奪還戦デス2(悪役企画)(リズさん)(謎の配達人)
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侵入前に。
少し巻き戻し。
フィル君の目線で眺めてみましょう。
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『現在小藍様の所で汐ちゃん奪還戦(11月4日付)に賀川参加中。
当方現在12月1日。『アリス奪還戦』は『汐ちゃん奪還戦』より一か月ほど『後』の話になります。メンバー構成的にも混乱するかもしれませんが各々『別日』の話になります。お楽しみくださいませ』
目的地到着を前に、賀川が口を開く。
「五分くらいで歩ける所におろしてくれ」
「生きてたかぁ? どーせだから建物まで運ぶぜ?」
そう言ってみるが、賀川は否定的に首を振る。問答したい所だがそう言う雰囲気じゃねぇ。目は虚ろでどこを見てんのやら。しゃーねーなと俺様は近くの木が疎らな茂みにルドを舞い降ろさせた。
たまに無意識に呻きながら、死んだように羽根に埋もれていた賀川は体を起こす。次いで滑る様に白い鳥の足元に崩れ落ちる。着地すらままならない状態でも、行くと言う男に俺様は半分呆れて言い放つ。
「おいおい、そんなで歩けんのかよ?」
「ああ『調整』する。だから、ここでいい」
自分の拳を膝に叩きつけ、やっとの事、立ち上がる。
俺様が見た時、すでにヤツの腹には服の上から厚く包帯が巻かれていた。リズによれば、傷口は一応塞がっているらしい。
だが纏ったコート、服は背中から腹を貫通した位置が切り裂け、本来青い筈のジーパンは、既に黒く変色していた。おびただしい程の血が流れ、命を削っていたのが見て取れる。ラザが、あれほど懸命に俺様を呼んだってのに、平気を装う賀川。前もだったが何か『必死』な奴だと思う。倒れても、誰も文句は言わねぇだろーに。
「特別、褒賞もない仕事だ。でも来てくれるなら二人は上空から、後十分程したら向かってくれ。俺は地上から行く」
「私は……物欲しさに動いてるんじゃないっス」
怒った様にリズが言うと、賀川は微かに笑い、
「ありがとう、でも良く考えて来てくれ。……目的は建物に侵入してアリスを救うことを第一に、二番目に機械の『アリス』より目を取り戻す事。ただ何より自分の身や立場を最優先に頼む」
それだけを告げ、『来てくれたら嬉しい』と付け加えて、有無を言わさず山の木々の間に消えていく。先導するのは奴を慕う一匹の小さな鳩、ラザ。ドリーシャと名付けられたのが余程嬉しかったらしい。『すきなモノはスキ〜』……そう言うストレートな鳥の台詞を、聞かせてやりてぇ。どんな顔をすんのか、考えただけで笑いが出る。
笑いを噛み殺しつつ、俺様とリズはその背中を目で送り出し。
「……っかし、可っ愛くねぇの〜。ここまで引っ張って来たくせによ。素直に『来い』って、言やぁいーのに。なぁ?」
「そうっス。『来てくれたら嬉しい』って、私達が来なくてもどうにかできるつもりっスかね?」
リズは鼻でふんふんと息巻いた。ただすぐ反省したようにシュンとして、
「でも恋人なんて持った事はない私にだって、恋人が自分のせいで死んだとか辛くって仕方ないのくらいわかるっス。その妹さんが目を……って、考えるだけで完全に鬱っスよ。そう言う現実を前に、気軽に『来い』って死地に誘える人なんていないと思うっス。考えた事もなかったっスけど、賀川さんの『臭い』は彼女の『死』を魂に刻み込んでいるからかもしれないっス……」
今回この地に来た時、俺様直々に手紙の返事として花を二本届けてやった。『それは……『完璧ではないけど愛してる』って言う意味で、俺のせいで死んだ元彼女と……喧嘩した時に『許してあげる』と言ってくれた花……それと同じなんです』近くに居た先生にそう説明したヤツの姿はそんなに遠い日の事じゃない。
