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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月28日

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260/531

言訳中です(海さんと)

llllllll

彼女の姿は俺を和ませるけど。

llllllll






「あー汗かいたっ!」

 惜しまれながら園を後にする頃、辺りは暗くなりかけていた。

「今日は皆と遊んでくれてありがとう」

「あんなに期待に満ちた目で見られたら、そりゃあ遊ぶってーの。子馬は砂場でおままごととか、遊戯室で読み聞かせとか、なんか楽そーなの選んでたみたいだけど〜?」

「そ、そんな事はないよ?」

「まーいーや! それより晩飯ぐらい奢ってくれるんだろ♪」

「あ、ごめん。今日はあんまり金がないんだよ。商店街に行ってコロッケかハンバーガーとかの買い食いで許してくれないかな?」

 実は金はさほど持っていないわけではなく、だがケチったわけではなかった。

「んじゃ、特別にこの海ちゃんがおごってやるか。何食いたい?」

「え」

 俺は口ごもると海さんが詰め寄ってくる。

「私のおごりじゃ食べられないって~の?」

「そんな事は……」

「じゃ、何なんだよ?」

「えっと……」

 海さんは間を置いてから、背筋が凍る様な目つきで俺を睨んだ。さっき子供達が震えあがったそれとは比べ物にならない真剣で怖い顔。

「お前! 服脱げよ」

「え? それって何か、期待していいのかな?」

「ばっ、ち、ちっげぇよっ! はぐらかすなっ、右腕っ! 子馬、右腕上げてみろ!」

 逃げる前に、海さんは素早く側にあったベンチに俺を強引に座らせた。そうしてから俺の右手を握って思い切り持ち上げる。予期していなかった動きに俺は顔を顰めてしまった。唸り声だけは何とか上げない様に我慢したが、それだけに苦しそうに見えたかもしれない。

「お前、見せろっ!」

「いや、わかったから。どこでも食事に付き合うから。勘弁して」

「食事しようにも、箸持てないんだろ? だから手で持てる物にしたかったんだろ? 見せてみろって」

「ね、やめとこうよ、海さん。気持ちのいいもんじゃないよ」

「何だよ、私がそんな怖がりだとか、怯えるとか考えてんのかっ!」

「そんなに怒らないで海さん」

「怒らせてんのは誰だよ!」

「怒らせてないよ、ただ……」

「なあ。何で子馬の腕、上がらない? 何があった? あんな硬い球が当たっても平気なのに、ココ、どうなってんだよ?」

「すぐ治るんだよ、すぐ! あ……」

「………………怪我してんだ」

 すごい気まずい雰囲気になった。園に用事があったし、仕事で色々あって凹んでいたから、海さんに会いたくて誘った。今日はやめておいた方が良かったと思ったけれど、それは後の祭り……感の良い彼女を誤魔化すなど出来ないのに。

 最初に腕を叩いた時から、彼女には違和感があったのだろう。普通なら脇を浮かせて衝撃を緩ませたり、避けたりする反応が出来なかった。ボールだっていきなり飛んできたと言っても、腕や手で掴もうとせず、体でトラップするなんてサッカーボールでない限り、普通しない。右腕ききてが動かなかった為の処置だ。



「あたしには、言えないんだ……」

「………………」

「へぇ〜、ふぅん、ほぉ〜? べっつにぃ〜。いいよ、あたしはアンタの事、好きじゃないしっ」

「ぅ………………」

 キツイ言葉にめり込む。

 せっかく彼女に会えて凹んでいたのが回復したのに。地獄の深淵まで叩き落とされた気がする。黒髪を揺らしながら歩き去ろうとする彼女に、

「待って、見せるから」

 痛みを堪えて右腕を服から抜き、それをみせる。俺の右腕は血の滲んだ包帯で巻かれていて、腕の色が変色して誤魔化しようがなかった。指先は服を着ていれば目立たないが、両手揃えればすぐにわかるほど色が変わっていた。

「何だよ、コレ……あ」

 寒いからとサッと服を着て隠す。でもこのくらい寒い内に入らない。彼女に傷を晒した状態にするのが嫌だっただけ。

「昨日、仕事でヘマしてね。刺された」

「ただ刺されただけで、こんなに色が変わるかっ」

「……毒が塗ってあったんだ」

「刃物に毒って……そんなゲームじゃないんだから……ニュースになるはずだろっ」

「事件にはならないよ。特殊二課の件だからね」

「で、捕まえたのか? 犯人」

「捕まえた、っていうか、保護出来たよ。俺を傷つけたのは驚いただけで悪意はなかったんだ」

「お前、どんな仕事してるんだよ……」



 賀川は『刀守』の流れで、巫女を守る者として必要だと思い話したが。海さんに本来話していいかと言えば良くない。だが俺は腕に付けた白いブレスレットの『結界』を発動させて、海さんを隣に座らせた。他言は無用でと言う条件で話し始める。

