回想中です(十一月十八日)
ちょうどユキが奏ちゃんに攫われ?て、リズちゃんと一緒に見かける、少し前になります。
lllllllllllllll
前日、レディフィルドと特訓中にやってきた子馬はさっさと海さんを引き連れて、裾野の家を勝手に出て行ってしまった。
翌日、日付的には十一月十八日月曜日、子馬は俺の会社帰りを待ち伏せていた。そして俺達は喫茶店クラージュに居た。
「今度、海さんと来たいなぁ、来てくれるかな? ダメかなぁ」
そんな事を言いながら数日後に彼女を無理矢理バスに乗せてココに来たのは、その後の日の話だ。
子馬は持つと小さく見えるカップを摘むようにしてコーヒーを啜る。湯気の向こうで、とても柔らかく笑っている、従姉妹であるらしい大男は切り出して来た。
「宵乃宮が動き出している。巫女が愛する者を得たと。海外で賀川が狙われた際の『エンジェルズ シールド』の協力には感謝している。君に死なれると困るんだ。無為に攫われた子供を助ける組織に賛同したと資金も出しておいたよ」
「ありがとう、と、言っておいた方がいいか?」
「いいや、いいけど。俺が生まれた頃、海外で攫われた『刀森』が居るとは聞いていたが、まさかこんな形で会うとは思わなかったよ」
「……だいたい土御門って何なんだ?」
「昔から国や組織の暗部を支える一族の一つだよ。他にもいくつか派閥があるんだけど」
何だか眉唾な話になって来たなと、実際眉を寄せてしまう。
今、彼の腕には白い石が並んだブレスレットがぶら下がっている。レディフィルドの笛とは違った意味で、変わった音を出していて。
面白い音だった。
そう言えば、似たような音をこないだ聞いた気がする。確か……電車の中でユキさんが具合が悪くなった時だと思う。この音に具合を崩したのではなく、偶然だと思うが……
これを『作動』させていると周囲に会話は聞こえないらしい。『結界』の効果があるんだと笑ったが、その結界ってそもそも何なのかと俺にはよくわからない。それもこれはごく小さい範囲にしか働かないので、誰にも影響が出ないという。だが、周囲数キロとかに対応するそれを作動させると、たまに計器類や無線の故障が出たりすると聞いた。
やはり良くわからないが妨害電波の様な物が出るのだと、無理矢理に納得させる事にして、子馬の話に耳を傾ける。
「土御門の能力は主に陰陽鬼道に端を発している為、その血にも『鬼』が流れていると言われているくらいなんだよ」
「おんみょうきどう?」
「気の流れを読み、それを使った術って言うのかな? その中でも俺ん所は気持ちの『気』ではなく、鬼という文字を使って『鬼』と読ませるんだ。鬼の血なんて、本当にあるかわからないけど、俺のちょっと人並外れた体格とか、腕力は確かに、その史実を裏付けるのかもしれないね」
「この町にも居ると聞いた事があるけど、陰陽師とかいう?」
「うーん、流れは組んでいるんだけれど、その名は流石に恥ずかしいな。ちょっと他の人より感覚が優れている感じだよ。神舞や人柱を供出してきた『宵乃宮』とは敵対関係になるんだ。敵と言ってもドンパチは基本ないんだよ。顧客が政府関係だから、狭い土壌を奪い合うって言う意味の敵対関係でねぇ。水面下で争いつつ、牽制しあい、均衡を保ってきた。ざっとそんな感じだよ」
なるほど、『宵乃宮』の分家筋『刀森』である葉子さんが、『土御門』の出である、おんまさんと結婚となった時、揉めた理由が垣間見えた。
「俺達『土御門』は権力に沿って来たからね、現政府内では警察に所属させられている、それも俺、当主なんて言われてしまってる。受けないと母さんまで巻き込みそうだったし、目指す所があるから。まあ、いろいろ……見方によっては非道な事もするから母さんからヤクザな商売って言われているけど」
詳しくは葉子さんは知らないそうで、こういう内容は内密にしてほしいと言った。
彼なりに色々苦労は重ねているようだ。年は二十歳。おんまさんが亡くなり、葉子さんと別れたのは五つと言うから。俺のように無法で残虐な暴力や飢えに苦しんだわけではなかっただろうが、大人の都合でいろいろ虐げられただろう。
だが彼は笑う。
現在は公安警察に席があるが、正確にはそれを『公暗』と書くそうだ。発音が一緒なので普通は公安で通る。更に警察に勤めながらも、通信で単位を取っており、いずれ大卒を見込んでいると言う。
今回はユキさんの家系が動き出すという事で、警戒・警護が主な仕事ではあったが、うろなで裏方的な治安維持協力、報告などが職務に含まれると話してくれた。
そうして自然と話が進むにつれ、温和そうな表情の下に戦う者の鬼火をチラつかせる。
「俺達、土御門の居る、警視庁公暗部特殊二課は一般市民でも特殊能力故に、犯罪に巻き込まれる可能性のある『善良な』市民、およびその生活を守る事が目的だ。宵乃宮 雪姫はこの所、何度か狙われたのを確認した為、その対象に入った」