何かが決壊したかのように零した涙の結晶は美しく、綺麗だった……
「……『完璧ではないけど愛してる』って言ってくれた『俺のせいで死んだ元彼女』……かよ」
人の、生の中で愛してると告げられる事の大切さ。
別れても、死しても尚大切と思う者、そしてその妹。その目が抉られ、無機質な機械に嵌められた、など考えただけで鳥肌が立つ。
俺様が守るべき汐……の、姉妹の誰かがそんな事をされたら、相手を何度、殺し尽くしても飽き足らない……置き換えればそう言う事だ。
今、ヤツは白髪赤目の雪姫と縁あるようだが、手紙を書き、更に返って来た所を見れば、その元恋人との縁も深く、死が二人を別たなければ……
「ちっ、面倒な奴だなぁ〜カガワぁ……」
リズから受け取ったスポーツ飲料を飲み終われば、約束の時間になっていた。
「フィル、行くッスよね?」
「ああ。行かねぇ訳にはいかねぇだろうが。俺様達が居ねぇと、なんも出来ねぇだろ。アイツ」
「っスよね!」
ルドが甲高く鳴き。再び空に舞い上がり、大きく翼を揺らす。すぐに見えてきた建物の回りは、聞いていたより物々しい。車の出入りがある。笛を吹くと、賀川に連れ添っていたラザが戻ってきて一鳴『くっくるぅ〜』っと返事する。
「よっく働くじゃねぇかよ〜」
そうからかってやるも、嬉しそうにして、言われるまでもなくその車を追跡に入った。ホントに生き生きしてやがる……
「さてと、どうするっスかね? 屋上も人がいっぱいっス。賀川さんはあの怪我っスから、建物にこっそり入ってアリスさんを探す気だと思うっス」
「ああ、だな。とりあえず、弾ぁ減らすかぁ」
上空から迫る、人間界では考えられない大きな鳥の出現に、地上の人間達が動き始める。ルドを撃ち落とさんと銃声が山間に響く。
「いいかぁ、とりあえずギリギリを飛べよぉ」
「出来るだけ派手に行くっスよ!」
俺様がルドを指揮し出すと、リズは両の手の指先に炎を灯した。
「火炎系か」
それを合わせて大きくし、ボールのごとく投げつけ、落下させていく。
建物に当たればその爆音が辺りに響き、その威力は頑丈そうな壁をがつがつと砕く。炎は地面に落ちると乾いたボウボウの雑草を燃やして猛火となり、煙は人間の判断を狂わせるのにちょうどよかった。
突然の事に右往左往する者達の中、建物から小柄な少女が出てくる。
軽くウェーブした髪は長く、地面に着く程。幼児を思わせる可愛らしさ。
「何だぁ、ありゃ……随分と、可愛らしいのが出て来たじゃねぇか。あの長髪ロリっ娘が『アリス』か?」
俺様の想像だともっとこう、賀川を翻弄する感じの『女らしい女』を想像してたんだがな。リズはチラ見すると、
「アレは違うっスねぇ。黒髪に緑の目をした、もっとお姉さんっぽい人形だったっス」
仲間には奈保と呼ばれている長髪ロリっ娘は見た目は可愛らしいが、それに似つかわしくない程の行動力があるようだ。その辺で単発で行っていた消化活動をまとめ上げ、建物に備え付けられた消火用ホースを準備させると的確に火元を押さえていく。
だがリズは容赦なんかしねぇ。次々に火の玉を構成し、爆弾よろしく投げ降らせる。俺様はルドに弾を掻い潜らせながらも、リズが火炎を投てきしやすい位置に羽ばたかせる。
「これなら賀川も少しはラクに……」
侵入できんだろ、そう結ぼうとした俺様の耳に、リズが発するモノとはまた質が違う爆音が響く。
平和な日本ではついぞ聞かない『地雷』の爆発音。突っ込み、ひっくり返った車。更にその周辺が次々に爆発していく。それを縫うように黒い影が跳躍し、走り抜けるのには目を疑った。
「どこがコッソリだ? リズ……」
「あっ……れぇ? 賀川さんっスよ……ねぇ?」
