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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
7月6日(小題に『お祭り』と付いているモノが会場内)

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お祭り:夜です

楽しかったお祭りも、もう終わり。

 






「で、また迷子になっているわけ?」

「違いますって、連れを探して……だからどうして俺はいつも迷子扱いなんだ?」

 賀川さん、みぃーつけた。何だか元気良さそうな女の子と喋っています。

「あ、あの子じゃない? 白いよ、髪」

「え、そうそう、ユキさん居た!」

「ふぇー、白い! ホントに白い子だ」

「ありがとう、キヨさん、彼氏と仲良くね」

「だから彼とはそのその……ちがーうぅ」

 賀川さんがその子と別れて、私の方に寄ってきます。



「携帯鳴らしたんだけど、気付かなかった?」

 言われて手提げを見ると、携帯に着信ついてました。

「あ、ごめんなさい。気付きませんでした。天狗さんにカラスさん、見てました」

「天狗仮面か、カラスは新種かな?」

「あの子は?」

「ユキさんの森に行く時に使うバス停あるだろう?」

「うろな家?」

「そうそう、あそこの住人で、キヨさん。最初あった頃、俺は新人で道、聞いたんだよね」

「そうなんですね。あ、これ、花火と、短冊です。あそこに下げるんですって」

「なにこれ、ああ、確か呪いを書いて下げるとそれが叶うって言う……」

「呪いじゃなくて、お願い事です」

「When You Wish upon The Moon……」

 僅かにですが、賀川さんに口から英語が漏れました。本人は意識もしていない様でしたが、有名な曲の出だしとは言え、素人耳にも発音が良すぎる気がします。私がそんな事を考えている間に、さらさらっと何かを書きます。



 あれ?



『しあわせ』と、四文字しか彼は書かずにもう笹にぶら下げてますけど。

 普通、幸せになります様にとか、幸せになりたいとか、書くのではないでしょうか。その四文字だと、現状報告してるだけな気がしますよ?

「書いた?」

「う、うん」

「これ、紐が紙だよ、でも切れにくい」

「紙縒り」

「こより? って言うんだ。可愛い名前だね」

 そう言いながら賀川さんは私の短冊に『お母さんに会えます様に』、そう書いてあるのを見て、

「叶うといいね」

 彼は優しく笑って、頭を撫でてくれました。司先生も良く頭を撫でてくれましたが、賀川さんにそうされるのとはまた違う気がします。

 賀川さんにとって、私は妹みたいな感じなのかな? 彼の気持ちはわかりませんけれど、居心地の良いヒトだと私は思うのです。

 ここまで一緒に居て、色を感じない人は初めてですけれど。



「火をもらおうか」

 何本かの蝋燭が灯され、バケツやらが用意され、照明が最小限になり、辺りは終わり寸前の楽しげな雰囲気で賑わいます。

「先にどうぞ」

 賀川さんに促されて、火をつけると、綺麗な水色の火を噴いて、徐々に金へと変化しながら消えます。他にも赤や黄色、いろんな色が煙の中に溢れて、消えて。回りも一気に華やぎます。

「火、点けないんですか?」

 じっと手にしていた花火を見ているだけの賀川さんに声を掛けます。

「火薬の匂いがするのに幸せって良いね」

「賀川さんは幸せ?」

 彼はにっこり笑って、私に花火を握らせて火をつけるように促します。シュっという音とともに、辺りを鮮やかに光が染めました。

「ユキさん、綺麗だよ」

「え?」

「キス、させて」

 返事も何も聞かずに、意味も何も考える間もなく、私の顎を親指で押し上げるように上に向けると、彼は屈んで、私に唇を重ねていました。



挿絵(By みてみん)



 目、目、目、目が合ったまま、ですよーーーー?



