追求中です(謎の配達人)
lllllllll
何かが、落ちる。
lllllllll
頬に何かを感じて目が覚める。
そこにあったのは白兎の様な真っ赤な瞳じゃなくて、秋の実りを湛えた栗色だった。ポロリと涙が落ちて、俺の頬を濡らす。
「よかった、フィルの笛で死んじゃったかと思ったの」
「だからほっときゃいいって言ったろ?」
俺は、がばっと起き上がる。
体の上には『超軽量ほごーんシート』が掛けられていたが、服はボタンを外されている程度で脱がされていないし、先程の様に体に電極などもつけられていなかった。
「ただ眠らせただけなんだから」
ニヤリと笑うレディフィルドに飛びついて胸倉を掴んで揺する。
「死ぬかと思ったろーが」
ヤツの肩の白い鳥が俺を突きかけたので、慌てて飛び退く。俺の頭に一羽の鳥がバサバサと舞い降りてくる。もう慣れてきたドリーシャの登場に、俺は頭から右手にその小さい体を移らせながら、
「眠らせた?」
俺はそこで冷静になって振り返る。そう言えばさっきの音に『死神』の姿は見えなかった。
「ほら、暖かいから飲んで? フィルが何も食べてないんじゃないかって」
彼女が差し出してきたのはレトルトパウチされた『ほごーん食料セット(超簡単:あたため機能付き)』の、スープとリゾットだった。ストローのような感じで吸い上げて食べれるのでスプーンなどは要らない設計になっている。
優しい味がする温かいスープには細かく刻んだ野菜が入っていて、俺の体を目覚めさせてくれる。リゾットの炭水化物は俺の指先に熱を戻す。
今さっき見たユキさん……に似た、誰かの光が自分の体に巡っているのを感じ、気力が生まれてくるのを確かめる。
「海お姉ちゃんの特製だから美味しいでしょ?」
これ持って行ったら子馬が喜ぶかな? っと思ったが、その場にあった二セットを食べきってしまった。
汐ちゃんは俺が目覚めた事を喜びながら、甘いチョコを薬の様に一つずつパウチしたものを食べていた。きっとそれも海さんが作ったのだろう。小さいながら顔やハートになっていて、とてもかわいい形をしていた。
「そうか、俺、ずっと吐いて、食べてなかった……か?」
「それもカガワァ~、殆ど寝てねぇ~んじゃないか?」
「いや、そんな事は……」
「んにゃ、自分はちゃんと寝たつもりでも、ずっと神経とがらせてたんじゃ、どんなに鍛えてる体でも、ダメになっちまって当然だ」
レディフィルドは汐ちゃんから受け取ったチョコを、口に放り込みながら続ける。
「いずれどんなに疲れてても、やんなきゃなんねー時もあんだろうが。まだ身についてねぇ特殊な防音をやろうってんだ。睡眠不足に食欲不振状態で、さらに追い打ちかけて音を聞いてたんじゃ、逆効果にも程があんだろ?」
「俺が出来なくなった理由って……」
子馬から聞かされた条件が期限内にクリアできるか……ユキさんとは離れたくない。そんな思いや気負いが空回りして。
その緊張による睡眠不足による集中力の欠如。それで防御できなくなった『ツール』の音源から来る吐き気と頭痛、食欲不振。負のサイクルから来る疲れのピークが、レディフィルドの『大』によって来てしまったのだ、そう結論付ける。
この所……そう言えば……
ユキさんや葉子さんが『大丈夫?』っと頻りに聞いて来ていた。その時に気付くべきだった。
ただ、気負いだけでここまで崩れるとは俺はヤワすぎる……確かにヤワではないとは言わないが、何故こう感情の揺れが大きいか『不自然』だと感じる。何か……他に原因がある?
レディフィルドは口角を上げながら、
「で、今はどうだ?」
「ああ? そう言えばすごくいい」
俺は『ほごーん水分セット』の方からスポーツドリンクをもらって飲み切ると、今までどれだけ気怠かったのか気付いた。コールタールのような何かで絡め取られていた思考も体も、睡眠と栄養を得たおかげか、ルドの背で中空を飛んだ時の様に軽やかだった。
初めて天使に見えたレディフィルドの音は俺に快適な眠りをくれたらしい。
「一歩間違うと安楽死なんだけどな」
「おまっ……」
へラッとした顔で笑うレディフィルドの胸倉を掴んで揺すろうとした瞬間、俺は赤を帯びた銀色の輝きを見た。それは死神の鎌。それに反射する命の露の微かな煌めき。俺は反射的に聴覚の『一部』を閉ざした。目障りな銀色の刃物が俺をすり抜けていく。
防音のタイミングは完璧だったが、やはり気持ちの良い物ではない。それにしてもレディフィルドは吹いていないのに? 顔を軽くしかめながら音源に向かい振り返ると、そこには人並み外れた体格の男がいた。
「形になったようだ、よかったよかった」
「あ、でっかい子馬じゃねぇ~かよ!」
「え? お馬さん? フィル? 何処にお馬さんが居るの? 大きなお兄さんが居るだけだよぅ」
「だからアレが『子馬』だってぇ~の」
「ええっ」
「オジサンって言わないんだ、良い子だね。海さんの妹さん……確か汐ちゃんかな?」
「お兄さん、誰なの?」
「これは失礼したね、公安警察の者で土御門 高馬、高い馬って書いてこうまって読むんだけど。子馬って呼んでくれたらうれしいな。青空 汐ちゃん」
「どうして汐の名前知ってるの?」
「だって可愛い海さんの妹さんだからね、知っておくのが普通だよ」
俺はレディフィルドの笛の音を真似たソレを防音したまま、皆の会話が聞こえていた。ドリーシャは小さい声でぐるっぽと警戒している。
「それって職権乱用のストーカーじゃ……それよりその『耳障りだろう音』を切ってくれないか、子馬」
「ああ、済まない。うっかりしていたよ」
彼の大きい掌の中には金色の機械があって、ボタンを押すと完全に銀色が消える。
音に招かれた鳥がいたが、子馬の体格を畏れてか降りて来ようとしない。音を切った事で集まったそれらが四散していくのが見えた。
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
レディフィルド君、汐ちゃん、ルド君 海さん、ドリーシャ(ラザ)
イラストはイメージで汐ちゃん。
お借りしてます。問題あればお知らせください。