「あぁ……………………あんまり考えたくねぇ」
地雷原を真っ直ぐ走って行く賀川の姿。誰も怖くてその後は追えてない。まだ不発の地雷だってあるだろうに、一線に走って行く。いつ爆発するか、こっちの方がハラハラするだろうが! っと、怒鳴ってやりたかった。
地雷を埋めているって事は、そこに行かせたくないと言う意図の表れでもあり。また防御の弱い部分を補うため。闇雲に建物の中を掻き回し、あるかないかわからない入口を探すよりも効率的とも言えるが、
「今さっきここで、死にかけてた人間には思えねぇな…………」
気付いちまったなら援護しねーと、と俺様は獲物を構える。
地雷じゃ賀川を吹っ飛ばせない事に気付いた屋上の連中が、一斉に銃を放ち始める。ほぼ真っ直ぐ動く賀川は狙い易い。
「俺様なら、一撃だぜ?! 敵じゃなくてよかったなぁ〜カガワ」
そう言いながらギリギリまでルドを寄せ、手に針を持てるだけ握り、狙撃者を次々に倒していく。その間に賀川は手榴弾を使って道を切り開いて行く。何個か……どう見ても足元で爆発してっぞ、おい。それを逃げ切る姿は突っ込みどころ満載過ぎて笑いが込み上げる。
「っとに、派手に行きやがるっ。おっ前〜、負傷してんのわかってんのかぁ? それじゃ俺様達が陽動した意味、ねーだろぉが」
一応、声を上げて抗議する。奴の耳なら叫ばなくても聞こえてるだろうが。
ついでに賀川へ向かう銃弾や地雷の破片の幾つかも軌道を逸らしてやる。本人気付いてねーだろうが、俺様が針で防がなかったら、手足の指数くらいは風穴があいてる所だ。感謝しやがれっと思った瞬間、
「ナイス! レディフィルド」
なんて声が賀川から届く。ナイスじゃねぇ! っと叫びかけた所で、俺様は傍らに炎を感じなくなっている事に気付く。
「あれ? リズの奴がいねぇし……」
「いっちばーん! 先に行ってるっスよ〜フィル〜」
と、軽快な声を上げ、ルドの背から飛び降りていくリズ。
ギョッとする。
かなり寄せたとはいえ、ライフルや散弾銃を避けながら建物に近付いている。人間が舞い降りれる高さじゃねぇ。ま、指から火炎を取り出せる時点で、普通の人間じゃあねぇだろーが。アプリの奴が『おっきいワンちゃん』だとか言ってやがったが、強ち嘘じゃねーのかもな。しなやかなその身のこなしは、獣のソレを思わせる。
「行くっスよぉ〜」
更にこれまた容赦なく屋上に居た奴らを、地雷原に放り投げやがった。誘爆で賀川の近くの地雷も噴き出した。だが賀川、本当に何かが取り憑いているのかもしれねぇ。間一髪避けると、
「外回り! 任せたっ! レディフィルド」
人様に任していく。勝手に任すな! そう俺様が呟く間もなく、賀川は建物の窓から内部を爆破して、その中に飛び込む所まで視界に入れた。
ククッ! ククルルゥ……
その時、ルドが警戒の声を上げる。
「ちっ、寄せすぎた!」
リズが居なくなった事で火災が収まり、そのホースがルドに向けられた。強い水圧、予期してなかった攻撃だが、下は地雷原じゃなく、建物正面。俺様は瞬時にルドを小型化し、猫のようにクルリ、着地して走り出す。
「一発、当ててあげなさい!」
ホースの水圧は人間を吹き飛ばすのに余りある。長髪ロリっ娘の策は悪くねぇ。けど、消防士でもねぇ男共には操作するのも難しい。それでも苦戦しつつ、俺様を追ってくる。
「ルドッ!」
俺様はもう一度ルドを巨大化させると、ホースを『鷲掴み』一気に上昇させる。文字通り鷲だけに、面白いようにガッツリ掴まれたホースに、ソレを押さえたり捌いたりしていた人間までがゾロリと吊り上げられ。早くに手を離す判断をした奴はまだしも、高くまで上がり、落下した人間の安否は危うい。命あった者は全身の骨が折れた痛みでのた打ち回り、リズが起こした火災とホースの水でぐちゃぐちゃになった真っ黒な土の上で醜態を晒す。ルドの足に吊り下がった奴も居るから、仲間を思ってか流石に銃撃は止んだ。
