清水夫妻の結婚式5
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賀川は気付いた。
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な、何なんだ。あのカオスの座席は。
難題だったピアノの演奏を滞りなく終え、ユキさんに誘われる様に席に着く。昨日まで自由にならなかった左の手で、その感触を確かめる。
今までの何に触れてもザラリとヤスリを触ったような感覚ではなく、柔らかく温かいユキさんの餅のようなしっとりした感触があるんだ。白肌の手を取って指を絡めて握る。やんわり握り返していいやら戸惑っている動きが、どこかエロい……いや、今日はこんな事を考えるのは止めとこうか。人の結婚式だから。ユキさん、色々と忙しいんだろうけれど、それでも出来るだけ放したくなくて。そのまま席に座る。
その時点ではタカさんに葉子さん、姉の冴と義兄の魚沼先生が居るのは確認したけれど、まだあまり回りに注意など払っていなかった。ピアノが弾けた事と、ユキさんの肌を感じられる事がうれしくて。
ユキさんの逆隣りに居たリズさんが噛みつきかけたけれど、とりあえずユキさんがケーキの事を知らせるとそちらに喰いついていた。
「あの、えっと。そろそろお仕事なのです。行ってきます」
「ん? ああ。慌ててコケないようにね」
タカさんはいつかユキさんをもらうには越えなきゃいけない壁だから、牽制攻撃でユキさんの手にキスを落して見せておく。タカさん、ピクリと眉が動いたが、指摘すれば余計に周りが騒ぐだろうからと何も言ってはこない。
「あ、あ、あのですね」
「今日弾けたのは君のおかげだよ。感謝を返しておくよ」
「そんな事……」
「さ、仕事なんだろ? 行ってらっしゃい」
可愛らしすぎる。
見てたらこんな場所でも押し倒したくなるからそれ以上は目で追わず、ふっと、その時やっとその席の異様さに気付いたのだ。
タカさんと同じような、いやそれよりもガタイの良い御仁は……どうして……、その隣の男性もただならぬ気配に狐面を装着、更にその隣にはんにゃ……じゃないや、天狗仮面が座ってる……
天狗仮面の隣には又、気配の変わったすらりとした女性が居た。リズさんとそれなりに仲良さそうにしているんだが。
俺はオカルトは信じないが、この席、何かがオカシイ気がするのは気のせいだろうか。
「えっと、賀川運送の賀川様ですね、これをどうぞ」
俺の不安を知らない明るい声がかかって、差し出されたモノを見て絶句する。
「コレは凄い。けど。何故……」
「良く出来てるっスね。トラックに見えるっス」
切り分けられた町地図ケーキは、それぞれに縁のある場所を切ってくれるようだ。俺には町の道路とトラックを模したミニケーキだった。とても精巧に出来ていた。ユキさんが帰ってきたら見せてあげようと思って食べても余り変わらない道路を齧る。ゴマクリームの濃厚さがすごい。香ばしいのはスポンジに練られたローストアーモンドの粉だろう。ま、それはイイのだ、とても美味い。だが何故トラックの運転席にいるのが、ライバル会社のマスコットなのだろうか。
むーっと眉間に皺を寄せていると、
「こちらは前田 雪姫様の席ですよね」
そこに置かれた森ケーキ。茶色の小屋は森のアトリエを模していた。
「再現率が凄いですね。それにとても美味しいです、食べるのがもったいないけど、食べたくなる味です」
世辞でもなく、気持ちを述べるとそのケーキを作ったと思われる女性が頬を赤らめながら、
「じ、実は……町で配布された地図を見ていろいろ歩いて回ったんです。でもこの席の前田さんが住んでいたと聞いた、この小屋はどこにあるかわからず見られなかったんですけど」
聞けば、アトリエに来た事のあるARIKAの汐ちゃんから話を聞いての再現なようである。それも猫と一緒に行ったエピソードなども交えて構成してあった。
「帰ってきたらその努力、伝えておきますね」
そう言うとその女性は嬉しそうにして他の席へ移動して行った。
それから暫しして帰ってきたユキさんにそれを言うと、とてもイイ顔で抹茶クリームを味わいながら、俺の取り置いていたケーキも見物していた。
そうしている内にタカさんの乾杯の声が響き、会場に酒が入った上に、上手い料理が皆を集中させる。その間にいろんな祝辞が行われたが、その辺は聞き流しながらユキさんと会話する。
できるだけ回りはスルー方向で行く。何が起きても対処できるように、酒は飲む気にはなれないので、乾杯も口を付けたフリをしておいた。
それでも日本ではこういう席で酒を注ぎに回らないといけない、と、葉子さんに聞く。それでとりあえずユキさんが葉子さんと喋っている所で、手始めに天狗仮面の所に行ってみる。
「この前はどうも……」
「いや、天狗として当たり前の事をしただけである」
「あら、『この前』って何かしら?」
結い上げたうなじが美しい黒髪の女性が、何か面白いものを捕まえたような軽い笑いを見せた。
「あ、ぁ。えっと俺は賀川急便で働いているんで、皆に賀川と呼ばれています。貴女は?」
「私は天狗仮面の同居人で、猫塚千里、よ。千里と呼んでちょうだい。賀三郎」
「「その名は……」」
俺と天狗仮面が密やかに、だが禁止の声を上げた。その慌て様に満足したように彼女は笑うと、
「わかってるわよ、賀川君。ふふ、お酒は飲まないの?」
「の、飲まない訳ではないんですけど」
「酒宴なのだから。けれど今は巫女の件があるからって事かしら。さすがあの刀守ね。おねぇさん感心しちゃうわ。こんなに美味しいのに。イケないクチじゃないでしょう?」
