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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月28日

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261/531

治療中です(技術部にて)

llllllll

いや、いや、そんな用事で来たわけじゃ。

資料をね、あれ? だめ?

lllllllll

 







「で? 水炊きですか?」

「うん、美味かったよ。ちょっと皿が割れたけど」

 俺はにっこり笑った。だが回りはがちゃがちゃと騒がしい。目の前にいるココの技術主任はとっても怖いくらい綺麗なんだよ。同じ土御門でも、女性はこっちの魂が抜けそうなほど怖いくらいに美しいのだ。男子にも少しくらいその要素があっても良いと思うのだけれどもね。

「い、いや、水炊きより、こちらに早く来て下さい!!!」

「主任、コレ、腕の神経やられてますよ?」

「さあ、解毒の点滴しましょう、子馬さん。誰ですか、現場で側に居たのは」

「え? 大丈夫だよ~」

「またまたそうやって笑って誤魔化したんでしょう! 騙されませんよ? 誰か、土御門うちの男、呼んで来て!」

「だ、大丈夫だよ、主任。もう大丈夫~って……や、ヤダ~」

 俺は後ずさるが、じわじわと周りを固められる。

「猛毒ですって。心臓やられてたら、いかに土御門うちの血でも一時間と持ちませんよ? 何で今もそんなに元気なんですか? 彼女の事でニコニコしてたんですか! リア充だからですか? 許しませんよ、そんなの。治療しませんと」

「どどど、どこか個人的恨みも入ってない? 主任、か、彼氏出来たんだよね、その後どう?」

「……お前は綺麗だ、でも、でも、怖すぎるって……ヒドイ…………涙々ですよぉぅ」

「あ、いや、ほら、ほら、きっとすぐにまた新しいヒトが……それに解毒剤なら飲んだって! 主任。こないだくれた、これ」

「こ、こんなの効きませんよ。ほら、治療ついでにデータを……」

「どう考えてもそっちが目的じゃないかっ!」

 海さんを幸せ気分のまま見送って。

 用事でうろなを離れ、技術部に行ったら、怪我したのが広まっていた。その上、俺が飲んだ解毒剤は余り効かないと言われ、逃げようとしたら、不覚にも他のうちの者が居て。すぐさま固定されて点滴される運びになった。



「あーあ、大丈夫なのに」



「ほらほら、本来ならもう逝ってたハズですよ。おもしろいですねぇ」

「何で逆に中和できてるんだ……」

「ほら、やっぱり点滴なんか要らないんだよ。それも面白いって、主任に何で局長まで揃って! 何なんですか、一体。仕事があるんだよ、いい加減にしてくれよぉっ」

「仕事? じゃ、ここで仕事していいですから、子馬当主」

「ほら、資料です。他からの調べも上がってますよ。ま、眠剤も入れたので、眠くなると思いますけど」

「な、何してくれてんの?! 主任。別に寝なくていいって! きょ? 局長? 貴方も今なんか入れたっ?」

「検診や検体も貴方の職務です。他の者に負担を掛けない分、貴方は出来るだけそういう役は引き受けると言ったのでしょう? さ、後、六時間黙っていて下さい。部長が居ないから昼になる頃にはうろなに帰れるようにしますから」

「ええええええっ! 昼ぅ……睨まないで、わかりましたから。部長に掴まるよりマシかぁ」

 早く仕事を済ませたら、また海さんのとこに行こうと目論んでいたのに、儚くそれは露と消え。俺は仕方なく眠くなるまでとベットで資料に目を通しだした。



 篠生 誠。



 彼は賀川、いや時貞 玲の幼馴染で、元は園田 誠という名の、身寄りのない少年だった。



 海外暮らしの多かった時貞 玲の通うスクールバスの横転事故。

 幼い玲は親から見捨てられ、死亡通知が落とされて煙のようにこの世から存在が抹消された。



 偶然なのか、その一年くらいで、誠少年も死亡届が出されているのが今日までに確認出来た。



 そしてアンダーから救われた彼の前に忽然と現れた『仲介屋』を名乗る存在の名が、また篠生 誠を名乗った。

 アンダーで暮らした上、八年の空白は彼に幼い頃の記憶をダブらせる事は出来ず、姉、俺の従姉妹でもある時貞 冴、改め、魚沼 冴からの忠言でやっとその幼馴染の事を思い出したと言う。



 魚沼 冴は、俺の母の葉子と自分の母が姉妹だった事に驚きながらも、俺を見て『私達には似てないわね』と、微かに笑った。弟の想い人、宵乃宮の巫女雪姫が一課に目を付けられない様にと俺に依頼するとともに、篠生 誠が夏の時『得体の知れない存在』に感じた事を教えてくれた。