 今日、初めて綺麗って褒めてくれて、急に? 急に! え? 頭が回りません。

 顔が真っ赤になっていると思いますが、手にした花火を振り回すわけにもいかず、心はワタワタしているのに抵抗できないまま硬直してしまいました。そう言えば、こうしてキスされるの、前にもあった気がして、やっと思い出します。

 彼がこうやって水を含ませてくれたのだと。

 手持ち花火一本消えるだけ、そんなに長い時間ではなかったと思いますが、心臓が止まるかと思いました。

 空にキュっと何かが撃ち上がる音がして、ドンっと花火が空を飾った時、唇が離れます。



 彼は片手を私の腰に手を回すと、

「かわいい。やぁらかいな。やっぱり想像しているよりずっといい」

 私を彼はゆっくり抱きしめて、

「俺、ユキさんが好きだ。そんな資格はないけれど、それでも君が好きだ。悩んでも、悩んでも、気のせいじゃないみたいで、どうしようもないから、言える時に言っておくね」

「資格って、何? 賀川さん? 私、貴方の名前も知らないよ」

「俺は…………」

「え?」

 小さい、回りには聞こえない声で彼が言った時、またドンっと音がして空に花火が上がりました。



 それが消える前に、賀川さんは私から数歩、離れた所に居ました。

「やっぱり、これは、俺が貰う。今度別の何かをあげるよ」

 白い猫のキーホルダーが彼の右手に握られていました。

「帰りはタカさんが、荷物を運ぶ一便に乗せて帰ってくれるから、ステージの右側の辺りに居てくれって。次は会えても二週間くらい後かな? じゃ、さよなら。今日は楽しかった」

 私は「待って」、と言おうとしたけれど、喉が干乾びた様に渇いて声が出ません。続けて打ちあがる花火の音。

 他のお客様の影に賀川さんはすぐに見えなくなってしまいました。それでもきょろきょろしていると、お人形みたいに綺麗な双子の女の子を見かけたり、ぎょぎょのオジサマとバッタのオジサマを見かけたりしました。でも、賀川さんは見当たりません。



「ね、黒軍手くん。今の、何だったんだろう?」



 手元に残された、寂しげな黒犬君に話しかけてみます。

「君、何をやっている?」

と、近くに居た男の子に声を掛けられました。

「え? この子と喋ってますけれど」

「それは凄い高等技術を持っている様だ、だが風と語らえる私には勝てまい」

「………………あの、この町中では、風の声はたまにしか聞こえないと思いますけど」

「なにっ! そ、そうだった、この人間の欲望に穢れた町では大自然の本当の声は聞こえない! くっ! そうだ、それこそが罠だったのか!」

 黒い甚平を着た彼が、花火に向かって叫びます。するとどこからともなく黒い浴衣の女の子が現れました。

「罠? 罠だと? くくっ……たわけが。お前が罠であると思った時点で完成する、それが、それこそが本当の罠なのだ! 貴様にはもう語りかけてくる風の声が全て嘘にしか聞こえまい……香月フルールムーンよ」

「嘘八百……~アンスピークブレイカー~め、お前がこの白き女をここに?! 何故だ、何故だ、嘘八百であろうともお前は仲間だと思っていたのに」

「……仲間だからだ!」

「な、なんだと」

「仲間だからこそ、今のお前の目を、耳を曇らせているモノに気付かせようと、あえて苦肉のうそを講じたのだ。許せ、同志よ」

 黒い浴衣と甚平の二人はとりあえず分かり合えたようです。よかったですね。



 私はぺこりと頭を下げると、その場を後にします。



 そして人波を潜っていると、知った顔に会います。

「あ、仲間さんだ!」

「んぁ?」

彼は忘れていたのか、ココで会うとは思っていなかったのか、間の抜けた声で返事が返ってきます。

「確か宵の……宮」

「はい、宵乃宮 雪姫です。稲荷山君」

「宵乃宮先輩! 来てたんですね、お札貼ってくれましたか?」

「ええ、とても綺麗です。ありがとうございます」

 その隣にならんでいた可愛らしい梨桜ちゃんの浴衣は、雲のような白に華やかな花が踊ってそれはそれは可憐です。

 そして結い上げた髪が大人っぽくて素敵です。



「タカト、誰だにゃ? よいのみや?」

 挟んで向こう隣りに、先ほど稲荷山君と食事していた猫語の少女がいます。

 私と同じ年、くらいでしょうか?

