弁解中デス(悪役企画)(リズさん)
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何故このタイミング?
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目の前に唐突に現れた少女は見覚えのある顔だった。
昨日の清水先生の結婚式でも会った、リズさん。俺が夏に誤って車で跳ねた少女ベルさんの妹分であり、ユキさんの事を守ってくれる大切な味方の一人。見た事はないが、格闘技にも長けているらしい。ベルさんとは対峙した事があるが、そのコンパクトな体に秘められた攻撃力は類を見ないほど強烈で、人を逸脱したかのような鋭さがあった。それを振るいながら、俺に覚悟を解いた彼女の姿は俺に鮮烈な何かを刻んでくれた。リズさんはそんな彼女が認める実力の持ち主だという。
ベルさんは俺に対し、多少なりと理解があったように思うが、リズさんが味方するのはユキさんであって、どこかウマの合わない俺を『におう』と言って、警戒人物と認識している。
この山は辿って行けばうろなの西の山に続いているはずだ。彼女は山の中でサバイバルをして食べ物を調達する事もあると聞いている。きっと車の爆発音か、何らかを感じてここに辿り着いてしまったのだろう。
ただ、俺にとっては間が悪すぎた。
「え? どういう事っスか? これ……」
山中の荒廃した建物へと続く場所で、殆ど素っ裸の女を跨いで、拳を振り上げる男。お互い傷は負っているモノの、どう見ても乱暴して脱がし、女を今にも犯そうというシーンだろ、これ。
自分がどんな状況に見えるのか冷静に判断し終えた時、目の前のポニーテールの少女のオレンジ色の瞳は、既に絶対零度を更に下回っていた。
痴漢が痴漢じゃないと訴えて誤魔化せるレベルをはるかに超えている。いや痴漢は痴漢だから捕まれば良い、けど俺は違う。俺は握っていた武器から手を離す。地面にカラカラとやけに軽い音が響いたのが虚しい。俺はそうしながら両手を上げる。
「ご、誤解だよ、リズさん」
こんな事をしている場合じゃない。だけど彼女の瞳はそれを許しそうにはなかった。押さえつけた黒髪の機械女は反応に困っているのか、ワザとなのか無表情のまま、覆った片目と逆の目でリズさんを真っ直ぐ見ていた。ココで俺を蹴り倒し、さっきの勢いで襲ってくれればいいのにそう動いてくれない。まるで俺の行為に怯えて抵抗できない少女のようだ。
「き、機械仕掛けでも女性を襲おうするなんて、……賀川さん見損なったッス。染み付いた血の匂いがしても、堕めんずでも……ユキちゃんが好きだって言うから、心の底はきっと綺麗と思ってたっス。それなのに……」
「違う……違うから。そ、あ、うん」
まだ焼き焦げの肌なら、そして焦げていても服を纏って居たならその説明がつくかもしれないが、水が魔法のように修復してしまった肌。それを俺の武器や拳で殴打した傷は白肌に赤く残っている。肩から血を流していても、コートまで着ている俺に言い訳の余地は見当たらず。
言葉を紡ごうにも頭がパニックを起こし、言葉が出なくなる。リズさんの握った拳が震えている。
「問答無用っス! その体から降りるっスよっ」
「つっ!」
リズさんの重い一撃をクロスで防いだものの、俺の体は数メートルばかり吹っ飛んだ。リズさんは自分が着ていたコートを脱いで、彼女を引き起こすと体にかけてやり、
「もう大丈夫っスからね? 賀川さん……言い残したい事はあるっスか?」
大丈夫じゃない、そいつはユキさんを狙っている者達の手先、たぶん、確証はないけど。水を与えるとある程度を修復してしまう能力を持ったアンドロイド。彼らの手にはアリスが堕ちている。助けなければならないのに。
「なければ成敗っスよ」
リズさんは俺に飛び掛かった。
いつぞやも何だかで誤解され、赤い仮面の男と拳を交わした記憶がある様な……どうして俺はこう間が悪いのか、恨んでも仕方がない。
「やめ……」
