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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月29日

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265/531

訪問中です4(篠生)(願い)

lllllll

少しずつわかっていく賀川と少年の軌跡をたどる。

lllllll

 








「神が、かみはまちがってる。どうしてまこと君が死んで、俺が、おれが……」

 そう呻くように言って賀川は部屋から飛び出そうとした。頭を下げたのは何とか残った理性が為した行動で、その一瞬があったから死んだ少年の母親は彼をその場に取りとめておくことが出来た。刹那に走り出していたら俺でも捕まえるには容易ない程の身のこなし。だが止まってしまって女から掴まれた賀川は振り払う事が出来ない。天性のお人よしと言うか育ちの良さなのか、『命令』を受けると自分の意思を通すより、命令順守を『痛みと屈辱』で覚えてしまっているからか。

 賀川は足を止めてしまった事を悔いる様な苦しげな表情を浮かべているのに、とにかくその場にとどまった。

「ね。お願いよ。 あきらちゃん。本当にもう少しだけだから!」

 彼から離れた彼女は再び賀川が飛び出て行こうとしない様に目で釘づけてから、慌てた様子で仏壇に置いていたモノに手を伸ばす。



 賀川にとっては針のムシロだ。

 自分の親友が死を前に祈ったのは、己の生きる道ではなく、『無事にあきら君が帰って来る』事。そして自分は本当に帰って来て、誠少年は死んだ。遺体は消えたが。

 少年の母だって賀川の無事を喜んではいるが、何よりも生きていて欲しかったのは余所の息子より、自分の息子だろう。

 だが俺はここに来て幾つかの謎が解けていた。

 俺が昨夜何かに『見せられた』モノについて語らねばならない。




「あきら君を、生かして帰して下さい」




 昨夜、灼熱の中見たのは、たぶん間違いなく十数年前の現実。



「ごめんなさい、ごめんなさい。僕が嘘をついたから、あきら君の事を怒って攫ったの? ごめんなさい。世界なんて目指せないって僕知ってたんだ、それなのに、神の剣の前で『世界で』なんて約束したりしたから、怒ってるの?」

 泣き叫んでいたのは賀川の幼馴染の少年、誠。その目の前にはショーケースに入った赤い刀身の底光りする武器かたな。俺でも話にしか聞いた事のない赤い刀身を持つ、『宵乃宮』の御神体である『宝剣』の特徴と酷似していた。

