交錯中デス2(悪役企画)
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ユキ、一人称です。
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私には聞こえなかったけれど、先程かかってきた電話はこんな会話が葉子さんと鈴木さんとでされていました。鈴木さんは北うろなの駅近くでフリースクールと美容室をやっていて、美容師であり、薬剤師であり、准看護師でもある凄い人です。ちょっと顔は怖いけれど、とっても優しいのですよ。こないだ髪を綺麗にしてくれて嬉しかったのです。
『もしもし、前田の小父貴んち?』
「あら、寿々樹ちゃん?」
『おぉ葉子さん、な、そこにユキちゃん居る?』
「ええ……」
葉子さんは少し離れた、私達の居る部屋を振り返ります。
『昼間、大変だったんだろ? 休ませてやった方が……』
「そうなんだけど、賀川君が戻らないのよ」
ふぅ……っと溜息交じりの葉子さん。
だって賀川さんが気になってしまって、大人しく布団に行こうなんて思えなかったのです。でも葉子さん達からしてみると、とても迷惑な行為だったかもしれません。
溜息を聞いた鈴木さんは電話の向こうで怖い様な笑顔をしながら、自慢のリーゼントの乱れを撫でつけて直すと、
『やっぱ、ユキちゃん良い女だよなぁ~アホ賀川には勿体無いよなぁ』
「何の話なのよ?」
『ああ、すまねぇ~し。ともかくそんなユキちゃんに心配させるのは、どうかと思うから、大っぴらに反応しないでくれるとイイんだが…………』
「まぁわかったわ」
『じゃ、リアクション少なめで頼むけど、……アホ賀川が意識不明で運ばれて来てる』
「え?」
『ちょ……驚かずに……』
「そ、そうだったわね……」
『で、賀川の仲間のアリスちゃんは、ユキちゃん関係で襲われて……目を……奪われて……失明してんだ……ぅぅぅ……か、可哀想にィ~』
目を奪われると言う状況を理解できない葉子さんでしたが、どういう事かわからない中でも驚きはあったと思います。けれど私に知られない様、声を上げない様に口を押え、鈴木さんの話に耳を傾けていました。
『アリスちゃんは、ねぇちゃんとも古い知り合いらしいんだ。ねぇちゃん、必死で手術をしてる。それに賀川は怪我がねぇのに、血塗れで。間違いなく失血してるけど、傷口がないなんておかしいし、他にも色々ありえねぇんだが、ともかく今、ねぇちゃんの指示で輸血やらで対応してる所。高熱出してるが、心音は強いし、ただサチュレーションが低いが、これなら、死にゃぁしねぇとは思う……』
「本当?」
『ん、たぶんな。ま、嘘ついたって俺の仕事減らねって。っかし、アリスちゃんはかわぇ~から許すけど、何で俺が血まみれのアホ男を介抱せにゃならんのか……ま、そういう事でともかく賀川は今夜コッチで泊まらせる。急変で山が来るようならまた知らせるが、たぶん大丈夫だろうと思う。ユキちゃんには今日の所はとりあえず……そうだなぁ、アホ賀川は俺とゲームする事にした……とかって誤魔化した方がいいんじゃないか?』
「……えええ? そう、ね。じゃあそう伝えておくわ……」
こういう感じで私には賀川さんの具合が悪い事は伝えられる事なく。私は……ベットでうっすら目が覚めました。いつの間にか部屋に運ばれている自分に気付きます。考えてみると金剛さんが運んでくれたような記憶がうっすらありました。
芋虫さんのようにゴソゴソと布団に包まります。今まで自分の体温で温もってなかった場所が、温かくなるのを感じながら、またうつらうつらして。夢を見ます。
賀川さんが……
どこかの高い所に吊り下がっていて、首でも絞められたようにプランとぶら下がっています。足元から上がってくる強い炎。昔、悪い事をした人が罰せられる時に使われる火刑場を思わせる構図。不気味な場所。
私は体が怠くて起きられない中、賀川さんの体が炎の中に落下していく……そんな嫌な夢ばかり見てしまって。息が詰まってどうしようもありません。
「きっと今頃、楽しく鈴木さんと遊んでいるのに……アリスさんと八雲先生でお酒とか飲んでる側で。賀川さんも飲んでいるかなぁ……」
何故でしょう。
