デート? 前です(海さんと子馬)
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あれは?
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俺が歩いていると、目の前に小柄な少女がそっと、道の壁を背に立っていた。俺をじっと彼女は見た。
肩口で切り揃えられたふんわりした黒に近い栗毛の髪に、黒の瞳。その瞳の真っ直ぐさに、疾しきを抱くモノはたじろぐだろう。俺の巨体にも動じているのかいないのかわからない。見ただけで驚く女の子は多くいるのに。
「つちみかど こーま?」
任務中は名前まで変えている事もあるが、うろなは幼い頃とはいえ五年住んでいる。その間の知り合いに会う可能性もあり、その時、名前が違う事で逆に疑いを持たれる事を避けるため、本名で動いていた。ここではその名前で応えて差支えない。だから俺は笑って返事をする。
「そうだけど。何かな? 青空 渚さん……」
俺にその顔は見覚えがあった。と、言っても相手に面識はないはず。
聞き込み内容と俺の記憶が確かならば、確か彼女は海さんの妹。海さんは次女で、彼女は一つ挟んだ四女だったと記憶している。その下の五女の汐ちゃんにはこの前に会った。
その時、海さんの写真を賀川から貰ったのだ。
「このかわいい写真、君が用意してくれた?」
俺はその時、貰った中でも一番可愛い一枚をチラチラさせた。他は別の所にある。この一枚だけ持ち歩いていたのは可愛いから……だけではない。いや、かわいい、が一番の理由だし、だからこそこれが『細工』されていたのだろう。
「この一枚だけ厚みと重みが違ったから」
ナノとかピコクラスだから普通、気付かないけれどもね。この写真は超高性能かつ薄型の盗聴器だった。でも彼女の表情は静かなままだ。
「海に潜るのが好きで、他に発明が得意なんだって聞いてる。だから君かな、と。『コレ』凄いね」
素直な感想を告げる。
「俺に渡ってから作動させたのかな? だから耳の良い賀川も気付かなかったよ。この薄さで自己充電し籠もりのない音声を再現しているとはと、俺の所の技術部が嬉々として調べて、その精巧な作りを買っていたよ。昨日一時間ぐらい電波が届かなかっただろう? そうそうコレ『うすっぺらーな・聞こえっぺらーな』、略称『ぺらーな』って呼ばれてた」
「……センス……ない……。それ、貴方の鼓動、血流、それに熱で充電されて、稼働し始めた。……今時期、机上なら一日放置しただけで、ただの写真に、なる」
最初、汐ちゃんが取り出したのはポシェットからだった。それでは寒い時期では充電されず、それで賀川が持ったのに彼に聞こえる音は発生していなかったと、言う事か。又は彼もグルだったケースもあるが、汐ちゃん以外の家族と賀川の接点は薄いので無さそうだ。
ともかく『なるほど』、と、俺は頷いてから、
「渚さん。……俺、海さんにヨコシマな気持ちは間違いなくあるよ?」
内心はどうかわからないが、彼女の表情は変わらないまま。だけどとても家族思いな少女なのだろう。その真剣な表情は俺の言葉から真実だけをしっかりと読み取ろうとしている。
だから俺は真実を告げる、それは別に相手が彼女でなくても、だけど。
「海さんが好きだからね。好きな女の子に前でヨコシマな考えを持たない男なんていないよ? だからこそ……君が考える様な不義理は働かない。知りたい気持ちはわかるけれど、質問があれば職務に関係ない限り答えるから、これはよしてくれないかな? それにコレを持っていた間で、だいたいの事は調べられただろうし」
じぃーーーーっと俺を見た後、彼女は、
「それ、返して」
と言った。本当は渡したくないけれど。だってこの写真が一番のお気に入りだから。俺が嫌がっているのに気付いたのか、小さくため息をつきながら、
「これと交換」
そう言って同じ写真、でも『種』の仕掛けがないそれを渡してくれた。俺が満足げに笑って交換に応じ、彼女に頭を下げると、更に深くはぁっと溜息をついていた。
「……あっち」
彼女が指差す方向に俺の好きな人が見え、『ありがとう、もし興味があったら技術部に来て』と言ったけれど、彼女からの返事はなかった。ただ何事もなかったかのように歩いて角を曲がって消えた。それを見てから俺は声を上げた。
「あっみさぁーん! 海さーん!」
「げ、子馬っ。お前、声大きっ! な、何しに来たんだよ!」
「ん? 海さんに出会いに」
「だいたいお前、ユキっちを守りに来たんだろ? 真面目にやってんのかよ?」
人目につきたくないのか、建物の影に引き込まれる。でも俺の巨体が隠しきれているかは定かじゃない。渚さんに会っちゃったし。
「じゃあ、デートという名目で仕事しよう! ん? 違う? 仕事という名目でデートしよう……かなぁ? ね? 仕事手伝ってデートしよ。で、今日は暇?」
「何だそりゃ? 大体あたしは暇じゃねぇっ!」
素気無く断られるが、
「今日は午後からお休み、予定は無し……」
「おまっ! どこで調べたんだよっ!」
「ん? 顔に書いてある」
「ああっ、か、カマかけたのかよっ」
慌てた感じの海さんは怒りながら、俺の腕を殴った。あれ? って顔をした海さんに、俺は笑って、
「いや、自由って良いねって顔に書いてあったんだ。さ、行こう。待ってる人が居る!」
「だ、誰がだよぉ~」
殴られた右腕と逆の手で、海さんの手を引っ張っていく。
「弟妹だよ」
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キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん。渚さん。
お借りしてます。問題あればお知らせください。