 少年達はそれが置かれたこの部屋で、何か約束をしたらしい。

 だが病気で未来のないと知っていながら、言えずに嘘をついた罪悪感でいっぱいの中。親友の消息が消えた。彼にとって大きな嘘をついた事で、賀川が攫われたと考えたらしい。

「あきら君を、返して下さい」

 涙ながらに懺悔する少年。賀川が攫われたのは『大企業の利益を生む技術を、子供をさらうと言う事で安易に手に入れよう』とした、誰かで、彼が悪いわけじゃない。

 そう言ってやりたかったが俺は未来から過去を強制的に見せられているだけで、何が出来るわけではなかった。それに少年は突如、叫んだ。

「……いるのは知っているんだ、神様! 僕は『みえる』んだから!」

「…………そうですか。やはり見えていたのですね。何気に目が合うから、たぶんそうとは思いましたよ」

 刀身が赤い光を放ち、像を結ぶ。そこにあるのはたぶんヒトだろうと思われる淡い姿。

「ねえ、神様なんだよね? イジワルしないであきら君を返して」

「……何を勘違いしているか知らないですが、私は何もやっていませんよ」

「お、怒ってないの?」

「嘘はよくないとは思いますが、必要な嘘も裏切りもあるのですよ? それにあんなのは嘘のうちにも入りませんよ?」

 涙の浮かんだ瞳をきょとりとさせて、少年は首を傾げた。

「……かみさま、なんだよね?」

「そう呼ぶ者もいます」

「ふーん? 名前は?」

「……『かぐつち』と」

 暇つぶしなのだろう。少年の相手をする『かぐつち』は、おぼろげなのに薄く笑いながら相手をしているのが俺には分かった。

「じゃ、かぐつちの神様、お願いを聞いて? こないだココに一緒に来ていた僕の友達がどこかに消えたの。たすけてあげて?」

「たすける?」

 神様だからと言ってお願いを聞いてあげないといけないって事はないんですよ? などと言いながらも彼はこくりと頷いた。

「ああ、殺してあげればいいんですね? そうですよね、一思いに。それなら今の私にも容易く……」

「ち、ち、違うよっ! 何でそんな事言うの?」

 誠少年は首をブンブン降って、それを拒否する。そう言われたかぐつちは一瞬の間を置いて、

「違う?」

「生かして欲しいんだ。そしてまたピアノを弾いてすごせるように」

 赤い刀身が小刻みにカタカタ揺れた。どうやら笑ったらしい。だが少年は真剣だった。

「お願いだよ」

「もし私が神だとして、人の生き死にをどうにかできると考えるなら、どうして貴方は自分が生きたいと願わないのですか? 貴方、近いうちに死ぬ事、わかってますよね?」

 少年はそう言われて息を飲んだ。

「ほ、本当に生きられるの? お願いしたら」

「かもしれません、よ」

 彼が唾を飲むのがわかった。まだ五歳の少年。生きている事と死んでいる事の意味も良くわかっていない年齢なのに。病魔に侵され、未来を失った少年の前に細い光が射したのだ。その光を掴まない訳はないと思った。

 だが少年は首を振ると、

「ううん。あきら君を。あきら君を、生かして帰して下さい」

「どうして、自分の命を願わないのです?」

「僕はもう死ぬって言ったのはかぐつちの神様だよ? それに神様が見えるなんて、もう本当に僕は死にかけてるからだよね…………何だか僕が死んじゃうのわかってて、意地悪してるんだって思ったんだもの」

「その意地悪な神様にお願い事もどうかと思いますけれどもね。確かにもう貴方の命はそんなに長くないのですよ。確かに像を結ぼうとも思っていない私が見えるのは死が近いから。私にも救えないもう決まってしまった因果律さだめ

 そう言って淡い残像が瞬く。

「私は今、本体ではないのでね。すぐに貴方が言うような『助け』を彼に出すのは難しいですね。ちょっと時間をもらえば」

「スグじゃなきゃ助けられるの? ど、どのくらい?」

「そうですねぇ、三百年くらいジッとしてれば、この刀も……」

「さ、三百……ちょっとじゃないよ! そんなに人間は待てないよ!」

「そうですか、せめて巫女が居ればよかったのですが」

「みこ?」

「依り代……って言っても、わかりませんか。そうですね、協力してくれる人間の体。それを借りれば、力を取り戻すのは早いのですよ。それでも三年はかかると思いますが」

「その巫女はどこに……」

「今は逃げ回っているから私にもわかりません。ネジをばら撒いて消息がつかめない様にしていますからねぇ」

「そんなぁ」

 彼はヘタり込みかけたが、顔を上げると、

「それは巫女じゃないとダメ? ……僕じゃダメかな?」

「貴方はもうすぐ死んでしまうのですよ? どうやっ…………いや、もし……貴方が……死して尚、その体を使っていいとここで契約するなら……私はその願いを聞き届けられます、が」

「ほんとうに! あきら君、帰って来れるの!」

「じ、時間がかかると思いますよ。十年とは言わないでしょうが……その約十年の間、玲様は……」

「あきらさま???」

「…………あの子は……私を愛しんでくれた……昔の知り合いの子孫なのです」

「しそん?」

「孫とかひ孫とかそんな……そうですね、貴方の御祖父ちゃんと知り合い、と言った感じでしょうか」

「様って呼んでるって事は、大切な人のしそんなんだよね? よかった。意地悪された時はどうしようかと思ったけど、あきら君、帰って来るんだ」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」

「え? 助けられるんだよね?」

 微妙な空白が開く。溜息を吐く様なその後に、

「その……いや…………わかりました、よ」

 かぐつち神が見たのは病魔に侵され死を前に、自分の事ではなく親友を思いやる清らかな心。キラキラとした瞳の輝きは涙に濡れているからだけではなく、心の輝きで光っているのだろう。

 どんな神でもその魂の願いには逆らえなかったようだ。

「で、どうしたらいい?」

「……ケースの裏に回りなさい。鍵を開けるから、わたしだけを連れて行くのです。後は追々……」

 誠少年の手に握られる赤い宝玉。



 願いが叶えられ、賀川が世界の闇、アンダーから引きあげられたのは八年後の話。


llllllll

終わりませんでした、もう少しこの日が続きます。


少しリアル等、忙しいです。

出来るだけ更新を止めないつもりでしたが、この先は手抜きをしたくない回、急いでも30日予定の清水夫妻の結婚式はまだ書けていない為、少し時間をいただくかもしれません。

更新が止まるかもしれない事をご了承ください。

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