奪取中です(抜田)
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賀川達が森に行っている間に。
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「葉子さん、嬢ちゃんの様子はどうだ?」
「寝ていたわよ。お茶を持って行ったけれど、引いてきちゃったわ。今日は絵を描く元気はないみたい」
抜田が台所を覗き、尋ねるとそんな返事が零れた。テーブルには茶菓子とお茶があったが手を付けられないままに置かれていた。
「余程、あの男に似たアンドロイドがお気に入りだったかな」
「そうねぇ。それもあるけれども。それより賀川君が帰ってきてないのが堪えているかも知れないわ。昨日は色々あったし、愛している人は一番近くに居て欲しいものよ、女はね。それなのに他の女を迎えに行って帰ってないのだもの、気にならない訳がないわねぇ。感じやすい子だし」
「件の男は? 会社に」
「本当に出てたのですって。うちの甥っ子はちょっと信じられないわね。元気あるならって予定通りに森に行ってるわ」
「で。葉子さんは? どうなんだ、投げ槍とは」
その言葉に葉子は握った包丁を止め、少しきつめの目線を作り、
「あらやだ急に。私とタカさん、そんな仲じゃないわよ。わかってるくせに」
「こないだ投げ槍は倒れたからな。お互い、年行ってるんだから、おんまや房ちゃんに気にせず籍入れればいいのに」
「止めてくださいな。タカさんの最愛は房子さん、私にはあの人が居るわ。それにタカさんには貴方も、ぎょぎょさんも。この頃は八雲先生もカトさんもいるし。今は何より、ユキさんが居るわ」
向き直り、包丁をゆっくりと動かしながら、葉子は喋る。
「娘が出来た事はとってもよかったと思うのよ。刀流さんと房子さん亡くなって、葬式には戻って来ていたから見たでしょう? 気が抜けたタカさん。あの後、凄く荒れたのよ。貴方達と会っている時はそんな姿をひた隠していたし、仕事は後剣さんの補佐もあって何とかこなしていたけど。躁鬱になってたあの頃、今の穏やかなタカさんが二度と見れないんじゃないかって思ったわ。まぁ時間も薬になったのよ、生きていくのが残された者の使命だってわかってるから。カトさんの台詞には取り乱していたけれど」
とんとんと包丁が音楽を奏でる中、葉子は独白のように言葉を口にした。
今も顔を思い出せない妻の仏壇に手を合わせ、若くして亡くなった息子に一体何を語っているのだろう。そう思いながら。
それを聞くバッタが眉を寄せているのに気付く事はない。
「刀流さんと血縁はあるかわからないけれど、彼の娘とタカさん思ってるわ。本当の所はわからなくてもいいのよ。あれは……失った何かが戻った気持ちねぇ、きっと。それに賀川君に刀流さんを重ねて、目が離せないみたいだし、他の従業員も彼にとっては大切な『家族』だもの」
「そ……うか」
「ああ、バッタさん? 茶、入れましょうか?」
「いや」
「バッタさんこそ、奥様と子供さん海外でしょう?」
「アレとは……体裁上、別れられないだけで離婚してるも同じだからな。イヤ、始めから結婚さえ虚構で、旦那は元代議士と言うステータス、今は養育費やらお金を入れてればいい。それだけの仲だ。亡くしたとはいえ、投げ槍と葉子さんが羨ましい」
険しい気配を葉子に見せる事無く、人当たりの良い笑顔で他人事のように。自分の家庭を振り返りそう言うバッタ。その台詞に葉子が顔を上げた。
「バッタさん? ……貴方」
「ちょっと愚痴った、忘れてくれ。投げ槍には言うなよ? さ、カトリーヌが外回りをしているから。一度、彼女を見てこよう」
彼は葉子にそう言うと離れまで移動した。フワリと折鶴が近寄ったがすぐに離れていく。
それを見ながらノックをしたが、反応はなく。バッタはそっとドアノブを捻る。その顔は堅く、そして手が微かに振るえているのに気付く者は誰も居ない。
「嬢ちゃん、起きているか?」
中は絵具の匂いが微かにした。バッタが入ってもユキはベッドに横たわって眠っている。
「……」
そっと扉を閉じて、ユキに近寄り、その白い髪を撫でる。それで身じろぎはしたが、彼女は目覚めない。バッタは何度か髪を撫でては手を確認していた。アヤシイ行動ではあるが誰も咎める者はおらず。ただ何度目かで彼は諦めたように首を振ると、辺りを見回す。