「どうして刀守事を」
自分ですら少し前に知った事を何故? 俺は声を潜めながら、彼女の酒好きを感じ、手のビール瓶を酒に切り替えて注ぐ。海江田の奇跡というその美味い酒を差し出された事で、彼女は気分よくそれを飲み干すと、
「おねぇさんは何でも知っているのよ。気前よくこの酒を用意してくれた清水センセに免じて、今回は私の杯を受けないのは勘弁してあげる」
「千里さん、どうしたっスか? 賀川さん、何かしてないっスよね?」
「大丈夫よ。賀川君、雪姫ちゃんの手にちょっとキスしてただけだから。さ、貴女はお酒は余り駄目だったわねぇ。飲み物を貰いに行きましょう?」
「ききき、きすって、いつの間に何っスか? え、ぁ……」
「まだケーキの残りもあるんですって、さ、取りに行きましょう」
そう言いながら千里さんが消えた所で、
「あい、すまないな。千里に悪気はないのだ。悪戯なだけで」
「……天狗仮面も苦労してるんだな」
「そこで何をごちゃごちゃ、やっているのじゃ? 天狗仮面よ」
そこに割り込んできたのはこの席で一番体格がいい男だ。できれば関わりたくなかったのだが。
「この男は町で宅配をしている賀川殿である。ちょっとした事で知り合いになってな。賀川殿、彼は……」
「鬼ヶ島 厳蔵だ。『賀川』、か。覚えておこう」
意味深ににやりと笑われたので、俺は無言で一礼して酒瓶を出すと、
「おお、これはこれは」
そう言って上機嫌でそれを飲み干した。返杯を断った事で怪訝な顔をされたが、
「今は余り酒を飲まん若者が増えたからな」
そう言って狐面の上条と呼ばれている男がふわりと入ってくる。面を被っている以外は普通の感じだが、足運びに何か魚沼先生に近い気配を感じる。何か武道に通じているのかもしれない、それも達人の域ではないかと思う。
たじたじになっている俺を救ってくれたのは葉子さんの一言だった。
「そろそろ小梅先生が戻ってくるみたいよ? 次はお着物ですって」
「おお、それは間近で見に行くとするか」
「やはり日本女性は着物が美しい」
そう言いながら大きな鬼のような男と狐男が入り口近くの撮影班の後ろに並んで見に行く。その後ろ姿を目で追いながら、
「所で、天狗仮面。どうやって面を取らずに食べ物を食べてるんだ?」
「……天狗秘密である」
そう言いながらいつの間にか減っていたコップに酒を注いだ後、彼から離れた。
そして俺は義理の兄である魚沼先生とタカさんに酒を注ぎに行く。
「いつもお世話になってます」
「調子に乗るなよ、賀川の」
「うむ。バッタが宵乃宮の配下と思われる男が大量の『部品』を買い付けているのを掴んだ。何か仕掛けて来るやもしれん。今日がどうと言うわけではないだろうが」
「殿方はすぐ難しい話をなさるわね。今日はハレの席。いけませんわ、鉄太様」
「うぬ」
冴姉さんのとりなしでとりあえず自席のあるテーブル全員を回れたが、他のテーブルまで回る気力がなく、席に座る。ただ何処からか鋭い視線が飛んで来た。俺にと言うわけではないようだし、ユキさんへでもないようだったので、とりあえず放って置く。
そうしていると紋付袴と色打ち掛けで清水夫妻が再登場した。そのBGMに紛れて俺はいやなモノを感じて自分の聴覚を操作した途端、鳩が大量に飛び出してくる。
「凄いです! 鳩ですよ。司先生の黒地に梅などの春の花が、流水に流れる絵柄の打ち掛けがとても素敵な上に、こんな演出、凄いです」
「う、はぁ……はぁ……ちょっとユキさん、俺、外に出てくる」
「え? あ、どうしたんですか?」
「酒に酔ったかも」
「え? 飲んでないですよね?」
「……ふ、雰囲気にだよ。気にしないで。すぐに戻る」
俺は魚沼先生に一応ユキさんの事を頼んで、賑やかな会場をそっと出て行った。
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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水先生夫妻の結婚式の設定
清水先生夫妻、海江田の奇跡
うろな町~僕らもここで暮らしてる~(零崎虚識様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7914bq/
鬼ヶ島 巌蔵さん
四つ葉の円舞曲(仮)〜うろな町から〜(不死鳥の楽団様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7003bq/
上条父 様
うろな天狗の仮面の秘密(三衣 千月様)
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天狗仮面 千里さん
悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜様)
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リズちゃん
うろな町、六等星のビストロ(綺羅ケンイチ様)
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葛西拓也シェフ 一条パティシエール
だいたいYL様の結婚式に合わせていますが、
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/102/
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