「行くのよ! 早く。相手は小さな子供じゃないのっ」
「お前もじゃねー?」
言葉を辿るとこの長髪ロリっ娘、本当の年齢はタメくらいかも知れねーな。
ルドの持ち上げに巻き込まれなかった奴らが、俺様に向かって砂糖のように群がる。
「るっせ〜よっ!」
長針を逆手に握り、迎え撃つように突っ込んで行く俺様。
腰を低めにしてすれ違い様に脇を突き刺し、腹に蹴りを入れる。素っ飛んで行く男に代わり飛びついてくる奴の顎に拳を叩きこみ、背負い投げる。普通のガタイをした者なら、苦も無く投げられる。
押さえこみ? そんな状態に持ち込まれるまでもない。針を腕に打ち込み、逆の手で引き抜く。的確にツボを貫通した痛みは全身に回り、ほとんどの人間が動きを止めるってもんだ。
「ちょこまかとっ!」
「文句があんなら、捕まえてみな」
するり、くるりと俺様はその手を掻い潜り、ナイフを握った者を絡ませて同士討ちさせ。殴る腕が後ろの壁にぶつかる寸前まで引き付け、軽くステップを踏んで避けて行く。縺れているので誰も銃を打って来なかったが、ガチンと硬質な音が届き、誰かが打ち始める気配がした。
「殺れないなら、一緒に死になさいね」
「正気かよ……」
柔らかな声。浮かぶ笑みは穏やかだが、冷たいソレを感じずにはいられない。
可愛い顔に姿をしてるってのに、散弾銃を敵味方関係なしに構える長髪ロリっ娘。
「こっちだ!」
俺様は撃ち始めるその銃口を引き付けた。トリガーが引かれ、無差別発砲を始める瞬間、雑兵達の顔色が変わる。だが長髪ロリっ娘の指はトリガーを引き切る事なく、滝のように急激な勢いの水が彼女を襲った。
「きゃああああああああっ」
その勢いはすさまじかった。上空でホースを掴んで流れを止めて空中静止状態で漂っていたルドが、一気にその水を解放して周囲にブチ撒きやがったんだ。瞬間的な水圧は津波に匹敵する勢い。俺様はしがみ付いていた奴らを振り払い、来てくれたルドの足にすぐに救われた。
水は山を下り、流された長髪ロリっ娘は近くの岩と樹に頭を激突させ、気を失っていた。止めを刺そうかとも思ったが、水圧で流されず気を失っている女を、意識を失なわなかった者達が取り囲んで見下ろしていた。
奴らはついさっき、自分達が長髪ロリっ娘に殺されそうになった事を、覚えている。
俺様の事なんかもう眼中にない。何とか襲われる寸前に彼女が意識を取り戻し、走り出すのが見えたが、この後どうなるかを観察する暇はねぇ。転がったやつらにもう反撃する意思はなく、屋上の奴らはリズがほぼ片付けて行ったらしく銃口はなかった。
「水も滴る良い男ってかぁ〜。にしてもあーさむっ! 誰かの服、頂戴してから次行くとすっかぁ〜」
呟きながらルドを肩のりサイズに変化させ、鼻歌交じりに笛を吹き吹き、建物正面から俺様は堂々、その内部へと入って行った。
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
ドリーシャ(ラザ)、レディフィルド君、ルド君 アプリちゃん
『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
リズさん
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『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『松葉 奈保(次女)』
パッセロ様
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




