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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月30日

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268/531

清水夫妻の結婚式1

llllllll

辿り着きました!

ストックはないので書きながら進みます。

では、賀川より。

lllllllllllll

 






「すみません、無理を言って」

「いいえ、構いませんけどね。もう出勤していましたから。でも帽子を被ってくれなかったら誰かわからなかったですよ」

「それが普通だと思います。作業服でいる所しか見た事ないでしょうし」

 俺はモールの従業員出入り口で今日のホール担当になっている鹿島さんを捕まえた。そして今日の結婚式でピアノを担当しているが、練習の時間がなかったと告げる。準備の人の邪魔にならないようにするから少しピアノに触らせてほしいと。

 服の着替えは手持ちで持って来ていてまだ着ていないから洒落っけのない服の男にそう言われて、鹿島さんは戸惑ったような顔をしていた。でも賀川の帽子を被るとやっと良く使う配送会社のはいそういんだとわかってくれた。

「ピアノなんか弾くように見えないですけどね、賀川君」

「でしょうね。子供の時に手習いしていただけですから」

「無理なら、すぐに代役を立てるから言ってくれていいですよ。結婚式は大切なセレモニーだからね」

「ありがとうございます」

 一度代役の相談もしていたし、やんわりとだが、大人として『弾けないならちゃんと言って断った方が良い』という意味合いが含まれていた。

「しかし賀川君が清水様と知り合いとは思いませんでした。あの人のコネクションは八方に、想像以上ですね」

「もともとは俺じゃなくて、俺の大切な人が世話になったんですよ。特に今は梅原先生の方に……」

「ああ、生徒さんですか?」

「まぁそんな所です」

 それにしてもこの鹿島さんと清水夫妻は客としての面識以上があるのだろう。『清水先生の結婚式のピアノを担当している』と言った時に不意打ちの上、俺が不審人物に見えた為か、『清水の?』と先生を呼び捨てにしたからだ。すぐににこやかに『清水様の』と言い直したが、アレは平素呼び捨てにしている感じだった。

 だがどこまでそうなのかわからないので、俺はそれ以上は笑って話を流した。

「ああ、鹿島さーん」

 その時、そう言いながらフラフラ歩いてくる女性が一人。確か小学校の先生の一人ではなかっただろうか? 配送の時に印鑑をもらった記憶がある。

「仮眠が取れる部屋がないかしら。今、最後の縫い止めが終わったの」

「おはようございます。小林先生。やはりあれからもしかして徹夜だったのですか?」

「そうなの。でも鹿島さんが作業用の部屋を貸してくれて助かったわ。家だと娘が飛びつくし、何よりココなら行き返りの時間がないからその分休めるもの。小物は子供を連れて、拓人さんが持ってきてくれるのだけど、でもそれまで出来れば一人で休みたいの」

「わかりました、お疲れ様です。シャワーがある所が良いですね。そこの、君」

 通りすがりの女子社員に指示して先生が休めて、着替えに困らない部屋を宛がい、更には旦那さんが来た時にスムーズに会えるように係に話を通すように手回しする。

「ありがとう、鹿島さん。恩に着るわ」

「これも清水夫妻の良い結婚式の為です。いい式にしましょう」

「……はぁ、どうしてこう気が利く男なのに花が寄ってこないのかしらねぇ。萌ちゃんにラブし過ぎなのよ、きっと。ま、とにかくまた式場で」

「ゆっくりお休みを。じゃ、賀川君、待たせましたね」

 話を聞いているとどうも彼女は今回の結婚式のお針子役で、準備に追われていたらしい。

 俺は軽く頭を下げて、鹿島さんの隙のないスーツの背中を追った。



 朝早かったがもうモールの社員はゴンドラの掃除や各種セッティングに追われていた。鹿島さんはお偉いさんだからだろう。入室した途端、空気がぴりっとするような緊張感が社員に走った気がした。そんな中を挨拶しながら俺にピアノを示してくれた。

「スタインウェイだ……」

 そこにあった黒い大きなグランドが俺には輝いて見えた。昨日、親友に導かれる様に弾いた時の高鳴りを思い出して顔が緩みそうだ。

「賀川君はどこのピアノが好きとかあるのですか?」

 鹿島さんは音楽に詳しいのかもしれない。俺はあんまり詳しくはないので、笑ってから、

「家ではベーゼンドルファーだったから。でもこういう所ならこっちの方が良いと思います。力強さがあるし。まぁ、調律がモノを言いますけれどね……」

「え? 家でベーゼンドルファーって……ちょ……」

「姉の好きな音だったんで。俺はファツィオリかな」

「ああ、確かイタリアのピアノですね」

「そうです。でもスタインウェイの方が華やかで、コンサートホールだと良く映えるから。ああ、調律もいいですね。でもちょっと音が鋭い、か。一曲弾いていいですか?」

「あ、ああ。始まるのは十時半だから、十五分前くらいまでは自由に良いよ。ただ着替えも……」

「ありがとうございます」

 俺は話半分で椅子に座る。

 鹿島さんが物言いたげに眺めていたのだが、俺の目に入らなかった。

 俺は昨日、亡き彼と弾いたあの曲を弾きはじめる。結婚式と言えばこの曲は定番だろう。

 ピアノはいいピアノだったが、若干鋭い感じの音がする。調律のせいだけではなくそういう個体なのだろう。その性質はあるが、華やかな高音が魅力的に弾けるので、音が飛び抜けないようにまろやかに指を運んで行く。

「ほ、う……正直、良い所で学芸会クラスかと思ったけれど、これは……うちのピアノは良いものではあるし、音響もあれだが……普通、結婚行進曲ならワグナーの方が好きなんですが、メンデルスゾーンの方が良いかもと初めて思いましたよ」

 お世辞でも嬉しい事を言ってもらって、下を向いて笑って、

「ああ、俺もワグナーの方が好きですけど。ちょっと不吉でしょう?」

「そうですね、あれは結婚した二人が最後に別れますからね。ああ、練習の邪魔をしてすまなかったね。少しの間、聞かせてもらっても?」

「あ、ああ、ええ、こちらが弾かせてもらっているんで」

 俺はそこからゆっくりと指と感覚と、ピアノを馴染ませて仕上げていく。昨日まで弾けなかったとは思えない。まこと君の演奏にはいつまでも敵わないが、彼と比べるのではなく自分の気持ちを込めて。そっと旋律を奏でていく。

 何曲目かで、鹿島さんは立ち上がると、『もう少し聞いていたいが、あいつのとこに行くかな。さ! 聞き入ってないで仕事をそろそろする様に』などと指示しながら、会場を出て行っていた。

 それから暫く、俺はピアノを心から楽しんだ。



「賀川君。良い音だよ。クラッシック好きな私としてはずっと聞いていたいが、本番もあるからね。賀川君、そろそろ着替えに行った方が良いよ」



 いつの間にか……ずいぶん時間が経っていたらしい。頃合いを見て戻ってきた鹿島さんがそう言うと、気を回して更衣室まで案内してくれた。


llllllllll

"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生夫妻の結婚式の設定

鹿島さん、清水先生夫妻、小林先生夫妻、萌ちゃん


お借りしております。

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