清水夫妻の結婚式7
lllllll
賀川さん、帰ってきましたけれど。
lllllll
どこかに行っていた賀川さんが戻ってきて、その側からタカおじ様と司先生のお父様が絡んでますよ。
「はぁ? やすぎぶし?」
賀川さんの疑問口調が気に入らないようですが、私もソレ、何かわからないんですけれど。葉子さんが、
「ああ、『ドジョウ掬い』の事よ」
って、教えていて。どじょうすくい、ならわかります。流石に私は『土壌』と間違う事はなかったですけど。賀川さんは凄く納得していたから、本当に土壌って文字変換していたみたいです。タカおじ様の仕事が仕事だから、そういう時にでも歌う労働歌と踊りと思ったのかもしれません。
賀川さんが席に戻って来てからも余興は続いて。女の子全員で歌うたっていたのですが、私は出来るだけ目立たない様に席を立たずにいました。
「女の子、皆、歌っているのに歌わないの?」
賀川さんは流石に気付いて声をかけてきます。
「私……歌は歌えないんです」
「え? 音痴……なの?」
「いえ、母が『歌うな』と。だから鼻歌くらいしか歌った事ないです、たぶん」
「へぇ……」
賀川さんが首を傾げます。その後、男性全員の合唱もあったのですが、次は賀川さん、隠れてました。
「あれ? 男性全員参加じゃないんですか?」
「俺、ピアノだったら初見でも弾けるけど、歌は歌詞、おぼえきれないんだ」
その後、『うろな47よ!!』と言いながら盛り上がる中、賀川さんと二人で会場の片隅で手拍子で応援に励んでおきました。
その後、司先生達が各席を回っている時の事です。
「賀川はもっとしゃんとするべきだと思わないか、なあ天狗!!」
「賀川殿は立派にやっていると思うぞ、前田殿」
「もうタカさんそろそろ控えておかないと体に毒よ」
「娘の結婚式に無事に出たいなら節制することだな」
だいぶ酔ったタカおじ様に皆が声をかけています。
「……タカおじ様、良く飲む方でしたが、こんなに酔いやすかったでしょうか?」
「ああ、そうだな……」
賀川さんも首を傾げています。その間にも、釘を刺すぎょぎょオジサマに向かって、
「うるせえ、ラジコンぎょぎょ!!」
そのタカおじ様の台詞に、耳に入れた皆の頭上に『?』が幾つも浮かびます。
「自分の子供くらいの若い嫁さんをもらったお前に俺の気持ちが分かるもんか!!!」
「ラジコン? ……そういうことか」
ぎょぎょのオジサマがそう言いますが、私には何かわからなくて。葉子さんが小さな声で、
「たぶん『ロリコン』の言い間違いよ」
そう教えてくれます。流石にぎょぎょのオジサマに葉子さん、タカおじ様とは付き合っている年数が違うので、何の単語と間違っているか、ピンとくるようです。それを聞いて理解した冴さんは、
「愛に年の差なんて関係ありませんわ、鉄太様」
そう言ってペッタリとぎょぎょのオジサマの腕に張り付いて笑います。体は元に戻って大きくなっても、愛情の表現方が変わらないようです。ぎょぎょのオジサマが真っ赤になってますよ。
と、いうか、気付いたんですけど。
賀川さん、戻ってきて歌の手拍子が終わって、食事も落ち着いてからは、ずーっと私を見て、手を繋いだりして来るんですけれども。この姉弟、スキンシップが激しいのはやはり海外仕込みだからなのでしょうか? それとも血縁的になのでしょうか? 悪い事ではないのですが、とても照れます。
「まさかユキさんが歌うのが苦手だとは思わなかったよ。苦手って言うのは語弊があるのかな?」
「でも歌えなくても……賀川さんのピアノ、今日の二人を心から祝福しているのが、しっかり伝わってきました♪」
「ありがとう、ユキさん。でも俺のピアノはやっぱり君のために弾いてこそのものなんだ」
そう言って真っ直ぐな瞳で私を見て、また手を重ねてきます。
「か、賀川さん、手……」
手を重ねるだけじゃなくて、引き寄せてキスしそうな勢いに私は固まってしまいます。賀川さんは人前でキスは平気なようですが、わ、わ、私は、その……
その時、声が割って入ります。
「ほらほら、花嫁達を放っておいて、何二人でいちゃいちゃしてるの? やっぱりこの豊満な双丘を揉みしだきたくてたまらない??」
そう言ってくれたのは千里さん、天狗仮面の同居人だそうで、その目がたまに紫色に近い炎のようなモノが揺らぐような気がする、不思議な色を抱えた人です。
「ちょ、千里さん!!」
