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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
12月1日

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294/531

逃走中デス(悪役企画)

lllllll

誰が……

lllllll




 転がり落ちてきた場所は、相当急であり、高かった。それでも躊躇なく四つ這いになる様な格好になりながらも駆け上がって行く。爆発で火の手が上がっており、辺りを煙が漂う。それでも生木ばかりで湿気が強いので燃え広がる事はないだろう。その火を背にして追ってくる裸の彼女は、生きていた時の彼女のそれでとても美しい。写真か何かを模して作ったのだろうが、美的センスは高い人間の手を経ているようだった。

 顔も、俺が半分を潰してしまったが、目が人間のそれで、黙っていて、聞こえてきたのが人間の心音だったなら俺はきっとアリサと思っただろう。

「あいる きる ゆーぅ」

 アリサが本当に生き返ったと言うなら、殺されても文句は言えない。少し前……本当に彼女ならば、命を差し出して詫びたろう。けれど、今は生きていないとユキさんに迷惑がかかる。彼女が本当に俺の事を気にしてくれているのか、自信は無いけれど。

 ユキさんの為なら何だってする……そうは言っても、自分が死なせた人間への罪の意識がある中で、アリサの顔に追われるのは辛い。それも夏にはその似た顔であるアリスをも敵に回ったならと殺そうとした事もある。

 心臓が痛いのは走って酸素が少ないためか、煙にやられておかしくなっているのか、精神的に参り始めているのか、よくわからない。

「ここで倒れるわけにはいかないんだ……」

 アリスが連れて行かれている。日本の血を引いているが、彼女の親類縁者が特にこの国に居るとか、この国に来たいなんて聞いた事はない。それなのにこの夏と今日と二度も来日してくれた。からかい半分だろうが『好きだったのよ、本当に。他の女に渡すぐらいなら殺したいくらいに……』そう言ってくれた、俺の大切だった彼女の妹。

 無事に本国へ帰せなければ、俺は今度こそ生きていられない。



「きる ゆ~」

 舌ったらずにそう言って、長い槍を器用に振り回す。そのリーチとシナりで俺を串刺しにしようとする。無表情でその作業を繰り返し、その精度を増していく。

「……おーけぃ あーいぶ がっ ちゅぅ!」

 その言葉と共に、完全に射程に入ってしまったのに気付く。槍はリーチが長いが、その分刃がない柄の部分は触れる事も可能だ。擦れ擦れでその刃を頬に感じながらも肩に担ぐようにしてその部分を握り込む。相手が引けば両手を切断されてしまう、その前にバットよろしく振り回す。腐葉土が覆う坂のせいか足の踏ん張りはよくない。

 ふいにかかった遠心力に機械の彼女は冷静に引こうとする。俺は限界まで引き付けた上で、ワザとに、そして不意に手を離す。急坂でそんな事をされたら転がり落ちるハズだ。

 その一瞬の隙をついて坂を駆け上がる。驚きが表情に出ない人形は、本当に驚いていないのか坂を転がり落ちながらも、僅か数メートルの後退で態勢を立て直し、再び走り上がって来る。

 少しの差だが、とりあえず平坦な道に舞い戻る事が出来た俺は、ある程度の長さに切って積んであった木を見つけ、ポケットの中に忍ばせていたナイフで綱を切って突き崩す。

「行けっ!」

 だが俺はその木切れに押しつぶされる人形を見る事はなかった。

 槍を手にした美しい女は、まるで映画で見た『にんじゃ』のように、その木を踏み倒し、エスカレーターを逆走するかのごとく、駆け上ってくる。

 俺は建物に向かって走るしかなかった。殆ど人形にダメージを与える事はかなわず、言いなりになって拘束されるよりは多少マシだろうという展開。

 火の手を見れば、新手がやってくるに違いない。何人居るかわからないが、機械人形が大量に居るなら俺一人では勝ち目がない。だが進む道は一つだ。

 見えてきた建物は三階建てのコンクリート。回りには高いフェンス。廃墟と言った感じで窓ガラスは割れているが、場所場所に格子が嵌っているのを見ると、もともとは精神病院か、鑑別所かといった物々しさが残っていた。

「とき 『あい がっ ちゅ~』 あい せっど」

 ひらり、建物を前に彼女が立ちはだかった。

 迷わず拳を叩きこむが、カタすぎて殆どダメージが拡がった気がしない。

 その上、槍がスラリと俺の肩を切り上げた。反射的に首を逸らして目を切られる事だけは避けたが、髪が数本はらりと切れた。コンマ数秒ズレていたら間違いなく失明していただろう。肩からは血が飛び散ったが動くのに問題はない。

「ちぃっ」

 俺はポケットから指示棒を取り出して隙を見る。

 かかんっとやり合って、確実に分かるのは自分が不利な事。

 槍のリーチに殺傷性、俺の棒で太刀打ちするのは並大抵じゃない。その上、相対するのがアリサの顔ときたら、どうやっても俺の集中力は続かない。裸であるのはさほど影響はないが、その素肌に俺がヒットすると赤い線が走るのは嬉しい物じゃなかった。

 自分が虐げられ与えられた『屈服』の証を体に刻まれた時を思い起こす。断じてそう言う趣味はない。どちらかというと気が滅入るばかりだ。

「止まってくれ」

 拳を振るって彼女の鳩尾に決める。他の部分より装甲が堅い気がした。もし手袋と魚沼先生から貰った布がなければ骨が一気に折れていたろう。彼女は角度を変え、槍で俺を貫かんと振るうが、後ろに飛び下がり、間合いを取ると見せかけて素早く彼女の背後に入り込み、その手の得物を取り落させる。そのまま反転した彼女の両肩を掴み、地面に押し倒す。

「何で……アリサを……」

 俺は彼女に馬乗りになった姿勢で、高く拳を振り上げ、その顔を殴ろうとして躊躇する。

 敵の目的は俺を揺るがすためにこの顔を選んだのだろう。わかってる、わかってるが、

「トキ、ふぁい どぅ ゆー どぅ?」

 腹が立つ発音で、ニセモノだってわかっているのに。無表情で『どうして』と聞かれて。息が荒くなって、汗が必要以上に舞い落ちた。今からこの手でその顔を粉砕し、砂になるほど殴らねばならない事に涙が零れた。

 それでもと拳を握りしめ、残った目玉に指示棒を突き立て、その顔を破壊しかけた瞬間、

「え? どういう事っスか? これ……」

 そこには黒髪をポニーテールに結い上げた少女が呆然と俺と彼女を見下ろしていた。


lllllllllllll

朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、リズちゃん

『以下1名:悪役キャラ提供企画より』


『アリス(元:天野 恵)』弥塚泉様より


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。

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