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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月1日

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奪還戦デス22(悪役企画)(謎の配達人)

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『現在小藍様の所で汐ちゃん奪還戦(11月4日付)に賀川参加中。

当方現在12月1日。『アリス奪還戦』は『汐ちゃん奪還戦』より一か月ほど『後』の話になります。メンバー構成的にも混乱するかもしれませんが各々『別日』の話になります。

では、お楽しみくださいませ』

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欠けゆく意識の中。

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 海に沈んだあの人の残した赤いトカゲのような指輪。

 アレが欲しくて、身を堕とした。



 そんな事を知られているとは思わず、反射的に微かに眉が上がった。賀川と同じく夢で自分の事を見られたなど、非現実すぎて普通の女なら信じられなかっただろう。だが彼女は非現実に浸され、泥と血にまみれた。だから世の中には普通では知り得ぬ事を『わかる者』が居るのだろうと理解した。だから追って来てくれたのか、それがわかった彼女は驚いた表情をしたのは一瞬で、穏やかに音を発した。

「笑っていいのよ、バカな女だと……それでも……貴方と、最……に話せ、よか……たわ」

「……笑うかよ」

 絞り出すようにして、微かに囁いた。

 知らずと伏せていた顔。架かった『橋』は意味があったのかと。どうして自分に彼女の過去の記憶が流れたのかと、レディフィルドは心に問う。ゆっくりと頭をを上げると、その蒼の瞳を真っ直ぐに向けて。

「お前は、そいつが持ってた『物』が欲しいのか? 形見の品が。そいつを感じる事の出来る物が? そいつへの『想い』で、ここまで来たお前が? 違うだろ」

 逸らさず見つめて返す。

「そいつに想いを――、そいつの、想いを感じたいんだろ」

 薄く、彼女が笑う。そうだったのかもしれないと。指輪を追う事で思いが届く気がした。いつの間にか色々が入り込んで鈍り、それが遠くに霞む。

「届けてやるよ、俺様が。そいつに、撫子の想いを。んでそいつの想いを、撫子に送り返してやる。それでも――、「証」として、赤い指輪(ソレ)がいるなら。頂戴して(いただいて)来てやるよ、俺様が」

「……そんな、の……無理よ……」

 フィルの言葉に、ガラガラと瓦礫が崩れ落ちる中、切れ切れに呟いて首を振る撫子。

 それにニヤリ、口角を上げて。

「誰が、言ってると思ってんだ。俺様だぞ? 俺様に、出来ねぇ事はねーんだよ。……だから」

 そこまで告げて一端言葉を切り。彼女の体を抱いてない、あいた手をすっと差しのべるフィル。

「俺様の手を取れ、撫子。そうすりゃお前が堕ちたその場所も、お前を苦しめる何もかもを、ぶち壊して終わらせてやる」

 撫子は思う。

 もしこの手が掴めたなら。そして少し、時が、タイミングがズレていたなら、と。そうしたなら田中を上手くやり過ごし、レディフィルドの手をしっかりつかむ事も出来ただろう。時貞 玲と言う男のどこまでも暗く心配げに向けられた瞳に頼っても良かったのかも知れない。

 でも田中に本心を吐く事は、嫌気がさしていたあの組織への決別であり、避けられない彼女の中の儀式でもあった。

 自分が貰った事のないおもいのあるキスと、裏切りのない真摯な男達が、大切な女へ向ける守りの『翼』を見た時、すでに撫子は自分の道を決めていた……もう操り人形にはならないと。その為に思い付いた花咲く場所は、賀川の思った通りに『死』へ繋がっていた。



 最後にこうやって誰かが手を差し伸べてくれる。

 想像など撫子はしなかった。



 冷たい床で田中おとこにバラバラにされるのだと思っていた。

 戻れば再びまなぎは自分から『疑問』を取り除き、『矛盾』を考えさせない様にして、見せかけの『自由』に戻る……それは撫子の思う自由ではなかった。彼の名を呼ぶ事、いや覚えておく事もを許されない、閉鎖された空間で、忘れた事さえオカシイと思わず過ごす、『あんな所』に戻る気はなかった。戻ればきっと、今度はあの人の名だけではなく、すべて忘れさせられる……それが怖くて。

 それなら行く所は一つ、一人で冷たくなるのも厭わない……撫子には『橋』がかかったなど、レディフィルドのように知る事はなかった。

 けれど彼が最後を見に来てくれた、それだけで撫子にとっては『充分』だった。それも間際になって想い人は事故死ではなく殺された事、その男の正体を知っても、完全に絶望へ堕ちないのは優しい海色の瞳が見守ってくれているからだと撫子は思う。

