捜索中です(秋姫)
lllllllll
車が向かった先は。
lllllllll
車は見慣れた場所に停車した。
森の入り口にある駐車場。ユキさんと森に行く時に車を止める定番の場所。
「この森にですか?」
「ああ、お前に迎えに来い、だとよ。この頃、なんか手の事やらあった上、昨日だろうが。当分無理かと思っていたが、会社に出るくらいなら、元気あり余ってるんだろうがよ」
昨日のお互いの出来事を情報交換しつつ、今日向かう事になっていたのがユキさんが一人で住んでいたアトリエのある南の森だった。行くのはアトリエではなくどこか別の場所だそうだが。
「ユキさんのお母さん、か……こんな近くにいるなら篠生が連れて出て来てくれればいいのに」
「うぬ。だが、出来ない事情があるということだろう。行くしかあるまい」
「それもお前ぇを指定って事は理由もあんだろ?」
出て来れない事情、嫌な予感しか湧かない言葉を反芻しながら、タカさんと魚沼先生の言葉に俺は頷いて、そろそろ紅葉の時期も過ぎかけた森を眺める。
死んでしまったまこと君、その体に入り込んでいるという神かぐつち。火之迦具土神と書く……らしい。
どちらにしても神なんて、信じられないから。俺は……うん、やっぱり信じないけど。
俺の前で、もう忘れていた『篠生誠』と名乗って、俺を様付けして呼び、姉にいびられ腐りかけていた俺を『エンジェルズシールド』に導いた男。
タカさんは昨日この森で『彼』に会ったと言う。
同じく彼に会ったと言う子馬が、夢に入り込まれた事があるという荒唐無稽な話をしながら、
「始めて直で会ったら本当に半端なくて……アレ、火力を本気で使ったら人間なんてひとたまりもないから。ともかく普通じゃないから気を付けて」
と、囁いてくれた。だが話が本当なら、夢に入り込み、火を操るそんな者にどうやって気を付ければいいかなんて考え付きもしない。
「神様って言うなら何でもできるんだろうに。ならユキさんを守ってくれればこんな事にならないだろうにさ」
そう愚痴る俺に、子馬は苦笑した。
「神には神の『縛り』があるんだよ。好き嫌いだけで固定の人間に肩入れしたと考えてみて。そいつがもし狂った方向の思考の持ち主だったら? もし人間を愛しむが故に、誰ひとり死なない様にしてしまったら? 人口は溢れ、食べなくても死なないなら、人は働かず、怠惰に堕ちる。……それは神じゃなく、邪神とか、悪神とか呼ばれるモノだよ」
「その辺わかるがよ。人柱になっても神さんが力を見せなきゃよかったんだろうがよ……」
タカさんも俺と同じに思うのだろう。そうボヤいた。俺に喋りかけるのと違い、子馬は言葉を丁寧に戻しながら、そんなタカさんに向かって、
「最初、神は……ひどい仕打ちにも不平を言わず、人の為に命を捧げた清い白巫女への供養のつもりで『涙』を降らしたのでしょう。『捨身』や『殉教』にあたるように。もし神がそうしなければ、巫女は『ただ命を捨てた』だけ、『自殺』の扱いになり、永遠にこの世を彷徨ってしまったり、地獄に落ちてしまったりと、死後のペナルティが半端ないのでしょう……まぁ俺も死んだ事はないし、神じゃないので『定説』からの憶測として言ってますけれど……それ以降に巫女を人柱として起きる『奇跡』は神によるものと言うよりも、巫女達の愛しき者への想う『心』や特殊で純粋な『血』が起こしているのですから、神がどうこうってわけでもないようですし」
そう言いながら子馬は俺に懐中電灯を手渡してくれた。ドリーシャは俺の頭上で散歩気分らしい。
俺達四人は、縄やら簡単な食糧を背に、森の中を歩き出した。
メンバーは一番前に子馬、次がタカさん、魚沼先生、そして俺が続く。
「そう言えば投げ槍、カトリーヌがお前の息子と妻の殺しを自供したらしいな」
「……まぁな」
「その理由、聞き出さなくていいのか? 締め上げたければ手伝うが?」
弁護士らしからぬその申し出に、タカさんは首を振った。
「あの顔はそれ以上は話す気はねぇな。殺しても言わないで、死ぬまで薄ら笑いを浮かべてるだろうよ。信じてやった事ならあいつはな、カトリーヌは……そう言うヤツだ。わかってんだろ?」
「うぬ」
「だいたいなんで今更それを言い出したのか……」
タカさんにとっては『今更』ではないだろうが。一昨日、荒れた夜より落ち着いた受け答えや洞察をしているが、それでもタカさんは心穏やかなようには見えなかった。
「香取は思考も能力も特殊な上に、悪い事は全てを自分のせいだと被るきらいがあるからな。じゃねーと、神父なんてやってねぇだろうよ。ま、いつか口を割るまで待つしかねぇな。しかし雨じゃなくてよかったな、まあ、おい」
タカさんの言葉に軽く笑って返す。
数日前、清水先生の結婚式での余興として森に来たが、たった二日で何とも冬めいて来ている気がするのは、暦が十二月に入ったと言う精神的なモノだろうか。
赤く色づいた紅葉もまだまだ見えるが、その葉が落ちて赤く色づいた実だけになっているはなみずきの木が多くなり、ハラハラと舞う落ち葉の量が増えた。銀杏の大木が黄色の木の葉を降らせる様は圧巻だった。その葉に光が眩いほどに反射し、辺りがまるで光に満ちた様に見えた時、子馬が俺達を呼んだ。
「第一結界を開けてくれたようです、急いで、小父貴達。ほら賀川も」
「ああ?」
皆、子馬の後について歩を早めた。
lllllllllll
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
ドリーシャ(昨日分海さんが抜けてましたスミマセン)
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