「俺の家、土御門は昔から国や組織の暗部を支える一族の一つなんだ。陰陽鬼道に端を発した不思議な力を代々持っている。そして俺の所属する、警視庁公暗部特殊二課は一般市民でも特殊能力故に、犯罪に巻き込まれる可能性のある善良な市民を守る事が目的なんだ」

「ふしぎな、ちから?」

「そう、君の友達の『ユキっち』は本人の意思はなくても、その力が悪用されかねないから警護に来た、ああ、この辺は聞いたよね?」

 一応頷いてくれるが、どこまで理解してくれたかはわからない。

「俺達は警察や政府に手を貸す事で、特殊な自分自身も守っているんだ。存在意義があるから俺達は排除されない。今回は巫女の警護のついでに、この辺りの『夜』の治安維持協力、報告などが職務に含まれていて。今回、ある事件に巻き込まれて、隠れ住んでいたヒトを見付けて接触したんだけど……」

「警戒されて、そんな怪我をしたって事か」

「ははは……そんな所……」

 夏の頃、多くの不思議な力の持ち主や住み付く妖怪が狙われたり事件に巻き込まれたりする事があった。その首謀者達は時代時代の各所で事件をおこしていたが、これまで捕まる事はなかった。今回、足取りが消えたのは、この周辺だった。彼らがどうなったのか、俺には興味がないが、彼らはうろなに入るまでにそこここに居た『夜』に住む者を配下にしたようだ。

 そういう『夜』に住む者をすべて排除する動きもあるが、彼らも居るべくして生まれ、日本の地に生きる。俺は二課担当として消えた『夜の住人』達の安否を調べたり、その家族を慰問していた。負けた側についた家族がどういう目に合うか……それはどこでも不遇だ。そして怒りはまた更なる火を呼ぶ。だからそれを秘密裏に鎮火させねばならない。

 そんな家族を訪問した際、疑いの刃物を向けられ、……刺された。いや、半ば刺す様に仕向けたなんて言えないけれど。それが最善だなんてわからないし、怪我をする事自体、カッコ悪いので言いたくなかった、だから黙っていたんだ。

それにうん、すぐ治るよ?

「毒消しは飲んだし、明日には治るよ。丈夫さが取り柄なんだ、鬼の血を引くなんて言われているほどだよ」

 ほら、もうさっきの骨も大丈夫、元気だしっと、笑ってそう言うと、海さんが黙っている。三秒くらい間を置いて、

「もっと、自分の身体を大事にしろっ! デートとか言ってる場合じゃないだろっ」

「だから……今日は仕事を手伝ってくれて助かったんだよ。海さんが居ないまま、あそこに行ったら無理でも野球とかしてただろうから……あの子達に誘われたら俺、断れないよ」

「頼ってくれたって事か?」

「ごめんね、怒った? でもどうしても急ぎの案件だったし」

 そう聞くと彼女は、

「ああ、怒ったさ! 初めに怪我してる事くらいちゃんと、話してくれればいいのに。……いや、本当は、今のも話せない内容なんだろうなって事くらい、わかるけど」

「危険な事に首を突っ込む事が仕事だから」

 こんな男はヤダって思われるだろうな。そう考えながら傷を服の上から押さえる。そうしている内に海さんは突然どこかに電話をかけ始める。

 切ったと思ったら海さんはニヤッと笑った。

「美味しい鶏を仕入れてやってる水炊き屋に行こう! あれなら体にいいハズだ。栄養付ければ傷も治るさ」

「え? でも俺、箸が……」

「雑炊ならスプーンで行けるし、鳥のから揚げとかなら手でも食えるだろ? それに個室予約したから。鍋の骨付き肉や野菜、おすすめのほろほろ煮は、あたしが……箸で食わしてやるよ!」

 そう言い切ると、くるっと背を向けてお店へ向かい始める。

「え? あーん……してくれるって事?」

「…………っ」

「水炊きは熱いから、フウフウもしてくれるかな?」

「ちょ、調子に乗んなっ! それくらい自分でやれっての! ほらっ、もたもたしてっと置いてくぞっ」

 そう言いながらまだ座りこけていた俺の左手を取って、ずんずん歩いて行く。じわっと温かい気持ちが、掌から伝わる。ただ、可愛いだけでも優しいだけでもない、強くて感の良い、そして悪戯に笑う彼女は俺の……理想の人だ。

 その晩は優しい味の水炊きと相まって、とても美味しくてうれしい夜ご飯を、彼女の手で口に出来た。



lllllllllll

キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん。

お借りしてます。


そしてうっすらと夏の陣を…問題あれば知らせて下さいませ。


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