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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月1日

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299/531

逃走中デス(リズさん)

lllllll

どのくらい、寝ていた?

賀川は微かに目を開ける。

lllllll






 俺はいつの間にか気を失っていたようだ。風景が流れるように動いている。だから自分が運ばれているのだとわかった。揺れる黒い絨毯の上で、曇ったような、そして誰かが泣いているかのような声がする。

『悪かったっス、早とちりした私が悪かったっスから』

『泣くなっス。泣きたいのはこっちっス』

『もうすぐっスから。お願いっスから、生きてて……賀川さん』

 俺の事?

 リズさんの声だ、が、まるで擦りガラスの向こう側のように曇って聞こえる。それも重複して三重に……耳まで悪くなったかとそう思いながら痛みに呻き、

「ここ、どこだ……」

 やっと口に出来た呟きが聞こえたのだろう、リズさんが何処に居るかわからないが、どこからか返事がする。

『ああ、生きてるっスね? 心音が弱まったから気が気じゃなくて……』

『もうすぐ『無山』に入るっス。ここを登って抜ければ一時間……いや私の足なら三十分もすれば、うろな町っス』

『そこなら裾野も近いからタカさん宅でどうしたら良いか聞いて……』

「も、戻らないと……止めてくれ、と、めてくれ……」

 気を失う前、アリスの目を機械に移植する話や、その他もろもろを思い出し。そう懇願する。無山は地図上でうろなの西に位置する険しい山の一つ。俺は行った事がない。それは『道がない』から車は入れず、人の住まないその場所は、運送屋の俺には用事のない場所だからだ。

 列車が通り抜けるのはその山よりも北よりの、もっとなだらかな場所にトンネルが掘られている。何故なら無山がある場所は工事するのも険しすぎるから。

 また昔からその周辺に何かの信仰があったのか、その詳しい理由は覚えている者はいないが、とにかくそれ故、道も列車もそれらの山はまともに通っていない。あるのは獣道だけだ。

「はぁはぁ……とめて、くれ」

 息がまるで整わない、辛くて目を閉じかけて。本当は少し、休みたい、と、思った。けれどうろなからだと元の位置に戻るには、二~三時間は余裕でかかる。無理だ、そんなにあいつらはあそこに居ない。既にうろなが近いという事は、もうココからでもだいぶ離れているという事。

「アリスが、いるんだ」

 そう言っても全く止まりそうにないから、俺は力の限りその寝心地の良い絨毯を蹴った。

 今日は実によく回転する日だ。

 ごろごろ、地面に凄い勢いで俺は落下した。相当、スピードがあったらしい。面白いように転がって、木にぶつかって止まった。

「か、賀川さん!」

「行かなきゃ……」

 そう言った……自分が言ったかさえよくわからない。もう視界が狭まって、もう自分が虫の息だとわかった。どこにいたのか走り寄って来たリズさんが、取り縋った様にして犬の様な鳴き声付きで泣く。

「わーんわん。こんなのないっス。悪かったっス、謝るっスから、死んじゃ駄目っス。駄目っスよ、そんなの。ユキちゃんに生きて会いたいっスよね。帰るっス、とにかくうろなヘ……」