 ハズレばかりを選んだ人生だったと思うけれど、あの人に会えた事と最後に優しい俺様に見守られて逝ける事だけは、素直に神へ感謝した。

「自分で選んだ道よ。そんな顔を、しないで。ねぇ。もし、貴方が指輪を手に入れる事があったなら…………海に……」

「もしじゃねぇ! 必ず、手に入れてやるっ」

「そう、楽しみにしてる、わ……さよなら、可愛い子。とても楽しかったわ……」

「ダメだ。まだ、だっ。生きろ、撫子。……今度こそ、そいつの為だけに」

「……この思いは許されないのよ、ど、こで間違ったのかしら……私はあの人の、形見欲しさに……身を売っ……汚い、女、よ………………」

「許されない、想いなんかねぇんだよっ! 体も心も、こんなにボロボロになるまで……。汚くなんかねぇ……お前は綺麗だ、撫子。強く、気高い想いを持つ者。……ただ、その想いを通そうとして、ちょいと迷子になっただけだ。お前はやっと、また『想人(おもってるヤツ)』の事だけに、心を砕いて生きて……行けるんだ」

 彼女が差し出さないなら。と、レディフィルドはまだ温かい手を握ってやる。

 生きろ、そう言ったものの、触れてみればわかる。田中に砕かせて穴の開いた彼女の砂時計いのちは、既に落ち切っている事に。微かにも息をかければ吹き消える砂煙のような時間。

 辺りは無駄と思えるほど赤く燃え盛っていると言うのに。

「そ、ね、今から、そうする事に、するわ……あり、がと、ぅ」

 疎らになって行く意識の中で、撫子は白い少年の言葉に従うと笑う。それを受けて少年はおどけたように、だが本当は真剣な思いを込めて、

「あんな奴とのキスが最後、とかねーだろ……」

 彼は彼女の頬についている血を指先で拭ってやりながら、

「あんな場所から解放されたなら、イイ夢見たって誰も文句は言わねーよな。だから……塗り替えてやるよ、あんな記憶(キス)。……俺だ、なんて思わなくていい。撫子(おまえ)は、想い(そいつ)の事だけ考えてろ」

 そう言って唇を軽く、全てをいたわるように重ねた。

 レディフィルドは自分の呼吸を送り込みながら、深く舌を差し入れる。苦しまない様に。

「……っぁ」

 撫子の唇を食み、求める動きに従い、彼は優しく歯列をなぞり、その隙間に彼女の思いを受ける。くちゅりと音を立てるそれは、死を前にした彼女なでしこの為だけを想い交わす、深い祈りを込めたキス。悪戯など微塵にもない、約束と優しさを込めて。

「必ず、奪ってきてやる……」

 彼は持つ力故に、見てしまった、叶わなかった女の心を。真っ直ぐだった彼女が歪んだのは、人間の弱さ故。身を穢されて、心も体も、末には足まで失って。でも彼女の思いはただ一つ。欲したのはただ、一つだけ。多くを望み手に入れる者がいるのに、その一つさえ手に入れず、愛した者の名さえ忘れ、苦しみ抜いて、穢された気持ちのまま死ぬのは、自ら選んだ道とは言え、余りにも哀れで。

 まやかしでも、柔らかな気持ちに最後に誘ってやりたかった。

「最後まで、だ……」

 心の中でレディフィルドは呟いた。

 彼女は血の味が消えていくのを感じ、海に体をゆだねたような穏やかな気分に心を攫われる。火事が起こした対流が、髪を揺らすのが、彼の暖かい手を思わせたのは気のせいだったのか。彼女を見送る青の瞳は、想い人を抱き止めた海と同じ、そして最後に見たかったと望んだ海の色。

 彼女が彼だけを思い、レディフィルドに身を委ね生きていたのは僅か数秒の事。

 撫子の閉じた目から、自分を捨てたあの日以来、零れる事のなかった涙が一つ、落ちた。

 その涙を手の甲に受けたレディフィルドは、重ねた彼女の手をゆっくりと握る。だが……もはやその力が返される事はなかった。

 辺りがもうもうと熱を帯び、建物の崩れが加速する。

 離したくない、そう思うほど柔らかく艶やかな唇はまだ若く、命はないと言うのにとても温かく、微笑んで見えた。レディフィルドはもう物言わぬ彼女を見やる。下唇に付いた血を最後にぴちゃりぴちゃりと優しく丁寧に舐めとってから、地面に彼女を寝かせた。

 そして脚から切り離された足先からヒールを脱がせると、爆風を防ぐのにもうボロボロになっていたターバンを二つに裂き、両の足を元の通りに手早く縛る。愛しの者の所まで歩いて行けるよう願いを込めて。

