撤退中デス6ユキ(悪役企画)
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かちゃかちゃ……息をのんで『再起動』を待つ。
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「よっしゃ、これで復旧できたはずだ!」
ぽんと金剛さんのボディーを叩き、巧さんは立ち上がりました。渚さんは額の汗を拭っています。
「渚、良い腕してるな。俺には及ばないがな」
「……すぐ追いつく。それに、データ移植なら。……勝てる、と思う」
「ほーう……俺は子供が苦手だが、お前のようにしっかりした夢と未来があるなら子供も嫌いじゃない」
そう言った巧さんの言葉に、静さんは驚いたような顔で、
「マスターにしては最高の賛辞よ」
そう渚さんに耳打ちをします。渚さんは微かに嬉しそうにしながら、
「じゃ、再起動かける……」
「ああ、頼む。それでは再起動がかかるまでに俺から注意点だ」
そう言って渉先生から借りた端末で何かしらを打ち込む渚さんを置いて、巧さんが私を見ます。
「たぶんこの機体が見た『自分達へつながるデータの削除』をする為のウィルスだったのだと俺は見ている。全て駆除したがな。このアンドロイド、動くのは間違いないが、その影響でデータが飛んでいる部分もあって、お前が知る『彼』じゃないかもしれない」
「私の知る彼じゃない……」
「アンドロイドは人間より簡単に書き変えや削除が出来てしまうって事だ。とりあえず爆発はこいつの核に誘爆があった為で、本来なら再起不能の爆発、回りにも惨事となったかも知れない。だが運よく冷却水が入り込んだのか、爆発は最小で全焼は免れた。また、それによる損傷は全て補修した。自爆用爆弾は撤去、またマスター制度を排除。意思決定をアンドロイド本人にゆだねる形にして、白兵戦専用軍用プログラムを凍結。それでも遥かに人間より高い身体能力だが、な。後、音声認識で強制操作できるシステムを白紙化し、白髪のお前と、調整した責任として俺と渚の声のみ緊急時に関して、緊急操作、停止させられるようにしておいた」
私は全ては理解できなくて首を傾げると、
「……ちゃんと修復したって事。後、彼の前マスターはもう、彼に干渉する事は出来ない。……でも、緊急時は私と彼、貴女の言う事は、ちゃんと聞いてくれる。……それと、充電は時間かかるけど、家庭用プラグに変更しておいた」
渚さんの説明でだいたいがわかった時、ゆっくり金剛さんが目をあけました。
「金剛さん、私がわかりますか?」
「起動率百パーセント、通常行動に支障ありまセン。貴女は宵乃宮 雪姫。現在緊急の際、最優先操作官として登録。以上デス」
「…………残念だが……俺の更新した記録しか残らなかったか。まあ、一から育てる形になるが、機体だけでも残った事が幸運と……」
そう巧さんが言った時、金剛さんは自分の手元を見て、呟きます。
「再起動しない確率は九十八パーセントと予測。約束通り『また』会えたのは、オマモリのおかげかと推測しマス」
そう言って私に腕に付いた黄色のゴムを見せてくれます。私は質問してみます。
「覚えてますか? 今日たこさんに乗って……後乗ったモノは?」
「観覧車を巫女と体験、二つとも非常に有意義なデータデス」
「金剛さん! 覚えてる、良かった……私と今日した事をちゃんと……皆さん、ありがとうございます!」
「よかった、ユキちゃん。良かった、金剛君」
「ユキっち、本当に良かったなぁ~渚もアンタもお疲れさん」
渉先生も海さんも喜んでくれて、直澄さんも鹿島さんも頷いて。いつの間にか来ていた子馬さん、ちょっと涙ぐんでます。
そんな中、巧さんはくるっと背中を向けて、
「暴走の危険はなさそうだな。じゃ、俺らは帰らせてもらう。しかしこの機体を見たら、津田、なんていうだろうな……」
来る時は通信機器を使う為、車は一台で乗り合わせて来たのですが。
静さんが『終わったから来て』と電話かけた途端、一台の車がやってきます。……巧さんが心配で近くに来て待機していたのだと思いました。静さんは笑いながら、持って来た道具類を軽々と片手で持ち上げ、その車に仕舞ってしまいます。スモークが貼ってあってわかりにくかったですが、運転席には潤さん、隣には奏さんの姿もあったようです。
「金剛、だったか。もし何かあれば来い、弄ってしまったから責任は取らないとならない。それにマスターが居ないんじゃ何かの時に困るだろうからな。住所はデータに落しておいた」
「ありがとうございマス、で、この時の言葉はイイデスカ?」
「感謝、出来るアンドロイドか……型番にしては高度だな。こいつの基本を作った津田と、組み立てた誰かさんの腕は尊敬に値する。しかしどこで道を間違うのか、人間は……」
苦みを帯びた、だけどふっと笑ったような気配を残して、巧さんは車に乗り込み、静さんもそれを追うと車は出て行ってしまいます。
