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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月1日

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364/531

回想中です(悪役企画:まなぎ)

llllll

敵の過去。まなぎ編。

llllll





 私は『早束 まなぎ』、愛貴、人を愛せる、また愛される、貴い人になってくれと言う意味で両親が付けたらしい。そんな私は小さい時に偶然『力』に気付いた。

 初めは両親が良く言う事をきいてくれる、それは自分が幼くそれこそ、私への愛ゆえなのだろうと思っていた。だが幼稚園、小学校に上がる頃には普通にはない力なのだとわかり始めた。初めは自分が相手を予知して行動しているのかと思った。だが試していくに従い、大きな事に関与は出来ないが、微かに人の意思を操作出来る事がわかった。

 ただ、やれたことと言えば、じゃんけんでは思い通りにみな負けを出してくれ、友達が無茶と思う様な意見も受け入れてくれる……その程度だ。それでもオカシイと思う者も居たが、私は勉強を怠らず、回りに気を配り、優秀な生徒としての尊敬を集める事に成功した。

 元々、心を傾けてくれているモノを操るのは容易く、疑いの目は向かないように巧妙、かつ、極力、力を使わないで生きた。優等生であれば、使わずとも不自由なく過ごして行けたからだった。

 だが、人生が両親の離婚という危機の前に変わる。

 愛人を作って飛び出した父の事を、母は尚も愛し、涙に暮れた。私を見てくれなくなり、笑わなくなり、何もしてくれなくなった。

 父が帰ってくればと思った。そうしたなら力で心を変えてこちらを向けられるのにと。だが戻ってこない父に関与できない私は、ふさぎ込んでしまった母の心を動かそうと必死になって、今までないほどの力を母に向けた。

 その日、『父を忘れた』母は眩しいまでの笑顔を私にくれた。

 だが、急激な心や記憶に対する改竄の余波に人間ははは耐えられず。母はその夜、住んでいたマンションから飛び降り、帰らない人となった。

 この事で力で大きく心を変化させるにはとても時間をかけるか、完全に感情を遮断して消し去り『おもちゃ』にしてしまうしかないと知る。

 ちなみに葬儀に戻った父が親類に語っていた『母と別れ始めたきっかけ』は、私にあったようだ。気味が悪いと言う父に、母は私を擁護し、それを気に入らなかった父は外に目を向けるようになり、いつしか他人を挟んで別居の形となったという。

 その父が母の葬儀からさしてしないうちに、車を暴走させて死んだのはどうしてだったかは想像に任せる事にする。



 それからは力を隠し、なるべく普通よりもイイ子を演じ、伯父の世話になった。

 だが力は力を呼ぶのだろうか。

 ある日、釣り人が刺殺される現場に居合わせた。



 それは十を過ぎた頃、通りがかった海で男が殺され、海に転落する始終をはっきりと見ていたのだ。

「みましたねぇ~貴方も死にたいですか?」

 そう言ってくる幾つか年上の少年に全力で力をぶつける。こちらに危害を加えて来るのだ、気が狂っても構わないのだと遠慮呵責なしに。すると面白い事が起こった。自分に向けたナイフをくるりと回転させ、自分を刺そうとしはじめたのである。こちらへの危害を考えている者に対し、意識は残したまま、身動きは自分の制御下に置けると気付く。操られ出した男が慌てる。

「やややっややっ……どうなってるんですか、これは。貴方のせいですか、やめ、やめて……」

「面白いなぁ……こんな使い方があったなんて。ほら、お願いする姿勢がなってない気がするなぁ。目に穴をあける? 鼻を削ぐ?」

「やめ、やめて下さい、わた、私を操るのを……ひいいいいっ」

 大ぶりのナイフを捨てさせると、適度に自らをボコボコにさせる。そして私は、どこか癇に障る匂いの男を睨む。

「楽しかったよ、君……」

「ま、魔力持ちなのに、何故酔わないんですかっ」

「……確かに強いけどイイ匂いはするね? でもこれ、アヤシイから僕が吸わないで、君が吸う様に操作してみてる。まぁ通報されたくなかったら、僕の言う事を聞くんですよ」

「いい、いいですか! 初めて……初めて私を理解してくれた」

「ふぅん。僕は早束 まなぎ。君は何と言うのです?」

「わ、私は田中。まなぎ、これからは忠誠を……」

 そう言ってその日の戦利品らしき、赤い指輪をもらったのが田中との付き合いの初め。

 彼からいろんな裏の世界を教えてもらいつつ、高校の頃に『宵乃宮』と知り合った。今まで知りあったそう言う中では、一番不気味な存在だったが、イイ稼ぎ口を紹介してくれた。