涙が滲んできて、眠れません。彼が笑ってくれているなら、幸せなら良いと思うのに。想像して嫌になったり、不安になったり。ウトウトすれば賀川さんが眉を寄せて苦しむ様を夢見たり、……何だかとってもイヤな子です。この頃、あまり嫌な夢は見ない様になっていたのに。
彼から貰った小さな黒犬のぬいぐるみを手に、私はそっと部屋から出て空を眺める事にしました。
ブランケットを羽織って、見上げる空は沢山の星。森の木々の隙間から眺めるよりは数が少ないけれど、高原に近い裾野の空は結構暗くてキラキラ、おじ様の家はお庭が広いから、けっこうな範囲が見渡せます。ふあぁっと口から洩れる吐息は白く、もう冬の空気はとても冷たくて。眠気が襲ってきますが、まだベッドに戻る気にもなれなくて、でも茶の間に戻ると皆に心配されそうで。
「お母さん、森でずっと待ってないけれど。タカおじ様のお家で、この、うろなで待っていれば気付いてくれるよね?」
他の人に迷惑はかけますけれど、私はココで待っていたいのです。ココにはタカおじ様をはじめ、皆、私を大切にしてくれます。賀川さんもこの町の住人だし、何よりお母さんが見付かるまではやっぱり離れたくなくて。今まで何も残っていた事もありませんが、森のお家に帰ったら、毎回母が帰っていないかそっと痕跡を探すのです。
「明日……改めて謝って、迷惑かけるかもだけど、お母さんが帰ってくるまでは、私、ココに居たいってちゃんと告げなきゃ……ですよね」
ココには賀川さんも居るのだし……そう思った時、またゾクっとして。
賀川さんが舞い落ちる光景が見えて……何だかおかしくなりそうです。
私が離れの入り口で座り込んでいるとサラリと何かが揺れる気配がします。
「カトリーヌ様……」
そこに立っていたのは香取神父でした。変わらないとっても優しい笑顔で私を見下ろしてます。いつもは紺色の神父服ですが、今日はちょっと豪華な感じがする真っ白の神父服に、揃いの外套です。手には折鶴を掴んでいます。
「大丈夫ですか? ユキ君」
そう言いながら私の側に立って、ニコリとします。
「今日は大変だったそうだね。でも無事でよかった。眠れないのかなぁ~ユキ君」
「はい……」
「そうかぁ~そんな日もあるよねぇ。寒くない?」
真っ白の外套を広げると、隣に座って私の肩に手をかけながら包んでくれます。とても暖かいですが、か、か、顔が近いです。恥ずかしかったので、ぬいぐるみに視線を落とし、握りしめてふにふにして意識を逸らします。
「君が暗い顔をしてるのは似合わないよぉ~笑っている方が良いなぁ」
「……はい」
「話してくれるかなぁ?」
その笑顔は私の不安を包み込むようで、また涙が零れてしまうのも、驚く事なくその指でそっと掬ってくれます。でも言えないです、賀川さんが酷い目に合ってる夢を垣間見るなんて。不吉すぎて、喉が押さえられたように。キリキリと痛むだけで声にならなくて。
「アキ君と同じだねぇ……自分より人の事。躊躇って踏み込めない所や自分の立場をちゃんと理解しすぎていて、辛いねぇ……でも我が儘も許されるんだよ。君は巫女であっても、人間で、ただの少女なのだから……」
母も、同じように誰かに狙われていたなら、きっと悩んだかも知れません。刀流さんが好きだった母。その想いは……どうなったのでしょうか。
「あの……前に母を『教会の奥深くに作られた牢に閉じ込めた』って……何故ですか?」
カトリーヌ様の茶色の瞳が、きらりと美しく輝いたように見えました。そっと落される口付。くち、づけ? って……
「今晩はやめておきましょう……」
そんな静かな台詞と共に、吸い込まれる様に私は眠りに落ちたのでした。
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『以下2名:悪役キャラ提供企画より』
『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。
『金剛』弥塚泉 様より
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。
時間があったのでアップしました。
何話分かストックありますが、基本は不定期更新とさせて下さい。