篠生の奴は言ってこないが、やはり何かに巻き込まれてはいたのか……ユキさん、いろいろと辛かっただろうと歯噛みする。
だいたい篠生の正体も気になっている。
俺も過去を何度か振り返っているが、一緒のピアノの先生についていた少年がいた記憶があるだけ。姉は彼を『幼馴染』と言ったが、五歳から八年以上たって後に出会った彼が同一人物とは、姉に言われるまで考えもしなかった。
「子馬、ユキさんを『人柱』にした際、一体何が得られるんだ?」
俺は機密を外国で漁っても得られなかった重要部分について、彼に問う。
彼は一瞬間を置き、息を吐く。
「話しておくべきか……巫女を『人柱』にする時、『剣』で叩き斬る。その時、『剣』に力が宿り、一定期間天変地異を起こせる。巫女が良質であればそれだけ長く、確実に」
「……なるほど」
大きな戦の中で気候を制する事は重要だ、好きなようにそれが出来る事は戦況を左右する。またその光景を見せつける事で、心理的に他者を支配する事も出来るだろう。
「シベリア戦なんかで投入されたけど、なかなか良質な巫女を大量には用意できないから。散々だったらしい。けれど、いくつかの場所でおかしな気候がみられたのは『人柱』のおかげだったりするそうだ。それにしても水羽様付きとなると、考えられたよりもっと効力が及ぶかもしれない」
「……すでに見積もりがあると言う事か?」
「初姫……初めの白巫女から考えて、たくさん『生産』された巫女だけれど、本当の意味で白巫女は彼女が『二代目』だ。初姫の例が古すぎて眉唾な上に、簡単な計測見積もりだから誤差はあるだろうが。……お前を殺し、完全な『人柱』にする事で、最大被害的に日本全土を二週間ほど海に沈められる降雨が予想される。起こせる気象事象は降雨だけでない。地震や竜巻に換算すると恐ろしい事になる……また、吸収して喰うって輩もいる」
「……ユキさんに、そんな事がないようにしなければ」
「俺もそう望んでいる。どんな力を持っていようと、自分の歩みたい道が歩める世界が俺の理想だ。だから、呼べばいつでも協力は惜しまない。一応、俺は刀森の血も引いているから、巫女を守る事は職務だろう。ただ……」
「ただ?」
「もしかすると土御門では掴んでいない巫女の力の使い道もあるかもしれない。その辺は更に今も調べている。後、篠生だったか? お前の幼馴染と聞いた」
「……抜田先生から?」
「ああ、調べ物にも『夜』の方面は俺の方が向いてる。今、彼の両親から色々辿っている。その報告は少し待ってくれ」
彼はチョコの付いた指を名残惜しそうにペロリと舐める。俺はふと、篠生が言った『情報源』とはこいつの事ではないだろうかと思った。
「それと、だ」
子馬が俺をじっと見た。
「巫女を良質な人柱にするには、前段階として巫女が愛を注いだ者を殺しに来るだろう」
「俺?」
「体術など色々身に付けている様だけれど、音に対して弱いようだね。ある意味強いとも言えるのだろうけど」
コーヒーを飲み干して、切り出す。
「その左手の故障もある。あの白髪少年の笛の音をほぼ問題なく受けられるようになるまで、俺達の施設で過ごして欲しい。訓練物資は用意する。あの子の音を再現する事は時間がかかるが、全く出来ない事じゃない。『ツール』君が協力してくれている。と言う事はいずれ賀川に対する『武器』として音を開発する者が現れてもおかしくないと言う事」
「施設、か。それはドコ……うろなを出ろって事だろ?」
「詳しくは言えないが、首都寄りの場所だ」
音と言えば子馬も聞こえていたはずだ、問題があるのではないかと言ってみたが、『俺は探知機が探せるほど耳が良いわけじゃない。初回で驚いたがもう二度目は効かない』とさらりと流された。後からタカさんに聞いても同じように言われ、気合でどうにかなる程度と返された。
やはりこの音が聞こえるのは特殊な事なのだろう。
「離れてる間は巫女の安全は小父貴も居るが、俺達も見よう」
「ちょ、待ってくれ。ユキさんと離れる? そんな事……」
「わかっている。出来るだけ一般市民の生活に介入しないのがうちのやり方だ。だから巫女が希望するここでの暮らしを優先させる。賀川は彼女を守りながらココに住みたいなら、音の克服が急務。ただ長くは待てない」
「俺もお前達の捕獲対象だって事か?」
そう言いながらも俺はそれが、すぐではなかった事に胸を撫で下ろす。だが、子馬はトンっと軽く手を叩いた。
「音源の完成版が出来る予定は今月『二十六日』。つまり相手がその手で来ようとする場合は、そちらもその頃には完成しているとも考えられる、意味は、わかるな?」
ふんわり笑いながらも、本気の意図を言葉に込めて、子馬は言う。
「その日までに音が克服出来なければ、まずお前の身柄を拘束する」
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん。
お借りしてます。問題あればお知らせください。