 また一課が宵乃宮 雪姫の母の頃から、巫女についてかなり強い興味を示していたと言う事を教えてくれ、それが故に香取の小父貴……教会の方に自分は協力を頼んだと聞いた。

 香取の小父貴も少し怪しい節がある事を告げると微妙な顔をしていたが。



「幼馴染が死んでいたってショックかな」

 俺は今、回想した事をもっと資料風に書き落しながら、点滴が落ちるのを眺める。

 明日の仕事は賀川にそれを告げる事。

「できればどうして今も『篠生 誠』と名乗る者が居るのかに、迫れると良いんだけど」

 そう独り言を言って、ベットで身じろぎする。俺達の様な者専用の重厚な作りなので、壊れる事がなく寝返りできるのは嬉しいなと考えた時、見知らない顔が覗く。

「お呼び、ですか?」

 俺は『やられた』と、思った。

 回りに居るハズの技術部員が一人もいない。いつの間にかそこに居たのは俺と彼だけになっていて、物は何も変わっていないのに人だけが居ない。どう考えてもあり得ない空間に俺は自分が飛ばされている事に気付いた。もしくは幻覚なのか。

 何にしても相手のテリトリーだ、目覚めねば、またはこの空間をうち破らねば、一瞬で殺される可能性が大きい。

 これでも土御門の当主と言う名を預かる者だ。抵抗くらいは可能なはず。

 だがそう思うのに俺の体はびくとも動かない、そう言えば逃げられない様にもともと拘束されてたっけ?

『彼』はにんやりと笑った。黒の髪に猫の様な細い瞳、だが一度瞬いた途端、その細い目から覗く瞳孔は縦に割れ、金色を帯びた。

「怖がらないで下さい。土御門当主、および刀守の血に連なる者よ。『格』の違いが分からぬほど愚かではないでしょう?」

 切ろうと思えばその拘束は解けないものではなかったが、俺は上手く動けないまま。背筋に冷たい物が走る。その男が何か、俺には分かった。そして彼はその瞳を更に細くし、童顔とも思える顔に氷に近い微笑みを湛える。笑っているのに恐怖を与えるそんな顔、どうやったら作れるのだろう、そんなのんきな事を考えてはいられなかった。

「どうして」

「呼んだでしょう? 私を」

「呼んだ?」

「私が今の篠生 誠、ですよ……反魂ではない、と言っておきましょう。彼の望みをもって、その身を譲り受けた者。仮初に彼の名を借りました。混乱させてしまったようですけれど」

 彼は俺の方を舐めるように見ると、

「玲様に伝えて下さい。彼が死んだ事を。玲様に伝えて下さい。彼が尊く生きた事を。玲様に伝えて下さい。彼に悪意はなかったと」

「悪意?」

「ええ、子供は時に残酷です。世の中には死よりも暗い世界があるのを知らない者が、願った事を私は叶えました。叶えるに値するほど彼は清かったから。でも叶った願いは玲様には辛い事。真っ直ぐに伝わらなかった願い程、歪むモノはない。でももし時を超えてその願いが届くなら、彼に手は必ず音を紡ぐはず」

 金色に瞳が徐々に赤を帯びた。その身から迸る『火』のイメージが俺の体を飲み込んでゆく。

「彼らの願いは透明だった、そして美しかった。どうして叶えてはいけないのでしょう?」

「お、落ち着いて、くっ……熱いっ」

「叶って欲しいのです…………もう、私は誰も…………」

 激しい劫火に身を焼かれながら、俺はピアノの音を聞いた。

 子供達の笑い声。

 彼らは無邪気に願う。



 その願いは…………未だ叶わぬまま。



 そして俺は『篠生 誠』を今、名乗る者の意思を垣間見た。



「おはようございます。終わりましたよ? 毒は抜けたけれど暫くは上手く動かないかもですからね。気を付けて下さいね」

 俺は茹だるような暑さに辟易しながら主任に朝の挨拶をし、呟く。

「夢、じゃないな」

「どうしましたか?」

「ちょっと入りこまれた」

「え、データにそんなのは出ませんでしたけど」

「そうか、格が違うって言っていたからな。君達に感知させない程、か。流石だな。あ、そうだ……」

 そして昨日伝え忘れていた事を思い出して口にする。

「そう言えば、主任。今度海さん……その妹の、例の『ぺらーな』開発者に、興味があったら技術部に来て? って言っておいたよ?」

「え? 本当ですか、それは是非! もう一度機会があったら声かけしておいて、ぜひ捕獲を!」

「きっと君達の方が捕獲されるよ?」

「おお、捕獲器具を見せ合おうと言う話ですか、いいですね」

「そ、それは……違う、と、思うんだけど」

 俺は君達の頭の中はどう出来てるんだろうと言う方が興味があるよ、そう思いながら技術部の奴らを一瞥した。



lllllllllll

キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん。渚さん。

お借りしてます。

問題あれば知らせて下さいませ。


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