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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月29日

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267/531

訪問中です6(篠生)

llllllllll

交錯する過去と現在。

繋ぐのはピアノの音色。

lllllllll




 まるで憑りつかれた様に。



 その表現が正しいと俺は思った。

『どうやっても健常には戻らない』と八雲先生が診断を下したと言うのに、寿々樹兄が『アホなりに頑張ってるが、もうないな』と零した賀川の指が、何事もなかったかのように鍵盤を叩く。

 本人的にはどのくらい『戻った』のかはわからないが、音楽に縁のない俺にもそこそこ素晴らしいとわかる演奏だった。また、ラジカセから響く子供の指から叩き出されたとは思えない滑らかな旋律は秀逸で。

 まるで目の前で打ち合わせているかのように、音を重ねていく。

 この二人が無事に、何の障害もなく素直に伸びていたなら……今となってはありもしない未来だが、病気が新薬で治り、賀川は攫われる事がなかったなら、と、あったかも知れない彼らに思いを馳せて。誠少年の母親が嗚咽を堪えてその音に聞き入っていた。



 俺が見た過去、幼い少年達の指切り。

 それを見守っていた刀流兄。

 目の前の赤い刀身は神が宿る。



『私が今の篠生 誠、ですよ……反魂ではない、と言っておきましょう。彼の望みをもって、その身を譲り受けた者』そう名乗った神『かぐつち』。

 反魂とは死んだ者が生き返る術の事で、それではないと言う事は間違いなく賀川の親友である『まこと君』ではないと言う事だ。自分は別の存在だとはっきり公言した彼は、『かぐつち』で間違いないだろう。宵乃宮の御神体と言われた赤い刀身に宿りし神で、今巫女の体に宿りし『水羽』とはまた別の神。

『くらみづは』……水羽は、水や滝、川などに宿る神。

 二つの神は火の兄と水の妹。

 神とは火水かみであるといわれる。



 その火の『かぐつち』は誠少年の心が清く、それが故に賀川の身にその願いを叶えた。

 だがこれが、もし少し前……賀川が巫女ユキの存在を知らず、姉の冴にいびられ、暗い闇にその身を置いていた時に、誠少年が自分を生かしていたと知ったら。賀川は少年の想いを真っ直ぐには受け止められず、自分を闇に落した張本人まことと、真なる悪神と『かぐつち』を呪い、祟ったかも知れない。

 だがそうはならなかった。

 これこそが神の采配なのか。



『生かして欲しいんだ。そしてまたピアノを弾いてすごせるように』



 神でさえ、その慈悲を持つなら賀川に与えようとした『死』を、彼は覆して『生』を欲しいと望んだ、それは無垢な者の掛け値のない願い。

 先程賀川に極論で『肉片になろうと死ねない』などと話したが、たぶんそんな事態にはならなかったろう。誠少年の願いはただ生きているだけではなく、『ピアノが弾いて過ごせる』事であるから。



 そう考えを回していた時、長い様な、短い様な、その一曲を終える。

 賀川は最後の一音をとてもとても愛おしそうに、そして名残惜しそうに弾き終え、揺らぎを残しながらその手を鍵盤から放した。

 すると、スピーカーからくすくすと笑いが響いた。

『これであきら君が弾きに来たら、大切なとなりの人が一人になっちゃうから気を付けてね』

「ぁ…………」

 賀川は苦笑して頭を掻いた。

 彼が今、弾いたのは賀川の未来を思って弾いた曲。

 曲からしてすぐに連想される『結婚式』と言う舞台で、誠の音に引っ張られて弾いたなら確かにそういう状態になったしまうだろう。彼なりの遊びなのかもしれない。

 ひとしきり嬉しそうに笑っていたが、苦しげな咳と共にそれは途切れた。

『あきら君には、たいせつな人が出来た? そうなってると……いいなぁ』

 吐息を吐くようにそう言った後に、録音されたピアノが無秩序にポロロン……と、そしてバンっと、不自然な音を奏でる。

「え? まこと君?」



『ま、まこ、誠っ!』

『誰か、ぼっちゃまが、誠ぼっちゃまが倒れて……きゅ、救急車をっ!』

『しっかりして、今までだいぶ……ああ、誠、まことぉ』



 演奏を終えた少年が倒れたらしいのが感じ取れた時、ラジカセの音を少年の母が切った。

「ま、まこと君……」

「……この時の音が全盛だったのよ、わかっていたんでしょうね。この後は梗塞が、ね。指が震えて。『帰ってきたら一番にこれを聞いて欲しいんだ』って言ってたの。……ありがとう、聞いてくれて。誠は貴方が居たから、幸せだったのよ」

 そっと賀川の手に自分の手を重ねて取ると、上を向かせる。

「だから、貴方は生きていてくれて本当に良かったのよ」

 彼女はCDをケースに戻していた、何枚か束になったそれらを賀川の手に載せて渡した。

「誠、亡くなるまでに、調子が良い時に少しずつ録りためたのよ。もらってやって」

「良いんですか?」

「ええ、すべて貴方に。私は何度も聞いたから。もうおぼているわ。何より最後の時を見送れたから」

「……ありがとうございます」

 賀川はそれを抱きしめる。時を超えて彼の声を伝えてくれるそれは、賀川にとって宝物だろう。受け取って笑うと、少年の母もまるで荷が下りた様に優しく賀川に笑いかけた。

「また、よかったら遊びに来てちょうだい」

 頭をぺこりと下げる賀川。俺はそれに並んで、部屋を後にした。



 車に乗り込んでからは無言だった。

 いろいろ言いたい事も告げてい事もある。だけど今日は良いだろう。止めておこう。そう思った時、賀川がポツリとつぶやいた。



「まこと君は、俺がいつも聞きたい時に聞きたい曲を弾いてくれたんだ」

「うん」

「明日、さ。俺、大切なユキさんの恩人である夫婦の結婚式でピアノを弾くんだ」

「うん」

「まるで狙い澄ましたかのような選曲だよ、結婚行進曲なんてさ」

「うん、そうだな。……わかってたのかもしれないな。賀川にとってあの子は『天使』なのかも、な」

「……ああ、そう、だな。それに今頃になってユキさんのキスが効いたかな?」

巫女ユキ祝福キスをもらったのか?」

 火の神の加護に、水の神の祝福。その発動には神なりの条件があり、容易く起こる事ではない。今回必要だったのはきっと友情や想いを正確に受け取り、これからを真っ直ぐに生きていく気持ちではないだろうか。お互いを思いやる気持ちであり、届かなかった夢への階段を眺めやる事。

 そこに揃った奇跡に俺は驚いていたが、賀川にはよくわかっていない様だった。

「ああ、まあ……彼女は『女神』だからな。天使に女神に、俺って思ったより愛されてるのかな」

 信号で止まった賀川は左手を握ったり開いたりしながら、冗談交じりにそう答え、俺に見えないように一粒だけ涙を零し、笑っていた。



lllllllll

これで今月四日にムリして負傷した、

腕の解放骨折から来る、指先の巧緻性について、回復です。

怪我を負った流れについては小藍様側の同月四日の更新をお楽しみに。


さて、ここから結婚式参加と行きたい所ですが、

全く書いていません。

どのくらい書くか、端折るかも全く不明です。

とりあえず更新速度は未定とさせて下さい。

lllllllllll

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