捜索中デス3(悪役企画)
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何なんだ、何が起こってる?
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子馬の泥に覆われた体が、ズルズルと土の中に飲み込まれていく。
「わ……これは……」
「底なし沼かよ、何で、急に……」
まるで水に沈む船のように、それもかなりのスピードでその巨体が飲み込まれていく。
「子馬っ」
タカは『巻き添えないうちに離れて』という言葉に従って飛びずさっていたが、最後に残った子馬の手を取ろうとした。だが鎖付きの扇子が放たれ、それを避けているうちに子馬の全身がまるでそこに何もなかったかのように地面に消えてしまう。タカがそこに立った時には土はただの土。冷たい冬の腐葉土の地面に戻っていた。
嬉しそうにクスクス笑う女性二人の声。
「てめぇら、何しやがったっ!」
「土蜘蛛を呼んでおいたの」
「つ、土蜘蛛……」
「源氏物語を中心にいろいろ読み漁っているとね、不思議な書物や絵巻に出会う事があるの。そのいくつかを再現してみるとねぇ」
「香取の白いのみてぇなヤツか」
扇子が淀みなくタカの体を狙って放たれる。再び鎖を掴もうとするが、その前にひらりと躱され、突っ込もうとすると刃物は遠心力を使って攻めてくる。更に血を流しながらも隙を見ては桜色の髪を揺らし、女が突っ込んできた。タカの方が上手ではあったが、挟んでくる扇子の動きがどうにも邪魔で、間合いが取り辛い。
「しゃらくせぇ。ともかくあの二人、ぶっ潰せばいいんだろ」
そうタカが口の中で言葉を転がし、構えを取ろうとした時、地面が大きく揺れた。危険を感じてその場から飛ぶように離れる。
三十センチほど盛り上がった場所に赤い光が八つ灯っているのを見た瞬間、爆音と共に辺りの地面が吹き飛び、樹が数本大きく傾いで倒れる。
ドンとタカの身長より遥かに高く中空に一度浮いて、降り立ったのは泥まみれのドデカい何かだった。
「く、蜘蛛って、デカすぎっだろうがよっ」
確かにそれは足が八本あり、黒い様な茶色い様な硬い毛に覆われていた。光る八つの目は赤く輝き、もちゃもちゃ動く口からダラダラと涎を垂らす。
「あら? 土蜘蛛は光が苦手なはずなのに……もう食べたの? 残りの敵はあっちよ。本当は巻物の為に使いたいのだけれど」
金属の扇子を折り畳み、タカを示す。先が尖った太い丸太の杭の様な蜘蛛の前二本の腕が持ち上がる。タカはその八つの赤い光に不気味なモノを感じた。
「子馬を、喰ったのか?」
その腕は高々と持ち上がると、素早く避けたタカの眼前に突き刺さる。
「危ない! 余波教授」
もう一本は嬉しそうに蜘蛛を見上げていた教授の前に降り上げられた。だが桜嵐の忠言も聞こえない様に見入って動こうとはしない。
教授が串刺しにならなかったのは、タカから割られた額から血を流しながらも桜嵐が教授の所まで戻り、その手を引いて後退させたおかげだった。蜘蛛の足は深々とその地面に突き刺さり、抜くと辺りの樹の根を断ち切り掘り起こす様な形になり、幾本かの樹が折れ、倒れた。その圧倒的な破壊力と大きさに教授はしごく嬉しそうに、桜嵐とタカは驚きに目を見開いた。
「きょ、教授。こ、こんなに大きいのですね。土蜘蛛。だだ何か様子が変……」
蜘蛛は手当たり次第、地面を抉り、タカや二人の女性目掛けて見境なく腕を振り降ろし始める。流石に余波教授も真面目に後退しながら、
「あら、まぁ。怒っているみたい。制御が利かないわねぇ」
のんびりと扇子で仰ぎながらそう言うと、扇子を閉じて、
「さぁ桜嵐。怪我を手当てしなきゃね。ココは任せたわ。そこの貴方」
「じ、自分が呼び出しておいて、逃げる気か?!」
タカがそう言うと教授は声を出さずに笑った。
「大丈夫、貴方は良い餌になるわ、前田 鷹槍。今日、餌にならずに生き残っていたら、改めて巻物の贄になってもらうとするわねぇ。もっともその子を止めないと、そこの町は大変な事になるのじゃないかしら?」
「ってめーは、餌だとか、贄だとか、こないだの葉子さんの事と言い、子馬や町への扱いと言い、おめぇらは人が人として見れねぇんだなぁ」
「何とでもお言いなさい。この隠された源氏の『雲隠』の謎解きは私が生涯をかける夢なの。夢の為なら何でもしなきゃ、でしょう? たくさんの死体が欲しいのよ。この蜘蛛に轢き殺されてたくさん死ぬと良いわね。そうそう、巫女を差し出せばその数が半分で済むかもよ?」
「馬鹿言うなっ! 俺の娘だっ、お前らの好きなようにはさせねぇ。子馬の分も……」
「勝手に殺してません? 俺ココですよ~」
蜘蛛が一気に土から這い出て、立ち上がったために見えなかったが、子馬はその背に小刀を突き刺してぶら下がっていた。やっと気付いたタカは眉間の皺を緩ませ、ふっと安堵の笑みを浮かべる。
その時、子馬は激しい動きをする蜘蛛から振り落とされた。幸い人間にしては大きく丈夫な巨体はその衝撃に耐え、蜘蛛の足の攻撃を辛くも避けながら、タカの側に舞い戻った。
「こんな紛い物の土遁術を行使するなんて……」
「あらあら、貴方、食べられてなかったのね」
蜘蛛の攻撃範囲を外れると、付き従う様にしていた桜嵐に、白いハンカチを教授が差し出す。彼女は嬉しそうに頬を染めながらも、
「ま、まだ戦えます。大丈夫です」
「私の指示が聞けないの? このまま帰って、たくさん死体が出たならまた来ましょう?」
「わかりました。教授は大丈夫ですか?」
「ええ。貴女のおかげで。では名残惜しいけれど……ごきげんよう」
カシャっと音を立てながら閉じていた扇子を再び開くと、ふわふわとそれで仰ぐ。銀の粉が巻き上がり彼女達が包まれる。二人は労わりあいながら姿を消した。
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更新タイミングが掴めません。不定期更新となります。
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『以下2名:悪役キャラ提供企画より』
『桜嵐』呂彪 弥欷助様より
『余波教授』 アッキ様より
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