賀川さんは流石に慌てていますよ。私もその言い回しは……胸……恥ずかしいです。
「……そう言いながら、何ユキちゃんの胸をガン見してるんッスか! やっぱりこんな野獣にはユキちゃんは任せられないッス!!」
「リ、リズちゃん……賀川さん、そ、そんなに悪い人ではないんですよ? 恥じらいが薄いだけで」
「それ充分、堕めんずっス!」
その言葉に場の皆が笑って落ち着きました。
それから暫くした時、千里さんがそっと近寄ってきて、
「雪姫ちゃんも、ダメな事は駄目と言いなさい。深き血や縁の繋がりにあっても、選ぶのは今を生きる貴女なのだから」
「私は……」
一人で森に住み、自分の気持ちさえも良くわからない、そんな時にいつの間にか心の中に入り込んできて住みついてしまった彼がどうしても忘れられません。
彼の冷たい過去を知って、その気持ちをどうしてあげたらいいのかわからないし、上下の激しい彼の態度、そして環境や事件に振り回され、私自身も色々考えてしまって。
その時々でどういう態度を取っていいのか惑うのです。
「私は今、ココに居て良いのか。……少し…………迷っています」
葉子さんの息子さんの、公暗警察を名乗る子馬さんに言われたのです。
『貴女は『巫女』として自覚がありますか? ご自分の身が守れないのに不安でしたら、私達が身柄を捕獲……いえ、保護する話が浮上しています』って。
自覚なんかないです。
どうしたらイイかなんてわからなくて。
でも私は保護を受ける様な対象で。もしそれを受けないなら、その仕事はタカおじ様や回りに居る人の負担になるのではないか、そう思うのです。
賀川さんは『ユキさんは俺が、俺達が守ります。俺自身も守って『人柱』になんかしません』そう言ってキスをくれたけれど、彼はピアノを弾く事には長けていますが、こないだのように攫われたなら、やはり迷惑をかけてしまうのは実質戦えるタカおじ様達でしょう。目の前にいる千里さんと同居人であると言う天狗仮面さんにも救っていただきましたし。
もし、もしも……賀川さんが戦えるとしても、この人の心の内は戦いなんか望んでないと思うのです。暴力の中で生きてきた過去があればこそ、平和な日本の、このうろなで、微睡んでいたいはず。
それでも今まではココしかいる場所はなかったし、母の帰りを待っていたいのでどこにも行きたいとは思いませんでした。今だって行きたいわけではないけれど、そう言うのが『仕事』の子馬さんが現れたのに、任意で守ってくれるタカおじ様や賀川さんに甘えていてイイのでしょうか?
「それは、愛すればこそ、生まれる葛藤でしょう?」
何も言っていないのに、千里さんは全てを知っているかのように答えてくれます。
「そう、おねぇさんは何でも知ってるのよ? ……大いに迷いなさい。それが巫女としてではなく、人間としての定めなのだから。その上で貴女が選ぶのなら、この千里が水羽と共に見届けてあげると約束するわ。この未来の縁まで……」
「え???」
「何を話している? 千里よ」
「いやぁね。天狗仮面。邪魔しないでちょうだい。女同士の友情を深めているだけよ。800年来の、ね」
そう言ってたぶん私にしか見えていない、紫色の炎の様な揺らめきを纏いながら、意味深に笑って、
「また遊びましょうね、雪姫ちゃん」
そう彼女が言った時、司先生のご両親への感謝の言葉が読み上げられる事になり、各自、席に戻り、千里さんとのお話の時間は終わったのでした。
llllllllll
"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水先生夫妻の結婚式の設定
清水先生夫妻、海江田の奇跡
うろな天狗の仮面の秘密(三衣 千月様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
天狗仮面 千里さん
悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
リズちゃん
他もちらちら。
台詞などだいたいYL様の結婚式に合わせていますが、
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/104/
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/105/
この辺りです。
問題があればお知らせください。




