人柱の力で霧散させます」

「巫女!」

「できます、よね? ……たぶん一年後の夏あたりにはユキちゃんへの『祝福』が叶うだけの力がココに集まるでしょう……かぐつち、ユキちゃんをお願いね」

「嫌ですよ、断固拒否です。私はもう……」

「苛烈にして強き戦神、かぐつち。貴方と居られてよかったわ。もしもの事があっても、私は純潔のまま、刀流先輩の所にいけるの。ユキちゃんにたくさんを背負わせるけれど本当に愛しているわ。さぁ、かぐつちよ。お願い、本来の姿に……彼が私から奪った力で結界をこじ開けてくるはずだから」

 篠生の姿が赤く光り、剣の姿となる。それをまだ消えていない方の手で掴み、歩いて行く。滝が見える、宵乃宮の御神体と言えるその場所まで。

 彼女は剣となった篠生を地面に突き刺すと歌を奏でる、朗々と……







「きっと迎えに……行きたかったわ。ゆきちゃん……ごめんね……幸せにおなりなさい」







「彼女には物理的援護がないまま、それでも二週間くらい、巫女としての歌だけで宵乃宮を近付けなかったのですが、……限界でした。くらみづは……水羽の力は現巫女の小屋を守らせており、私も剣の姿になっては他へ繋ぐ事も不可能で、宵乃宮に対抗するにあたって誠の体と剣を分離させる余裕はなく。最後の時、彼女は宵乃宮に人柱の力を全部は渡さぬよう、私で…………」

 賀川はいつかに見た夢を思い出す。ユキに似た女子が赤い剣を自分にあてがい、その命が無くなると同時にまるで雪か幻のように消えだったのを。秋姫も同じ道を……

「……私は彼女の力でココにその時プールされていた『力』を消し去り、宵乃宮も撃退、再度結界を張って、……この場所は何もなくなりました。秋姫の死は伝わらない様にしてきましたが、そろそろ現巫女も力が高まり、伏せるのも限界でしょう」

 地下なのに滝があった。それは目を奪わずにはおれない巨大な滝で、仄かに光る青い壁に映えてとても幻想的だった。

 だが篠生が案内したのはその奥の奥。

 小さな手水から湧き出る細い流れ。源泉と呼べるその場所の近くに赤い剣が突き刺さり、側には女性物のスーツが一着、そこで誰かが倒れていた事を示すように奇妙な形で脱ぎ捨てられていた。



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