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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月30日

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280/531

清水夫妻の結婚式13(町へ戻り)

lllllllll

かわいい、と思えるのは優しい町にいるから。

そして君と居るから。

lllllllll

 




 可愛いよな、梅雨ちゃん。

 彼女は猫だから、やはり食品のあるところに入れるのは遠慮したのか、会場内にある建物の方に居た。眼下に広がる会場が良く見渡せるので、抱っこして見せてやると目を輝かせる。小さな黒猫のちょうじょに気付き、梅原先生がちゃんと手を振ってくれたのも嬉しかったようだ。

「なぁ~ん」

 暫し見物した後は退屈しないように遊んだ。俺が携帯のカメラを構えると猫パンチされたり、撫でて戯れたりする。

「駄目だよ。あ……梅雨ちゃん照れてる? そう良い子だね。遊ぶの? これで?」

 猫じゃらしを持たされ、タオルで隠したり振り回したりしてやるとよろこぶ。……半分くらい俺が遊ばれているのは気のせいだろうか?

 それを見てユキさんはクスクス笑ってる。夏の頃に預かった時より梅雨ちゃんは大きくなったが、小柄な猫なのかもしれない。それにしても初めに比べるととても慣れてくれたと思う。

「もうすぐ先生達が迎えに来てくれるからな?」

 そう言うと、嬉しそうに、

「ぅなぁ~♪」

 と返してくれたけど、スルスルと足元にすり寄って、そろそろ片付けにいく俺を引き留めようとしてくれる。爪をかけて甘えて鳴く仕草に心穏やかになる。

「賀川さん、動物好きですか?」

「嫌いじゃないけど、選り好みされる気がするな」

 この頃はドリーシャにも好かれるが、リズさんには嫌われ……いや、リズさんは動物じゃないが、嫌われているのは動物的な何かの部分であると思う。

「何か動物、飼った事はありますか?」

「……ないかな。俺に飼われるペットは可哀想だ」

「何故ですか? 私は飼いたかったです」

「何故って……」

 この赤い瞳は穢れを知らない。

 血を積み重ねてココにある事を知っても、彼女自身は白く美しい。

 彼女を手に入れたいと思う半面、その『未来』を背負えない自分がもどかしい。彼女の恋人になりたいと願っても、一緒に居たいと願っても、その配偶者かぞくには……迷うのだ。

 それでも夢にまで見た白い女神が俺に微笑んでいるんだ。掴みたい……そして俺の中にしまっておきたい……彼女の最初から、そして最後までを貪欲に手に入れたいと思う。それなのに俺の手は赤く染まっている。彼女の瞳と同じ赤でも、その意味は格段に違うのだ。俺の赤は罪の色。たくさんの命が俺には詰まっている。

 望もうと望まざろうとも、まこと君の願いは叶い、俺はピアノが弾けているが、その白鍵が赤く染まってしまうほどに俺が生きている事は罪深い。

 俺はこれからピアノを弾く。

 この年では趣味としての範囲を出る事はないだろうが。その時、彼女に捧げるその曲だけは白く清く、志を高く持って弾ければいいと思う。彼女に響くように。

 そんな事を俺が考えている間に彼女は話を進めて、

「私は住む所を変えることが多かったので、母に飼わない様に言われてました。賀川さんは可哀想ってどんな意味で……ちょ……」

 彼女の柔らかな胸の谷間が俺の理性を壊す。いつも押し止めている想いが急に咳を切った。

 近くに積み重ねてあった机が、ガタッと崩れたが誰も来る気配はない。外の『祭り』はそろそろ最高潮で、皆、沸き立っているから。

 ユキさんを床に組み敷く。冷たい床、細い腕、綺麗な胸の膨らみもとても近い。腹部を跨ぐと短い色鮮やかなスカートがまくれ、きわどいラインでその位置を保つ。

 大きな音に驚いた梅雨ちゃんはゲージに一度避難する。その事は心の中でごめんと謝りながら、

「俺は何かを育てる事はできない。それはペットだけの話じゃないんだ」

「ぇ?」

「……だって俺はあのヒトの子だから、子供を糧にしてしまうかもしれない、抱きしめて育ててもらうより暴力しか知らない。そんな俺が育てた子がどうなるか、それが怖い……ねぇ、ユキさん。俺は君が好きだけれど。君の子供はきっと可愛いだろう。けれど、きっと俺は親には……なってはいけない人間だから……」

 首を唇で撫で、耳に息を吹きかける。びくりと跳ねるユキさんの体。鎖骨から香る彼女の匂いにたまらなくなる。

「ぁ……く、くすぐったいです」

「それでもこんな事がしたい。……俺って獣以下だ。獣でも親になれば子に餌を運び、一人前になるまで面倒見るのに、俺にそんな資格はなくて……それでも君が……」

「あの。賀川さん。こんな事って? えっとその……」

 ……っと。

 ユキさんの表情に全くの緊迫感がない事に俺は気付く。

「きみのこども? おや? しかくがない?」

 そうやって俺の言葉を幾つか反芻して、さぁ……っと、お酒でも注ぎこんだかのように朱に肌が染まる。それでやっと俺がしたい事に気付いたらしい。男として見られてない? いや、彼女は……先走りそうになった自分が滑稽すぎて、笑うしか出来なくて。押さえつけた手を放して、そっと抱き起してその身をユキさんから離す。