 その足は田中が刻んだ惨劇など知らぬ様に、大きなリボンで飾られた様に可愛らしくさえ見えた。布に織り込まれたセラミック糸が回りの炎に煌めく。

 レディフィルドはそっと彼女の耳元から手を差し入れて、撫でる様にその黒髪を一房を切り取ると、側に並べたヒールをしっかりと腕に抱え、

「靴は、この戦いが終わったらすぐ、想い人(そいつ)の元に送ってやる。髪は、取り返した指輪と共に。……先に、そいつの元にいっとけよ。送還して(おくって)やるから」



 そう呟いて、炎が舞う中フィルはスペルを囁き紡ぐ。



「……〈K〉カノ」

 炬(松明の火)



 呟かれた言葉ルーンと共に周囲を赤々と照らし出すその炎から。

 小さな火の粉が、炎の花が生まれ出で。

 横たわる撫子の身体に、優しく優しく降り積もる。

 纏わせたカーテンが、足を飾ったターバンが。

 聖衣のようにふんわり揺れる。

 血で描かれた苦しみの花を打ち消して。

 柔らかな撫子の、花を模した葬の炎が。



 それは少しずつ少しずつ、撫子のその身体を焼いていく。

 死して尚、辱められる事などない様に。

 想い人以外、もう誰の手も彼女に触れられない様に。



 それから目を逸らさずに、フィルはそっと口ずさむ。



『眠る君に

 前に進む(旅立つ)為、闇を祓う(ひかり)をあげよう


 その先はきっと

 贈り物みたいな

 愛しい者達に囲まれた

 幸せの扉が、開かれているから


 そこへ辿り着く為に

 なにものからも守って

 導いてあげよう


 君の名を冠した

 花と共に――……』



 撫子の花言葉は『純愛・無邪気・貞節』。

 彼女の光は愛しの君に出会った事、闇は想う彼が死して尚その愛を追った事。その生き方が純愛だったのか、事態に歪められた偏愛だったのか……見る者の目によってそれは変化するのだろう。



 撫子とレディフィルドの間。

 出会い、そして別れは瞬きをするほど短く。

 他人の目からはその意味はあったのかわからない程。

 だが偶然に絡んで、架かった『橋』は深く彼らの人生を結びつけ……

 心を確かに通わせた。

 それは単純な愛や恋ではない。

 心の共鳴。



 約束を。



 白き髪の男の、その蒼の瞳から、一粒の雫が滑り落ちた。



 炎の中で彼はかつて自分がおくった『忘れられない人』に声を送る。

「アウリヴェーラ。まだ、天国(そこ)にいるなら。……いや、アンタならいるんだろーな。俺がまだ現世(こっち)にいるなら、転生(生まれ変わる)なんて、心配性なアンタにゃ出来ねぇモンな。……悪りぃ。今、そっちに一人送った。温かく、迎え入れてやってくれ」

 高温の起こした空気の対流に巻き上がる白髪。

「ティアリアニィ。お前も、いるんだろ? なら……撫子(そいつ)がもし迷子になってたら、ちゃんと導いてやってくれ。それにそいつの想い人が、まだいるなら。会わせてやってくれよ。お前、〈探し物〉は得意だろ?」

 揺れる炎の赤が一段と高く燃え上がる。

 天井が煤けながら壊れ、燃え落ちる。

 それを避けるのに反射的にその場を動く。

 しかし離れがたく、反射的に彼が振り返ったその炎の先に。

 懐かしい女性達の姿と、子供達の笑い声を聞いた気がし……

 まさに今、手を離した女が……懐かしき誰かに手を引かれているように見え……

「おま……」

 ソコにあるすべてを導くかのごとくに舞い上がる火の粉。

 だが、そちらへ手を伸ばしかけた彼の体は、それを受け入れる事無く強く逆風が吹き。



 その時、建物が大きく崩れた。


lllllllllllll


『レディフィルド君の言った『二人』の詳しいお話は小藍様のお話で語られます。

 そちらアップまで楽しみにお待ちください』

 また小藍様よりイラストをいただきました。

 そのまま掲載の許可が下りませんでした……素敵でしたのに。

 で、色塗りをすれば掲載OK……と、言っていただいたので、ワードにて色塗りさせていただきました。


挿絵(By みてみん)


 敵ながら悲運を辿った彼女に花葬を。


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書く時間も更新時間がまだ取れにくい状況です。

更新不定期更新とさせて下さい。

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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

レディフィルド君



『以下3名:悪役キャラ提供企画より』


『木曽 撫子』

YL様より


『早束 まなぎ』

とにあ様より


『田中』

さーしぇ様より



お借りいたしました。

問題あればお知らせください。

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