その後に付けられた装甲車のような車に子馬さんは近寄り、何かを受け渡しています。金剛さんから取り出した何かと、鹿島さんの服に包まれていた物……私が不思議そうにしていると子馬さんはにっこり笑うだけで何も言いません。車は何事もなかったかのようにそこから離れて行きます。
車を見送っていた子馬さんの大きく厳つい肩を、渉先生はバンと叩きました。
「さ、おかたづけ~お片付け~ぇ。鹿島も直澄も最後まで頼むよ~しかし壊したカメラや照明どうしようか……」
「それについてはこちらの経費で落とします、請求して下さい」
「子馬君、やっぱり君、何者?」
「ははは。ただの土木作業員ですよ」
男性陣が賑やかに大物を片付けている時、さっきの爆音を聞きつけた人がフラフラやってきます。
「何の騒ぎかなぁ~おや、若センセ? っと言う事は、昨日の式の打ち上げとか……?」
ちょっと砕けた感じの服装をしてます。りゅーい君とかりょーい君の住んでいる旧水族館の方向から来たみたい。ふわっと煙草の香りを身に纏っていますよ。渉先生の知り合いのようです。
「違いますよ、総督! 昨日はありがとうございました。おかげでラストまで……」
「いやいや、大した事じゃぁない。で、これは……」
「そうだ、総督。これ運んで下さい。手早く撤収したいので……」
「え? 高いよ?」
「昨日の式で入れてた日本酒、海江田の奇跡一本でどうです?」
「おおアレは美味かったね、日本の奇跡だよ~でも三本かなぁ?」
「え、じゃぁ……日本だけに二本でお願いしますよ、総督」
「ん~じゃ、それで!」
渉先生は爆発音で騒ぎを覗きに来た総督さんも巻き込んで、自然に撤収を手伝わせて、ココであっていた事への疑問を逸らさせます。
でも総督さん……って何の総督でしょうか? それとも『そうとく』って、お名前でしょうか?
そんな事を私が考えている間に片づけは進みます。その間、渚さんは金剛さんに最終調整をかけてくれ、それを見ながら私は金剛さんの側に居ました。
テキパキと片付け終わり、まるで映画の撮影現場を彷彿とさせるような明るさだった場所が、電灯の光がぽつぽつと付いた冬の寂しい駐車場に戻ります。
「じゃ! 人員撤収! お疲れ様でした」
「若センセ~、お酒~♪」
「今度、水族館に届けに行きますぅ~」
そんな会話をしながら渉先生、鹿島さん、直澄さんが車で引き上げます。嬉しそうに帰っていく総督さん。そして渚さんと海さんをホテルに戻るのを私と子馬さん、金剛さんで見送ります。
「あみさぁーん、好きだよぉ~」
「やめんかぁ~っ! 大声でこっ恥ずかしいっ!」
それを聞きながら金剛さんは首を傾げます。
空が真っ暗になってきました。家路を急いでいるかのように白い鳥が暗がりを飛んでいるのを見送ります。そして星がたくさん瞬き出す頃、金剛さんを連れて子馬さんと共にやっと裾野のお家へ戻ったのです。
その玄関を潜りながら、ふっと思い出します。
さっき金剛さんがおかしくなる前、私は夢の中に居ました。
見えるわけではないけれど、賀川さんの手がそこにある気がして、それを握りしめたのです。
「賀川さん……」
何度か繋いだその長い指先はとても冷たく……でもそこで金剛さんの騒ぎで目が覚めて。
それを思い出すと胸騒ぎがしてきました。
私は首から下げた彼とお揃いの青い石をぎゅっとして、暗い空を見上げながら家に入ります。
「おせぇぞ! ユキ」
「タカおじ様、ごめんなさい。ただいまです」
「ま、イイって事よ。話は後だ、入れや」
「お帰りなさいユキさん、高馬。よく無事で。あら、まあ、聞いた通り賀川君が真っ白……」
「えっと、あの、葉子さん。賀川さんは?」
「本物の? まぁだ戻ってないのよねぇ」
葉子さんの言葉に、心の中に広がる靄があって。落ち着かないままとりあえず自室に着替えに戻ったのでした。
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これにてユキサイドは撤収です。
明日より時間を巻き戻し、再度賀川の方に目線を向けます。
現在不定期更新となります。
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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
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清水渉先生 高原直澄さん 鹿島さん
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
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巧さん 静さん
URONA・あ・らかると(とにあ様)
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日生涼維君 隆維君(お名前) 総督さん
『以下2名:悪役キャラ提供企画より』
『手塚』(マスター名称のみ)『金剛』弥塚泉様より
コラボが増え、読んでいただいた時より少々変わっている箇所あります。
問題あればお知らせください。




