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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月26日

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252/531

不調中です(謎の配達人)

llllll

久しぶり更新。

賀川、具合が悪いです。

llllll

 



 どうしてこうなった。



 俺はちょうど車酔いしたような最悪な顔をしていると思う。

「大丈夫、大丈夫なはず」

 そう繰り返しながらも、気分はすぐれる事もなく、さっき食べた物も全て胃からなくなるまで出してきたと言うのに、まだ嘔気を感じて顔を歪める。俺は軽車を何とか駐車させ、動かしていたプレーヤーを止めた。

 諸悪の根源ではないか、そう感じられる『音』が消えて、俺は何とか力を抜いた。普通の人間なら感じもしない音、海外時代の仲間が作ってくれた音源。少し前に克服したと思った音だ。だが今はこれすら耳に入るだけで、内臓を、脳裏を、焼き尽くすように暴れる不快感に堪えられない。取捨して聞く以前に、遮断すら全くできなくなっており、俺は焦っていた。

「こんなじゃ、レディフィルドの音なんか聞いた日にゃ死ぬんじゃないか?」

 今プレーヤーから流していたのは、白髪碧眼の彼が作り出す音源と比較するなら下の下のまたその下、子守唄にしかならない。一度だけとはいえ、死神の裾を受け流せたのはまぐれだったのか。



『だから子馬さん、お引き取り下さい。ユキさんは俺が、俺達が守ります。俺自身も守って『人柱』になんかしません』



 大見えを切った割に、内実が伴わない事に嫌気を感じながら、車を這うように降り、鍵をかけると歩き出す。

 海からの風が心地よい。

 お蔭でだいぶ顔色を取り戻し、足取りも通常に戻っていたと思う。浜の方に歩いて行くと、栗毛の美しい髪を揺らした汐ちゃんと、白髪碧眼の異国風情の男子レディフィルドの姿が目に入る。

 俺が挨拶代わりに手を上げた時、レディフィルドの口角がニヤリと悪戯に笑うのが目に入った。



 やばい、来る。



 彼の手にあった笛が唇に触れ、『音』を奏でる。わかっているのに。

 死神の冷たい手が自分の心臓を抉り、持って行く映像……

 そのニヤリと笑う死神の顔は…………



挿絵(By みてみん)



 俺自身………





 俺の意識はそいつの足元に崩れ、意識が途絶えた。





 俺は夢を見る。

『助けて、痛い、痛いよ、母様、何処? 姉様は?

 ああ、鐘の音がするよ、雪が降るよ、こんなのすぐに終わる。

 帰れるから、すぐに帰るから

 ああ、白き女神よ。僕を連れて行って

 暗い闇はもう、要らないんだ』

 それはそれは白い女神が俺の目の前で笑っていた。

「ユキさん」

 その名を呼んで近付こうとするのに近付けない。

 四肢は縛られ、幻影が俺の体も精神も犯していく。誰だかわからない大きな腕が俺を絡め、残忍な表情で苦痛を与えてくる。いつの日かにあった現実。

 俺は強くなったはず、強くならねばならないのに、麻酔で全てを奪われたように、痛みと怒声とが束になり襲ってくる。

 俺のタイミングの悪さは一体どこから来るんだろうな。

 それでも……手を伸ばす、ユキさん、君の為に。






 気付いたら、青い蒼い美しい視線と、栗色の慈悲を帯びた視線とが俺を囲んでいた。

 今日は耳の訓練の日……だからここに来たのだ。

 そして訓練の最初、お定まりのレディフィルドの悪戯。

 その一フレーズどころか、『大』の一音目で卒倒してしまった自分に気付いた。ふら付く頭を押さえながら、説明を求める視線に応えて返事を返す。

「ダメなんだ、……『ツール』の音源でも吐くくらいで」

「おまっ、それいつからだよ?」

「お兄ちゃん体調が悪いの?」

 こないだの日曜、子馬が急にユキさんに近寄った時、レディフィルドが鳴り響かせた『超特大』を『まぐれ』ながら察知出来たから、何か掴めたと思ったのに。

 子守唄状態で安らかにトラックで聞けていた『ツール』の音源ですら、先程のように度々吐くようになり、オカシイなとは感じていたが。

「そんな事はないよ。心配させて済まない」

 そう言ってみたものの、こないだ倒れた時よりも拙かったらしく、心音低下、脈が触れない……死神に本気で心臓を持っていかれたのではないかという状態になっていたのだと、汐ちゃんが涙ながらに説明してくれた。

 それで前に俺が倒れたと聞いて、汐ちゃんの姉である渚さんが持たせてくれたと言う『超安心:保護ほごーんセット』の中にあった『ほごーんAED』を張り付けたり作動させてくれたりで、何とか一命を取りとめていた。……らしい。

「ねぇ、救急車……」

「ちょっ、待って汐ちゃん!」

 救急車を呼んだ方がいいと言う話になったが、気が付いた俺は全力で止めた。

「それよりレディフィルド、一番程度の低い笛を吹けるか?」

 怪訝な表情を浮かべるレディフィルドに、心配そうな汐ちゃんの顔。だが何も言わずにレディフィルドが珍しく注文通りの音を出してくれた。

「うっ……」

「お、お兄ちゃん!」

「だ、大丈夫だ……」

「どうしちまったんだ? カガワ……この『下』の『下』辺りだと聞き流せてたレベルだぞ?」

 やはり襲ってくる頭痛と吐き気。堪えながらそう答える俺は上半身脱がされていたが、『超軽量ほごーんシート』に包まっているので暖かい。けど、これではどこかの避難民のようだ。

 吐き気を何とか飲み込んだ。

 汐ちゃんの制止も聞かず、さっさと胸に取り付けられた電極も外して、脱がされていた服を着た。慌てて脱がせてのだろう、下シャツは破れて上のボタンは幾つか飛んでいて様がない。

 コートを汐ちゃんは渡してくれながら、

「お兄ちゃん、やっぱり救急車か病院……」

「汐ちゃん、止めてくれ」

「でも」

「俺、うろなに居なくても良いか?」

「っ!」

 一瞬、びくりとその小さな身体が跳ねた気がした。

 ゴメン……子供の彼女に、気も回せてない自分に嫌気がさし、更に陰鬱になりながらも、電話を繋ごうとする汐ちゃんの手を必死に止める。

 だがそれは俺の都合だ。それに気づき、自分の手を制止させた。大きく深く、息を吐き、栗色の髪が風に揺れてるのを見ながら、

「いい、わかった。心配してくれているんだよな? ごめん。電話するならしていい」

 俺は手を解いて、その場に蹲る。これじゃあ本当にダメな大人だ。

「何、子供相手に拗ねてんだよ? 何かあったんだろ? 話してみろって。……仲間だろ?」

 俺はその言葉に頭を上げた。

 海のように穏やかなレディフィルドの瞳に会う。汐ちゃんのまつ毛が微かに濡れていて、泣かせてしまった事に後悔する。



「……子馬に言われたんだ。『音』が克服出来なければ、『俺』の身柄を拘束するって」


llllllllllll

キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

レディフィルド君、汐ちゃん、渚さん


お借りしました。

問題があればお知らせください。


ここから更新は二日か三日に一度くらいで行ければいいなと思っています。


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