 そんなに謝らなくてもいい……悪いのは俺の間だ。そう思った時、

「うるさいな~って思ったらぁ、リズだよ。無白花ぁ~」

「……だな」

 そこにはどうやら人が居るらしい。こんな人里離れた場所に、それも二人。年はユキさんくらいだろう。良くは見えない。だがリズさんの『お友達』らしい感じはした。

「で、うちんちに変な人間持ちこまないでよぉ~臭うしねぇ」

「き、緊急なんっス! 私の誤解で怪我をさせてしまって。うろなに運ぶっス」

「でもこれ……」

「ぎゃ……左足からも出血してたっス! 何踏んだらこんな事になるっスか? てか、もともとから怪我してたっスかね? 包帯が巻いてあるっスよ」

 違和感があるとは思っていたが、機械の『アリス』から逃げる際、目を蹴りつぶした。その時の破片がどうやら靴裏を突き破って足まで達していたらしい。

「リズ……どうせこの男の命、町まではとても間に合わない」

 そして俺の腹部の出血量を見て、無感動にそう言われた。

「そ、そんなぁ~そんなのってないっス……」

 俺を覗き込む黒い犬、銀色の猫二匹……に、見えた。ほんの一瞬……何でそんな風に見えるかはわからない。本当にもうお迎えが近いのか……

「おお~ん。ユキちゃんが悲しむっス。ベル先輩からもう何されるか想像つかないっス。わおーん」

「ユキって? どうしてここで雪姫が出てくる!?」

 今まで無感情だった少女の声が、急に気色ばんだのがわかった。

「か、賀川さんはユキちゃんの想い人なんっスよぉ~死んだらきっとユキちゃんは泣くっス!」

「雪姫の……」

「…………無白花ぁ~ボクは嫌だよぉ」

 ユキさんの名を聞いて、女の子らしい無口な子が俺に近寄る。銀色の変わった十字架がふらりと揺れて。彼女は自分の唇をそっと舐める。

「斬無斗は足……」

「ええええええっ? 強制?!」

「…………ユキが泣くのは嫌」

 しぶしぶ近寄ってきた男の子の首に揺れるは黒い十字架。

「破片を取って、ちょっと引っ付けるしかしないよぉ?」

「うん。町に着く間くらい持つ程度にしか治さない……」

 その十字架が揺れているのを見ていたら、暫く寝ていた気がする…………




「……ら……ぁっ!!!!」

 息が詰まる様な気分がして酸素を吸い込む。体が跳ねて文字通り飛び起きたのを感じた。

「起きたッすね? 賀川さん! よ、よかったっス! さぁ、町に戻るっスよ?」

 居たのはリズさんだけだった。汗を拭いていてくれたのか、手にはタオルが握られている。

「あれ、あの二人は?」

「気付いてたっスか?」

「おぼろげだけど、な」

「そそそ、そぉースか。その、ふたりはその、帰ったっスよ。忙しい二人なんっス」

「こんな山の中で……?」

 リズさんはアワアワしていたがそれ以上の追求は止めて、自分の現状を確認する。

 小川の近くの大きな岩に乗せられ、靴は脱がされていた。両足の包帯は巻き直されたのか綺麗だ。腹はコートの下の真っ白だったシャツは赤く染まって、間違いなく刺し跡が残っている。だが腹の傷はだいぶ塞がっているかに見えた。ただ間違いなくそこに傷はあって、違和感は消えない。血が抜けすぎたのか眩暈もする。

「リズさん、タオル貸して。後、まだ包帯とテープはある?」

「? あるっスけど」

 足から外した包帯が血塗れで置いてあるのを見て、まだ残っているのではないかと聞いてみたら、所望のモノが出てきた。近くにはリズさんの私物だろう登山用のリュックがあって、そこから調達した物のようだった。俺はポケットに押し込んでいたハンカチを背中に押し当て、腹部にはタオルをテープを使ってキリキリと巻き上げ、包帯を使って更にテーピングしていく。

「行ける……」

「はぁ?????」

「血が止まってる。だから、戻る」

「ええええええっ! ダ、ダメっスよ。賀川さん!」

 リズさんが叫んだ。

llllllllllll


『悪魔で、天使ですから。inうろな町』(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズさん ベルさん(名前のみ)



うろな町 思議ノ石碑 (銀月 妃羅 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n4281br/

無白花ちゃん 斬無斗君

(妃羅さん、連絡付きませんがお元気でしょうか?)


『以下3名:悪役キャラ提供企画より』


『アリス(元:天野 恵)』

『金剛』

『手塚』

全て弥塚泉様より


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。


明日がイラスト回含め、300話記念にユキ回にする予定でしたが、

彼女がとんでもない緩い動きをしてくれたので、

時系列的にユキ回は301回にしようと思います。

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