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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月1日

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300/531

交渉中デス(リズさん)

llllllllll

戻りたい。いや、戻らねば。

llllllllll

 





「駄目っスよ。あの二人が気持ちで治してくれただけっス。本当に治った訳じゃないっスよ?」

 リズさんが声を上げた。何となくそれはわかっている。だけど俺は素っ気なく顔を背けた。呼吸がそれなりに出来る、痛くはない、苦しくないなら……行ける。

「別にいい。とりあえずさっきよりマシだ」

「ユキちゃんが、何かあったらユキちゃんが悲しむッス。だから二人も治してくれたのに……」

 見ず知らずの二人がどうやってか表面上傷を癒してくれたのは、ユキさんの知り合いだかららしい。俺の白い女神を思い起こし、ああ、何食わぬ顔でこのまま帰って普通に彼女に『ただいま』と言いたいと考えなくもなかった。だけど。俺は拳を握る。

「アリスが居るんだ。目を奪ったとかあり得ない! あり得ないだろ、リズさん……ああ、早く行ってやらないと。ね、リズさん何か飲み物とかがない?」

「ねぇ。ありす、ありすってさっきから誰っスか? あのアンドロイドをスーツの男はそう呼んでたっス。確かに人の目を奪うなんて確かにやっちゃいけない事だとは思うっスけど。あ、スポーツドリンクとチョコがあるっスよ」

「アリスは俺の昔の恋人の妹。ありがとう。貰うよ」

「昔の恋人ぉ!」

「俺と恋人のアリサ、妹がアリス。アリサとは別れても……仕事仲間で仲が良かったんだ。でもアリサは死んだ……俺のせいで死んだも同然だった。アリスからは相当恨まれたが……やっと仲直りできた」

 かなり端折った話ではあったが。アリサが死んだ時が胸に過ぎって俺は顔があげられなかった。死んだ彼女に手紙を書き、送られてきた花に涙した日はそんなに遠くない。ああ、きっとどこかで許されたのだと思っても、どこまでも後悔が消える事がない、自分が死ぬまで冷たくなった彼女を忘れる事はない。

 リズさんは神妙な面持ちでその話を聞いていた。俺はもらったドリンクとチョコを流し込む。余り美味しい組み合わせではないし、飲み込むだけで腹や背中に苦痛が襲う。俺はあの『アリス』みたいに、水があったからと言って治るわけじゃない。でも気休めだが体力が少し回復した気がした。

「さっきの『アリス』って槍持ちのアンドロイドは……生前のアリサそっくりなんだ……」

「賀川さんの元恋人の姿を取っているって言うんっスか? 何て卑怯な……」

「……アイツらからアリスの目を、そしてアリスを取り戻さなきゃ……もしかしたら目を取り戻せば、八雲先生なら元に移植できるかもしれない」

「八雲先生?」

「タカさんの知り合いで、本国で俺も世話になっていた。北うろなの駅周辺のビルの地下に病院がある。確証はないけど、やってはもらえると思う。しかし……本国じゃあ、アリスは特殊な組織の構成員。だからいろんなプログラムに守られているんだ」

「本国……って事は賀川さんも昔はそうだったんっスか?」

 俺は曖昧に頷いた。正式な扱いではなかったがそこに居たのは間違いなかった。

「だからあっちじゃぁ襲わずに、今日、日本に来るのに合わせて狙っていたんだ。それから俺の姿をしたもう一人のアンドロイドの内部チップは、前にユキさんを攫ったアンドロイドと同じヤツだ。金剛、あいつは粉々に処理したはずなのに……」

「な、ユキちゃんを攫ったっスか?」

 アリスが目を付けられ、攫われたのは間違いなく俺と、遠くはユキさんと関わっているからだ、無作為じゃない。引いてはユキさんの身の不安に繋がる事。そう考えると居ても立っても居られなかった。

 靴の裏にもう何も刺さってないのを確認して履く。フラフラするが動けない程じゃない。立ち上がると木を伝う様にして歩きはじめる。

「ど、どこに行くんっスか?」

「ああ、あそこまでどれくらいかかるか、わかるかな。リズさん。アリスを……」

 空を見上げる。

 山の中、太陽で方向を確かめた。もうすぐ昼か、そう思う。あの廃墟に戻れるのか、不安が過ぎらなくはない。でも戻らなくてはと思った。

「……アリスを助けなきゃ」

「し、仔細はわかったっス。けどそんな状態で行っても、返り討ちに合うだけっス。賀川さんはうろなに戻るっス!」

 ココから……リズさんと数分ほど、行く、行かないの押し問答となった。

「言う事聞いて欲しいっス! 何もアリスさんを見捨てろってわけじゃなくて、賀川さんを届けた後に私が行って、必ず救って来るっス」

「駄目だ。一度うろなに行ってからじゃ、間に合わない。場所を知られたんだ、雲隠れするだろうし、目を取ったアリスはたぶんあの男の中じゃぁ『不用品』だ。すぐに殺される可能性も高いっ」