俺は再びリズさんの拳に体を吹き飛ばされる。女子の、それもその細腕から繰り出されたとは思えないスピードと破壊力。たたらを踏んで耐えたが、横からの蹴りに備える前にヒットを許し、膝をつく。その後に繰り出された踵落としは完全に感で避けたもので、もし流れに身を任せず一瞬でも怯んでいたならクリティカルヒットをもらっていただろう。
とにかく早い。
俺もフットワークは軽い方だが、各段に彼女の方が上であり、既に機械人形から逃げる事で体を車内でぶつけ、槍を避けながら坂を上り、自分が愛した者の顔と姿をした何かと戦う事に心が疲労しかけている所。彼女の相手は完全に苦痛でしかなかった。
それも気が抜けたのか一気に這い上がる痛みに全身が震え、汗が不自然に流れる。足が、何か、おかしい、昨日ガラスを踏んで包帯を巻かれていた事実を思い出してしまう。そんな事に気を取られている暇はない。
俺に傷みはない、傷など存在しないのだ、感覚を嘘で塗り固めて、様子を眺めている人形の目の拡大収縮の音に音楽を構成し、ひらりとリズさんの拳を躱す。コートの裾が弧を描き、もう冷たくなりかけた空気に熱い拳が交わされる。冷静に受け、流す。
頭の中でまこと君のピアノが鳴り響く。
優しい旋律に身を委ね、右に左にと動き、リズさんより先を読む。
「い、意外といい動きをするっスね……」
それはこちらの台詞だ。
リズさんは嬉しそうに見えた。まるでいい獲物を見つけた獣のように。彼女が右の拳をパシンと左手で打ち鳴らした途端、
「な……」
犬の遠吠えに似た声をリズさんは上げ、全身が炎で包まれた。マジックのようにその一瞬の内で、彼女の服装はトレーナーとジーンズといういでたちから、黒いレザーのライダースーツに変化した。それも両腕は本当に『獣』を彷彿とさせる筋肉質な脚となり、一気に俺の体を薙いだ。
「っ……」
コートが上から下に裂かれ、肉を持って行かれる感覚がした。折り返しで放たれた裏拳に右下あごを殴り上げられ、体が揺れる。それも早さも破壊力も格段に上がった。今までだって凄い動きだったのに。
愚痴ってはいられない、それ以降は紙一重で躱す。
攻撃を仕掛けたいが、リズさんを殴れば全てを肯定してしまう事になる気がした。だが彼女の動きを封じるには攻撃して動きを鈍らせねば成功率は低い。
ただ……
それが成功したとて、彼女が止まるのは一時的なモノで、必ず立ち上がり俺を止めるだろう。リズさんを仕留める気がない俺に勝ち目などない。
どうしたら良い? その躊躇が出た俺の動きをリズさんが完全にとらえた。しまった、そう思った時には俺はその黒い腕の攻撃を受けており、流れるような両腕の連打が俺の体を襲う。その猛攻に防戦一方になり、
「もらったっス!」
その台詞で大きな一撃を腹に貰い、それでも何とか彼女の攻撃レンジから離れ、片ひざを折りながら何かないか言わないといけないと言葉を探す。
「頼むから。アリスが、ひいてはユキさんが危な……ぁ……」
「アリスって誰っスか? それにここで何でユキちゃんが……っ! 賀川さ……」
立ち上がりながら何とか説得を試みようとした俺の脇腹に、長槍が後ろから前に突き出していた。俺の背後、リズさんの死角に回り込んでいたアリサに似た者が差し出した刃。串刺しって言うのはこういうのを言うのだろう。
痛みはない、感覚は押さえこんでいるから。けれど身体は素直だった。せっかく立ち上がった膝を付き、失血し出した俺の体はどこか歯車を失くしたように、地面に吸い込まれるように倒れた。
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朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、リズちゃん
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
『以下1名:悪役キャラ提供企画より』
『アリス(元:天野 恵)』弥塚泉様より
お借りいたしました。
問題があればお知らせください。




