負傷中デス(悪役企画)(リズさん)
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風穴があいた。
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息が出来ない。
酸素を吸おうとするが、意識を失わないのが精一杯の量しか取りこめない。体は気力がキレたのか、まともに動かない。てか、刺されて元気に動ける方がおかしい。リズさんのコートを着て、槍を握った彼女に俺は襟首を掴まれズルズルと引っ張られていく。
「ちょ、確かに賀川さんは酷い事をしたっスよ? けど……槍で刺すなんて……そのままじゃ……し、死んでしまうっスよ?」
「あいる きる ひむ」
「きる……こ、殺す? 殺す事は流石にないんじゃないっスか?」
リズさんが何か言ってくれている。だけど引きずるのも面倒になったのか、コートの女はひょいと俺を肩に抱え上げ、そのまま建物に向かって俺を連れて行く。弓のように体が反り、苦しさが増すが、腹筋に力が入らず、起き上がる事も抵抗する事も叶わない。
「待つっスよ?」
リズさんの制止も聞かず、俺は運ばれていく。
「いや、助かったよ。君」
建物の入り口にはいつから居たのかスーツの男が立っていた。その男は俺を抱えたアリサ似の人形を迎える。
「お帰り、『アリス』。しかし間抜けだな。目を潰されてしまったのか」
「そぉーりー ますたー」
「まあいい。金剛が掴まえたアリス君から、予定通り目は摘出しておいた、すぐに移植してやるから」
「き、貴様ぁ……アリスに何をしたぁ……」
ゾッとする情報が俺の脳裏に入り込み、苦しいながらも怒気を吐く。アリスの目をこのアリサに似た人形に組み込もうというのか。人間に機械を組み込むならまだわかるが、その逆なんてあり得ない、人間に目の替えなんかない。だがこの人形に生体の目を移植できるのなら、間違いなく『人間』にしか見えなくなるだろう。
「そう興奮するなよ。時貞 玲 君。アンドロイドは極秘ではあるがほぼ人間に近い所まで作れるようになっている。だが色々と協定があってね、リミッターが存在する。だがそのリミッターを解除してより高度、かつ、ハイスペックを実現する技術を開発したのが津田サイエンスグループだった……でも実用化しなかったんだよ。リミッターを解除したが制御できなくなった故に起こった暴走を理由に、ね」
「ぼう、そう……」
「たかだか老いぼれた老人一人死んだくらいで、だよ。科学が歩みを閉ざしてしまうなんて勿体無い事だ。だからその『廃品』を買って作ったんだよ。それが私の武器『金剛』と『アリス』だ。なかなかいい出来だろう? 私が作りたいには本物以上に本物の姿をした強い人形でね……」
俺にはよくわからなかった。もともとこういうモノを作る技術に長けているのか……ともかくこのスーツの男が二体のアンドロイド達の現『主人』である事は間違いなかった。
「しかし君は……写真や映像を見るより色気があるな。黒髪の少年にしては『破格の扱い』だったそうじゃないか、なるほどこの目は青や緑とはまた一線を画す美しさだ」
肩に担がれたまま、動き取れず、その頭を撫でられ、反った首筋に指を這わされた。人を売買する時、一般的に好まれる色と言うモノがある。そんなふうに『品物』として見られる事はもうないと思っていたのに。その目つきに怒りが込み上げる。唾を吐きかけてやりたかったが、それだけの力がない。吐息で男の髪を揺らす程度のことしかできなかった。
「ふっ……可愛いじゃないか。君の愛していたアリサ君は非常に私の好みでね。今は機械でも良いモノがあるから、いろいろ買い漁って作ったのだが。目だけは気に入らなくてね。妹だというアリス君の目は理想的だった。生体と機械を繋ぐ技術を開発するのに相当かかったが。喜びたまえ。君の目も殺す前に取り出して、金剛の為に使ってやろう。名も合わせて変えるか。トキが良いか? それともアキラか?」
「こ……金剛ってあの時壊した……はず……」
「あの時は三十七分五十一秒、お世話になりまシタ」
気分が悪い。俺は俺に似た顔をした生き物に挨拶された。
「何で賀川さんが二人いるっスか?????」
「遠目には彼が二人に見えるなら上々だが。この髪の手ざわりは何とも言えない良い物だ。目だけでいいと思ったが、髪も捨てるより移植するか。ゴミの様な君達が私の手で最強に組み合わせられるのだ、光栄に思いたまえ」
「どうなってるっスか?」
混乱した面持ちのリズさんが霞む視界でそう呟く。スーツの男はクツクツと笑いながら、
「ああ、君は気にしなくていい。うちの子が『襲われている』所を助けてくれて助かったよ。君には何かお礼がしたい。君も強いようだし、その変身は面白いね。どうだね? ゆっくり茶でも……」
「リズさん、お願いだ。俺を信じなくてもいい。ただ……ユキさんを……頼む。はや、く、行ってくれ」
「私、何か間違っていたっスか? 賀川さん……」
絞り出した声は届いただろうか? 俺は『アリス』と呼ばれた人形の手から、スーツの男に後ろに控えていた、俺に似た男の手に渡される。
「君が壊してくれた『金剛』の補助チップを回収できたんだがね。顔も体も一から作るなら、巫女を誘い出すには君に似せるのが良いかと思ってね。何より君の顔も好みだよ」
俺を抱くのは俺に似た人形。
気味が悪いほど真似られている。こないだ壊した金剛のチップをどうにかして回収した上、俺に似せた人形に組み込んだようだ。
「一体何がっ! だっ誰か、私にわかる様に説明するっスよっ!」
リズさんが吠えた。説明、してやりたいが、もう…………
その時、リズさんがこちらに向かってくるのが見えた。来なくていい、二体のアンドロイドにその指揮者の男。三人に一人で向かうのは危険だ。
「早く、早く、ユキさんの元に行って……」
声にならない声で言っては見るが、声帯がうまく動かない。
「賀川さんを離すッスよっ」
「『アリス』、行け」
「いえす ますたぁ」
「ナメてもらっては困るっスよ」
リズさんの腕が……折れる。機械装甲は厚い。素手では骨の方が逝かれてしまう。だが、俺の声は届かない。しかし夢、だろうか? 彼女のあれだけ堅い腹に、リズさんの腕がめり込み、重い体が吹っ飛んだ。
「『アリス』機、左腹部損傷おおよそ五十パーセント、まだ平常運転可能デス」
「一撃で五十か? ほう、面白い……『アリス』、お前にコレをやろう」
彼は握っていたプラスチックボトルを彼女に投げた。それを受け止め、蓋を取る。
「水分補給ッスか? 随分余裕……えええええっ。自己修復するッスかぁ?」
アリスが頭から水を滴らせる。途端に今リズさんが加えた攻撃が瞬く間に修復されてしまったようだ。どれだけ分厚い物がぶち抜けようと、ああやって修復されてしまっては生身の者が俄然不利だ。
「にげ……ろ」
アリスが再び槍を振り回すのが見えた。ただ俺の視界はどうにも霞んで、何がどうなっているか捉えるのが難しくなる。そんな中、リズさんはキリキリと拳を握り直していた。
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朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、リズさん
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
『以下3名:悪役キャラ提供企画より』
『アリス(元:天野 恵)』
『金剛』
『手塚』
全て弥塚泉様より
『アリス』『金剛』の元は『津田サイエンスグループ』からの廃品買取。
リミッター解除技術、そして暴走した話は、
ユーザーネームを入力して下さい。(綺羅ケンイチ 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9290bv/
15 リミッターhttp://book1.adouzi.eu.org/n9290bv/16/
より。
お借りいたしました。
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