 その金を元に大学生で小さなベンチャー企業を立ち上げ学生起業をし、片や闇の世界で色々と実験や遊びを繰り返した。その中で手に入れたのが、撫子だった。



 彼女を始めてみた時、美しき人魚のようだと感じた。

 筋肉質でありながら必要な所には綺麗な女性美を宿した体。日本人形のようにぱっつりと切られた黒髪。整った指先。水に濡れていたが明らかにその目から涙が零れているのを感じ、誰がこんな美しい女性を泣かすのだろうと思った。

 思えばそれは一目惚れだったのかもしれない。気付きもしなかったが。

「君が、木曽 撫子? 柔道の腕前は学生時は全国二位、オリンピックの強化選手は辞退したそうですね。頭も良くて実に素晴らしい女性。海に沈めておくには勿体無い」

「貴方は?」



 田中と出会うきっかけになったあの日。田中が半ば面白半分に受けた依頼で殺した男性の親類。その男から奪っていた赤いリングを田中から譲り受けており、それを見せた途端、彼女の瞳に欲が浮かぶのを見て、私はそれをエサに彼女を部下にする。

 本当は使い終えたらすぐに『処分』する予定にしていた女だったが、彼女は実によく働いてくれた。腕も感も確かで、使えた。

 望むモノを渡すと言いながら、そんな気もなく彼女を犯す。最後の最後まで、死んでしまった男に操を立てて私を拒否する。それでも私を受け入れさせた。

「撫子、貴女の味方は私だけですよ」

 もうその男の為に泣きもできない程、彼女を犯し、男を宛がった。そうしたのは戯れと罪悪感を植え付け、逃げられなくする為。それも彼女には知らせていなかったが、田中は撫子の想う者を殺した男。

 その手で喘ぎながら穢される様が面白く、いつバラすか楽しみにしていた。それも田中が持つ独特の気配は女に好かれる者ではないが故、それを刻んでやった時の撫子の悲壮な顔が、とても美しく見えたものだ。

 それも飽きて来た頃。

 他の男が撫子に触れるのを見るのが何故か嫌になった、自分以外に悦ばされるのがとても不快になった。

 そして時間が経っても撫子の折れそうで折れない想い人への心は、私の関心を誘う。たった一人の死んだ男に固執して、涙を失った乙女。柔道で鍛えた精神は強く、今までの女達のように媚びて奴隷になる事はなかった。

「本当はある程度仕事をさせたら、田中の事を告げ、苦しむ顔を見ながら始末するつもりだったというのに」

 表も裏も仕事ぶりは認められるべきもので、私は撫子の凛としたその横顔を見ながら、『思う』ようになった。いつも彼女を泣かせるのは死んだあの男の存在。



 死んだ男を忘れさせて、自分の方を向かせたい。と。



 母を失い、あの後、自分が始めて『愛』したのだと感じる。

 他の男に触らせるのを止め、自分の専属として使い、会社にも捻じ込み秘書として側に置いた。薔薇のように凛とヒールを鳴らす彼女はいつも私の為に居る。

 それが嬉しいと思いながら、私は力を慎重に振るい、撫子から『彼』の記憶を除き、振り向かせようとした。

「イイ、だろう? 亡霊なんか忘れて……」

 実験上、処女を奪った女に対し、意識操作は絶大であるはず。だが、名を奪っても撫子は『あの人』と呼んで、男を慕った。私にとっては狂おしいほどに。一瞬で全てを奪わないのは母のように壊れない様にするため。そして苦悩する彼女が美しいから。自我のない人形なら五万と作れるが、零れない涙が瞳を潤ませる、そんな様が綺麗で優しい心は忘れない彼女をそのまま私のモノにしたいと願った。

「っ、ぁぁ……海斗兄さ……」

「その名は言うな。忘れたはずだ、もう。さぁじわじわと消してあげよう。それでも抵抗するんだろう。撫子、その苦悩の色が美しい」

 奪ったモノを返さないのは自分の側に置く為であり、何よりそれは彼女の為だ。死んだ男に心を奪われすぎて、彼女が泣き壊れない様に。

「正体のない(死んだ)男に、焼き焦がれるような想いは、君を壊してしまう。大丈夫だ、私が少しずつ全てを消してあげるから……もう少し、もう少しで楽になるから……」

 あと……もう少しだったのだ。

 だがそれは叶わないまま、今日という日を迎えるなど夢にも思わず、簡単な人数合わせに彼女を差し向けたのが全ての間違いだった。



llllllll

誤算。

llllllll


『以下3名:悪役キャラ提供企画より』


『木曽 撫子』YL様より


『早束 まなぎ』とにあ様より


『田中』さーしぇ様より



お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

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