夢見中です(月姫)
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どうして、そうなる。
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『助けて、痛い、痛いよ
Please……Please help me……It hurts……
母様、何処? 姉様は?
Where are my mother? ……and sister?
ああ、鐘の音がするよ
Oh……The sound of a bell is heard.
雪が降るよ
Snow is falling……
こんなのすぐに終わる。
That will be finished right away.
帰れるから
I'll go home soon.
すぐに帰るから
I will soon return home.
ああ、白き女神よ。
Oh……goddess of white.
僕を連れて行って
Please take me to the home.
暗い闇はもう、要らないんだ。
I don't need the darkest dark.』
そこにはユキさんに似た女の子がいた。
赤い目、白い髪。
ユキさん……違う、だが彼女にとても近く見えた。
「刀守よ、何故。私を置いて……何故」
涙が俺に零れかかる。
汚れた白い着物を引きずる様に彼女は名残惜しそうに俺を見た。嫌な予感がした。俺は彼女の言う『刀守』ではないけれど。声をかけてあげたかった。なのに俺の唇に言葉は紡がれない。
その細い首や体の覆われていない部分に見える擦過傷、頬を叩かれたような痕。アンダーを生きてきた俺には見慣れた、暴力と最悪な行為の後に、身体に残る傷。傷跡の何倍も深く、心はズタズタになっている。
そんなユキさんに似た女の子を放ってなどおけないのに。俺の体は自由にならない。
ふわふわと歩くその背を悲しく見送る。歩き方までが彼女を思わせて。
その手には赤い剣……
ズルズルと重そうに地面を引き、かつん、かつんと小石や段にあたって音色をたてる。高い場所に上がっていく。そこは暗い場所だったが、側には滔々と水が落ちていた。
滝……
彼女の回りには蝶が飛び交う。
今から目の前で起きるであろう行為を止めたいと思っているようなのに、彼女の足は止まらず登り切ると、その滝の際に立った。
ああ、いけない。
そう思うけれど、俺は声も出ず動けない。
彼女の穢れを知らないかのように白く、美しい髪を切り落としながら、喉を絶つ。
やめろ。やめるんだ。
俺の思いは届かない。
剣が落ちた。白き傷ついた体を朱が染め上げていく。彼女が苦しげながら、笑っているように見えた。
体を覆っていた着物がその場に落ち、彼女の体だけが煌めきながら滝へと舞う様に落ちる。
彼女の体は滝に水に溶けるようで、高い位置から落ちたのに水柱さえ残さない。
そこに残ったのは彼女の着物と、赤い剣。
そこには首筋に当て、死ぬ寸前に赤い剣で切れた一房の白い髪だけが残った。
ユキさん……
彼女では無いのに、酷くリアルで、怖かった。涙が自然と溢れ零れる中、赤い剣が光を放つ。
『もう、私は殺したくなかったのですよ。巫女よ。誰も、誰も』
剣の柄に嵌る宝石から放つ光に視界は赤く染められ、どこかで聞いた声がしたが、それが何処からするのかわからない。ただ招かれる様に、どこかで赤ん坊の泣く声がした……
「いそうろう」
赤い光の中、そう声がかかる。
これは……俺、死んだのかな? そんな言葉が頭に過ぎる。
ユキさんのようでいてユキさんではない彼女が、またそこに居る。でも滝に消えた彼女ではない。
しかし、何故か素っ裸じゃないか……リアルにデカい、……ってどこってそこが。
柔らかそうなその体は余りに神々しくて、俺の妄想を上回っていた。
細かい描写は自主規制しとく、その方がいい。
彼女は少し高い場所から俺を見下ろしていた。紅い空気の中で、白く白く輝く肌に髪が揺れる。そこに居ると言うのに、余りにも現実離れしていた。彼女は唇を震わせるように言葉を口にする。
「可哀想な秋姫を迎えに行って」
そう言って高い所から舞い降りる。ふわりと近づいてきた時、彼女は白と赤が美しい巫女服を身に纏っていた。声が出せるのに気付き、彼女に問う。
「アキってユキさんのお母さん?」
「『刀』を使って『人柱』になった巫女の体は塵一片も残さないの。まるでなかったかのように。正体のないそれは、まるで『神』の様」
そう言って握る手から何か優しい波動を受ける。
「アレは誰だった?」
「初姫の育みし巫女、月姫……初の白巫女」
そして赤い瞳からは瞬きもなく、ハラハラと透明な涙が落ちた。
それは雨の様に。
美しく。
儚い。
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涙と血とに積み上げられる歴史。