目に止めたのは可愛らしいドレッサー。タカが特注で買い揃えてやった物か、作ってやったのだろう。そんな事を考えながら、彼はソコにあったブラシを手に取る。綺麗で可愛らしいそれをまじまじと見やったが何も見つけられない様だった。そっとドレッサー用の小椅子の側に膝を付き、フローリングの床を逆手で攫う。
「ない、か」
そう言いながら側のラグをそっと撫でるようにすると、微かに後悔のある目つきをしたものの、見つけたそれを指に取った。
「……あった」
摘まみ上げたのはユキの長く抜けた白髪。早くポケットから出した掌より小さいビニール袋に押し込め、口に付いたラインに触れ、封をする。手に握ったままになっていたブラシをそっとドレッサーに戻し、そこでユキを振り返った。
「ぁ……!」
じぃ~っとユキが布団に包まり横になったまま、ベットからその様を見ているのに気付き、バッタは驚く。赤く澄んだ目は人間的ではなく、ぱちり、ぱちりと瞬きをした。
抜田は手元のビニールを胸ポケットに隠し、
「起こしてしまったかね……すまない」
先程触るのではなかったと後悔したが、ユキは何も言わずにじっと見てるだけだ。バッタは得意の笑みを浮かべるしかなく、彼女にそれを振りまいた。だがいつものぽんやりした笑顔も、反応も何もなく、彼女はそのまま、じぃ~っと獲物を見つけた何かのように男を見ていた。
「その、だな。気になったから様子を見に来ただけだよ。じゃ、具合が良くなったら起きてきたらいい。もうすぐお昼ご飯だ」
とってつけた様に言い訳をしながら部屋を出ようとすると、側の机の上にあった鉛筆が急にパキリと真っ二つに折れた。
「にんげんはおろかだわね。なんどもなんども、おなじまちがいをする。それが、愛おしくはあるのよ」
「……撞榊厳魂天疎向津姫命」
「水羽、よ」
面倒そうにそう言って、側にあった黒い犬のぬいぐるみを手に引き寄せ、もみくちゃにする。
「ソレを持っていくコトをとめるけんりはないけれど。にんげんのやるコトだから。でもそれをわたせば、巫女はどうされるかわかってやってるのよね」
「……わかって……やっている。自分は術など使えるわけではないが、それなりに『国』の中心にいた。こんなゴミを媒介にいろんな事を仕掛ける輩がいるのを知ってる」
「そう。わかっていて……親友の『娘』のそれを持っていくのね」
「……自分の娘の為だ。それに、もう……親友の資格はない。随分前に、もう随分前に……本当は……」
「あのねぇ~」
笑いもせずに布団の隙間からのんびりと彼女は首をかしげる。
「にんげんのイイワケをきくほどヒマじゃないの。わたし。けれど……ひとつ言うなら、たかやりはあなた達を、たいせつにおもってる」
手にしていたぬいぐるみをギュっと握り、一つ欠伸をするとその目を閉じてしまう。
その手の力が抜けていくのがぬいぐるみの凹みが戻っていく様でわかる。犬の頭がぴょこと完全に可愛らしい位置に戻った時、バッタは自分が呼吸を詰めるほど緊張していたのに気付く。
深く息を吐き、酸素を吸い込む。それでも生きた心地がしない。仮にも代議士として名を馳せていたバッタであったが、存在の立場や位置が全く次元が違う生き物に相対する重さは半端ない様だった。
バッタはフラツキながら部屋を出ようと扉を開ける。
「か……」
「バッタ君、とりあえず外に」
「カトリーヌ……」
水羽が『達』と呼んだのは、そういう意味だったのかとバッタは同じ年に見えない幼馴染と外に出た。
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うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/
後藤剣蔵(後剣)さん
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『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『金剛』弥塚泉 様より
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