「にゃに、白いにゃ、ユキはタカトと仲間なら私とも仲間かにゃ?」

 水玉模様のシュシュが、茶色の髪を束ねている可愛らしい方です。

「髪白くないので、仲間ではないと思うのですが?」

「そういう意味かにゃ、鍋島 サツキだにゃ、宜しく……」

 どういう意味でしょう、そう続けようとして彼女と手を握った途端に、パチッと静電気が走りました。サツキさんの目が一瞬細くなります。痛かったのでしょうか?

 でもすぐにその表情を打ち消してしまったので、

「それ以外に、どういう意味だよ」

 稲荷山君は気付かず、仏頂面で彼女を見ています。

「宵乃宮先輩は一人ですか?」

「いえ、賀川さんと……」

「……賀川?」

「賀川急便の賀川さんです」

 名前さえまともに覚えていない人、その人と……一気にまた血が上るのを感じます。

「何だか宵乃宮先輩、顔が赤いですよ?」

 額に彼女の手が触れて、ひんやりとした何かが自分に引き込まれる気がしました。私は慌てて離れると、

「大丈夫、大丈夫。わ、私行くね? 彼女達とお幸せに」

 何だか混乱して発した言葉に彼は困惑の表情を向けていましたが、私はまたウロウロし出します。

 でも賀川さんには会えませんでした。



 しばらくして、花火が終わったので、暗くしていた電灯が戻り、少し顔の赤くなった町長さんが簡単な挨拶をしてお祭りは終了です。皆、帰途につきます。

 私は暫く待って、タカおじ様に家に連れて帰ってもらいました。さっき会った時は元気そうだったのに。オジサマも疲れているのか、難しい顔をして、話はあまりしません。それもこれからまた片付けに何度か往復するそうです。気を付けてと言うと、嬉しそうに返事はしてくれました。



「おかえり、ユキさん。お風呂浸かって。疲れた顔してるわ」

「うーーん」

「浴衣は崩れるから畳んで、帯と置いていて。私が洗っておくから」

「ありがとうございます」

 帰って来た職人さんが夜食に食べる茶漬けを用意していた葉子さんが、クレンジングを渡してくれました。私は言われた通りにして、黒軍手くんに小さな緑の布で飾ってあげた後、布団に潜りこみました。

 とっても疲れたし、お湯に入ったら、少し痛んだ足をさすりながらすぐに寝入ってしまいました。

 今日見た夢は、黒軍手くんの横に、賀川さんが持って帰ってしまった猫ちゃんを吊り下げておく夢でした。


挿絵(By みてみん)




煙花よもぎ様の「うろな家にようこそ。」からキヨさんお借りしました。

夏祭り行ってるだろうと勝手に引き出してしまいすみません。


三衣 千月様『うろな天狗の仮面の秘密』より、天狗仮面さん

とにあ様 『URONA・あ・らかると』より、怪人カラスマントさん


パッセロ様の『くるみるく』より、双子ちゃんをお見かけでお借りしました。


シュウ様の『文芸部へようこそ』より高城部長と香月先輩 、

同じくシュウ様の『『うろな町』発展記録 』より、町長さんお借りしました。

特に口調などに問題があればお知らせください。




以上で、夏まつり終了になります。


まだ一日、四日、八日、十日……と、書くべきものは残ってますが、一旦、毎日更新は止めて暇々に書かせていただく予定です。


切り絵企画がほとんど停止しているので、そちらを進ませてきます。

2013年 07月19日活動報告にて、キャラを使用させていただきました各作家様へちょこっと一言を書かせていただいてます。色々感謝です。

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