 だめだ、この娘はほんとうに女神なんだ。



「ごめん、ユキさん。梅雨ちゃんも驚かせてごめんよ?」

 手を伸ばすと梅雨ちゃんはすぐに出て来て、俺によじ登る。抱きしめて喉を触ってやるとゴロゴロと甘えた声を出す。ユキさんは真っ赤になったまま、暫くそんな俺と梅雨ちゃんをぼーっと眺めていた。

「そろそろ片付けかな? いや、その前にもう一つくらい何かありそうだね。あ。帰りは葉子さんと先に帰ってい……」

「あの、その、わたし、よくわかんないですけれど。ペットにも子供にも愛情をかける必要があると思います。賀川さん、梅雨ちゃんにちゃんと愛情を注げてますよね?」

「愛情? ……それって撫でる事? 甘やかす事?」

 ユキさんはゆっくり首を振って、

「梅雨ちゃんが驚いた事に気付いて謝って、その気持ちに沿えてますよね。それは親とかになる時にはたぶん大切な事で、それに賀川さんはお父さんにされたのは子供にはとても怖い事で、そしてそこで見た悲しい事……いっぱい知ってるから、自分の子供が出来たら、お父さんみたいにするんじゃなくて、きっと……そんな風にならない様にしてくれると思います。そ、それに。私だって父は知りません。本当の父がどんな人か……でもわかるのは……こんな事……賀川さん以外には、されたくないって、でも賀川さんと、賀川さんとなら……私……」

「なぁーーーーーーん?」

「え、何を言ってるの? ……って梅雨ちゃん……な、何って、わ、わ、私、そうですよね、何言ってるんでしょう? は、恥ずかしいです」

 梅雨ちゃんの鳴き声に、自分が何を口走っているか気付いたユキさんはもっと顔が赤さを増し、涙目にさえなっていた。

 俺は『ほろろん♪』で清水先生と飲んだ時に、『『子供を大切にしない』人には俺には見えない、父親は出来るものじゃなくて、子供に学ばされていつの間にか『ならせてもらう』モノだと思うよ』そう言われた事を思い出した。ベルさんからもらった『かけがえのない「妹」の事、よろしく頼む』なんて書かれた手紙が脳裏をちらついた。

『必ず、幸せになるんだぞ』というベルさんの綺麗な文字が。

 俺は梅雨ちゃんを片手に、彼女の上肢を逆の手で強引に引き寄せ、彼女の顔を下から覗き込むようにして、

「俺とで…………いい?」

 そう俺が聞いた時、あの夏のように。

 ドン!

 と、窓の向こう、花火が高く舞い上がり、音が俺の声を消した。



挿絵(By みてみん)



 唇が触れ合うか、触れあわないか、微妙な一線、落ち着いた黒き毛玉の緑瞳が俺らの下からそれを見ているのを感じていると、足音が複数して。

 慌ててユキさんは俺から離れ、そこに小林先生夫婦とその娘さん二人が入ってくる。

「お疲れさまぁ~ここ替わるわ。ユックリ足が伸ばせるしぃ。上から写真も撮りたいし……あれあれ???」

「なぁ♪」

「お二人さん、どうしちゃったの? 花火に驚いたのかしら。まったくもう、可愛いわねぇ」

「……おやすみだけど。ここねぇ。賀川君?」

「すみません、わかってます」

 果穂先生の方はわかってないけど、拓人先生の方が意外と鋭い。そしてその忠告と返事に果穂先生も事態に気付いたらしい。だが面白いものを見つけた様に彼女は明るく笑った。

「ま、イイじゃない。そういうシュチュエーション、燃えるわよね? 拓人さん」

「え? あ?」

 そう言えば今日のドレスや着ぐるみの制作は果穂先生が主導だったようだ。これだけの服を作る、その趣味が、そちらの時にも反映してないかというと……どうだろう。清水先生の引っ越しの時に会った時の印象は真面目な旦那なんだろうな、と思っていた。そして今日の朝からの結婚式における司会ぶりは記憶に新しいが、……『そっち』方面では奥さんに主導権握らているのかもしれない。

「賀川君……」

「いえ、いろいろ誤解じゃない気がします」

「な、何も言ってないよ?」

 俺達がこそこそ話している間に、果穂先生はユキさんの方に、

「ああ、最後に出たデザート凄かったわよ。それでも食べて少し体を冷やして来たら? 昼のケーキも絶品だったし、ホントうろなはスイーツ女子にとってパラダイスよね♪」

「美味しかったよぉ、荷物のお兄たんもウサ姉たんも行ってくる?」

「キラキラピカピカ冷たいの~ぉ」

 果穂先生とついて来ていた子供二人の無邪気な言葉にユキさんの表情が変わる。

「…………………………………………賀川さん……あのぉ……デザートぉ……」

 俺はクスリと笑う。

 甘い物、好きだもんね、ユキさん。まだまだ色気より食い気はリズさんだけじゃなさそうだ。それが健康的で、眩しいから……いいよね。

「じゃ、梅雨ちゃん。またね」

「なぁーーー」

 やってきた子供二人を相手にするのに夢中になっている梅雨ちゃんが、ひときわ高く鳴いて俺達を見送ってくれた。


llllllllll

"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生夫妻の結婚式の設定

清水先生夫妻、梅雨ちゃん 小林先生家族



悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

リズちゃん ベル姉様


台詞などだいたいYL様の結婚式流れに合わせていますが、

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/121/

からまだ書かれていないラスト方向。


これにて当方から見た清水先生結婚式は終了になります。

当方では後片付けや帰宅シーンとなります。


問題があればお知らせください。

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