「っ! でも、どの道、そのスピードで歩いてじゃあ、間に合わないっスよ!」

 もう殺された、かも。

 俺の頭にもリズさんの思考にも間違いなく過ぎったが、流石に口には出来ない。

 よく覚えていないが、何かの生き物に乗せられて俺は移動していた。その生き物は見当たらないし、リズさんは見も知らないアリスより、俺を優先する。その上で俺をうろなに届け、アリスの事を探してくれるとも言ってくれている。彼女的に道理は通っているが、そうするには時間がかかり過ぎる。

「じゃあ、頼む。俺はココに置いて、まずアリスを。アリスの所へ行ってくれないか……」

「こんな山の中に死にかけの賀川さん一人置いて行けないっス! でもまたあの場所に賀川さんが行くのは死にに行く様なモノっス。うろなヘとにかく帰るのが先っス」

「駄目だ、アリスの命がかかってるんだ」

「賀川さんも死にかけてるのわかってるっスか??? その傷が塞がっているのは見た目だけっス」

「じゃあ、アリスの命は? 今、危ないかも知れないんだ。どうしたらいい?! ユキさんの事も気になるけど、うろなにはタカさんも魚沼先生も、子馬も……他にもいる。でも今この地に、アリスを気にかけてるのは俺だけなんだ!」

「はぁっ! 賀川さん、悪いけどユキちゃんを始め、貴方の事を思ってる人がどんだけ居ると思ってるんスか? その怪我で、私の案内無しで? 一人で? 自力で? 無理っス! 犬死は駄目っス……殴ってでも連れ帰らせてもらうっス」

「一人じゃあ駄目なら、……ついて来てくれ」

「う、上目遣いしても賀川さんは駄目っス。それ以上行くなら、本当に蹴って動きを止めるっスよ」

「だけど……」

 わかっている、わかっているけどフラフラしていても歩みが止められない。

 俺とリズさんの間に不穏な雰囲気が漂い始めた時、場にそぐわない様な『くるっく~』っと明るい声が俺の頭上に降ってきた。

「ああ、もう、ドリーシャ。お前って奴は……」

 その上、俺達の頭上を巨大な鳥の影が横切り……あり得ない、あり得ない大きさの鷹っぽい生き物が側に舞い降りた。その背から飄々とした声が飛んだ。

「意外に元気そうじゃねぇかよ、カガワ。ラザが『死にかけてる』なんてゆーから、わざわざ来てやったってのに」

「レディフィルド!」

 俺はドリーシャを載せたまま、頭を抱えた。

「ああ……もう今日は自分やアリサに似たアンドロイドに三つ首の獣、それだけでお腹一杯なのに。人を乗せて飛ぶ鳥とかありえな…………」

 そこまで言って気付く。アリスの、アリスの元までこれならすぐに飛べるんじゃないか、と。非常識とか言ってられない。俺は頭を下げる。と、いうか、そのままぐらりと地面に膝を付きながら、

「頼む! 俺を、連れて行って欲しい所があるんだ。その鳥に乗せてくれ!」

 レディフィルドは青い瞳を見開き、そしてその手にした笛をクルリと回しながら、

「乗せてくれ、ねぇ。お前がんな事言い出すなんざ、明日は槍でも降るんじゃね〜の? んで隣のポニテ女は、この前アプリと一緒にいたヤツ、かぁ?」

「ポニテ女って私のことっスか? んで、アプ……そう言えばこのデカい鳥どっかで見たっス……」

 とにかくココで話している時間がもったいない。それも槍が降ってるのは今日だ。

 俺はリズさんの手を取って、

「行かせてくれ。無理はしない……今は何より時間が惜しい……」

「何か知んねぇ〜けど、そいつが無理しねぇなんて、ありえねぇ〜けどなぁ? ま、いいぜ? 乗せてやる。ルド(こいつ)の使用料は高いけどな〜」

 そう言って茶々を入れるレディフィルドを睨んだ。


llllllllll

キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

ドリーシャ(ラザ)、レディフィルド君、ルド君、アプリちゃん


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズさん


『以下3名:悪役キャラ提供企画より』


『アリス』

『金剛』

『手塚』

全て弥塚泉様より


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。


明日はパソコンない環境にいきますので、

301話ユキ回は予約投稿しようかと思います。

続きは更新は月曜から予定、不定期です。


通算300話でした。

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